表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
147/213

147.閑話 牢獄生まれの新たな命

 世間が宇宙開発やら大画面映画などでにぎわっているころ、ひっそりと三つの命が芽吹いていた。


「いくらなんでも妊婦と新しい命を、不衛生な場所に置いとけないよね」

 というリック青年の暖かい配慮で、三人の妊婦、異世界から召喚された聖女、賢者、魔法使いが次々と妊娠したのであった。


 一応牢獄に使われている城塞とは言え、その部屋だけは暖房や衛生、医師の回診等の特別待遇を施されている。


「オッサンの医者なんかに見られるのイヤー!」

「勝太君に会わせてよー!」

「さびしーよー!」

 好き勝手言い放題である。


「テメエ等あの牢獄に戻りたいかァ!」

「「「それはイヤー!!!」」」

「だったら黙っときなさい!」


 余り脅しをかけすぎるのもお腹の子に悪いと、リック青年もそれ以上喝を入れられなかった。

(お腹の子に一番悪いのは、あのアホっタレの母親かもしれないけど、子供は親を選べないからなあ~)


 やりきれない思いのリック青年であった。


******


「なんかあの連中の方が私より待遇よくなくて?」

「当たり前です、あなた召喚魔法の改良のお陰で首と胴体が繋がってんですよ?」


 リック青年は時折アホ勇者一行返還作業の進捗を見届けにきていた。

 その都度、アホ軍団と毒舌の応酬を交わし、心にダメージを負っていた。


「やさしさの欠片もないものね!」

「あなたこそ反省の欠片もねえでしょ!とっとと奴等を元の世界に追い返して下さいよ!

 んでもって平民の娘として人生やりなおしなさい!」

「最低でも公爵位は要求させてもらうわ!」

「よーしよし、公爵でも皇帝でも就かせてやろう、但しマギカ・テラ侵略謀議の罪で即刻斬首一直線!」

「返還魔法陣書かないわよ!」

「おやつあげないわよ!」

「ぐぬぬ」


******


 そんなこんなしつつも、過去に異世界の景色を映し出した魔法陣を改良し、ついに

「こっちの物を向うに放り投げて、落っこちるのを確認できました!あの生意気な小僧を呼びなさい!」

 どうやら異世界の日本へ帰る道が繋がった様である。


 リック青年立会いの下、魔導士協会の高位空間魔法の達人が元皇女アラウネの改良した魔法陣を検証し、

「行けんじゃね?」

とお墨付きを与えた。


 さて誰があっちへ行くか。

 ツヨイダは論外だ。もしアッチで魔法ブッ放されたら向うはたまったもんじゃない。

「何でだー!俺様を連れてケー!異世界はもう嫌ダー!!

 俺様をぶべらひょん!!」

 イライラを抑えていたリック青年、ついにキれてツヨイダをぶん殴った。

「ふしゅらしゅら~」


「こんなヤロウでも父親になるってんだから世の中ままならないもんだねえ」


 では3バカ娘を返すか。先ず攻撃魔法を持たない聖女、ナジミを帰そう。

 その上で、攻撃魔法を封じる魔法陣を体に刻んだほかの2名を帰す。


 そして、手足の骨をバッキリへし負ったツヨイダに奴隷紋を刻んで帰す。

 もし向うで魔法が活きているなら、奴隷紋に従って暴力は奮えない。

 魔法が消えてしまうなら、まあ治療くらいして貰えるだろう。その後はタダの無職のオッサンだ。


 この方向で返還作業が行われる事となった。


******


「それじゃいくわよ!

 光の軌条!輝く魔法陣!異世界人を載せて今旅立ってー!

 メビウスリング、降~臨ッ!!」


 魔法陣が空中に描き出され、それはねじれて元の呪文と無限ループを成した!


「シンクロトロンみたいなの作って、タキオン粒子を無限に加速して次元の歪みを作るってカンジかな?」

 とつぶやくリック青年に

「その通りじゃ!坊主の言ってたワープ理論とか、子供のおとぎ話かと思ったが…」

 魔導士協会のお歴々が頷く。


「チキショー!そんなの知ってんなら最初から手伝いなさいよー!!」

「知るかー!俺は特撮に専念したいんだー!」

「こんのクソガキャー!!」

「ハハハー、イカレ、モトイカレ!」

 リック青年は「マハラ」の悪徳興行師の真似で煽る煽る。

「ムッキー!ムキムキー!!」


 怒りのあまり力を籠めるアラウネ、ついに人の背サイズの魔法陣の向こうに異世界の姿を映し出した!


「渋谷だわー!」

「東京よ!」「ウチまで2時間で帰れるよー!」

「どこの田舎もんだよコイツら」


「オラァとっとと消えなさいよ!」

 魔法陣を維持するアラウネが脂汗をにじませ急かす。


「ちょっとまってお腹の子のパパも一緒よ」

「うるせえとっとと失せろ!」

 ブチ切れそうなアラウネ、リック青年がナジミに促す。


「コイツも後から帰しますよ。

 逃げられない様、親御さんと弁護士に相談して、きっちり養育費を搾り取る様オススメしますよ」


 覚悟を決めたアホ聖女は魔法陣の向こうに手を伸ばし…


 お腹がつっかえた!

「何やってんのアホー!」

「お腹が、向うへ行かないのよ!」

 今度は足から向こうへ行こうとするが、やはり途中でつっかえる。


「あ。ちょっとアホ賢者、ホイ」

 リック青年が賢者を押すと、やはりお腹ではじき返される。


「何やってんのよー!もう限界よー!」

「あー、今はムリだ、中止ー」


 軽く言い放つリック青年。

 物凄く絶望した様なアラウネ。

 同じく絶望したアホ4匹。


 魔導士の一人が質問した。

「もしかして、異世界から来た者しか向うへ行けない、という事かの?」

「その通りです。この世で新しく生まれた命は、向こうへ行けない」


 場が静まり返った。


「フザケンナー!!」

「うわアホ皇女が狂ったー!元からか」

「ウッセークソガキ!!あたしゃアホ4人組と違うわ!

 とっととスケベ女共のガキをおろ…おぼぼぼぼぼ!」

 暴言を吐くアラウネの顎をリック青年が掴み上げた。


「それ以上テメェと違って罪のない命を侮辱する様な事を言うんもんじゃありませんよ糞ッ垂れ!」

「あぐぶぶぐぐ!」

 顎の骨が砕けそうな勢いで握りしめた。


「そこのアホ3匹。

 お前達が日本に帰るには、子供をこの世界に生み捨てて帰るしかありません。

 子供を捨てて、です。

 どうします?」


「赤ちゃんと一緒に帰れないの?」

「さあ。元凶のコイツに聞いて下さい」

「ぎゅぎゅぐぶぶぶぶ!」

 元皇女は口から泡を噴き始めた。


「一緒に帰りたいよ!」

「無理ならどうする?」


 ナジミはうつむいて、他の二人の顔色を窺った。

「誰か、貴族とか、養子に貰ってくれるなら…」


 リックは天を仰いだ。

「そうだな。

 でも、貴族って訳にはいかなでしょう、何しろ国を滅ぼそうとした外道の子です。

 孤児院が引き取ってくれれば御の字、かな?」


「そんな!」

「でもそうしなきゃ帰れないんでしょ?」

「でも孤児院なんて」


 リック青年は掴み上げたアラウネを投げ捨て「げべ!」て言った。

「先ずは、子供を産んでからでしょう。

 医療も環境も整えます。

 それから産んだ子をこの世界に投げ捨てるか、お前達で育てるか、よ~く考えろ!」


 三人はうつむいた。


「俺は関係ないよな!無理矢理関係持たされたんだしよ!

 早く俺だけ先に帰しぺれろろごおお!!」

 リックは駄目男の顔面を蹴り飛ばして牢獄を去った。


「まあ、酷くお疲れね!」

「ぱぱー、おつかれ?」「おちゅかえ?」

 二人の子供の笑顔に、リックは一瞬笑顔になるも、再びやるせない気持ちになった。


(あのアホ女共、子供と一緒に進む道を選べるだろうか?)


******


 牢獄の城館に産声が響いた。

 心が荒む仕事ながら、この時ばかりは番兵も温かい気持ちに包まれた。

 しかし囚人たちは、無関心なもの、不快に思うもの、様々であった。


 そしてその産声はもう2回続いたのだった。


******


「で?この子ほっぽらかして日本に帰る決心はつきましたか?」

「私達、帰りません!」


 三人を代表するかの様に、長名菜智美が宣言した。

「私達、この子を捨てたりなんかしません!」

 他の二人も頷いた。


「お願いします!この世界で働ける様、仕事を紹介して下さい!」


「私はその言葉を待っていた!」

 リック青年は、心の大きなつっかえが取れた様な気持ちで、異世界のアニメの決め台詞で答えた。


 こうして、日本人の女子高生…もとい、元女子高生現アラサーの3人は魔導士協会と奴隷契約を結び、新技術開発の魔力供給源としてこき使われる事となった。


 子供達との時間を確保され、労働中には子供達は託児所で教育を受けられる好待遇であった。


 ツヨイダも手足を拘束された上で奴隷紋を刻み込まれ、危険な場所で大魔法をぶっ放す人間砲台としてこき使われる事となった。

 それにより得られた報酬は、全て子供達の将来の学費に宛てられた。


「チクショウ…俺の人生こんな筈じゃあ…」

 週に一度酒を振舞われる時には愚痴るばかりだったが。


「テメェ国をぶっ潰した極悪人だろ?生きてるだけでも幸せじゃねえかよ」

「オマケに女房3人持ちでよ。いい身分じゃねえか。愚痴言ったらバチ当たるぜ」

 同僚の重罪人奴隷からの言葉に

「いい身分?俺がか?」


 その夜、彼らにあてがわれた宿舎。

 三人の妻、三人の赤ちゃんに囲まれたツヨイダ。

 それまでの人生で流した事の無い涙を、初めて流したのだった。


「イイハナシダナー」

 近況を聞いたリック青年も、心のつかえがとれた様であった。


「あの迷惑な人達が丸くなってくれて、よかった。

 リックさんでなかったら、酷い結果になってたでしょうね」

「魔導士協会もいい魔力溜りが手に入って、ウハウハだってさ~」


 二人の妻も、リック青年がアホとは言え同郷の者達に腐心している事は見抜いていた。


「南の方じゃ新しい厄介の種が見つかるしさー。

 ま、これで雑念なく次の核戦争映画の企画に取り組めるよー」

 こうしてリック青年は新作「世界最終戦争」の企画に取り組み始めた。


******


「私はどうすんのよー!!」

 異世界返還魔法の使い道がなくなった今、アラサーはおろかアラフォーに近づいたアラウネ元皇女の明日はどっちだ?


「んが~」

 元マギカ・テラ四天王のマトレグラ嬢は無駄に喰っちゃ寝をくりかえすだけであった。

 もし楽しんで頂けたら、またご感想等などお聞かせ頂けたら大変な励みとなりますのでよろしくお願いいたします。


 なお、活動報告・近況ノートにてモデルとなった実在の作品についての解説を行っていますので、ご興味をお持ちの方はご参照下さい。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ