176.新番組、若手の活躍
「ペルソナ・ルブレ」改め「スプラセプト」、撮影快調!
若手が書き上げて来るアイデアを元に、プロットが上がり、アイディー夫人が脚色、そしてリック社長が仕上げる。
それも恐ろしいスピードで仕上げて来る。
既に完成品も王立第一放送局に納品されている。製作第一回「湖底の侵略者」だ。
地球防衛軍VDTが宇宙船を迎撃、その一艘が地球に不時着。
VDTの要撃専門チーム、デフェンシオ・スプラが不時着船を捜索。
内部にいた美女を保護するが、彼女は主人公を襲撃、VDT基地の記録を写し撮った上破壊工作を行い、宇宙連絡艇スプラ・アシビター2号を奪って逃走。
追撃する高速迎撃機スプラ・アシビター1号。しかし不時着現場付近の湖底から白黒模様の怪獣が出現、1号は分離し編隊攻撃で怪獣を攻撃する。
己が失態で危機を招いた主人公は飛行自動車インデクサーで円盤に接近、苦戦する1号を援護する為、「護衛怪獣カプセル」を敵宇宙怪獣に投げつける!
出現する怪力怪獣。
これは
「怪獣同士の戦いがあると子供達は喜びます!」
という若手の意見を取り入れた物で、リック社長が
「歴史の収斂ってあるもんだねー」
と謎の言葉を発して採用したものだ。
しかし敵宇宙怪獣の武器は電気。電撃攻撃で麻痺した怪力怪獣を戻し、主人公は謎の眼鏡を装着!
「変身道具は変えた方がいい」
「指輪」「腕輪」「ベルト」と言ったアイデアの中から「眼鏡」が出た。
視力の低い人用の眼鏡、高額だったものがトリック光学のお陰で安価に普及して来たのだ。
それでも子供は嫌がった。
そこで、眼鏡はかっこいいんだぞ、とアピールするためリック社長が採用した。
その時、社員一同は、眼鏡美女であるアイラ夫人をチラチラ見ていたそうである。
それは兎に角、眼鏡を中心に主人公は宇宙人である元の姿に戻った!
目、頭、口、肩、部分的に次々変身する姿に両眼を中心に火花が放たれ、青い背景に光が差して、新たなる宇宙の英雄、スプラセプトの姿が現れた!!
全身銀色で、胸に赤い鎧、列を成す鏡を纏い、その体には胸元から足まで延びる赤い線!
頭はスプラルジェントよりも甲冑を思わせる金属的なもので、トサカも魔力で敵を切り裂く刃になる設定だ。
目も眼鏡の形に合わせ、横長六角形の、これもまた機械的なものになった。
前作スプラルジェントの目が楕円形で、ヌイグルミの中から除く部分が楕円の下の縁に細く開けられた隙間しかなく、視界が悪かった事からの改善点であった。
しかし、銀の全身に赤い鎧と赤い線。そして照明を受けて輝く鎧。
「これカメラやスタッフ写っちゃいませんかねえ?」
「こんな小さいんだ、大丈夫ダイジョーブ」
やっぱり写った。しかしリック社長は気にしない。
肩の鎧、太陽の光と熱を吸収し自らの力に変える設定の鎧を輝かせ、スプラセプトは敵の宇宙怪獣と戦う!
そして額の発光部から光線を放ち、怪獣の目?角?回転しているから電波アンテナ?どちらか解らないモノを弾き飛ばした。
そしてトサカに両手を添え、前方に投げる!
トサカは空飛ぶ刃となり、宇宙怪獣の胴体と首を横切る!
宇宙怪獣の首は断たれ、爆発する!
敵宇宙船は逃亡を図り
「地球人は女に弱い事が解っただけでも成功だわ」
と、手で顔を撫でると、虫の様な正体を現す。
この手の動きと敵の正体の合成は流石合成班の仕事だ。
しかしスプラセプトは宙を飛び、光線で宇宙船を撃破した!
こうして新たなる巨大な英雄の物語は、放送局の喝采の下誕生したのであった。
唯一残念なのは、スプラルジェントが10頭身、大きめのマスクをかぶっても8~9頭身という超スマートな体形だったのに対し、スプラセプトは、マスクのせいもあって7頭身。
スプラルジェント程のスマート感が無かった事である。
その分上半身にデザインのボリュームを持って行き、足まで真直ぐに赤い線を引いてスマートに見せている。
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音楽についても、リック社長は注文を出したが、今までの様に自ら作曲する事はなかった。
「したかったけどさあ!」
との弁はさて置き。
作曲したのは放送局のドラマ等を担当していた音楽家の中でも、教会音楽に長けたカエルム・アスペル師。
大衆歌劇的な前2作とは異質な、伝統的な音楽を劇半部の要所に持ってきている。
主題歌や未来兵器出動、活躍場面等定番の場面はリック社長の要求通りだが、情緒的な音楽は一任したところ、それは格調高い音楽が書かれた。
試しにリック社長が主旋律をチェンバロを改造した鍵盤楽器で演奏したところ。
「これは素晴らしい!」
食い付いたのはデシアス監督。
剣聖であり騎士団員だった彼にはこういう伝統的な音楽が余程心に響くのだろう。
「正直、宇宙人が地球侵略をスプラセプタに宣言する場面に、どんな音楽を付けるのか。
卑劣な侵略者を正当化するのか、両者を客観視するのか悩んでいた。
所詮地球人も宇宙人も、神に作られた小さな存在だ。
俺はこの音楽で、どっちが正しいか、子供達に、視聴者に問う事が出来るぞ!」
過去ここまで興奮したデシアスを見たのは、結婚を決意したあのクラン祭り依頼であった。
「ああ!デシアス様が燃えていらっしゃる!」
大番頭のミーヒャー夫人も燃えている。
当のアスペル師は「そこまでか?」と呆然としていた。
アックス・セワーシャ夫婦はなんか不思議なニヤニヤした顔で眺めていた。
リック社長は「立体音響、立体音響!」と歌いつつ謎の計算を始めていた。
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撮影は続いた。
スプラルジェントとスプラセプトの大きな違い、それは、敵が宇宙からの侵略者である事。
敵は怪獣を操るが、知性があり、会話がある。
敵にも一家言あり、地球即ちキリエリアはじめ大陸諸国を明らかに見下している。
時にスプラセプトと会話がある。
地球人類を弁護するスプラセプト。
若手スタッフたちが考えたプロットは、今より少し前、リック社長がキリエリアに来る前の世間の考え方に対して容赦しなかった。
ただ、空想的発想は未熟だった。
影から現れる敵。流星に紛れる敵。海水に溶けてしまう敵。
過去の作品の影響が強い、いや二番煎じっぽい脚本には「もちょっと考えて」とダメ出しを行った。
一方、光るものもあった。
魔獣の力を取り込み、最強を目指しつつ、知性を失いながら力への渇望を捨てられない敵。
優れた計算能力を持つ指導者を讃え、結果その指導者の奴隷となり高齢者の処刑すら甘受する狂った星の人々。
高度過ぎる文明のため死滅しかけた星が文明の発展を止め、他の星にも文明を墓石に来る話。
数百年前に地球に漂着し、異なる風貌のため迫害され続け肉親を失った宇宙人の復讐譚。
ドラマとしては見所がある。
ただこれだけでは娯楽作品には出来ない。
「この宇宙人は、破滅するしかないねえ。だって今の世の中にもそんな連中沢山いるし」
「ある意味、力を求め続ける彼は、死に場所を求めているのかもね」
「その分、決闘に力を入れなきゃだねえ」
「これは許せないねえ。あたしらさあ。ブライちゃんの子供も、キャピーちゃんの子供も、お世話したいよねえ~」
「ああ。全滅して終わりじゃなくて、命の大切さを思わせる話にしたいよね。老人に死を命じる指導者に、親の想いを思い出させたいね」
「無機質でえ、非情な未来世界、セットに金かかりそうねえ」
「作画合成とミニチュアで行こう。
最後の決闘は、極彩色の計算機との戦い。短くしよう」
「これは、このままがい~と思うよ~」
「そうだね、人の世の中から差別はなくならない」
「でも暗い感じのままだよねえ」
「そんな話があってもいいよ」
こんな感じでアイディー夫人とリック社長が原案の物語化を考えた。
その案を原案者に示し、違和感があれば原案者と調整し、特撮映像の仕掛けを仕込み、最後はスプラセプトとの戦いの中で結末を迎える物語に落とし込んだ。
「思い付きをあそこまで物語にして貰った!」
「もっと尖った話にしたかったけど、まあ妥当だな」
「あたしはスプラセプトを倒したかったのよ!」
「「「ちょっと待て!!!」」」
色々な若者の、挑戦的なプロットを取り入れつつ、スプラセプトは撮影をこなして行った。
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これら様々な宇宙人と、スプラセプトとの会話。
もう一つの効果がある。
それは、本編で等身大のスプラセプトが出る分特撮シーンが少なくて済む、という撮影スケジュールの事情である。
複数話同時撮影で、特撮班と本編班で未来兵器の戦いと本編でのスプラセプトと異星人の会話や等身大の戦い、そしてスプラセプトが巨大化しての戦いと本編。
互い違いの撮影スケジュールが組まれて、撮影は進んだ。
しかし、特撮班の中には、未来兵器の撮影に気が進まない者もいた。
特撮班の中にも、本音では特撮ではなく、本編監督、芸術性や人間性を求めてドラマを撮りたいスタッフが多い事が解った。
「いやそれじゃ困るんだよね」
中には、アシビター各機を、単なる鉄板工作としか思わず、コンテの通り撮るだけ、なんてスタッフもいた。
「まあ、考えて見りゃヨーホー映画のショーキさんも本編志望だったしねえ。
でも、未来兵器の魅力を模型以上に引き出してもらわなきゃ、スプラセプトは失敗する!」
リック社長は、本編志望の特撮班を本編に回す決意を下した。
「主よ!特撮班はカツカツだぞ?」
「やりたくない人を張り付けるよりいいさ。
このミニチュアは、鉄板なんかじゃない。人間の最高の頭脳を注ぎ込んだ地球の護りなんだ」
3mにもなるアシビター1号のミニチュアを抱えてリック社長は言った。
「こういう兵器が苦手な人もいるんだねえ。
そう言う人には、自分で台本も本編も、特撮も含めてやってもらわないと」
「そりゃ無理だろう!」
「でも本編から特撮まで一本調子の作品も、出来たらいいよね?」
「それは、理想だが…」
流石のデシアス監督もそれ以上は言えなかった、余りにも理想的だったからだ。
しかしデシアス監督は言った。
「その理想を、実現する!それが主の望みならば!」
こうして本編志向の特殊技術は、未来兵器が活躍する話から会話劇や合成中心の話へ担当を変える事になった。
若い才能が、雑多な夢が、リック社長や周りの人達の手によって形になって行く。
もし楽しんで頂けたら、またご感想等などお聞かせ頂けたら大変な励みとなりますのでよろしくお願いいたします。
なお、活動報告・近況ノートにてモデルとなった実在の作品についての解説を行っていますので、ご興味をお持ちの方はご参照下さい。




