179.「スプラセプト」開始、そしてイザコザ
半年の代打として「スプラ・カピタリウス」は無事終了を迎えた。
最後、宇宙の果てを目指して飛び出したロケットに乗ってしまった少年少女を助ける為カピタリウス達は、宇宙の果てを超える無限の世界に突入。
そこはお花畑だった。
「もう少し何とかならなかったかな」
トリック特技プロで鑑賞会という名の宴会が行われた。
ショーウェイには代打応諾のお礼と番組終了の記念にワインや菓子を贈った。
菓子を入れたのは下戸のトレート部長のためだ。
「いや、ギリギリの中やってくれたんだ。それに夢のある話でもあるさ」
リック社長も思う所はあっただろうが、それは口にせず、ただその健闘をたたえた。
「来週からウチの番だ。撮影は後半戦に入るとこだけど、気を引き締めてやってこー!」
「「「おー!!!」」」
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さて、既に前半28話の納品は済み、試写も行われた。
怪獣に加えて「スプラルジェント」以上に多彩な未来兵器が活躍する。
舞台も地球に宇宙に海底に。「スプラルジェント」でも同様ではあったが、やはり宇宙での場面や宇宙基地の登場が増やされた。
下手をするとスプラセプトの活躍場面よりも宇宙特撮の方が目立ってしまう程だった。
その辺のバランスや物語の進行は、最後の戦いを上手く盛り上げる方向に上手く機能した。
予算と時間の使い方も一作一作が一本勝負だった「スプラQ」の頃より大分慣れて来た。
いいのか悪いのか、同一セットで複数話を撮影しているとはいえ、放送順がバラバラなので一見そうは見えない。
都会の戦いなどは夜と昼とを変えて撮ったりと更に使いまわしている。
一回のミニチュア爆破や破壊でも、アングル毎に別のデザインの建築に仕上げ、別角度で複数のカメラを回し、随分派手に連続破壊している様に見えて、壊したのはビル一棟だけ。
それもロングにアップにと切り替えて、良く言えば効率的に、悪く言えばケチ臭いマネをしつつ、侵略者と防衛チームデフェンシオ・スプラ、そしてスプラセプトの戦いが毎回繰り広げられた。
試写の都度歓声を上げて喜んでくれる製作担当氏が、途中からいなかった。
第二放送局々長昇進の噂は聞いていたのでそのせいかと思った。
そして今度は、新番組の同時鑑賞会もなくなった。
まあ、「スプラQ」の時はあまりに高額な製作費だったし、テレビ初の特撮怪獣映画って事もあったけど、新番組の門出を祝い成功を祈る行事がなくなったのも寂しい。
そう思い、今回は社内での「スプラ・カピタリウス」最終回と二週連続同時鑑賞会という名の宴会を行う事にし、スターさんやマッツォJr役員達にも声をかけた。
第一話「見えない敵を撃て!」。二放送局制になったが定時の報道だけは両放送局で同一のものが流れる。「スプラセプト」は19時半開始。
「トリァントリァントリァーン!」
トリアン製薬一社提供、社屋の空撮フィルムと社章のアップが写る。
そしてタイトル。最初モワモワした何かが動きつつ、最後それが砂で描かれたタイトルだった、という案もあったが、やってみたら地味だったので「スプラQ」同様の渦の中からタイトルが出るパターンで作成された。
もうスタッフキャスト一同何度も試写を見ているので、一同飲み食いに必死である。
視聴率は何と67%。
事前の番組宣伝への問い合わせや、新聞社の要望で編集した雑誌「新番組スプラセプトのひみつ」といった印刷媒体の売れ行きから、「スプラ・カピタリウス」の50%台から60%台に戻るとは期待していたが、まさかの70%手前という吉報に一同は拍手喝采した。
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そんな好調スタートに撮影にも気合が入るトリック特技プロに局から呼び出しがあった。
シリーズ後半について打ち合わせとの事で、リック社長、経理のアイラ夫人、メインライターのアイディー夫人、デシアス監督、ついでにアックス氏とセワーシャ夫人の英雄チームがインデクサーに乗って駆け付けた。
イヤな予感がしたので、一同デフェンシオ・スプラの隊員服という謎の出で立ちである。
なお小柄なリック社長の隊員服は個人の趣味で作らせたものだったりする。
現実と空想が入り乱れる様な情景に、新装開店直後の第二放送局はちょっとした騒ぎになった。
一同が会議室に入ると、そこにいた人物は偉く驚いた。
それはそうだ。
「会社の打ち合わせに何ですか?その恰好は」
かつて幾度か新番組会議にいた人物が怪訝そうに言った。
「いやあ、撮影スケジュールの関係で社長も撮影に駆り出されましてね。
突然の呼び出しでしたから、大急ぎで戻ってまた撮影ですよはははははー」
凄いボケをかますリック社長。
尚その場に局長に昇格した元製作担当のカコイー氏はいない。
「では単刀直入に申し上げる。
納品が完了していない作品は、脚本から見直して欲しい」
「解りました、撮影を中止しますので半年の中断期間を設けます。
無論撮影に入った作品は全て製作費を請求させて頂きます。
無理ならキャンセル代替りにソチラの放送機材を引っぺがして持って帰ります」
この会議の中心人物と思われる者以外は頭を抱えた。
「お互い立場というものを認識しましょう。
こっちは発注者、そっちはウチのカネで働く一介の河原乞食」
あからさまな差別に、リック社長は臨戦態勢へ突入した。
「ええ、河原乞食上等。
だが契約書を取り交わした以上、契約はキッチリ守ってもらいましょうかねえ?」
英雄チームはデシアス監督以外苦笑していた。
デシアス監督は腰のスプラガンに手をかけていた。
「デシアス、それ撮影用の模型だから」
セワーシャ夫人は堪らず噴き出した。
「まあタワゴトはいいとして、どうしてそんな話になったのか、説明して貰いましょうか?」
リック社長は席に座らず机に座って上から目線で話しかけた。
「そもそもあんた誰?」
「以前自己紹介したのだが?」
「スッカリ忘れちゃったね~~。
ソチラさんが急げ急げってスケジュール切り詰めて来るんでねえ」
「トリオンアワーの製作担当、オシアノ・スブポンテだ。二度は言わんぞ」
「あーそー。で、理由は?」
オシアノと名乗った放送担当は悠々と持論を語った。
「この脚本には、今なぜスプラセプトなのか、それが感じられない」
「未来の物語に今も何故もある訳ないよね?」
リック社長の投げやりな答えを意にも介さず、制作担当氏は語り続けた。
「作品というのは時代を映す鏡であるべきだ」
「そりゃあんたの勝手な思い込みだ。そんなもん付き合ってられるか」
「怪獣のヌイグルミと遊んでる君らにはわからんだろうな」
「そのヌイグルミ遊びで食ってんのは、どこの誰だろねえ?」
先方は全く意にも介さない。
「放送局には義務と言う物がある。
国民に、視聴者に社会的な問題に関心を持たせる。
国民を涵養する。
この番組はそれを果たしているのか?」
「知らんがなそんな事」
「こちらは発注者である放送局だ!」
「こっちは番組作ってお客さんを呼ぶ制作会社だ!
放送局がそんなにエライっつうなら30分砂の嵐ずっと放送して視聴率100%でも稼いで見ろ!」
「そんな態度が許されるのか?
スプラシリーズを中断する権限だってあるんだぞ?」
「上等だ!中断って言ったな?聞いたぞ?」
何故か嬉しそうなリック社長に、青筋立てていたデシアス以外の一同は笑いを堪えていた。
「後半半年分キャンセルな?違約金は契約書の通り一億4千万デナリ、キッチリ払って貰うぜ!」
「もう二度とウチで怪獣ものは放送させないぞ?」
「なめんな若造!
その気になりゃ俺が民法作ってそっちの視聴率全部かっさらう事だって出来らあ!」
一同はそのまま退出した。
「おい待て!」
「放送中止決定、じゃ、もう会わないだろうけどな!」
一同はその恰好のままトリアン製薬に乗り込み、
「第二放送局のナントカって奴が、スプラセプトの放送中止を通告して来ました。
我々トリック特技プロは局にキャンセル料を請求し、第二放送局との関係を遮断します。
一応ヨーホー映画にも応援部隊のキャンセルを通知しますね」
訪問先の宣伝部長は一同の出で立ちにビックリ、話の中身に二度ビックリ。
「そのバカなナントカって奴を呼び出せー!
ウチも第二放送局から引き揚げも辞さぬぞー!
リックさん、どうか早まらずに!ウチはお宅あっての好況なんですよ!」
宣伝部長は社長へ急ぎ報告へ向かった。
「じゃ、帰ろか」
「主よ!本当に撮影を中止する気か?」
「中止するよ、一週間。発言の責任は取ってもらわないとね?」
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王立裁判所へ告訴状を書いている最中、カコイー氏がリック邸に飛び込んで来た。
「リックさん申し訳ありませんでしたー!」
「カコイーさん。今裁判所へ告訴状を書いている最中ですので、以後は裁判を通じて…」
「あなた達に無礼を働くなど許されません!私の人選が誤ってましたー!
どうか今まで通り!スプラシリーズを自由に撮って、我が局に納品して下さいー!」
「とりあえず一週間は撮影を見合わせますので」
「え”え”~?!」
「その間にそちらの中を落ち着けて頂けませんか?」
この一件で新製作担当のオシアノ・スブポンテはスプラシリーズから外された。
「まー言ってる事自体は間違っちゃいなかったけど、あそこまで高圧的なのと、制作会社作品全部に自分の理想を押し付けようとするのは、どうかねえ」
「いや、俺は許せん!」
始終主人と仰いだリックを蔑ろにされたデシアスの怒りは収まっていない。
「あんまり怒ってると、奥さんとお腹の子に障るよ?パパ」
「「「ぎゃはははは!」」」
今まで笑いを堪えていた英雄チームがたまらず爆笑した。
「中には自社の作風を押し殺して、ああいう高圧的な意見に従って映画を撮る会社には向いてるかもね。
でも自由な発想からしか優れた夢や空想は生まれない。ウチは無理だなあ」
尚、後にリック社長は知る。
この件では平身低頭したトリアン製薬であったが、実はスプラシリーズに、もう少し視聴者の年齢層の引き上げを求めていた事を。
怪獣の大暴れ、巨大な英雄の活躍だけではいずれ先細り、飽きられるのでは、という危惧があった事。客層を大人にも広げ、商品宣伝の幅を広げたい。
そんな願望があった。
そしてあのエラく失礼なオシアノ氏はそれを知って、自らの担当する作品の出来や人気に文句をつけようとしたのだ。
リック社長の知る異世界の知識では、怪獣人気はいずれ下り坂になる。
彼はそれは避けられないものの、少しでも遅らせたいと願っていた。
そして彼は知っていた。その後にも、怪獣人気に変わる大きな波は、暫くは無かった事を。
もし楽しんで頂けたら、またご感想等などお聞かせ頂けたら大変な励みとなりますのでよろしくお願いいたします。
なお、活動報告・近況ノートにてモデルとなった実在の作品についての解説を行っていますので、ご興味をお持ちの方はご参照下さい。




