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170/212

170.戦え英雄達!テレビの中で!

 新番組「スプラルジェント」の反響はすさまじかった。

 子供達は夢中になり、公園で、空き地で遊ぶのはスプラルジェントごっこ。

 放送開始と同時に売り出した、手足が動き自由な恰好が出来るスプラルジェント人形は初回ロットを売りつくし、増版を待つ有様。


 同時に第一話に登場した宇宙怪獣ピカトレクス、第二話に登場したボクリセ星人、南洋の孤島で二匹の怪獣を打ち負かせた怪力怪獣トリアングレクス等が発売され。これらも増版待ち。

 前作「スプラQ」から再登場となった怪獣も人形は売れた。


 なお、諸般の事情からドランドゥ、ゴドランそっくり怪獣の発売は見送られた。


******


 テレビで、無料で毎週新しい怪獣と会える。

 巨大なカッコイイ英雄がそれらと戦う。

 こんなおいしい商売はない。


 しかし一方で特撮は大がかりで緻密なセットに高度な合成技術やミニチュア破壊技術、中々に専門的な知識を必要とする。

 その辺が同類の作品を作る上での壁となる。


 子供向け連続活劇という当たればデカい市場に、他社、更に独立プロダクションを立ち上げてまで、テレビ怪獣映画の企画が持ち込まれる。

 中にはパイロットフィルムまで撮って持ち込むものまでいる。


 しかしどう見てもスプラQの足元にも及ばない。

 とりあえず買って放送するも反響は視聴率30%程度。


 そんな中、モノスゴイつわものっぽいオッサンが放送局に現れた。

 面長、痩身、何しろ目がキマっている。

 しかしその正体は、結構な作品を手掛けた脚本家であった。


 そんな彼は野原で全身白タイツとマント、黒眼鏡の仮面が戦う、どこからどう見ても低予算な映画を持ってくる。

 敵は全身黒タイツで頭に化け物のマスクを被るだけ。


 映画のフィルムは何と貴族の家庭用撮影に使われる、16mm。

 一般的な映画の半分サイズ、そしてもちろん白黒だ。


 受け取った放送局の製作担当、カコイー・トリスク氏は悩んだ。

 今までトリック特技プロと手がけて来た「スプラ」シリーズとの格差は、明らかだった。

「こんなんで目の肥えた子供達に刺さるのか?」

 でも目の前のオッサンが怖くて受け取ってしまった。


 そして報道番組の後、夕方の15分枠。

 その時間帯の平均視聴率20%、放送局にとって中休みの頃合いだった。

 1話30分を二回に分けて一週間、子供の帰宅する時間を狙って放送した。

 それは何故かヒットし、視聴率は30%に上り、シリーズ化が決定した。


 コワいオッサン氏はカコイー氏の肩を掴んで

「でかした!でかした!」と超絶上から目線でご満悦だったそうな。


(でも16mmはないよなあ。予算付けなきゃ、でもこのオッサンに凄い怒られそうだなあ)

 結局16mmのまま納品、放送が続けられた。

 人気は段々と増えて行き、夕方の時間で駅前テレビ、大商店のテレビ、更には食堂の視聴率が40%となった。

 放送が続くうち、人気番組となっていったのはカコイー氏の予想を超えた出来事だった。


******


 その半年前、ショーウェイはアニメ番組の相談をアラク氏に、そしてリックに持ち掛けた。

 もちろん担当者はトレート部長である。


 子供に人気ある物語に科学的な味付けを、との事で考えたのは…

 時は古代、母国を侵略する大帝国に抗い、健闘しつつも敗死した有名な英雄が主役。

 彼が未来世界に蘇り、今度は宇宙から来た敵から地球を守るため戦う、

「古代帝国と戦って過労死したオッサン英雄が未来に転生したら宇宙から大帝国がやって来るんだがチート科学で撃退します」

を企画。


「題名長いよ!」

 題名は「リバイブ・アルテリー」に変更。

 宇宙人に対抗するため強力で高速な小型宇宙艇を乗りこなし、知恵と剣技で宇宙帝国の猛者を撃退する物語。


 最初は元の物語にあるアルテリーの知恵を科学的にアレンジした作戦。

 途中から、敵の中でも人気のあるライバル的存在が登場、帝国に従わされるまでの物語等を加味して、ドラマで魅せる決闘話を混ぜていく。


「敵の帝国も、侵略して拡大しないと巨大な社会が維持できなくなってる。

 それが限界にきて、内部崩壊寸前の状況だ。

 今までアルテリーと戦い破れ、故郷に帰った敵が帝国に反乱を起こし、帝国はついに崩壊!

 一旦地球は平和になったけど、帝国に変わる新しい秩序を作らなければ、みたいな終わり方、どう?」


「あなたって人は、どうしてそういう物語をスラスラ思いつくのかなあ!」


 リックの提案に、トレート氏はいい意味で呆れた。


「単純に、古代帝国の崩壊をモデルにしただけですよ」

 こうして製作されたパイロットフィルムと企画案が放送局に持ち込まれた。


 試験放送の結果、

「フォルティ・ステラよりドラマが面白い!

 おとぎ話で親しんだアルテリーが未来に蘇った話なら、大人も見るでしょう!」

と放送が決まった。


 とは言えウッコスタジオも毎週30分の物語をアニメ化は厳しい。

 怖いオッサンの15分枠「セレナの使者」同様、他の曜日で人気を博していった。


 こうして子供番組は徐々に賑わいを増していった。


******


 怖いオッサン作の真っ白い英雄を見ながら

「やっぱりこーゆーの出るよねー」

 リック社長は悩んだ。


「お嫌いですか?」「ん~、ショボいけど~、面白いと思うよぉ?」

 二人の夫人はリックを気遣うも。


「子供だって優れた感性を持って番組を見るよ。

 この番組は、勧善懲悪に徹してる。だから子供達は毎週見るんだよ。

 見習うべき点も多いけどねえ」


 極力この作者とは関わりたくはないなあと思ったリック社長であった。

 リック一家、番組最初にドバーンと出る

「憎むな、殺すな、赦しましょう」

のタイトルに圧倒されるのであった。


******


 いつしか、民間放送局設立を訴える貴族が出て来た。


 その貴族の下にも、そして王の名を冠する王立放送局にも、「お色気」を前面に打ち出した番組の企画が持ち込まれる。


 体を売って出世した、と噂される人気女優達を主役に集めた番組や、女優を目指す娘達に水泳や半裸での取っ組み合いをさせるという内容であった。

 さらに大手音盤会社もヒット歌手を売り込もうと大攻勢をかけて来ている。


「どうにも局長が承知しそうで」

 と駆け込んできたのは、制作担当のカコイー氏。


「何で、一独立映画会社に過ぎない俺んとこに?!」

「何言ってんですかー!

 健全なテレビ文化を確立し、違法な番組を許さない、それがリックさんの願いでしょーがー!」

(解ってんじゃん)(解ってるわねえ)

 その場にいた一同は感心した。


 決意したリック社長は

「テレビ放送健全化のための法制度建白書」

を徹夜で書き上げ…

「寝て下さい!」

ようとしてアイラ夫人に怒られた。


「スプラルジェント」試写と「海陸空戦艦」パイロット版撮影の合間を見て書き上げた建白書を、まずセシリア社長へ提出。


 3日後、リック社長は王宮に招かれて建白書の内容を奏上した。

 こんな短期での面会など普通は許されないが、

「リック君は我が戦友だ!」

との国王陛下の一言で、昼食を共にしつつの会合となった。


 無論、放送関連の主要貴族も集まっている。

「うわあ大事になったなあ」

とリック社長は面食らいつつも、放送業界が性欲、金欲、政治欲に呑まれる前にと建白書の趣旨を説明した。


その内容は…


・多くの国民、他国の国民が視聴するテレビ番組は社会的責任を伴い、健全さを維持するため放送法に従う。違反した作品は押収し放送局と制作会社は一定日数の放送停止、関係者の好評と再発防止策公表等の罰則を受ける。


・作品製作の雇用関係、雇用条件は労働法に従う。

 不当な性的接待、金銭強要、決定権保有者による理由なき不利益が確認された場合は関係者の労働法違反、刑法違反の罰則を受ける。


・制作会社は作品の品質を維持する原資を確保する義務を伴う。

 確保が困難な場合は専門機関の認定を受け、支援を請求する権利を有する。


・法律違反を通告した者は、一切の不利益から国が保護し、不利益を齎さんとした者は刑法によって裁かれる。


・将来設立される民営放送局も、本法に従う。


 大体はこんな感じであり、常に違反者に対する実刑が名言され、いわゆる「ザル法」を許さなかった。


「これは、新たな事業に参入するものの意欲を削ぎはしませんかね?」


「そんなヤツ…」

「そのような不心得者は!」

 怒りのまま高位貴族の意見に噛みつこうとしたリック社長を、ザナク公爵が遮る様に言葉を被せた。


「そもそも放送業界に参入する資格など無い!!

 あらゆる芸術、あらゆる文化は、他人の権利を踏みつぶす事など許されるべきではないのだ!」


 平民のリック社長に発言させるより、公爵が発言した方がニラミが効く。

 高位貴族ならではの咄嗟の判断であった。


 カンゲース5世陛下が言葉を発した。

「テレビにしろ映画にしろ、多くの民の目に触れるものなのだ。

 大きな責任が伴うと知るべきである」

 そう訓示を残す。


「後!」

 陛下は言葉を継いだ。

「リックよ、もっと王宮に遊びに来い!子供を連れてだ!

 共に戦った、戦友なのだからな」


 このフランクな発言に一瞬眉をひそめた王妃陛下も一瞬考え、

「英雄アックス様や聖女様、剣聖様達ともお会いしたい物ですわ」

とサポートした。


 放送、というもの自体、リック社長がいなければ無かったものである。

 それを悪用しようとするものを彼は許さない。

 リック社長の思いを国王陛下は後押しし、彼自身にも箔を付けた。


「うわあ」(ははーっ!)

 リック社長が答えたが

「おい本音と建て前が逆になってるぞ!わはははは!」


 国王陛下にウケた。


******


 自宅に戻ったリック社長。


「コッチで基準作って国王のお墨付き。理想的に行ったよ」

「まあまあ!」「流石リックきゅ~ん!」「「「ヤッタな!」」わね!」

 一家と英雄チームが迎えた。


「主はスプラQの時からこれ(法制化)を狙ってたのではないか?」

「モロチン」

「は~、やっぱお前は色々凄い奴だよ」


 リック社長は真剣に言う。

「テレビはこれから映画に取って代わるだろうね。

 ヨーホーは健全経営、大予算による大作に特化して発展を続ける様になる。


 でも低予算で小規模娯楽映画を乱発する他社は、テレビに食い込もうとする。

 身売りみたいなもんだ、スターの女の子を売女みたいに扱ってでも生き残りをかけるだろうね」


「まあ!社長、恐ろしい事を言いますわね!」

「そういう所、歯に衣着せないのがリックさんなんですよ?」

「ぐ、具体的に何が起きるかさ。それ解んないとね、手打てないからねえ~」

「残念なんだけど、世の中、そーゆーもんだからさ」

 ミーヒャー夫人の驚きに聖女と魔導士がフォローする。


******


 既に王立放送局は、人気番組の宣伝費で、潤沢過ぎる資金を得ていた。

 報道放送と教育放送以外を切り離し、娯楽番組を中心とした第二放送局を設置し、更には民間放送局を開設する計画が立ち上がった。


「民を思い、己を律する事が出来るのであればそれは余の望むところである」

との国王陛下の言葉を受け、この計画は進んだ。


「但し、余は宣言する!


 そこで働く者の権利、放送される内容については、法を厳守すべし!

 逸脱した場合は放送停止の命も下すべきと知れ!」


 この厳しい国王陛下の宣言の下、王立第二放送局、並行して民営放送局開局の計画が始まった。


 もし楽しんで頂けたら、またご感想等などお聞かせ頂けたら大変な励みとなりますのでよろしくお願いいたします。


 なお、活動報告・近況ノートにてモデルとなった実在の作品についての解説を行っていますので、ご興味をお持ちの方はご参照下さい。

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