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137.「怪星バベル」いよいよ完成!しかし…

 本編班の巨大なセット、南極計画のコントロールセンター。


 そこでジェットパイプ点火のシーンが撮影された。

 大勢の係員が席に着き、ジェットパイプの様子が巨大なモニターに映し出される。


 俳優の演技がぴったり合う様にモニターには撮影済の俯瞰映像が点火までの時間をカウントダウンする字幕とともに映し出された。


 バベル爆破調査船から「爆破不可能」との報告を受け、スクさんが

「地球の運命は、かかってこの南極計画にある!」

 と苦々しく宣言する。


 本職のアナウンサーが地球各国へ報道する。

「地球の運命を掛け、人類の希望をつなぐ一瞬は刻々と迫っています」


「20秒前!」

「重水素冷却操作異常なし!」

「中性子加速開始!」「緩速剤、異常なし!」

「10秒前!9、8」

 主要な学士陣が中央の、まだ明かりが灯っていないランプの列を凝視する。


「5、4、3、2、1、イ-ニッシオ(点火)!」

 ランプが一斉に点灯する!

 モニター、完成映像はここはジェットパイプのアップ映像に替わるが、それが一斉に火を噴いた!」


 一斉に歓喜の声を上げる係員たち!


「大成功!大成功です!南極計画の第一歩は大成功です!

 人類は自らの意思と力で地球を動かしているのです!」


 アナウンサーが興奮を抑えきれない様子で成功の様子を世界に伝える。


 そして続いて、南極計画のセットでの撮影は続いた。

 特撮班も同時進行でジェットパイプのアップ用ミニチュア、コントロールセンターのミニチュアを撮影していた。


******


 パイロットフィルム同様、セットの土台の下に可燃ガスポンべが置かれる。


 ミニチュアは、今度は何条かのガスの炎を、それらを囲む一つの大きな円形の噴射口から噴射させる。


 その手前には、大きな半球ドームをカマボコ状の通路で十字につないだコントロールセンターのミニチュアが置かれている。


「またあの熱い火を噴くんですか?」

「ええ。デシアス様も準備万端ですよ」

「あああ!お怪我無いようにデシアス様ー!」


「点火テスト!特効班、点火!」

 一斉にジェットパイプが火柱を上げた!


「主、いけそうか?」

「う~ん、上の方がゆらぐけど、限界かなー」

「ピクトリアルスケッチの様には行かないか」

「これ以上は、お客さんがどう見てくれるかだなあ~」


「リックさんでも悩む事あるんですねえ」

「それはもう。いつもああでもないこうでもないってドタバタしてますよ」

 もうアイラ夫人はミーヒャー嬢の姉貴分だ。


「よーし、これで行こう!」

 デシアスの主カメラと、その脇をパン(移動撮影)するレールに乗ったカメラが準備に入る。

「カメラスタート!氷魔法!ハイヨーイ!スターッ!!」

 カチンコの音が響いた!


 噴き出す炎!

 再びスタジオがガスの炎に包まれた!


 この光と熱の情景が、劇中に効果的に差し挟まれる。

 本編も交えた編集の腕により、劇中での説得力が活きるか死ぬか。


「よし、もう4カットこのまま撮影!

 その次は洪水のカットだ!」

 このジェットパイプのアップ用セットの手前には、濁流を生じさせるスロープも設置されている。

 ここから手前のミニチュア目掛けて水を逆落としにして、極地に海水が集中し押し寄せる様も撮影されるのだ。


******


 続いて、北半球に海水が押し寄せる大洪水シーン。

 軍港、王都駅等のミニチュアが大洪水に見舞われる。


 広々とした軍港に膨大な洪水が押し寄せ、軍艦が岸壁にぶつかり、河口の鉄橋が水の勢いでひっくり返される!


 そして王都。

 未来の物語なので、現在とは違う、貴族邸が縦に三つ重ねられた様な大きな建物が居並ぶ王都に、猛烈な水が襲い掛かる!

「雷ヨーイ!1!2!」

 特効班がスイッチを入れると、強力な光を放つ閃光電球が焚かれ、雷を表現する。

 水はまるで踊り狂うかの様に様々に建物に襲い掛かる!

 その波頭は巨大な扇風機で細かく煽られ、王都のミニチュアを覆い尽くす!


 その圧倒的な水の勢いを、大型の70mmカメラが俯瞰で捉えている。


「すごい~!こわい~!」

「大丈夫よ!みんな真剣に見届けているわよ」

 その様子をミーヒャー嬢が震えながら見、アイラ夫人があやしていた。


******


 初期に撮影された地球やバベルの映像に合成班が外延部の炎や暗黒に吸い込まれ爆発する隕石等を書き加えていく。

 仕上がったラッシュを見て

「良い感じだねえ」

とリック監督が頷く。


「暗黒の中に穴みたいな反射があるのは、何の素材です?」

 テンさんが聞く。

「二重露出で、漏斗の中をデコボコにして回転させたモノに光を当てて合成して、その上に炎や爆発を合成したんですよ」


 宇宙のあらゆる物体を吸い込んで暗黒の中に叩き込む、未知で不可解な現象が地球に向かって迫って来る。


 地球は南極に巨大な炎が合成され、宇宙空間をバベルから逃げる。

 そして両者はすれ違い!


 バベルは遠く去っていく。


******


 特撮班最後の撮影は、軍港デンガナの河口であった。

 撮り方によっては対岸が見えない、海原の様である。


 その浅瀬に、今までヨーホー特技部が作って来た建物のミニチュアが運び込まれた。

 そして、浅瀬にミニチュアが沈められ、まるで未来の王都が半分沈んだかの様な光景が出現した。


 それは手前にレイソン電波塔が置かれてレイソンの様に、他国の王都のランドマークが置かれれば他国の街にと姿を変えて撮影された。


「こんな…

 こんな恐ろしい景色…」

「新鮮な反応だなあ」

 数々の特撮場面に一喜一憂するミーヒャー嬢に、なんだか得意になるリック監督だった。


******


 さて子守りをデシアス邸の家人、セワーシャ、アイラ夫人と交代しつつアイディー夫人はスタジオではなく、魔導士協会と王立学院、そして空軍基地を行ったり来たりしていた。


「おおアイディー殿!」

「切り離し用のスイッチできたよ~」

 目下両者は空軍の協力を得て、テレビ放送用、気象観測用の人工衛星打ち上げに必死になっていた。

 人工衛星とはいっても直径わずか10センチ。

 多少の電波を発信し、受信した電波を地上へ反射する事しかできない。


 それでも打ち上げには10mの二段式ロケットを要する。

 いずれテレビカメラを搭載し、宇宙から見た地球を撮影し地上に送る人工衛星を飛ばすとなれば30m級のロケットが必要となるだろう。


 しかしまずは研究の第一歩だ。10m大とはいえ、人間が宇宙へものを狙った通りに送り出せるか。

 そして人の暮らしの役に立つ働きが出来るか。

 その壮大な実験ためにリック監督とアイディー夫人は手分けして各種の部品を設計していた。


 奇しくも打ち上げは「怪星バベル」公開の1ケ月前。

 人類の宇宙進出第一歩となるか否か。


******


 特撮班が大河で水没した帝都を撮影していたころ、本編班も主人公達がレイソン電波塔から水没した帝都を見下ろしつつ、世界の復興に希望をよせる場面でクランクアップとなった。


 そしてヨーホー中央劇場での社内試写となったが…


「「「うおおーー!!」」」

 歓声を上げたのは、魔導士協会と王立学院、そして特撮大作に心酔した層であった。


 しかし、完成慰労会で肝心の役員たちは。


「正直、わからんなあ」

「星が地球にぶつかるのは解る。しかし、地球があんなに動く物か?」

「映画を見ていると確かに動いた気になるのだが、見終わってみると、頭が追い付かんなあ」

「迫力は凄いんだがなあ」


 反応はイマイチだった。


「リックさん」

 セシリア社長が険しい顔で語り掛ける。

「宇宙ロケット、成功を祈りますよ!!」


 流石商売人、ロケットが成功すれば世の中の関心が宇宙に向かう。

 そうなれば「怪星バベル」への関心も高まる。


 若干邪な希望ではあるが映画会社としては致し方ない。

「世の中に絶対はありませんが、9割9分成功させてみせます!」


 同席したアイディー夫人も鼻息を鳴らした。

「パパ!せいこうするよね!」「せーこー!ろけっとー!」

「ああ、楽しみにしていてな!」


******


 試写会は魔導士、学院を中心に行われた。その為評判は悪くなかった。

 しかし今までの様に街のあちこちで噂になる程ではなかった。


「ロードショー公開は危険かも知れませんね」

「社長。これは億に届かない危険も考えなければいけませんよ」

 役員たちは危惧する。


 しかし社長は言い放った。

「仮に9千万だとしても黒字です。

 撮らなければよかったなどと言う事にはなりません。

 確かにロードショーは一旦見合わせますが、まずは成り行きを見守りましょう」


 ヨーホー特撮映画は、今までにない苦境に立っていた。

 そこに止めを刺すように批評家たちが湧きたった。


「空想という名の大法螺、ついに先が見えた」

「ペテンの行きつく先は億割れか?」

「世間を騙すおもちゃ映画の終焉、ついに来た」

「謎の巨額投資、リック・アイディー夫婦が着服か?」


 かつて幾つかの新聞社の発行停止を招いた評論家連中がまたぞろ騒ぎ出した。

 そしてその新聞社の何社かで大爆発が起きた。


「我が愛娘をペテン呼ばわりするとは!

 国王陛下の名を冠した魔導士協会への宣戦布告である!叩き潰してやる!」

「貴様らの首を我が孫の土産にしてくれようぞー!これでやっと孫に会えるわー!

 みんなも続きなさいー!」

「「「応ー!!!」」」


 魔導士協会が一斉に新聞社を攻撃(物理…いや魔力で)した。

 その先頭に立っているのが・・・

 どうやらアイディー夫人の両親らしい。


 更に。

「これは正当な報復である。王国への反逆と見做し関係者を全員処刑する事も可能だ」

 今後は王立学院を侮辱されたとOBの法律家たちが新聞社の捕縛と閉鎖を王都騎士団に訴えた。


「なんだか愉快な事になったなあ」

 自宅でラジオを聞いて苦笑いするリック監督。


「り、リックきゅんをバカにする奴は、し、死ぬべきなんだよ~!」

「ディーママ、いやなの?いいこいいこ」「いーこいーこ」

 怒り心頭なアイディー夫人をブライ君とキャピーちゃんが慰める。


「あ、え~。嫌なのはぁ、あのジジイとババアだけだよ~」

「ディーがこの子達を実家に引き合わせなかった理由が骨身に染みてわかったよ」

 リック監督が白目で答えた。


「それにしてもここまでリックさんを敵視するのは何故でしょうね?」

「アイツらの後ろには、今の世の中の安定や平和を苦々しく思ってる奴がいるんだろうね」

「国王陛下に背くもの、ですか!」

「ああ。色々気を廻さなければならないね。

 何しろこれからの特撮がかかってるからね!」


「先ずは、ロケットだね~。成功させて映画ヒットさせよ~」

「ああ!」

 映画は完成し、打ち上げ予定も迫っていた。

 もし楽しんで頂けたら、またご感想等などお聞かせ頂けたら大変な励みとなりますのでよろしくお願いいたします。


 なお、活動報告・近況ノートにてモデルとなった実在の作品についての解説を行っていますので、ご興味をお持ちの方はご参照下さい。

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