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111/213

111.卵から幼虫へ、そして巨大な蝶へ!

 夜。リック邸の特撮用工房。


 そこに父の帰りを待つブライちゃんがいた。

 魔道具を触っては不思議そうな顔をする。

 少し力を籠めると、廻り出す。他の魔道具は光り出す。

 ぱあっと笑顔になるブライちゃん。


 もっと力を入れると…魔道具の魔法陣が光を放って割れた!

 光も動きも止まってしまった。

 おろおろして、ついに泣き出すブライちゃん。


「ブライちゃん!!」

 アイラ夫人が駆け付け、彼の無事を確かめる。

「こわれちゃった、こわしちゃったー!!」

「まあ…」壊したのは、実験中の天然色テレビ。

「どうしましょ…」


「どうしなくてもいいよ」

 リック監督が帰って来た。

「あなた!ごめんなさい!私が目を離した隙に!

 こんな大切な機械、どうしましょう…」

「だからどうしなくてもいいって。

 この方法じゃムリかなって置いておいたものだし。

 それよりコイツを少しでも動かしたブライちゃんの力の方がスゴいよ」


「え?見てたんですか?」

「危険だったら止めるか守るつもりだったけどね。

 ブライちゃんの魔力で少し動いたんだよ」

「魔力?」

「俺やアイディーじゃないと動かせない程魔力が要るこの天然色テレビをね。

 凄い魔力持ちだと思う」


 呆然としつつ、泣いているブライちゃんを撫でるアイラ夫人。

「何事も急がず慌てず。

 明日から、魔力操作の訓練にいい失敗作で色々遊ばせようかな?」


******


 翌日は、本作の特撮最大の見せ場となる、マハラ羽化シーン。

「ヨーイ!スターッ!!」

 蛹、と言うより繭に強い照明が当てられる。

 それを複数回繰り返すと、今度は


「繭、点火ー!!」

 眉が炎に包まれるカットが撮影された。


「次!成虫セット!」

 セットの下に穴があり、そこに操演班が潜り込んで成虫マハラの、羽根の部品を外した胴体を仕込む。下から操作して繭を突き破らせるのだ。


 そして…

「成虫出たー!!」

 繭の一部が割れ、成虫が顔を出した!

 成虫マハラは繭の欠片を押しのけ、もそもそと出て来る。


「カット!次!羽根用ー意!」

 特美班と操演班で成虫マハラを繭の上にセットし、羽根の部品を取り付ける。

 その縁は柔らかくしなる様な金属素材で、これを後ろにギュっと引っ張って、クシャっと縮んだ羽根を小さくまとめる。

 この縁を操演で広げて、羽根も広がる様に見える。そういう段取りだ。


 縁の先には極細の金属線が付いており、背景の空色に塗られた。


「操演準備!ヨーイ!スターッ!!」

 操演班が羽根の縁を引っ張る。


 羽根はゆっくりひろがり、広大なセットを征するかの様に広がった!

「カーット!OK!抑えでもう2テイク撮る!」

 一応の成功に一同は安心した。


 成虫マハラはその後レイソン塔から飛び立つ。

 操演の力で羽ばたくのだが、マハラの上には大きな蝶番が用意され、翼の真ん中あたりと蝶番の端が鉄線で結ばれた。


 蝶番を羽ばたく様に操作すると、マハラの大きな羽根は、その先が大きくしなり、機械的に羽ばたいているのとは違う「力」を感じさせるのだ。


 この後正式に製作が決まれば、恐るべき風圧で地上が破壊される細かい様が撮影されるが、今はマハラは悠々と王都上空を羽ばたき、去っていく。


******


 後は幼虫マハラの進撃を阻止する戦車隊や飛行機隊の攻撃シーン。

 これは既存のミニチュアを使って仮撮影され、本番では精緻な王都のミニチュアを使って再撮影される予定だ。

 しかし飛行機シーンは編隊飛行やヘルダイブ、攻撃突入姿勢の操演のテストを兼ねて撮影された。


 並行して、双妖精の場面の合成作業が始まった。

 細かくカット、秒数が指定された簡略版ピクトリアルスケッチ、絵コンテをシナリオ替わりにして合成場面が消化されていく。


 こうして前代未聞の幻想的怪獣映画、というモノがその片鱗を見せる。


******


 撮影されたフィルムは早くも編集され、仮本社へ。

 その不思議な光景と壮大な映像、更に幽玄の歌声は社長以下重役達にも

「これはいけるのでは?」

との感触を得た。


「出演者の決定を急ぎ、制作発表しましょう。

 今度はお偉いさん抜き、庶民向け娯楽作品に徹底しましょうか」


******


 主人公は正義漢の新聞記者で、三枚目のコメディアン、リバティー・テルミ氏。

 大衆音楽出身で、既に「下町旅館」、「下町食堂」等の喜劇映画で大人気。

「僕が怪獣映画?

 またまたぁ!

 ああいうのはキリっとして真面目な演技が出来る二枚目がやるもんですよ!」


 と笑われたそうだが


「今度の作品はカップルから親子連れ、女性客でも楽しめるコミカルで明るいものにしたいんですよ。

 正義感でどっかトボけて力自慢、お供も子供も笑える様な芝居をお願いしたいんです」


 そう言われると


「ホントに僕でいいんですか?」


 リック監督とレニス監督に頼み込まれ、出演を決めた。


 一応極大魔法が南国に暗い影を落とし、架空の軍事大国が楽園を蹂躙する背景こそあるものの、脚本全体が何と言うか明快でユーモラスに仕立ててある。

 特撮シーンの夜景も、ゴドランの様な真っ黒な空ではなく、今や夜でも灯が消えずほのかに青い、明るい夜空をイメージして撮影されている。


 疑似夜景(日中の照明で撮影し、マスターフィルムを起こす際に濃紺のフィルタを重ねて夜景っぽく加工する)、のせいでもあるのだが

 

 キャスティングも続々と決まり、制作費もパイロットフィルム製作分含め5千万デナリを計上した。


******


 そして迎えた制作発表。

 本社も中央劇場も工事中なので王都第二のヨーホー劇場での発表会となった。


 社長、スタッフ、キャストの挨拶に続き、楽団による演奏が始まる。

 舞台中央の祭壇には小さな二人の妖精の姿がダニングプロセスで現れ、歌声が響く。

 南国娘演じる双妖精による主題歌「マハラの歌」に、記者団が湧きたつ。


 そして舞台中央の床が開くと、舞台下から南国娘がさっき迄と同じ異国の姫の様な姿で現れ、大喝采が沸き起こった!


 さらに舞台の上から、カン高い鳴き声と共に、マハラの成虫が羽ばたきながら降りて来て、更に会衆を驚かせたのだ。


 宣伝部とリック監督のアイデアによる仕掛けだ。


「みなさま」「新しい怪獣映画」「「マハラを是非ご覧下さい!!」」

 声のタイミングも双子ならではバッチリ…


 実は後ろから見ていると、声のタイミングを姉のソラリエが妹のメンシエに背中をトントン叩いて合わせているのだった。


 例によって製作発表は話題性抜群。

 この様子はラジオ・テレビでも放送され、噂で聞いていたマハラの歌の不思議な歌詞を多くの人達が初めて耳にした。


 早速翌日からヨーホー音盤に問い合わせが殺到したが、今回はマジェステック社から発売する予定である。

 同社は余りの反響に映画公開を待たず音盤発売に踏み切った。


「ちょっと惜しかったかしらねえ?」

「いいえ、あの二人に出て貰えるからこその反響でしょう。

 それに主題歌レコード売った後ならサントラ音盤に主題歌収録させてって頼みやすいですし」

「…それも狙い?」

「まさか!こんなに反響あるなんて思ってませんでした」

「ホントかしら」

 半ば呆れつつ、自社系列の商品であるサントラ音盤は売れて欲しいと願う社長と、自宅で再生できなくはないけど準備が大変なシネテープではなく、手軽なステレオ音盤が早くほしいなあと願うリック監督であった。


******


 いよいよクランクイン。


 丁度キリエリア海軍の南方調査・交代艦隊出航の時期が近かったので、撮影協力をお願いしたら是非にと懇願された。


 ダッチャー軍港では現地のエキストラがエラい人数に膨れ上がってしまい、レニス監督がこの大群衆を苦心して裁た。

 軍楽隊の演奏する中、群衆が去り行く鋼鉄艦に手を振る。


 今や大作映画は大群衆、大軍隊が必要となり、大作を撮る監督は仕出し動員から演技指導等、軍の士官の様な仕事をこなす様になっていた。


 引き続き西南の火山地帯で、南方の島、イノセント島のロケが行われた。

 岩場を「宇宙迎撃戦」の宇宙服みたいな放射線防御服を纏った調査隊が探索する場面だが、割と短く終わった。

 肝心の主人公たちの掛け合いや、双妖精と出会う場面等は、全く別のスタジオセットで行われる。


 特撮班は冒頭で遭難する鋼鉄の貨物船…この時期まだ鋼鉄製で石炭で驀進する民間船はなかった、それが大西洋南方のイノセント島沖で座礁する台風シーン。


 続いて豪華客船…これも未だ夢の存在だ。それが洋上を進むマハラ幼虫に襲われ、真っ二つにへし折られて沈没する場面。

 洋上を進むマハラは、プールの底から照明を当てられ、幻想的な雰囲気を纏っている。


 操演班によって動きを与えられた幼虫マハラが、洋上を進む豪華客船に向かい、乗り上げると、予め切り込みを入れられていた船が二つに割ける!


 続くは、キリエリアの地下を潜って発電、貯水用に建設された人工の断崖、「ダム」を破壊する幼虫マハラだ。


 本作「マハラ」では、リック監督は課題があった。

 先の豪華客船襲撃シーン同様、このダム破壊シーンでも、「大西洋の嵐」以上に特撮カットと呼応する本編の演技、そしてその間を数刻合成カットが繋ぐという、特撮と本編の連携だ。


 その間を繋ぐ合成班の、コンマ数秒のタイミングを合わせる感覚は神経を研ぎ澄まして行う必要がある。


 人口絶壁「ダム」崩壊。

 膨大な水が石灰と砂礫を混ぜて構築された急斜面を引き裂いて谷間へ噴き出す。

 本編との合成はこの次、谷間の先の端が破壊される場面なのだが、セットを改造して更に洪水シーンの撮影が続く。


 ここで「白蛇姫 愛の伝説」「天地開闢」から培った、「水に演技させる」特撮が更に迫力を増す。

 山奥の渓谷、水が屈折した先の崖にぶつかって手前に迫る絵を撮る。

 その先に集落があり、橋がある。

 その橋で本編とがっちり組んだ見せ場を作る。


 確かに双妖精の歌も、マハラ誕生も前半の見せ場であるが。

 高度に連携した本編と特撮の連携によるスリリングなシーン。

 それを再現する事が、今のリック監督の使命だった。


「はいヨーイ!スターッ!!」

 リハーサル通り、濁流は屈折して下流に迫る!

「はいカーット!OK!!」


 そして集落がある場面、橋が上空視点で流されるロングカットの撮影が終わり。


 次に遠近法を計算して作られた橋のミニチュアの奥が濁流にへし曲げられるカット。

 何回も水が汲み上げられる。


「水OK!、カメラスタート!、ヨーイ!」

 カメラはパースミニチュアの手前、人の目線に近い所から濁流に崩れる橋を狙う。

「スターッ!!」

 濁流が流れ、橋の奥が大きく持ち上げられ濁流に呑まれ削り取られた!


「カーッ!O-K-!お疲れ様ー!!」


 この後、この舞台となる橋で本編がロケを行い、合成に当たっての細かい調整が行われて撮影される。

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― 新着の感想 ―
動かすだけじゃなくぶっ壊す程とは、すごいぞブライちゃん!
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