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11.完成試写会

 パイロット版には無かったラストシーン、王都大聖堂から退出する英雄に道行く人々が最敬礼する場面のロケ撮影を以て、撮影は終了=クランクアップした。


「皆様!お疲れ様でした!!」

 一同は白亜の殿堂に移動し、しゃれた噴水を前に看板を掲げて記念撮影を行った。

 看板には「キリエリア沖海戦 撮影終了 トリック組」と、終了日の年月日が書かれていた。


 堂々と立つペルソナ男爵の手前に、看板の真ん中にリック監督、その左右に彼に肩を組むマイト、アックスが満面の笑顔で映っていた。

 看板の手前には、遠景用の小型ミニチュアが並べられていた。


 この写真はこの世界の映画史に、歴史に残る一枚として多くの人の目に触れた。

 また撮影所のクランクアップの際、多くの撮影班がこの噴水の前で記念撮影する様になった。


******


 フィルムの編集という作業もこの世界初めての物で、今までは単純に演劇を撮影し、フィルムが切れたらそこで芝居を止め、再開。

 完成したフイルムを単純に接着すればよかった。


 しかしカット毎に、更に時間の長短、テンポを重視し編集を繰り返すにはフィルムそのもの、いや画面を見てどこで切るかを判断しなければならない。

 そのための編集用の小型映写機、ムビオラをリック、アイラ、アイディーの三人は完成させ、他の技師達に指導を始めていた。


 今度は音声をネガフィルムに焼き付ける作業が主となる。


 既にパイロットフィルム「敵軍港撃砕」でこの技術は成功している。

 基本は音声を魔石の振動に変えて、それを音盤の様なギザギザ模様に変換する。

 再生時はそのギザギザを読み取って音声へ逆変換するという物なのだが。


 変換・逆変換の魔道具の開発を主に受け持ったアイディーは王国の魔導士達に協力を依頼したのだが…彼女は口下手だった。


 そこでリック少年が同行し、「魔石による音声の信号化、記録技術については魔導士協会に情報を公開します!」と宣言した。

「「「よっしゃー!!!」」」

 と、魔導士達の熱い協力を取り付けて実用化したのであった。


 但し特許はリック少年に、映画での実用化はヨーホー社が数年限定で独占する事になった。


 それでも魔導士協会に公開された技術は多くの魔導士達の好奇心を満たし、後にラジオ放送やテレビ放送を行う際にはそれら技術の下支えとして多大な貢献を果たしたのだった。


 利益の独占より夢の実現を優先したリック少年の判断が正しかったという事であった。


 そして、今は音楽、効果音、台詞の合成や音の大小の操作に、この音声変換・混合技術は遺憾なく発揮され、音の大小や音源の選択も、卓上のレバーで容易に操作されている。


 この一連の作業も、多くの音響効果技師を招いて行われている。

 彼らはアイディーとアイラが機材を操作する姿を、その指先を必死に追っていた。


 そして彼らは後年その作業を当たり前の様に繰り返し、この世界に無数の映画を送り出していくのだった。


******


 ミニチュア撮影、スクリーンプロセス、オプチカルプリンター。

 サントラ録音、効果音とのミックス、編集。

 これら後処理=ポストプロダクションを経て完成したネガ・マスターフィルム。

 そこから起こされたポジフィルム。


 その試写はヨーホー本社でセシリア社長以下、役員レベルで一度行われた。


 終了後、万雷の拍手…を前にセシリア社長が立ち上がって宣言した。

「王立劇場で俳優陣を呼んで、国王陛下も海軍も新聞社も呼んで一大試写会を行います!」

「「「おおーー!!!」」」


 かくて、着慣れない正装を英雄チーム一同着飾って

「アックスあんたまた筋肉ついた?」

「おう!あの重いセットを右へ左へ動かしたら、魔王戦よりも筋肉ついたぜ!」

 セワーショが甲斐甲斐しくもアックスの準備を手伝う。


 英雄アックスは脳筋ではなかった。

 機材やセットの取り扱いも慎重であり、その扱い方を映画セットに不慣れなスタッフと一緒に相談したり指導したりしつつ、後輩たちに伝えた。

 凄い器用さがある。


 正装をアックスに着せるセワーシャもアックスの助手をしただけではなかった、スタジオでスタッフを気遣い、細かな支援や連絡係を務め、助監督みたいな立場を果たしていた。

「さあ!アイディーもちゃんと髪を洗って!てか風呂入れ!リックの有難~い温泉なんだから!」

 本当、世話焼きだよな。

「うう~、リックもアイラもいっしょにい~」

 アイディーはマイペースだった。

 しかし、このだらしない美女が果たした、映画界に対する技術的な貢献は目覚ましかった。


 後年リック監督曰く、

「前世の特撮創生期で、ダニングプロセスとかシュフタンプロセスとかの隘路にハマりまくる事なく済んだのは、二人の妻のお陰ですよ」

との事だ。

 そのダンニングとかが何を意味するのかは意味不明だった。


******


 一行が魔道車で試写会場の王立劇場へ着くと、セシリア社長や重役はじめ、既にペルソナ男爵、マイト、エクリス師、撮影所のスタッフが待ち構え、リック監督達を拍手で迎えた。

 新聞記者連中も凄い人数で俺達を撮影し、まるで監督一行が主賓の様な騒ぎであった。


「これから国王陛下に海軍卿、陸軍卿、ウチの旦那が来ます。

 監督、一緒にお迎えしましょう!」

 彼らは主賓を取り違えていたわけでは無かった。


 王家の紋章を付けた馬車、それに続いて海軍、陸軍の馬車が続き、ファンファーレが鳴らされ、一同が傅いた。

 そして歴史的な試写会が開催された!


******


 最初に、あのガラスを回転させた光芒の真ん中に輝く、ヨーホー社の社章と、それを讃えるかの様なファンファーレ。

 続く、キリエリア侵略を決断する敵ゴルゴード王宮。

 敵司令官が

「これだけが、我が国が生き残る唯一の道か。大いなる挑戦だ!」

と、当時のゴルゴードの内情をかみしめる。


 そこに「キリエリア沖海戦」とタイトル字幕と、激しい波しぶき。

 敵キリエリア軍の艦隊集結が、戦争準備が、スタッフ、キャストのクレジットの背景で写される。そこに勇壮な敵軍の行進曲。


 壮大なエキストラを動員しての侵略準備と、敵艦隊。艦隊はミニチュア特撮、エキストラも前の方は実写で、後ろの方はカメラとエキストラの間に立てたガラスに書かれた絵、グラスワークだ。


 防戦体制に入るエリアリア、だが軍事的優位は向こうにある。

 しかし当時の軍務卿は後に英雄と謳われるも、当時は今一つ評判が良くなかった提督を司令官に推挙する。曰く。

「あれは恐ろしく運の強い者にございます」


 そこから両国の戦争計画が交互に、平等な目線から描かれる。

 唯一違ったのは、エリアリアが索敵に必死になり、伝書鳩や早舟を駆使し、旗艦に情報を集中させたのに対し、ゴルゴードは地上戦を重要視するあまり艦隊司令を陸将にしてし、敵情の収集に無関心だった事だ。


 それでも海に不慣れな敵将は決意した。

「海の戦いは避けよ、戦えば負ける。上陸する事だけが勝つ道だ!」


 それから騙し合いの小競り合い。

 英雄の下の英雄と言われた軍人、海賊と見間違える様な暴れん坊士官をマイちゃんが演じる。

 敵の出方を予測して、数隻の船を率いて夜襲を掛ける。

 ミニチュアを駆使した特撮の戦いに、いつの間にか自国エリアリアを応援するのか、敵ゴルゴードを応援するのか解らなかくなる。


 遂に敵の本隊が発見され、歴史に残る海戦が始まる。

 両国とも激しい損害をものともせず、激しく鳴り響く軍楽の中戦う、それが模型ともセットとも、実物のロケとも感じさせないまま。


 海上の艦隊の動きを図面で示しつつ、ゴルゴードの不利が明らかになっていく。


 敵の甲板も、味方の甲板も悲惨な状態だ。

 人間だったとは思えない破片が転がる。フィルムにはそんな残酷な様子が問答無用で映し出される。

 しかし音楽は勝利を信じて殺し合う者を駆り立てる様な軍楽を、しかし短調に落として加速する様に奏でる。

 音楽や爆音は、名優達の演技をかき消す様に激しく鳴る。


 そしてついに敵旗艦は火薬が誘爆、恐ろしく大きな爆炎を上げて、沈没した。

 ここから音楽が、鎮魂歌の合唱に変わる。

 最初に神の裁きを謳う男声合唱が入る。


 勝利を確信した暴れん坊が惨状を目の当たりにして作戦終了を進言する。

 しかし提督は追撃を命じる。

「敵は我が国侵略しか生きる術がなかった。

 我が国は、敵を殲滅するしか生きる道が無いのだ!」


 艦隊は逃げる敵艦を追って、ゴルゴード最大の軍港へ。

「敵の余剰戦力を全て狩る!」

 砲撃と共に女声も合唱に加わる。

 そこからは特撮と本編、そして合成による地獄絵図だ。

 追加撮影された軍港の場面では、泣き叫ぶ女子供を容赦なく燃え上がる瓦礫が潰していく。


 戦いは終り、王宮で英雄と讃えられた提督が戦勝報告を読み上げる。

 戦勝を喜ぶ高位貴族に囲まれ、英雄は死神の様な無表情で自軍と、敵軍の試写を読み上げた。


 戦いが終わった数年後も、戦没者への追悼を欠かさなかった英雄。大聖堂を後に、夫人を伴って去る提督。


 その姿に英雄の言葉、

「戦いは、負ければ恐ろしい。しかし、勝つことすらも恐ろしい」

 との字幕が重なり、「終」の文字が写されて1時間半の映画は終わった。


******


 映画が終わった後、誰も何も言わなかった。

 ただ、すすり泣く様な音が聞えた。


 そして、まばらに拍手が起きた。

 拍手の輪は瞬く間に広がり、大喝采となった!


 この時、リック監督は映画の成功を確信した。

 同時に、仲間達が、自分も、泣いている事に気付いた。


 監督は熱い歓声と拍手の渦の中で、思わず立ち上がって周囲に向かって頭を下げ続けた。

 流れる涙を顧みる事なく。

 彼に続いて、他の俳優、スタッフたちも立って招待客に頭を下げた。


 この後エントランスホールで行われた祝宴では、国王陛下が製作陣を絶賛し、一同大いに感激したという。

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