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165.短期決戦!「四大怪獣 グランテラ最大の決闘」

 時間が色々前後するが、それほどこの年は特撮が華やいだ年でもあった。

 さらに、諸国条約加盟国による世界の闘技会、「フォエドゥス式典」も挙行された。

 ある意味、世界がこの時点で一番幸せだった瞬間かも知れない。


 先ず、人気絶頂の「スプラQ」が、大怪獣が一切登場しない「連れて行け!」という都会の生活に疲れた男が、異次元空間の理想郷に人々を誘う高速鉄道に乗ってしまうというシュールな物語で最終回を迎えた。


 怪獣も出ず、しかも最終回とあって子供達はさぞ落胆したであろう。

 そして、次回予告。

「来月から新しい特撮映画、『スプラルジェント』が始まります。

 超音速で空を飛び、腕から必殺光線を放つ宇宙の英雄、スプラルジェントの活躍にご期待下さい!」

 そこに登場した、銀色?白黒なのでよくわからないが、明らかに今まで見たことがないカッコよさをもった、恐らく正義の味方。


 この瞬間、子供達の期待値は一気に高まった!


 そして次の瞬間!

「来週、世界が注目する中、世界の祭典、平和の祭典、フォエドゥス式典が開催されます!

 13時から開催式典、16時からは格闘技第一部、19時からは各競技の解説と結果報告を放送します!」


「「「えええ~~~!!!」」」

 この時、子供達は地獄へ落ちたような顔をしていたであろう。


 なお、「都会の季節」は通常通りの放送であり、これもますます子供達の機嫌を損ねた。


 幸いにして、翌週13時からの開会式を家族と一緒に見た子供達はそんな事をスッカリ忘れて、世界の旗を掲げて入場行進する選手たちの姿に「すげー!すげー!」と夢中になるのであったが。


******


 そんな世相から遡る事数か月。

「こりゃまたハデな怪獣だなあ!」

 リック監督が描き上げたのは、三つ首で巨大な翼、二つに割れた尻尾を持つ、黄金の怪獣。


「なんつうか、『天地開闢』のヒドラをスッキリさせた様なもんじゃねえのか?

 しかも全身金色たあ、景気が良いなあ!ははは!」

 美術チーフのポンさんは笑いを隠せなかった。


「あまり上品なモノではないねえ」

 苦言を呈するのは、テンさん。


「何しろ穴埋め映画だ、早く撮って年内に間に合わせる、それが史上命題、だって」

 リック監督の言い方に、投げやりなモノを感じたテンさんが言った。


「リッちゃん。変わってしまったかな?」


 人格者のテンさん監督からそう言われては、流石のリック監督も認めざるを得ない。

「…自覚はあるつもりですが、改めて言われると正直辛いです」


「『快猿王対ゴドラン』から、何か追われているような、急かされている様な。

 ああしようこうしよう、それは元からあったと思いますけど。

 それでもみんなで考えて、モノにしてきた気がします。

 でも、これはどうでしょうか?」


 一同、心当たりがある様で、リック監督の言葉を待った。


「まるで『大西洋の翼』の444航空隊みたいだなあ」

 現場を任せていたショーキさんも皮肉を言う。


 そこまで言われて、リック監督は反省した。


「皆がそういうなら、きっとそうだ。

 俺は焦り過ぎかも知れないね。きっとそうだよ」


 かみしめるように、自分を言い聞かせるように彼は言った。


「先ずは検討用台本とピクトリ…、もうコンテでいいか。

 コンテに演出プランを描くよ。

 それを見た上で、皆の考える、無理のないスケジュールを決めよう。

 その上で公開時期を社長に掛け合うよ」


「なあ。

 俺達ゃあんたの下で飯食ってんだ。

 天辺が潰れちまっちゃあ特技部一家おまんまの喰い上げだ。

 程々になあ」

 ポンさんがリック監督の肩を叩いた。


「すみませ…いや、ありがとね」

「そうそう。今日はもう上がろうか!」


******


 デザイン段階では反応が今一つだったキメラヒドラだが、実際ヌイグルミが出来上がると、一同は唖然とした。


 ゴドランも人間より頭一つ大きいが、キメラヒドラは頭が三つ首の龍であり、2m以上は優にある。更に3mはあろうかという翼。

 その上、全身が、黄金。


 ピッカピカの、巨大な金の龍である。


「コイツが王都の空を飛んで、三つの首からデタラメに光線を吐いて大商店も城壁も空に浮かび上がらせちまうんだ!

 やっぱ形にすると凄いなあ!」


 子供の様な風貌で子供の様に喜ぶリック監督に、一同は何故か安堵した。

 あ、やっぱりリッちゃんはリッちゃんだ、と。

 中には噴き出す者もいた。


「こりゃ吊るすの大変だぞ?」

「何言ってんだよ、騎士団長ごとトニト・カエルルス吊るした操演班に不可能はないにゃない!」

「はは、しゃあないなあ。がんばるかあ!」「「「ははは!!!」」」

「あとプテロスも頑張って飛ばしてね!」「「「げえー!!!」」」


 なお、役員達も0番スタジオに居並ぶゴドラン、プテロス、幼虫マハラ、そして黄金の新怪獣キメラヒドラの出来に満足した。


******


 ヨーホーの独壇場とも言える、特撮大作の製作発表会。

 やはり、ゴドラン達に取り囲まれたキメラヒドラの威容は参加者のド肝を抜いた。


「これまた派手な…」


 地球の怪獣ではない、宇宙から隕石に乗ってやって来たという設定。

 太古の美の星の文明を滅亡させた凶悪な宇宙大怪獣。

 これに、ゴドラン、プテロス、マハラが立ち向かう。


「ゴドランが英雄になるのですか!」

「あくまで本能で天敵と戦うのですが、どの様に戦うのは映画を見てのお楽しみです」

「こりゃあ子供は大喜びでしょうなあ!」


 しかし本編は熱血青春映画で人気上昇中のデッカー・ナンダー氏、デっちゃんだ。

 近未来戦争大作で二度主演している、特撮でもご常連だ。


 彼は王国騎士団の捜査員で突如キリエリアに現れた隣国の王女を護衛せんと奔走する。

 しかし王女は自らを「美の星の女王」と名乗り、各地に出没しては怪獣たちの復活を予言、的中させていく。


 王女を暗殺し隣国乗っ取りを企む悪党たちの暗躍に立ち向かう主人公たち。

 本編も今までと毛色が違う捜査サスペンスドラマに挑む。


「怪獣たちの戦いと同時に進む人間達の丁々発止と、ロマンスもまた観客を楽しませる事と信じます」

 テンさん率いる本編班、出演者も特撮作品のご常連が増えて来た。


 マハラ登場とあって前作に続き南国娘も歌声を披露する。


「マハラ対ゴドラン」も例によって立体音響の音盤が発売されたが、「マハラの歌」程の売れ行きは果たせなかった。


 そのため本作ではもっとムーディーな曲を、との要望が出された。

 その辺キチンと用意していたリック監督。

 挿入歌「幸せよ泣かないで」が披露された。


******


「スプラルジェント」の撮影がトリック特技プロで、「四大怪獣」がクラン撮影所で続く。


 常にどちらかで爆発音が聞こえて景気の良い限りだ。


 その日は取り分け爆発音がデカかった。宇宙からの隕石が落下した渓谷で、その隕石が不気味に光り、ついに閃光と共に炎を噴き出し、大爆発を起こした!

 爆発は上空で火の玉となり…この場面はガソリンを何回か爆破させ、丁度良くカメラに火の玉が映ったもを使用。


 さらにこれに「世界最終戦争」の戦術核爆発の炎の素材を逆回転で繰り返し重ね、更にアニメーション作画で炎がキメラヒドラの輪郭を成す素材も重ね、最後に操演で羽根を、首を、足も尻尾も激しく動かすキメラヒドラに切り替わるという凝った登場場面が作成された。


 いつもは自社とヨーホーをせわしなく往復するリック監督だったが、この場面は素材撮影にも合成にもずっと付きっ切りだった。


 合成は相当量のフィルムを走らせ、仕上がったラッシュを見たスタッフ一同は感嘆の声を上げた。


「はあ~!ナリもド派手なら登場もド派手だな!」

「確かにこりゃフツーの生き物じゃねえなあ」


 合成のモンさん、チーフ助監のショーキさんが感心する。


 デザイン画の段階では好評とは言い難かったキメラヒドラ、ヌイグルミの現物といいこの登場シーンといい、映像になって真価を発揮する怪獣であった。


「いやいや!こんなスゴイシーンを撮ったみんなはやっぱりスゴイよ!」

 スゴいのはあんただ、と言いたかった一同は次の撮影の準備に入った。


******


 クランの0番スタジオでは、広大な王都の風景が再現され、その上にあのキメラヒドラが吊るされていた。


 既にリック監督不在の代りを務めるショーキさんが現場に命令を飛ばしていた。

「ハイヨーイ、スタート!」

 王都上空を、羽ばたきながら尻尾や首をくねらせながら飛び去るキメラヒドラ。

「カーット!」

 このカットは合成で無重力光線が焼き込まれる。


 更にヒドラは最初の地点に戻され、今度は飛び去る下の街の爆破カットに入る。

 セットの舞台下には送風機が仕込まれている。


「スタート!爆破!」

 ミニチュアを舐める様に爆発が連続的に伝わる!

 その一部は大爆発を起こす!

 爆発と同時に強力な風が送られ、爆風も破片も空に吸い上げられる様に舞い上がる。


 セットは一部組み直され、今度は港町デンガナーの港湾タワーが設置される。

 かつて「ゴドランの逆襲」で登場した大灯台、これに変わってより高く、更にテレビ・ラジオ電波の放送塔としての機能を持った新たなデンガナーのランドマークであった。


 このセットにも連続発火式の爆薬が仕掛けられ、新たなデンガナーの街を、港湾タワーを光線がなめ尽くす!


 この場面もまた、合成が入ってこそ真価を発揮する場面だ。

 案の定今までの怪獣映画の破壊シーンにない、スピーディで畳みかける様な映像に、スタッフ一同留飲を下げた。


 ラッシュを見届けて安堵したリック監督は、またしても自社へ飛んで戻るのであった。


 もし楽しんで頂けたら、またご感想等などお聞かせ頂けたら大変な励みとなりますのでよろしくお願いいたします。


 なお、活動報告・近況ノートにてモデルとなった実在の作品についての解説を行っていますので、ご興味をお持ちの方はご参照下さい。

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