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162.銀色の巨人「スプラルジェント」誕生!

「スプラQ」の完成品が続々と放送され、視聴率は常時60%台を維持している。

 この次代、テレビ稼働率=視聴率だ。放送局が1つしかない。

 学校のテレビ室、行政施設のテレビは日曜夜には電気はついていない。


 しかし一部学校や役場では、人気番組を観たがる人々のために特別に受信している例もある。それでこの数字だ。


「子供も大人も夢中になる」

とは、まさにこの時代の特撮映画、特撮番組のためにある言葉だ。

 今や日曜の顔とも言える存在にまで成長した。

 もちろん続いて放送される「都会の季節」も日曜夜に欠かせない存在になっていた。


 ところが、そんな大成功を気にしている余裕もなく、トリック特技プロは大変であった。

 一応安息日の休業は守っているので、皆が自宅でテレビを鑑賞できるはずではあったのだが。


 監督が、美術班長が、合成班長が明日からの撮影スケジュールを色々考える。

 食事を摂りながら「スプラQ」を見ながら、欠点や改善点を考える。

 妻子あるものは家族から心配される程の没入具合だった。


******


 銀色の巨人は戦っていた。

 中に入るのは、例によってアックス氏の後輩。

 今回活躍しているのは騎士団の中でも長身、そして頭の小さい10頭身の人物だった。先に結婚式で中に入ったデシアスよりやや背が高い。

 騎士団員なので格闘や受け身はお手の物、数々の怪獣を相手に撮影をこなした。


 撮影は数話分を効率よく撮影していく。

 同じ様な舞台で戦う話があれば、同じミニチュアセットを使いまわし撮影し、スケジュールを素早く消化していく。

「あのー監督、ここ手前にもちょっと大きなセット置いた方が…」

「ありがとう。わかってるんだけどね。

 一応メモにしといて、次のセット作る時の参考にするよ」


 若い才能が意見を上げて来るが、それに応じる時間がない。

「スプラQ」では湧き上がるアイデアに歩みを止めて、撮り直しやセット組みなおしをやりすぎて予算超過を起こした。

 なのでこう言ったアイデアは記録させて後で実現させる事にした。


 山の中なら山の中のエピソードを纏め、街の中、夜、荒野、一部セットを増やしたり減らしたりしつつ、特撮素材が積み上がっていく。


******


 本編では、前作の反省点である「何で飛行機乗りが毎回怪獣や怪事件と戦ってるんだ?」という不自然さへの答えとして、怪獣専門対策チームが設定された。


 国際科学捜査隊TISI、ティースィの隊員5名が物語の中核となる。

 怪事件、怪獣退治の専門チームという事で、怪獣が出れば連絡を受け出動、怪現象の謎を解くという毎回恒例のパターンが出来た。


 厳格であり時には人情面も見せる隊長、エリート、力持ち、発明家、紅一点という布陣で隊員は個性を見せつつ謎に立ち向かう。

 演じるは隊長こそベテランだが4人の隊員はヨーホーの若手達だ。


 ヨーホーの名優達、かつて特撮作品にも強い印象を残した科学者、軍人役もゲストで登場、脇を固めた。


******


 そして前作同様最大の武器は、2台のヨーホー・バーサタイルだ。

 トリックプロが多忙な時期にはヨーホー所有のものを、逆にヨーホーが繁忙な時はトリックプロのものを相互に使い合っている。


 これを使うたびにそれぞれいくら借用、おいくら万デナリ、なんて互いに請求し合っていたら…

 ムダに余計な仕事が増えるだけである。


 相互使用協定が結ばれ、勘定の上ではそれぞれが消費したフィルムだけがそれぞれの製作費に加算されるだけとなった。


「これだけでどんだけ製作費が浮いた事になったか」

「フツーこんな機械ホイホイ作れませんって」

「それもそっかー」

 この最先端の合成機器を使える人材も倍になって、業界としては喜ばしい限りだ。


 さて特撮カメラマンとしてリック社長に仕えていたデシアス技師。

 監督として本編も見る様になって、何故リック社長がオプチカルプリンターにあれほど拘っていたのかが理解できた。


 そのためか「スプラQ」初期4本でも合成カットを多用し、更に続いて製作された

作品でも結構合成に拘り、予算と納期を押してしまった


「鬼の剣聖様でもハメ外すときは外すもんだな!ははは!」

 ヨーホーバーサタイルの番人と化した合成班のケミさんから笑われた。


 そして本作「スプラルジェント」の製作第一話「侵略星人撃退せよ!」で、またまたやりまくった。

 侵略者ボクリセ星人が捜査隊員の後ろで無数に分身する場面、横に向かって歩く残像の一部が実体化したり正面向きになったり。


 二人のボクリセ星人が画面中央で一人に合わさったり。


 光学合成を使った場面から、単純な二重露出、更には鏡のトリックを使った簡単ながらドッキリさせられる合成まで、リック社長のコンテを形にしていった。


 そして完成試写。予定に間に合った。

 例によって18インチの、しかし今度はカラーテレビ。


「ドッ!ガガァァァ~、キュルルルッ!」

「スプラQ」同様、渦巻く謎の映像が、極彩色で現れ、やがて「スプラQ」の黄色い文字が現れ…その真ん中が爆発するかの様に真っ赤に染まり、

「スプラルジェント 空想特撮シリーズ」とのタイトルが現れた!

「「「ほお!」」」


 そして始まる、軽快なマーチ風の主題歌。子供達の合唱による英雄賛歌。

 タイトルバックは流星マークに怪獣のシルエット、そこにスタッフキャストのクレジット。

 最後に「分身宇宙人ボクリセ星人登場」と出て、期待を高める。

 前作「スプラQ」では怪獣の名前もロクに設定されなかったり、されていても本編で言及されていなかったりした。

 本作では毎回その名が明らかにされる。


 そして始まる本編。オレンジ色のスーツ、明らかに軍人ではなく、救急隊員と思わせつつラジオが内蔵されたヘルメット、未来的なスタイルだが、その一人は目玉の周りにアザを作っていた。何度かの出動でベッドから落っこちたのだ。


 若干のコメディを含みつつ、交信を断った宇宙基地、魔導士協会に新設された新技術研究所の未来的な建物をロケしたのだが、そこで謎の宇宙人が捜査隊と接触。

 大きなハサミの様な手、昆虫の様な姿の宇宙人は彼らの前で分身し、曰く数十億の同胞が宇宙船で地球への移住を行うと宣言。


 宇宙人は巨大化し、宇宙基地を攻撃する。一度は高性能爆弾で倒されたかに見えたが、その骸から別の宇宙人が起き上がり、攻撃を続ける。


 副長格のエリート隊員が謎の円筒状の機械を宇宙人の襲撃で落としてしまい、基地から飛び降りて筒をキャッチ、そのスイッチを押す!


 閃光が瞬き、光の渦の中心から銀色の拳を突き出した巨人が現れた!


 銀色の巨人と、異形の宇宙人が戦う。空に逃げる宇宙人、それを銀色の巨人が腕を十字に組み、光線を放ち破った!


 夜景に輝く銀色の巨人。光線を放ち敵を撃つ未知の戦い。

 拍手が試写室に鳴り響いた!


「やりすぎたねえ」

 デシアス監督にリック社長がニヤっとして言った。

(まずい!)と身構えたデシアス監督だが。


「そん位でいいのかもね、大成功だよ!」握手を求められた。


「これはスゴイですよ!ヨーホーの劇場映画を越えていますよ!」

 放送局の製作担当氏が叫んだ。

「これは天然色で見たいな!」「ああ、白黒だともったいない!」

 賞賛の声は続いた。


 こうしてテレビ特撮映画第二段「スプラルジェント」は成功を確約されて誕生した。


******


 撮影は続く。編集も仕上がり、完成品がチェックされる。

 色々粗があり、写っちゃいけないモノが映ったりして差し替えが行われる。


「ちょっとみんな落ち着こう」

 リック社長自らが一旦臨時休暇を命じる事もあった。


 しかし仕上がった作品は素晴らしく、それらは若いスタッフのはやる気持ちを高ぶらせた。


 本編班も「スプラルジェント」という未知の番組の勘所を掴み、パターン的なものが解って来た。


 放送第一話となる「第一スプラ(超)怪獣作戦」が完成試写を迎えた。


 捜索隊の超音速飛行機が隕石と衝突。

 隕石、その正体は謎の異星人だった。

 だが、侵略者ではなく、友好的な宇宙人だった彼は、地球のバージニア星座方面にある楕円形ジェット銀河から来たと宣言。


 宇宙の狂暴な怪獣レクスナを追って来たと告げ、捜索隊員と一心同体になり、ゴドラン達より凶悪に、顔の表情を変化させる(顔の部分に手を入れて表情を操作できる機械が入っている)宇宙怪獣レクスナと戦い、腕から発する光線でこれを抹殺した!


 その戦闘スタイルはまさにマギカ・テラの闘技大会で多くの人達が見た格闘技その物であった。


「「「おー!!!」」」「「「うわー!!!」」」


 殴打や蹴りが決まるたび、試写室は歓声に包まれた。


 そして一同には安心感も広まった。

 英雄であり主役である銀色の巨人スプラルジェントが怪獣を倒す、という毎回決まった形、パターンができたからだ。


「スプラQ」は、結末がわからないという不気味さがあったのだ。

 それもまた「スプラQ」の魅力であり、長所でもあったのだが。


「ぬ~。ある意味、話が固まっちゃって、面白みが少なくなるかもねえ」

 流石天才アイディー夫人は視点が違った。

「それは次回作で考えようよ」

 異世界での未来を知るリック社長は、型にはまるだけというのも寂しいと考えていた。


 彼は社員、ヨーホーの助っ人に言った。

「考えよう、『スプラルジェント』の次の作品は、君達が原作で君達が監督だ!」


 リック監督は「スプラQ」「スプラルジェント」という、特撮映画という成熟した文化が新しい世界、テレビの世界に飛び出したにも関わらず、その設計を、発想を異世界の知識で塗りつぶしてしまった。


 それは個人的には頭の中の夢を形に出来て嬉しかった。

 しかし彼等の自由を奪ってしまった。

 その後ろめたさを誤魔化す様に、せめて次回作ではこの世界の若い世代に明日を託したい、そう願った。


 もし楽しんで頂けたら、またご感想等などお聞かせ頂けたら大変な励みとなりますのでよろしくお願いいたします。


 なお、活動報告・近況ノートにてモデルとなった実在の作品についての解説を行っていますので、ご興味をお持ちの方はご参照下さい。

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