160.人間の格闘から怪獣の格闘へ!
平和になったマギカ・テラで力自慢たちが暴れて治安が悪化したそうな。
結局そういう輩の戦闘衝動を発散させる試みとして、力自慢大会が開催される事となった。
先ずはキリエリアの騎士団内で剣技、格闘技、競争が行われる事になった。
何故隣国キリエリアで?
それはリック社長のお陰で放送技術が各段に進化しているからである。
そうマキウリア女王陛下が仕掛けたのであった。
多忙なリック社長にとってはイイ迷惑である。
かくて彼等力自慢たちの活躍はテレビとラジオで放送される事となった。
ただし、その出来如何によってはマギカ・テラでの問題解決に役に立たない事になってしまう、しかも成功する確約はない。
よって放送は大々的ではなく、あくまで試験的に行わる事になった。
開催は安息日前の昼過ぎ、13時。
だが。
余り大々的に公表されなかったが、ミノタウロス族とかケンタウロス族とかが王都レイソンを緊張して行進していれば話題にならない訳がない。
リック社長が若いころから進めていた「土曜半ドン」、12時になったら王城や領城で大砲を「ドン」と鳴らして、仕事は終わりにしよう、という習慣が広まった結果だ。
競技場に集まったマギカ・テラの力自慢、技自慢。
更にキリエリアでも同じ体躯の者達や、更なる上を目指すものが対戦に名乗り出た。
一同整列、女王陛下から
「殺傷力の強い武器を使うな、審判が止めろと言ったら動くな、相手の目を潰す、手足を折る等、大けがが残る技は行うな。
それらを行えばその首に懸るのは名誉の褒章ではなく罪人の枷と知れ!」
初っ端から物騒な訓示が下された。
「「「おおーっ!!!」」」
しかし暴れたくてたまらない脳筋軍団は何故か雄叫びを上げた。
こうして、この世界初の、テレビ、ラジオによる闘技会の放送が始まったのだ。
試験的に。
土曜午後の闘技会。
見物人は大いに盛り上がった。
キリエリア人から見れば3mの巨人、2m近い体躯で四つ足の異種族が殴り合い、ぶつかり合う迫力の見世物だ。
盛り上がらない筈がない。
もちろんリック社長の進言で
「ケガしたり戦えなくなったら本末転倒だから、頭、角、拳、心臓なんかを守る防具はつけようね」
と言う事になったが、それでも巨体と怪力の激突は人々を魅了した。
最強を歌われたリック社長や英雄パーティーも参加を乞われたが
「こっちはゴドランと戦ってんだよ!!」
と撮影所で格闘していた。
企画会議でリック社長が披露した、二足歩行トカゲと巨大蝶という、異種格闘にも程がある戦い。
この前代未聞の映像を、アックス氏の熱演、操演班、更に毒鱗粉を金の砂を混ぜて表現したものを大型扇風機で飛ばす特効班の奮闘によって、時に「ゴドランの逆襲」の時の様にコマ落とし的に素早い動きで、時に高速度撮影で巨大感を見せつつ撮影を進めた。
午前中に撮影を切り上げた一同は、テレビとラジオで闘技会を見た。
「四つ足と二本足だとあんなに動きが違うもんなんだなあ」
「3m大のミノタウロスでもテレビで見たら騎士団員とあんまり変わらんなあ」
「放送局のカメラが競技者の上にあるからだな」
誰が勝つかではなく、どんな動きを見せるかという、当の選手が聞いたらガッカリしそうな感想を述べあっていた。
「勝負ありました。
今のはA選手のスキをついて喉元に木刀を突きつけたB選手の勝ちです。
次の試合は…」
「こりゃ、ラジオの方は厳しいなあ、もっと臨場感あるアナウンスをしないと」
「例えばどんな風に?」
「もちょっと、そうだね。
『にらみ合う両者、動きません、動きません…あ!両者接近!
あー!すでにA選手の首筋にB選手の木刀が!
一瞬!一瞬の出来事です!
観客も一瞬の出来事に歓声を上げています!
審査員がB選手の勝利を判定しました!
お見事!実にお見事ですB選手~~~!』
ってな感じでえええ!社長?!」
リック社長の後ろにセシリア社長。
「その方がラジオだけしか聞けない人達にはずっといいわね。
他には何かいいアイデアないかしら?ここで聞いてマッツォJr部長にブン投げて来るわ」
「え~、出来れば、入場行進とか開催のファンファーレみたいな式典、女王陛下からの訓示だけでなく優秀な出場者が規則に則って協議する宣誓を延べるとか、優勝者へ軽い勲章とか競技大会の優勝の証しとかを授与するセレモニーとか」
「わかりました。
今回は既に結構な注目を集めています。
今からでも取り入れる様マッツォ氏に命じましょう」
(うわー。首突っ込まなくって良かったー)
リック社長はそそくさと撤退する。
(あれさあ、首突っ込みたくないって感じだけど充分首突っ込んでるよねえ)
周りの一同はそう思いつつ撤退の準備をすすめた。
セシリア社長はマッツォJr氏に命じ、競技場でボーっと中継だけしている放送局員や主催者に進言させ、取り急ぎ金の盃を用意し、楽団をかき集め、退場のセレモニーと行進の段取りを大急ぎでまとめ、閉会までにはリック社長のアイデアを形にして見せた。
帰宅してテレビを見たリック社長は驚いた。
「はー。あそこで言っただけの事を数時間で実現させちゃうとは、やるねえ」
「あなたがやれって言った様なものですよ?」
「それもそっか~」
優秀選手への金の盃の授与、そして壇上に上げて勝利の証しを掲げる選手たちをファンファーレが讃え、両国の選手たちが握手を交わし楽団の奏でる行進曲の中去っていく。
この光景に、ただ物見遊山で集まっていた駅前や酒場の観客も、何か心を揺さぶられたのだろうか、拍手喝采をテレビに向けて浴びせた。
気が付けばもう20時。「週末にあいましょう」の時間。
いつもの出演陣が騎士の恰好で登場し、司会者の女優が女王の様なドレスで番組開始の挨拶を伝える。
俳優達が剣技や格闘を踊る様に演じて、その背中にクレジットが書かれている。
「え?生放送?」
「先週の発表から慌てて闘技会に合わせた内容にしたみたいだぞ」
「ウチからも美術さん何人か呼び出されてました」
と、デシアスとミーヒャー。
「あのマッツォの息子さん、親に似ないで頑張ってるわねー」
と、セワーシャとアックス。
「ふう~、やっと生き返ったよ~」
他国を交えての放送とあって機材の支援に出ていたアイディー夫人が子供を連れて風呂から上がって来た。
何だかんだ行事があるとリック邸に集まって宴会する一同であった。
「あ、視聴率、最初45%、最後70%だってさ~」
「「「70?!」」」
一同驚いた。
「わかんないけどさ、ああいう闘技って、人気なのかな~」
「そりゃ古代から綿々と続く祭典でもあるしなあ」
「映画っていう道がなきゃ、俺もデシアスも出てたかもな!」
「フィルム撮影もされているだろう、技の参考にしたいなあ」
「はわあ…戦う男達の会話…」
「でもちょっと色々良からぬ事も出てくるかもしれないねえ」
「前に主が言っていた、金、権力、性欲、か」
「セシリア社長を通すべきか…一応ヨーホー映画も助力してるし、一言入れておくかなー」
テレビ、ラジオという協力な拡散手段を得た闘技大会。
その前途への心配が杞憂である事を祈りつつ、
「健全な魂は、健全な肉体に宿れかし…絶対宿らないよなあ」
と諦めるリック社長であった。
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「次は毎回大怪獣が出る話にしましょう!」
「そんな毎回アイデアは出ないよ」
「じゃあ…フォルティ・ステラみたいな英雄が怪獣を倒す話に!」
「やっぱそうなっちゃうかー」
放送局とトリック特技プロの打ち合わせの中、後番組の方針が決まった。
それもリック社長の想定の範囲内だった様だ。
「何しろ先日の闘技大会!
剣技も凄かったですが、やはりミノタウロス族の格闘技が一番盛り上がったんですよ!」
「それで怪獣と英雄の格闘戦。こういうのとか?」
「え?そうなると思ったんですか?」
「まあねえ。これも必然だね」
そう言いつつ美術スケッチを配るリック社長。
「これは…怪獣、ではなく宇宙人、英雄?」
青い星空を背景にした、銀色の体に赤い線?筋肉の影?が描かれ、頭は弾丸の様で、中心がツノの様な、トサカの様な突起になり、黄色く光る両眼、口元だけは凄し微笑んだ様な、不思議な人。
「『スプラQ』と連続放送するならこれで製作を始めないと不可能です。
即断即決、決断願います」
「これ…」
「仮に、『アルジェントム(銀)』と呼びます。28回。今度は天然色、1回7百万デナリでどうですか?」
天然色テレビ。
アイディー夫人が白黒テレビ5万デナリ化に続いて、大量生産に取り組んでいる。しかし想定価格は数倍だ。
「いよいよそういう時代に踏み込む事になったかー」
「何言ってんですか、全部アナタがやった事でしょが!」
放送局の製作担当氏が容赦なく言う。
「半年くらい準備期間くれませんか?」
「無理です、トリアン製薬がショーウェイに乗り換えちゃいますよ?」
「解りました。俺のアタマの中のものひっくり返してブチ込みます」
こんなやり取りを経て、デシアス技師とミーヒャー嬢の結婚式に登場した謎の銀色の英雄、「アルジェントム(仮)」の製作開始が公式に決まった。
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なお、活動報告・近況ノートにてモデルとなった実在の作品についての解説を行っていますので、ご興味をお持ちの方はご参照下さい。




