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140.世界初の長編動画、誕生?

 人類初の宇宙進出、人工衛星は農作物に影響する情報を宇宙から送ってくれた。

 また、未知の地域の気象事情をも送って来て、この地球上の寒暖の波、雲の流れを地上にいる者たちに伝えてくれた。


 また、電信電波を今まで以上に高速に伝える機能も果たし得る、との実験結果が出た。

 それが実用化されるためには、より高速に移動する必要がある。静止衛星の概念だ。


 この世界初の試みは、最終的には当初の予想である数日間を遥かに超えて、3ケ月に亘って空から見た雲の様子を電波で伝えてくれた。


 公社関係者は王宮に招かれ、責任者クラスは騎士爵を授爵した。

 例によって辞退した設計者であるリック青年、そしてアイディー夫人を除いて。


 これらの成果を聞くにつれ、セシリア社長は寒気を覚えた。

 もしリック青年がヨーホーを、キリエリアを去ってしまったら。

 いや、リック青年が、セシリア社長達を無用の物と切り捨ててしまったら。


 先の映画の製作決定の時、リック青年を戒める為言った縛り。

 言葉という、剣よりも鋭く、人の心を切り裂き抉る凶器の怖さを、改めて感じた。


 授爵も、「怪星バベル」目標達成の追加報酬も蹴っ飛ばしてリック青年は次回作「快猿王対ゴドラン」の企画に必死になっていた。


******


 世間の目が頭上の世界に向いている最中、必死に下を向いている若者たちがいた。

 落ち込んでいる訳ではない、夢をこの世に描き出すために、必死で机に向かって筆を走らせているのだ。


 ウッコアニメーションスタジオ。


 先ず事の起こりは、「快猿王」のムチャクチャ大ヒットを目の当たりにして、特殊技術指導から音楽指導から物語のテコ入れまで活躍してくれたリック青年に対し「余りにも申し訳ない事をした」と恐縮しまくったチョウ兄弟商会だ。

 弟である社長が大陸を西へ向かった。


 しかしヨーホーに有利な条件で合作を申し入れるも、

「どうやらリックさんにはそちらから頂いた権利で次回作の構想があるみたいですのよ」

 とセシリア社長にやんわり拒絶されてしまった。


 そしてショーウェイへリック青年への取り成しを頼んだところ、トレート部長から

「リックさんはアニメーションの発展に期待しているところがありました。

 それも自分では直接関わらず、アニメを愛する連中に一切を任せる感じでしたよ」

との有力な証言を得た。


 早速、元ヨーホーから分離独立したウッコスタジオについて調査し、既に学校や神殿で上映されている短編アニメを全て見た所。


「これは素晴らしい!子供にとって動く絵本、いや大人にとっても動く屏風絵だ!」

 そしてウッコスタジオへ。


 定期的に神殿や学校からの寓話や伝記をアニメ化し、何とか安定してスタジオを経営しはじめていたのだが、突然の世界的大商人の来訪とあって、ウッコ技師はじめ経営陣は上へ下への大騒ぎだった。

 と言ってもこの会社、経営陣は3、4人だが。


******


「あなた達のアニメーションは、これもリックさんから学んだものですか?」

 動揺しまくっていたウッコ技師だが。

「あわわわはいいいい、えええ、リックさ…」


 そう言いかけて。


「俺達の特撮とは違う、新しい夢の世界を実現して下さい」

 必死に応援し、自分達のために助言し奔走してくれたリック少年の笑顔が。


「作画班皆に無理を強いる事が2ケ月も3ケ月も続いたら体調もおかしくなる。

 頭もおかしくなる。

 ここは人殺しの集団になっちゃいけない!」

 自分達を思って厳しい言葉を掛けてくれたリック少年の優しい怒りが。


(あわててる場合じゃない!戦いは始まってるんだ!

 俺達の夢を実現する戦いだ!)

 そう気を引き締めた。


「アニメ映画の原理や作画の基礎はその通りですが、人物のデザインや演出等、アニメ製作の技法はここにいる仲間みんなで練り上げて来たものです」

 リック少年に失礼のない様に、しかしこのスタジオを成功させ発展させるために、不必要にへりくだる事をウッコ技師は戒めた。


 一瞬で眼つきが換わった若い動画技師に、チョウ社長は感心し、

(買収しようと思ったが出来そうにないな。流石リックさんの弟子だ)

と残念に思った。


「大陸の東と西、大人も子供も、誰隔てなく楽しめる映画を私は作りたい。

 学校だけでなく神殿で、敬虔な大人の信徒でさえも夢中にさせるアニメーションを作っているあなた達の力を貸してもらえないだろうか?」


 社長はウッコ技師の出方を探った。


 ウッコ技師はウッコ技師で、頭をフル回転させて相手の意図と自分達の夢を天秤にかけた。


 そして

「ぜひともお力になれれば幸いです」

そう伝え、チョウ社長の顔色を窺った。

 社長は次の言葉を待っていた。


「まず、どの様な作品をお望みか、そして予算、期間。

 キリエリアを始めとする大陸西国の配給条件等をお伺いして体制を固めたいと思います。

 宗教的な内容があれば、神殿や王立学院との調整も必要かと思います」


 社長は安堵した。

 安請け合いして現場を混乱させる事も、「ゴーダ」の時の様なゴダゴダも無く進められる、そう思ったのだ。


「流石はリックさんと一緒に仕事された方だ。

 安心してお話を進められそうですな」


 こうして、ついにウッコ技師念願の長編劇場アニメーションへの道のりが始まった。


******


 大陸東西で有名な話、または共感が得られる物語にしよう、絵の美しさで実写とは違う、絵画美術の様な、夢の様な話を描こう。


 しかしアニメーションは実写と違って、画面に占める情報量が少ない。

 子供も15分の物語3本は夢中でも、4本目で飽きて来る。


 子供でも、特に少女はお姫様の恋物語に食い付いてくる。男子もここに冒険活劇的な要素が加わればヒロインに共感を抱く。


 チョウ社長の構想に、ウッコ技師は一問一答、的確に答えて来る。

 ウッコ技師も

(アニメ化する作品を選ぶ時のリックさんとの問答が、こんなところで生きて来るなんてなあ…)

と内心でリック青年に感謝した。

 彼にとっては少年の姿のままのリック少年に。

 いやリック青年といいつつその姿は割と子供のころとあまり変わらないのだけど。


「社長。配給網の購入、即ち出資協力の打診をヨーホー、ショーウェイに持ち掛け、その際どんな作品が好ましいか両社の意見を伺ってもよいのではないでしょうか?」

「伝手はありますか?」

「あります」

「リックさんですか?」


「一応挨拶は入れておきますが、あの人の手は極力煩わせたくはありません。

 後、無計画では相手の意見に振り回されます。

 こちらもある程度の計画を持たなければいけません」


「検討用の企画、ですか」

「今までのお話しを伺うと、『白蛇姫 愛の伝説』を、70分程度に纏めて製作する、という前提で如何でしょうか?」


「では仮の案、という事で」

 この時、チョウ社長は内心笑っていた。

(中々のものだ!割と無難なところを付いてきたもんだ!

 やはりリックさんの弟子となると大したものだなあ)


******


 ウッコ技師はまず古巣であるヨーホー、セシリア社長に面会を打診した。

 この申し出にセシリア社長は悩んだ。


(大人にも子供にもって、言うは易し行うは難しよ!

 こないだの「怪星バベル」にうっかり怪獣出せばなんて言ったけど、興業後半の持ち直しを見たら出さないのが正解だったわ!

 ましてやアニメ映画…正直私じゃ正しい判断を下す自信がない、かといって何でもかんでもリック君に頼るのも無責任だし)


 そこでまず役員に持ち掛け、アニメ映画へ投資し配給すべきかを協議した。

「ウチには特撮がある」

「アニメというのは絵ではないか」

「しかしそれを言ったら特撮だってオモチャだ、それが我が社の稼ぎ頭だ」


 大勢はアニメ映画に懐疑的であった。


 セシリア社長は少々危機感を覚えた。

「もしヨーホーが断ったら恐らくショーウェイが乗って来るでしょう。

 リックさんが育てた才能が丸々ライバルに攫われるのも、どうでしょうかねえ」


「まあ、あちらさんは子供向け剣戟映画にご執心ですし」

「ウチのマネして宇宙映画も撮りましたしね」


 この時、セシリア社長はマズイ、と危機感を抱いた。

 そもそも新映画も特撮映画も、全部リック青年が齎したものだ。

 ここにいる役員たちは億を、10億をこえる大ヒット作品に何も貢献していない。

 それなのにライバル会社を見下して天狗になっている!


「私は、特撮映画に次ぐ第二の娯楽として、アニメーション映画に投資すべきと考えます!」


「「「社長!!!」」」


「考えてみれば、『キリエリア沖海戦』だって当時の私達の常識を遥かに超えた、企画書だけでは、パイロットフィルムが無ければ理解しがたいものでした。


 若い才能は常識を遥かに超え、未知の世界を拓く力があります。

 しかも製作費僅か1、2千万デナリ程度。

 リックさんが何億と儲けてくれた資金の一部を未来に投資する事の意義は尊いと、私は信じます」


「役員として、反対します」

 そう言い放ったのはマッツォ取締役。劇場や大商店開発、不動産部門の役員だ。

「今までも社長判断で百万、千万単位の投資をリック監督に行ってきましたが、これは専横です。

 劇場としてリスクを抱える事はできません」


「よろしい、では億単位のヒットを飛ばせる監督を抱えて独立でもすれば宜しい!但しリック君以外で!」


「社長個人のご感想は兎に角、役員一同としてアニメ映画など無しで」

「おい!私は賛同せぬぞ!リック監督程の慧眼は…」

「劇場のリスクをお考え下さい」


 セシリア社長は考えた。

「では、リック監督の企画も、基本的に拒否する。

 あなたが考えた企画を押し付けて、彼に撮らせる。

 そういう事でいいのね?」

「それで去るも残るも、彼次第です」


「今まで彼は1作で4~5億を稼ぎました。

 それを下回ったら、あなたは懲戒免職ですが、いいのですね?」

「私は不動産部門の総括です。

 稼ぎが悪化したらそれはリック監督の無能故です」


 この役員、明らかにリック監督を敵視している。

「あなたの考えはわかりました。

 しかし、万一このアニメ映画が大ヒットし、我が社が得られたはずの損失が明らかになれば、あなたを役員から除名します!」

「反対します。私は不動産…」

「王命を使ってもお前を退けます!」

「それが専横だという…」

「役員だったら自分の言葉に責任をお持ちなさい!」

「意見はしますが責任はありません!」


 未だかつてヨーホー社に漂った事がない、嫌な空気がその場を支配した。


 その当日、リック青年は「快猿王対ゴドラン」の企画をセシリア社長に提出した。

 同時に、国内に滞在中だったチョウ商会社長にも。

 両者から企画書の受領書を受け取って。

 もし楽しんで頂けたら、またご感想等などお聞かせ頂けたら大変な励みとなりますのでよろしくお願いいたします。


 なお、活動報告・近況ノートにてモデルとなった実在の作品についての解説を行っていますので、ご興味をお持ちの方はご参照下さい。

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