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148.テレビ放送黎明期

 テレビ放送、最初は電子映像放送と呼んでいたか。

 それも世に出て4年目。


 7時放送開始、21時放送終了。

 途中、13時から15時までは放送休止。

 主に、朝、昼、夕、晩に王立放送公社の報道を30分、天気予報を15分。


 王立公社の繋がりで過去のヨーホー映画を終末の昼と夕方に放送する。


 テレビ・シネマ変換機、略してテレシネという、1秒24コマの映画を1秒30コマのテレビ信号に変換して滑らかに見せる機械を、王立学院がリック青年の助言で完成させて各国の受像機へ送り届けている。


 しかしそれにしても、日中の時間が空き過ぎる。


 テレビの開発者であるリック青年は

「託児所、学校、孤児院向けに教育放送を流しましょう」

 と提言、文字の読み書き、単語の綴りを歌やアニメを交えて繰り返し、子供達が笑って歌える様に工夫した番組を放送している。


 そして平日の夜。

 週末に放送する映画には限りがある。

 そのため、更に古い劇場中継を放送する事となった。

 いっそ演劇その物を放送すればよいのだが、これは映画に観客を根こそぎ持っていかれてしまった演劇業界が強固に反対した。


 その一方で、このテレビに目を付けた目利きがいた。

 教育テレビで子供達が文字遊びの歌を効き、覚え、歌っている。

 孤児院の貧しい筈の子が、聖典の言葉や古典文学の言葉をもじった教育ソングを歌っている。


 これは商売人にとって脅威であり、同時に好機でもあった。


 すでにラジオが流行歌を生み出す母胎となって久しい。

 テレビでは映像がつく。自社製品を言葉ではなく、映像そのままに歌と共に放送すれば?


******


 異世界の知識を持つリック青年がそんな動向を察知しない訳がない。

 彼はまず最初に役員会に「テレビ事業部」設立を働きかけた。


「今、テレビは大量生産を目前に控えています。

 都市労働者だけでなく、地方の農民でも2年、3年の分割払いでテレビを買える時代がすぐ迫っています。


 そうなれば映画ではなく人々は自宅でテレビを楽しみます。


 そうなってからでは遅いんです!

 今の内に、テレビ向けに20分から45分の短編連続映画、或いは1時間半枠でテレビ画面用の単発映画を製作し、毎週ヨーホーのテレビ映画を家庭で楽しんでもらいましょう!


 テレビが普及する前に、テレビに流れるお客さんをヨーホー映画がガッチリ抑え込むんです!」


 このリック青年の意見は一蹴された。


「あんな小さい画面で、映画に取って代われる訳がなかろう!」

「そもそも70mmを開発したのはリック部長であろう!今更今までの投資を捨てろというのか?」

「そもそもタダで電波を流すテレビで、どうやって製作費を回収するのだ?

 御菓子や晩飯の広告なぞ製作費の補助にしかならんであろう?」


 これら意見には、逆に考えれば生存戦略のヒントがひしめいているものであった。

 例えば70mm映画をテレビで宣伝する、食品会社や菓子会社から多く宣伝費を取る、など。


 しかし役員たちは、今の好調に目を奪われて、自ら発言した言葉の意味を反対側から考えて、未来を考える…そんな力がなかった。


「それよりリック部長は次回作を」

「先ずは空軍からの要望ですかな?」

「いやいや!10億越えのゴドランの次回作を!」


「蟻の如く集い東西に急ぎ南北に走る、でしたかな?」

 自ら脚本を書いた「怪星バベル」の台詞で一同を揶揄したのだが、その言葉を一同はまるで聞いていなかった。


「予算はどれくらいですか?」

 ただ一人、その意見に食い付いた者がいた。

 病気で引退したマッツォ取締役の子、マッツォ役員、マッツォジュニアである。

 好調な海外部門に修行に出されたマッツォ家にとって唯一残ったホープである。


「リック部長の発言には、一理も二理もある。

 我がマッツォ家は劇場、それも演劇を行っていた小屋を映画館に転向させて成功してきました。

 引退した父はそれを大層苦々しく思っていましたが、結果は皆さんご存知の通りです。

 リック部長の仰る事が本当かどうか。

 本当であれば、今度は観客が劇場から自宅に一斉に籠って、劇場に閑古鳥が鳴く。

 そんな事だってあり得ます」


 何をバカな、役員一同はそう思った。

 しかし、相手は引退したとはいえヨーホーの功労者であるマッツォ家。

 無下には出来ない。


 リック青年は説明を始めた。


「先ずは俺の意見を認めてくれてありがとう。

 テレビ受像機は今の半額以下になります」


 その発言に、一同は認識を改めた。

(さっき言ったんだけどなあ)

 分割払いでとっさに計算できなかった役員に危機感を感じた。


 そしてリック監督は更に強烈な一撃をかました。

「そして、今と同等かそれより高い程度で、天然色化します」

「「「なんだってー!!!」」」


 例によってアイディー夫人が試作天然色テレビ、カラーテレビを会議場に運んで来た。画面の対角線の大きさは大体45cm。テレビとしては大きい方だ


 そして電気を入れると、暫くして画面の真ん中が光り、四角い光が広がって行き…

 縦に潰れたヨーホーマークが、ファンファーレとともに現れた!


「「「おお…」」」

「天然色だ…」「随分潰れてるな」

「アナモルフィックレンズを付けてないのか」


「映画をテレビの狭い画面で放送するため、パノラマ画面の左右を切ったり、画面を右や左に寄せる編集は必要でしょうね」


「でもやはり小さいな」

「せめて今の4倍くらいの画面でなければ映画は楽しめないでしょう?」

「そうなると受像機は一男爵領の年収くらいになります」

「「「何と!」」」

「しかし、労働者の家であれば、この大きさ、いやもう少々小さい対角線35cmサイズでも、充分鑑賞に耐えますよ」


 小さい画面の中で飛び交う戦闘機、爆発する軍港。続いては怪獣映画の予告編。


 若きマッツォ役員は我を忘れて見入ったが、ハタと現実に帰った。


「検討する意義は充分にありませんか?

 社長!映画は演劇業界の二の舞を踏むべきではありません。

 今の好業績が続くうちに、新しい舞台の評価を行うべきです!」


(親に似ず、立派になった物ですねえ。親に似ず)

 外国事業部と言う所は、我が強すぎると失敗する。かといって言いなりだと利益を根こそぎ奪われる。

 成功して慢心した父や祖父の処遇に恐れをなしたのか、元々自力で交渉力や審美眼を養ったのか、セシリア社長は若き才能を頼もしく思った。


「リックさん、試算はしてあるのでしょう?

 その資料を皆さんに」


******


 リック青年は既に食品会社、薬品会社、観光公社等にヒアリングを行い、労働者が帰宅して一家が揃う19時、食事を終える20時、子供が寝る21時、それぞれ30分枠、1時間枠に出資できる広告費を纏めていた。


 結果、19時代30分枠で6ケ月26回、毎回50万デナリ。

 20時と21時は1時間枠、同じ条件で毎回その倍、百万デナリ前後。


 業界によって出せる金額に前後はあるが大体同じだった。


「これじゃあフィルムも買えないなあ…」

 あまりのショボさ役員が嘆いた。


「いや。これは1回あたりだ。4半年で考えよう。

半年分をある程度纏めて撮る事で、今の劇映画より条件は落ちるが、出来ない事はない。

 むしろ初期投資と思ってアイデアを凝らして、家庭に映画陣の知恵ここにあり!と殴り込みをかけるつもりで、どうだろう?」

 別の役員が建設的な意見を具申する。


 しかし他の役員は躊躇する。

「出来なくはないが…賛同する監督がどれだけついてくるか」

「みんな今撮る本数が増えてるからなあ」


 そこで切り出すリック監督。

「じゃあ、先ず資金的に余裕がある俺から行きますよ」

「「「待てー!!!」」」

「え?」


 リック監督に役員たちから待ったがかかった。

「稼ぎ頭の一角、特撮映画が毎週テレビでタダで見られるとあっちゃあ、興行成績がダダ下がりになるだろう!?」

「いずれそうなるから、今の内にテレビ用に挑戦しようって言ってるんじゃないですか!

 新しい戦場を前に弱気でどうするよ!」

「しかしだな、わざわざ自分から身を削る様なマネを」


 ここまで意見しても後ろ向きなヨーホー役員に、リック青年はウンザリした。

 聞いていたセシリア社長も、先にリック青年が母と呼んでくれた事を感謝しつつ、これはもう押しとどめられない、そう覚悟した。


「ならば私はヨーホーを辞めてテレビ映画会社を創立しましょう!」

「待て!5億デナリの出資を意見する!」

「「「なんだってー???」」」


 叫んだのは先のマッツォジュニア、Jr役員。


「そもそもヨーホーはリックさんの活躍でどれだけ収入を得たのでしょうか?

 その何割かをリックさんの意見のために使って、なんの罰があたりますか?

 ケチった我が父には罰が当たりましたけどね、ははは」

 そう自虐的に笑うマッツォ役員。周りは誰も笑えない!


「今までの黒字を累計したら、2~30億払ってもお釣りが来るでしょう。

 5億位、実験と思って出すべきではないでしょうか?」


 一同は呆気にとられていた。

 そしてセシリア社長は、リック青年の次の言葉を待った。


「マッツォさん、ありがとうございます。

 先ずは私の出資で結果は必ず出します。

 俺は、映画の大画面、大予算による大作映画の魅力を絶対に絶やしたりはしませんからね!」


「ぜひ、お手柔らかにお願いしますよ」


 つい先日までの劇場・不動産部門と社長の対立を目の当たりにしていた役員たちは、何も言い出せなかった。


 リック青年と、彼より年若い青年役員が場を主導し、セシリア社長がそれを見守る形で、ヨーホー映画公社は「テレビ事業部」を創立した。


 この部門はマッツォ役員が部長を兼任し、リック青年はあくまで製作部門の一員としてテレビ事業部へ企画を売り込む形となった。


 若きマッツォ役員がテレビという新天地で、リック青年を手駒に収めたのか、名を捨て自分がやりたい事をリック青年がマッツォ役員を後ろ盾に据えてやり始めたのか。

 この当時は誰もわからなかった。


 この後にすぐに、別の意味で明白になるのだが。


 もし楽しんで頂けたら、またご感想等などお聞かせ頂けたら大変な励みとなりますのでよろしくお願いいたします。


 なお、活動報告・近況ノートにてモデルとなった実在の作品についての解説を行っていますので、ご興味をお持ちの方はご参照下さい。

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Q、やはりそうなりますよねー
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