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133/211

133.デシアスの婚約者

「快猿王」完成試写会やら祝賀会は1週間続いた。

 その都度リック技師と一家は引っ張りまわされた。


『駄目ですって!

 俺が出てっちゃあ、みんな俺の作品だって勘違いするじゃないですか!

 全部自分達でやったって宣伝して下さいよ!』


『不義理は出来ぬ』『師の指導あってのこの素晴らしき一作!』

 チョウ会長社長兄弟は一家を下にも置かぬ持て成しだった。


 ただ流石は大商人、リック技師の意見を受け「ゴドランを凌ぐ東国の大怪獣誕生!」とか宣伝文句をブチ上げた。

「ま、いっか。楽しさなら負けてないしね」

 リック技師はこの一文を不問に帰した。


 そして皇帝臨席での試写会、今度は宮城内である。

 皇帝の顔色が優れなかったので、リック技師はこそっと皇帝に瞬間接近していった。

『何にもしなきゃ何にもしないよ』

『ひ!』

『ま、楽しんでよ!』


『さ!酒を持て!今宵は半分宴じゃ!(そうでもしなきゃやってられるか!)』


 その結果、

『はっはっは!痛快痛快!楽しかったぞ!(もうあいつ相手にせんとこ)』

とゴキゲンだったそうだ。


『最初からそうすればよかったのに』

『カチンは厳しいなー』

 色々問題を多方面に抱えている皇帝に冷淡な皇女、そして気楽な第三皇子であった。


******


 こうして皇帝陛下からの紋章入りの土産まで貰ってリック一家は高速鉄道で帰国した。


 紋章入りの金細工を見つめて、アイディー夫人が震えた。

「こ、これってさ。ボ、ボウ帝国での身分証みたいなもんだよね…」

「それも、中位か、貴族並みの、も、ものじゃないかしら?」

 アイラ夫人もその精巧さから、土産の持つ力を察して言った。


「ええ。宮城の表向きには入場できますわよ?」


『…皇女殿下?何故あなたがいらっしゃるのですか?』

 何故か一家の個室にカチン皇女とコーラン嬢が当たり前の様に居た。


「それはもちろん、この映画のセールスですわよ、ホホホ」

(違う、絶対違う!)リック青年は頭を抱えて言った。


「ど、どかな。また、ウチでノンビリしたいのかな?そんならいいけど?」

 小声でアイディー夫人がリック青年に聞いた。

「いえ。お二人共情報通ですわ。多分…」


「こ、皇女殿下、もしかして~?デシアスの結婚式に、参列したいんですか~?」


(((ド直球ー!!!)))

 リック夫妻が心の中で叫んだ!


「ええ!」

(((こっちもド直球ー!!!)))

 リック夫妻が心の中で叫んだ!


「でででもですね」

「デモもゲバ棒もないですわよ。

 今まで色々お世話になったリック様の御一家やアックス様ご夫婦、そしてついにデシアス様の御成婚となれば!

 ぜひともお祝いを申し上げたく思いますわ?!」


(((この人達そんなデシアスと親しかった~???)))


「剣聖殿は、鍛える相手に厳しく、尊ぶ相手に尽くす方であろう?

 アイラ殿、アイディー殿…もういっか」


 突如カチン皇女が威厳ある言い方を止めた。


「アイラさんやディーさんのお産と子育ての時、セワーシャさんの時もね。

 裏でコソコソやってた報道陣とか結構彼の家人が始末してたんでしょう?

 あの人、気配りの人よね~」

「ね~」


 思わぬ他国からのデシアスの高評価にリック青年は驚きつつ今一度彼の最近の姿を思い出した。

「い、意外なデシアス評…いや、そんな事ないか。

 デシアスに現場任せたら急にみんなの意見聞いて調停役に回ったそうだし」


「最初は逆に怖がられたそうみたい~」

 アイディー夫人が相槌を打つが、アイラ夫人は別の視点を持っていた。

「デシアス様は優しいお方ですよ」


「え?そお~?」

「リックさんともアックスさんとも違う、厳しさを前に出して後ろで気遣う方ですよ。

 ああいう方がいなかったから、テラニエ滅んだんです」


「「「お、おう」」」


 帰路十数日、往路とは違う街を楽しみ、リック監督は次回作のスケッチを描き、女性陣は時に仲良く時にリックを巡って牽制しつつキリエリアへ向かった。


******


「でかしたわーリックさんー!」

 今度はセシリア社長が迫った!二人の夫人がガードした!


「向こうでは5億デナリ越え確実!

 こんだけの人気怪獣をこっちで撮ったら、ヒットは確実よ?!」


「いや~、そう簡単にはいかないと思いますよ~?」

「あら、色々あったそうじゃない?…って、皇女殿下!!」

「非公式ですので」


 そうは言ってもこの列車、乗客の結構な部分は護衛である。


「では非公式に、王宮へご案内します」

「出来ましたらリック殿の屋敷へ」

「うへぇ」

 車中で希望を受け入れたとはいえ、王宮の案内を拒否するとはリック一家は驚いた、いや呆れた。


******


 デシアスの婚約者、ミーヒャー嬢がデシアスの家人を従えたビシっ!と黙して迎えた。


「お迎え感謝する、お名前をお伺いしてもよろしいかの?」


『皇女殿下、コーラン様。

 大陸横断の長旅、歓迎申し上げます!

 私はキリエリア王国ウッツリー伯爵家の娘、ミーヒャーと申します』


「妾はボウ帝国の皇女カチンである。

 汝は…まいいか。

 滞在中、仲良くしてくださいね」

「え?」


 突如砕けた挨拶の中、デシアスが来た。なんか凄くくたびれて。


『皇女殿下、歓迎申し上げます。コーラン嬢も…』

「こっちの言葉でいいですから!どうされました剣聖殿!」


『詳しい事は後程。

 是非、おくつろぎください、え~…リック邸、でいいのよね?』

 セワーシャもハンマちゃんを抱いて出て来た。苦笑しつつ。


『一体何があったのかしら、この平和な英雄チームの家に!?』

 皇女殿下は戸惑った。


******


 リック邸で旅路の汗を流し、一通り寛いだ一行。

 アックス邸を跨いだその隣のデシアス邸で夕食となった、が。


「「『ゲ』」」


 アックス邸のエントランスホール、大食堂にはヨーホーのスターたちの写真が、そして公開時のポスターが、ギッチギチに並べられていたー!!


『これは博物館なのでしょうか?』

『ええ!ヨーホー映画公社の、この世に逞しい笑顔を振りまいて下さるスター様達のお姿を集めた博物館なのですわ~~~!!!』


 ミーヒャー嬢が誇らしげに宣った瞬間、デシアス技師の体重が僅かに減った、リック青年はそう感じた。


『このお屋敷は、夢の王国ヨーホー撮影所の目と鼻の先!あの大きな建物では今でもマイト様やダン様、ナルキス様達超ウルトライケメンな皆様が映画という夢を紡いでいらっしゃるのですわー!!』


(うわ、これヤバい人じゃありませんの?)

(こういう人、母国にもいますがこっちの貴族にもいたー!)

 客人二人はビビった。


(前会った時はフツーそうだったんだけどな…違った!)

(人って第一印象、当てになりませんね)

(コワイヨ~)

 リック夫妻もビビった。


(((でも東国語流暢!!!)))

 一同は別の意味でもビビった。


 そしてデシアス技師に(何とかしろよ!)と念を送ったが。

 返事はない。屍の様だ。


「ミーちゃん、その位になさい。みんな引いてるわよ?」

「え?あ~」『失礼しました、私映画のスターさんの事になると、我を忘れちゃって』


(((セワーシャ(殿)(様)がブレーキしてる!!!)))

 一同、更に驚いた。


『皇女殿下…』

「ですからそちらの言葉でいいですって」

 声を振り絞って発したデシアスに皇女殿下が優しく答え、これにデシアスが説明を加えた。


「我が婚約者ミーヒャーは、昔から物語の英雄に、それはもう狂ったように憧れていたのです」


「そんな酷くなかったけどなあ」

「アックス、あなたは鈍感だけどね、あの時5歳だったこの子はねえ…」

「イヤーッ!お姉様言わないでー!」

「って事を思ってたのよ」


「「『あー』」」

 一同は察した。

 彼女は幼いころから相当、いや、かな~り妄想気味な少女だったのだ。


******


「私は無力な子供でした。

 しかし、いずれこの国を救う剣聖様の妻になる、そう言われて、そしてお会いして、それはもう天にも昇る気持ちでした」


「「「ふむふむ」」」


「剣聖様と並ぶ英雄様、聖女様、賢者様。

 皆様を見送る場に居合わせた私は、いつかお迎えして共に暮らす事を夢見て過ごしました」


「「「うんうん」」」


「でも剣聖様は戦いが終わっても帰って来ませんでした。

 剣聖様は、映画の世界で戦われていたのでしょう。

 そして、世の中の暮らしは良くなり、領民たちは笑顔になり、貧しく飢える人もいなくなりました」


「「「よかよか」」」


「皆が一生懸命働き、稼いだお金で映画を楽しみ。

 でも剣聖様は帰って来ませんでした。

 剣聖様が必死に戦ってお撮りになっている映画を私も見ました」


「「「あ」」」


「もう!素敵でしたー!

 暴れん坊だったのに今ではすっかり父上より渋くなられたマイト様ー!

 目の前に来たら貞操を守れなそうなナルキス様ー!

 コーラン様に熱い愛の決意を語られたユーベンス様ー!

 理性的で鼻筋が通ったアゲンス様ー!

(中略)

 そして歌に踊りに剣戟に、完璧なダン様ー!!」


「あのー、俺は?」

「アックス様はもう存じ上げています故」

「反応薄っす!!」

「あはははは!!」

(旦那がイマイチでいいのかセワーシャ?!)


 さらにゲッソリしたデシアスがボソっと言った。

「俺もリックも裏方なんで関心ないってさ」

「ち、違います!関心ないなんて言ってません!」


「「「お???」」」

 一同、顔を赤らめたミーヒャー嬢の次の言葉に期待した。


「スターの皆様は永遠じゃありません!

 もちろん、デシアス様もアックス様も、お会いして間もないリック様も。

 いつかは映画という夢の世界からいなくなってしまうかも知れません!」


「「「おお???」」」


 意外な言葉に一同は次を待った。


「でも、スターの皆様も、スタッフの皆様も、フィルムに夢を永遠に残せるんです!

 その夢を残し続けている今、私はあの場所のすぐ近くにいるんですー!」


「「「ほほうほう」」」


「私は忘れたくありません!

 ここにいる今を、残したいんです!

 思い出に刻んで、写真を買って、パンフレットや音盤を買って!」


「「「はわわ~ん」」」

(中々、映画産業の意義を理解しておる様じゃのう)

(デシアス、あのお嬢ちゃん、いい子に育ったじゃないか)

(ヘンに拗らせて無きゃいい子だな~)


「ずっとここに住んで映画と一緒に居たいんですー!」

「「「え…」」」

「だってデシアス様、私いなくても問題なさそうなんですもの!

 だったら私もスタジオの近くでスターの皆さん見ててもいいですよね?

 スタジオに出入りしてもいいですよねー??!!」


「「『なんでそうなる~???』」」


「え?違いますか?」

 まさかの反論にミーヒャー嬢の目はデシアスに向かう。


「「「デーシーアース~???」」」

「え?俺?」


「「『当たり前ですわー!』だー!」よー!」

「あんたが放っぽり出してたから拗らせちゃったんじゃないのー!!」

「戦後ちゃんとお会いし続けていればこんなおかしな事にはなりませんでしたのに!」

「あんたが悪いー!リックきゅんの弟子なんて百年はやいよー!」

『ちょっとはリックさんを見習いなさいよ!』

『キリエリアの剣聖の剣はヘナヘナではないか!』


 その晩の食事会はデシアスの糾弾会議と化した。

 婚約者放置の罪を他国の皇女を筆頭にケチョンケチョンにブチのめされたデシアスであった。


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ミーヒャー嬢、限界オタクの始祖かな? がんばれデシアス!
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