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114.「マハラ」、完成

 特撮用の0番スタジオでは最後のカット、架空の大国プレデトスの空港にマハラを誘導する場面が撮影されていた。合成を残せばいよいよ終盤だ。


 そして本編では、オープンセットで悪党の末路が撮影されていた。

 ガラス張りで魔道車が一戸毎に止められている住宅街の巨大なセットが、ホイホイと組み上げられて撮影開始。


 プレデトス首都から避難せんとする群衆、その中に悪徳興行師の車が逃げて来て、行く手を阻まれてしまう。

「悪徳興行師だ!」「双妖精を返せ!」「クソヤロウ!」

 なじられる悪徳興行師は拳銃を持って人質を取るが、ついに警官隊に射殺される。


 拳銃を握る手を踏まれて仰向けにされた死体から、双妖精の檻の鍵を回収する警官。

「死体を踏むというのは、残酷じゃありませんか?」

 助監の意見にレニス監督が

「銃弾喰らったくらいじゃ死なない事もあるからね」

とあっさり答えた。


 レニス監督も戦地に赴いた経験があるのだ。


 そしてラスト一歩手前、成虫マハラが帝都の空港に降りて来る場面。

 空軍の飛行場でロケが行われ、これに特撮班も同行した。


 主人公三人はアップ気味に、別れを告げて去っていく双妖精は俯瞰ロング気味で撮影された。

 そしてマハラに向かって走っていく双妖精の場面は、撮影済の特撮カットから割り出したマスクをかぶせて撮影され、フィルムは合成班に回された。


******


 最後のシーンは、イノセント島の洞窟。

 神殿を前に踊る原住民と、その後ろに黄金の小さな神殿。


 別のセットでは、その神殿が高さ5m位に組まれている。

 そこでエンディングのスキャットを歌う南国娘の二人。


 無事、撮影は終了した。


******


「マハラー、ヤンマハラー、デンガンケサークティアンム、ヒードムプー」

 ラジオでは連日マハラの歌を流している。


「天地開闢の思国歌流してくれないかなあ」

「あれ拍子取れないからムリ~~」「ふふっ、ディーの言うとおりね」

「やっぱりそうか~。みんな途中でズッコけるんだよね~」

「そーよー」「よーよー、きゃっ」


 リック邸では時折交わされるマヌケな会話にブライ君が突っ込み、キャピーちゃんが早くも口真似したり、笑う様になっていた。


「みなさん」「ヨーホー映画」「「マハラを見て下さい!」」

 南国娘が、映画の撮影と同じ様な鈴を転がした様な綺麗な声が聞こえる。

 それもタイミングバッチリな掛け合いで。


******


「マハラ~や、マハラ~、どんどんな~んとか、かんと~か~」

 温泉の中でブライ君が歌って、羽ばたく真似をしている。


「やっぱりこうなっちゃうよねえ」

「歌難し過ぎだよ~」「おー」

 アイディー夫人の指摘の通りである。

 だがそのインパクトで音盤は無茶苦茶売れている。


「この世界に存在しない言葉、なんでしょう?」

「バレてたか」

 アイラ夫人の見抜く力にはリック監督も太刀打ちできない。


「音盤の印税、エラい事になってるよ~」

「そんなにお金ばっかり集まっても、困りますよねえ」

「また次回作に生かすよ。パイロットフィルムにもお金かかるしね」

「リックさんの考えは、あの素敵なスケッチでも実感できませんものね」

「他の誰にも出来ない、リックきゅんだけの、やり方だよねえ~」


「パパだけ?」

 ブライ君がリック監督の肩に乗っかり、頭に昇ろうとしている。

 キャピーちゃんもお手手をぱたぱたさせている。お兄ちゃんと一緒にパパ昇りしたいのだろうか。


「はっはっは~。そーだ、パパだけだぞー」


******


 印税の波は、エクリス師にも押し寄せていた。

「他人の鉄砲で敵将を撃つ様な感じで、どうにも違和感がありますねえ」


 そう戸惑う表情を見せながらも、編曲を進めていく。

 リハーサルを経て演奏される音楽は、ゴドランの時とは違う、優雅な舞曲の様な、華やかなものであった。


 熱線砲がマハラの繭を焼く場面では悲壮感溢れる曲が演奏された。


 そして、新たに設置されたパイプオルガン、その高音部を使って双妖精の「言葉」、人の脳に直接想いを伝える場面の音楽が演奏された。

 神殿等ではお馴染みであるが、映画音楽としては、ましてや思念魔法の表現としては新しい試みである。


 リハーサルを含め、数日で収録が終わり、立体音響版とモノラル版のネガフィルムが起こされた。

 その立体音響版が、仮中央劇場の小ホールで上映された。


 幕が上がると、真っ黒の画面に立体音響による迫力の音楽。

 本作の冒頭には「序曲」が付けられた。


 終了後の喝采は、過去二作以上だった。

 途中では色々と笑いが起きる場面もあった。

 やはり戦勝国のキリエリアにはこういう陽気な作品の方が受けが良いのだろうか?


「いやあ、面白かった!」

「これなら家族連れでも恋人同士でも気軽に観てもらえるなあ」

「南国娘を小さくしてしまう、っていうのも面白かった!」

「これは増々音盤が売れるぞ!」


 役員たちの評判も、音盤会社の評判も上々だ。


 ロケに協力した領都でも試写が行われ、感触は上々であった。

 そして例によって好評は口コミで広まった。

「今度の怪獣は何かおもしろいのよ?」「なんだか愛嬌があるわね」

「南国娘が本当に妖精の様なんだよ」「やっぱりリバティーの芝居は面白かったよ」

「イモ虫と蝶だろ?何がすごいんだよ?」「いや凄かったぞ?」


 こんな感じで公開を待つ声が広がって行った。


******


 迎えた初日はやはり長蛇の列。


 喝采、笑い、驚嘆、そして拍手。

 音盤は劇場でも販売され、これも飛ぶように売れた。


 更にマハラの幼虫、成虫のビニール人形も売れた。

 成虫マハラは羽根が開いたり閉じたり動く。

 幼虫マハラはくねくね上下に動く。

 劇中のヌイグルミ同様に塗られ、ゴドラン以来のリアルな出来を保っている。


 音盤の利益の大部分は、南国娘所属のマジェステック音盤商会へ転がり込む。

 お陰で同社はウハウハであった。

 しかし少なくない利益がヨーホー映画にも入って来る。

 その額3千万デナリ。これだけで製作費の半分以上が回収できてしまう。


 更に玩具収入が2千万デナリ。

 貴族向けにはレイソン電波塔の組立モデルセット、しかも魔石で光るものが付いていて結構な高額商品となっている。


「ずぐおおおおーば~あん!ぴきゃあ!」

 リック邸ではブライ君がゴドランとマハラを戦わせて遊んでいた。


 リック邸だけでなく、各国の、怪獣人形を買って貰えた幸運な子供達がゴドランとマハラ、更には過去の怪獣人形を戦わせて遊び、夢の中で怪獣決闘を繰り広げていた。


 最終的にロングラン興行の末興行収入は5億デナリ。「宇宙迎撃戦」を越えるヒットだが、「天地開闢」「大西洋の嵐」には及ばないものだ。

 無論、連合国結成とか三軍協力とか、外部要員なしでこのヒットは大したものであった。


 海外での成績は…

 悲劇を好む、と評価された北方諸国だが、それでも子供連れを中心に、何と言っても南国娘の歌が好評を博して健闘し、2億デナリの追加収入を齎した。


 勿論音盤も売れた。

 キリエリアの復興、いや既に復興を越えた機械化、魔道具電気機器の普及は連合諸国にも及んでいた。

 都市の娯楽が徐々にキリエリア並みに成長してきており、いずれ数倍の市場規模に成長すると予測された。


 その成長予測曲線と、映画の興行収入の伸びは等しい曲線を描いていたのだ。


 今、グランテラ大陸西の世界は豊かな社会に向かっていた。


 ただ、セプタニマ監督作品「風来坊」が製作費3億デナリ、興行収入8億デナリという大ヒットを飛ばしたため、やや話題性が弱くなってしまった。

 やはりセプタニマ作品は剣戟物、騎士物が強い、そう世間に知らしめた。


「元手と売上から言えばリック君の方がよっぽど優れてるわ?」

「でも映画の質から言えば、向こうはホンモノです」

「だから自分から卑下しないでよ!」

 どうにもセシリア社長は、色々強気なセプタニマ監督が苦手な様である。

 またセプタニマ監督を尊敬するリック君の姿に、納得行かない様でもある。


 もう一つ。今まで圧倒的人気を誇っていた古の騎士剣戟モノに、現代の風来坊による活劇映画が人気を上げて来たのだ。これは主にショーウェイや他社である。

 これらは主演の人気スターの力による物だ。


 負けじとヨーホーも人気スターを主役に、青春活劇を繰り出した。

 あの美男俳優プルス・スタヌムの息子、芸名ダン・ウェーラーのデビューだ。

 美声による歌と抜群の運動神経、そして若い娘ならうっとりする甘いマスク。

 デビュー作「学院の騎士団長」が3億デナリのヒットを放ち、若い女性が劇場へ詰めかけたのだ。


 これもヨーホー映画社の看板シリーズの一つとなって行った。

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― 新着の感想 ―
>子供達は夢の中で怪獣決闘 アレが制作される日も近いですかな?(ニコニコ)
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