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182.怪奇怪獣映画「プロメテの子対地底怪獣」

 特撮をお家芸とするヨーホー映画、子供向け映画を得意とするショーウェイは兎に角、他2社が怪獣映画に参入した。

 しかもうち二作はポンさんの移籍した会社が特撮を請け負っている。


 そこに突如、特撮も怪獣も興味なかったジャイエン商会が参入し、5社の戦いへ!


「口外無用だけど、どうやら一部貴族筋から、他国への輸出が稼げるって持ち掛けて映画への投資を呼びかけたみたいね」

 とリック監督に教えてくれたセシリア社長。


「うぎゃああ~」

 何というか気が抜けた感じ半分、嘆き半分でリック監督が頭を抱えた。


「なにそれ?知ってた、というか予想してたの?」

「まあ大体そう言う流れになるだろなあって思ってました」


 この一件、財務卿であるザナク公爵の耳にも入り、探りを入れて発覚したのだが、国王陛下が

「動くな。卿が動けば、ヨーホーびいきと揶揄されるだけだ」

 と忠告した。


「しかし、国富が無駄に、詐欺まがいの商法に消えていきますので…」

「投資した貴族達にとって、良い教訓となるであろう」

 国王陛下の口角は少し上がっていたそうだ。


******


「スプラセプト」の撮影が進み、新怪獣映画への期待もあって視聴率が上がっていく。

 子供向けの怪獣絵本が増え、「スプラセプト」の未来兵器や各社の新作怪獣もお披露目され、世は正に怪獣ブームだ。


 撮影の方は調子が出て来たデシアス率いる若手に任せ、リックはヨーホー映画の新作怪獣映画「プロメテの子対地底怪獣」という、怪奇映画的な怪獣映画をアモルメ王国の映画会社との合作で企画した。


「製作費5千万デナリは両者折半。国庫や貴族『筋』からの出資はございませんわ。

 あくまで映画の新技術発展のためにと、各貴族家の私財を直接文書を交わして頂いており、成績に応じて返礼を行い、その収支は今まで通り全て公開します」


 暗に「輸出向け映画投資話なんか使ってないですよ」宣言だった。


 これにショーウェイも続いた。

「我が、ショーウェーは、古くから愛される、魅力的な活劇を皆様にお届けします。

 この度は、今まで同様、無理に背伸びをせず、独力で、制作するものであります!」

 社長氏がいつもの鶏を〆た様な声で会見を放送した。


******


 ヨーホーの新怪獣二匹、主役は「プロメテの子」と呼ばれる、名前の無い怪人。


 知恵と生産の神プロメテの手で死体から生まれた怪人。

 神話では極地に消えたとされるが、この映画では心臓だけが生きていたとしている。

 これを戦争に悪用せんとする、とある王国が実験所で秘密裏に研究するが、同じ研究所で行っていた極大魔法の実験で大爆発、その存在も忘れ去られる。


 数年後、極大魔法から復興した町で、孤児が保護される。

 その孤児は異様に成長が早く、ついに身長10mを超える。

 しかも、乱暴なテレビの撮影に怯え檻を突き破り逃走してしまう。


 他方、北国では謎の局地地震や家畜被害が発生、ついに行楽地で若者多数が行方不明。

 世間は「プロメテの子」の仕業と騒いだが、最初に彼を保護した女性科学者だけは彼の無実を信じ、キリエリア国境付近から北へとその姿を追う。


 そしてアモルメ付近の山中で、地底を進む巨大怪獣と遭遇、女学士を襲う怪獣を彼が撃退するのだった。


 ラッシュを見て社長が心配そうに話した。

「面白くはあるけれども、ちょっと怖くて子供が付いてくるかしら?」

「子供は怖いもの好きですよ」

 なお、地底怪獣はトリック特技プロのヌイグルミが貸与され改造された。

 ポンさんがいなくなった穴埋め、恩返しだ。


「異世界の反対だなあ」

 リック監督は謎の言葉を唱えた。


 両者の身長20m。

「身長を小さくし、ミニチュアの縮尺を大きく、迫力が出せる作品にしよう」

とのリック監督のアイデアの通りとなった。


 前半は怪人の生い立ち、人から疎外され逃げていく悲しみ、しかし心のどこかに芽生えた人の情を持つ悲劇を丹念に追う。

 後半は古代生物然とした四つ足の怪獣…ただし歩く速度は遅いがいざ獲物に飛び掛かると俊敏な動きを見せる、両者のスピーディな戦い。


 まるでスプラルジェントの様な戦いが見せ場だ。

「こっちも反対だ」

 リック監督は相変わらず謎の言葉を唱えた。


******


 完成を目指すヨーホーを他所に、新参各社は予算にモノを言わせ…と言ってもヨーホーより低い公称4千万デナリ程度だが、新作怪獣映画をお披露目してきた。


「大蛮獣デンガ」、「宇宙隕石獣グリーカ」の激突である。


 映画とテレビが多忙なのに夜の上映にリック監督はいそいそと家族を連れて出かけた。

「デンガは中々面白いね!行楽地を襲う感じがウチといい勝負だ、流石ポンさんだ!」

「グリーカは未来科学映画志向だけど、話の筋がおかしくなってるね。

 怪獣の行動原理も全くわかんないし」

 でもなぜかうれしそうだ。


 だが夫人たち、子供達にはイマイチの様子だ。


「どっちも色々どうかと思うけど。

 どっちかといえば、子供を思って暴れるデンガの方が、まだわかるかしら?」


「どっちもウチに比べて造りが雑う~。

 それ誤魔化そうってカットを短くして、長廻しのシーン、少ないねぇ。

 ポンさんの演出を、特撮を信じてない監督サンが切っちゃったんだろね」


 アイラ夫人は一般論を、アイディー夫人は脚本を担当する様になって演出に言及するまでになっていた。


 子供達に至っては眠そうにしていた。


 キャピーちゃんを抱き上げ、リック監督は嬉しそうに言った。

「こういう作品が、他の誰かが続々撮ってくれるんなら、俺はうれしいよ。

 問題はそれがどこまで続くか、なんだけどねー」


******


 ポンさんが去った後の特美は頑張った。

 キューちゃんが1/10の、精密さが求められる、悪く言えば粗が目立つサイズのミニチュアを、丹念に仕上げた。


 キリエリアで近年流行になった5階建ての、おしゃれな鉄筋集合住宅。庶民の憧れの住まいの窓の外に、怪人の顔が現れ、その足元を騎士団の警ら自動車が走る。


 行楽地、高原の旅館の大ホールに侵入して、建物を中からブチ破る地底怪獣。


 怪奇映画的であるが、直接的な残酷描写はない。

 これは検討の段階からテンさん監督が主張した点であり、勿論リック監督も大いに同意した。


「子供も楽しみにする映画だし」

「前の戦いで色々嫌なものは見たよ。

 そんなものを子供達が見ないですむ様にしよう」


 この辺の塩梅は、第一作「ゴドラン」以来の二人の認識であった。


******


 怪人は、元の話では死体を継ぎ合わせて作られたという、実に恐ろしい設定であった。

 しかしこの映画では、巨大に成長した怪人のため、怪異な風貌ながら継ぎ合わせた傷跡や腐敗した部位という醜悪な描写は行われず、体の各部の血管が浮き出て、目が落ち込んだ…というより額が大きく張り出した、化粧や体の一部を強調する樹脂部分を俳優に張り付ける作業で再現された。


 怖いが、グロテスクではない。


 一方の地底怪獣は古代生物然とした、格好良さを感じるものであった。

「ちょっと可愛いかもね?」とは、演者アックス氏の奥方、セワーシャ夫人の意見。


 キメラヒドラがこの時期のヨーホー怪獣の派手さの極地なら、この地底怪獣は渋さの極みである。元はトリック特技プロのヌイグルミであるけど。


 しかし、動くと凄い。怪人と対峙し、距離を取る。

「操演準備よし?行くぞー!ハイヨーイ、スタート!ケラドス威嚇!」

 怪人の前で地面を引っ掻く。


「はいジャンプ!!」

 前に飛び出した地底怪獣がピョン!と宙を飛んだ!

 とっさに避ける怪人!」


「カーット!」

 どうもジャンプした後フレームから外に出てしまった様だ。


「もう一回!」

 結局再撮影した部分とつなぎ合わせてこの大ジャンプを見せる事にした。


 最後、ついに人を喰う地底怪獣の息の根を止めた怪人は、燃え盛る森…完成品では手前の主人公、出動した軍とともに合成される、を背景に勝利の雄叫びを上げ、突然起きた地盤沈下で地面に沈んで行った。


******


 リック監督の活躍は映画に限られる者では決してない。

 鉄道、医療、教育、放送、計算機に宇宙ロケット。


 そもそもこれら復興と大発展の時代そのものが、リック監督が少年だったころの、マギカ・テラ王国との休戦交渉、外交交渉によってもたらされた平和があってのものだった。


 そしてもう一つ。

 多彩な楽器も活躍の一つであった。


 元は北方諸国の民族楽器で、余りに低音で音が小さいため家庭の祭儀でしか使われていないかった低音笛を「天地開闢」の時に彼が見出し、録音機の近くで演奏し、怪奇色を演出する楽器に育て上げたのだ。


「白蛇姫 愛の伝説」では鋸の背、薄い鉄板を弦楽器の弓で弾いて亡霊の様な儚く得体の知れないものを音楽で表した。


 近年では電気を流した部品に、金属製の部品を叩きつけたり弦の様に響かせたりと電子楽器まで作り、特に電気弦楽器の響きは若者を夢中にさせている。


 超売れっ子俳優のダン・ウェラーもこの楽器を愛し、「電気の騎士団長」も数億の大ヒットを飛ばしているし、騎士団長シリーズでは常に弦を爪弾き若い女性達をウットリさせている。


 本作では、この「低笛」を前半の怪奇的な空気を演出するため多用した。


 地底怪獣の主題は、ゴドラン同様、正統な怪獣音楽である。

 ベヒモドやキメラヒドラの様なグリッサンドを用いないため、硬めに感じるが、地底に潜り背面を岩石の様な鱗で固めている地底怪獣には最適な音楽でもある。


 ここ数年、特撮映画の音楽はかつての長尺音盤化はされておらず、表裏両面に2、3曲を収録した短尺音盤が発売されている。

 本作はあまりに音楽が地味であり、音盤そのものの発売が見送られる事になった。

 そこでリック監督は玩具会社から、出演俳優、今回は怪人に常に同情的だったエクシア・コスマ嬢演じる女性学士のナレーションと、劇中の会話を挿入した、物語音盤と劇中音楽を数曲収録した短尺の薄手の音盤を安価で販売した。


 販売は絵本出版社と企画し、写真物語とセットで発売する事にした。

 この頃、子供向けの本は低質の廃布再生紙が中心だったが、敢えて上質紙に天然色印刷て販売した。


 馬鹿売れであった。

 この現象に、他ならぬナート師が頭を悩ませた。

「こんな地味な音楽でも、子供達にとっては楽しいんでしょうか。

 それとも、以前リックさんが言っていた、劇場の記憶を頭の中で再生しているんでしょうか?」

「ええ。タイトルに出る、あなたの名前もね」


 この音盤と絵本の組み合わせ商品も、上質な貴族向けと何とか数十年は持ちそうな中質の廉価版が発売され、どちらも売れた。


 半信半疑でナレーションを録音したエクシア嬢は思わぬ報酬に驚き、喜んだ。

「怪獣映画って凄いんですのね!」

 その笑顔にグっと来ない男はいない。

 リック監督は早速二人の夫人につねられた。


 本作の物語音盤の大人気は、過去作の商品化を求める声に広がった。


 喜んで朗読に挑んだ「怪獣大侵略」のナルちゃん。

 噂を聞いて飛びつき、「マハラ対ゴドラン」の音盤化で南国娘の二人を押して来たマジェスティ商会。

 エクシア嬢の推薦で「四大怪獣」を番組中継っぽく演じたリリアーヌ嬢。


 かなり売れた。過去音盤化されたものは効果音や音声が編集されたものが収録され、これも好評だった。


 もちろん声を収録したスターさんへも売上が分けられ、撮影後数年経った過去作からの思わぬ収入に誰もが驚き、喜んだ。


 世は正に一大怪獣ブーム。

 しかし、作れば当たる、と言う物では決してない。

 どう売るか、どう観客にアピールするか。

 一蓮托生の製作、配給関係者の意見を集約するか。


「何か売れる度、命が削られる気がするんだよね」

「それも、あなたが商売というものに対して、謙虚だからよ」


 リック監督は、「謙虚」という意味が解らなかった。


「俺、特撮撮って売ってるだけなんだけど」

「いいえ、あなたは謙虚よ。

 もしかしたら、あなたを特撮の道に惹き付けた、異世界の人達がそうだったのかも知れないわね…」


 毎度ながらそれなりの予算を受け取りつつ、セシリア社長の言葉を聞いたリック監督は

「そうだと思います」

と、異世界に続いているかもしれない、いやそんな訳はないと知りつつも。

 本社の窓の向こうに広がる空を眺めて答えた。


 もし楽しんで頂けたら、またご感想等などお聞かせ頂けたら大変な励みとなりますのでよろしくお願いいたします。


 なお、活動報告・近況ノートにてモデルとなった実在の作品についての解説を行っていますので、ご興味をお持ちの方はご参照下さい。

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>電気の騎士団長 アメフトではなく剣や槍の試合に出るんですかね? >薄手の音盤 ソノシート付き絵本だー
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