104.戦争はもういやだ
ヨーホーの海外支社は各国の外交筋を経由し、連合諸国軍の懇親会の余興として、完成試写もとい特別先行公開を打診した。
会場は、旧テラニエの軍人宮殿。
軍人会館ともいうべき集会場なのだが異常に華美なためそう呼ばれている。
現在テラニエ帝国が滅びたため連合国統治会議によって、旧皇帝宮殿や「人魔再戦」を企んだ貴族の帝都豪邸ともども管理されている。
そこで上映会兼懇親の宴を、という招待なのだが、軍務卿はおろか案の定国王達までノリノリでやって来た。
結局連合国会議から「もっと大がかりにやろうぜ」と、連合国元首意見交換会、という名前の宴会として、企画主体は連合国、ヨーホーは上映設備の準備、余興としての撮影ミニチュア展示、過去の特撮大作やセプタニマ作品を含めた音楽界の依頼を受ける形となり、主催者から客分扱いになってしまった。
「こうなるんじゃないかと思った通りですわ」
「「流石だな」」
国王陛下とザナク公爵が呆れつつ声をそろえた。
「これってテラニエ復興の意味も含めてるんじゃないですか?」
何故か呼び出されたリック監督。
「勿論よ。今のあの地の主が誰かを思い知らせる意味もね」
「警備は大変そうですねえ」
リック監督にとっては他人事だ。
「アイディーさんを除く英雄チームにも手伝ってもらうわよ。勿論あなたもよ」
「うへぇ」
「確かにまだ帝国復興をもくろんでいる旧公爵家もいるな。
暗殺者や爆破事故を企んでいるかも知れん」
「何もそんな激ヤバ地帯で上映会しなくても~」
「この機に炙り出して叩きましょう。出て来なければ自然に消えていくでしょうし」
「俺娘と妻といたいんですけど」
「警備は一行が旧テラニエに入ってから出る迄の2日間だけ。
アゴ足付きよ。この機会にご両親のお墓参りに行ってらっしゃい」
(セシリア社長、オショさんから聞いたのかな?
そこまで回り込まれちゃ仕方ないか)
リック監督はそう思って観念した。
「国からの、余からの頼みでもある。
必ず気に入ってもらえる礼はしよう」
「楽しみにしてますよ」
リック監督は気の無い返事を返した。
結局、本作の主要キャスト、スタッフが国王たちの集まる懇親会に出席という、普通なら有り得ないけどもう何度目かというエラい騒ぎに巻き込まれる事になった。
「俺は行くぞ!リッちゃんの映画を王様たちに褒めて貰わないとな!」
なおマイちゃんはノリノリであった。
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試写会、もとい懇親会初日は大賑わいであった。
途中、案の定サボタージュがあったが、リック監督と聖女セワーシャが感知し、英雄アックスと剣聖デシアスが叩き潰した。
最大で同時に5ケ所から鉄道が攻撃されたが、このチーム全員攻守兼用なので問題なく叩き潰した。
リック監督が首謀者の頭の中を「脳解析魔法」でズビズバと暴き、黒幕を即座に捕らえ、それらの領地は連合国派遣の各国軍によって制圧。
帝国残党による起死回生のサボタージュは半日で終わった。このためかつて帝国に制圧された小国群が改めて連合国に帰順を示し、旧帝国地域から不安要素が払拭された。
旧帝都、ゴルゴード駅で一行は合流し、簡単に挨拶を交わす。
「丁度暴れ足りぬ者共のいい余興となりましたわ」
と、割と屈強で知られる領地を制圧した、マキウリア女王。
「演習には持ってこいですな」「実戦もこれだけ楽だとよいのだがなあ」
と、各国の王達。
「問題はこの後の帰順国の地位安堵、そして占領地の統治である。
貴族を追放して代官と警備兵を置き、民心と産業を安定させねば飢饉が起きる」
カンゲース王は更にその先を憂いていた。
「いっそテラニエ出身のリック殿を代官として派遣すれば」
「おお、彼であればこの国でも名が知れ渡っているであろう」
各国の王は好き勝手言うが
「それは駄目だ!リック君がこの大陸を去ってしまう!」
「「「それは困る!!!」」」
かつて幾度もそんな話を繰り返したカンゲース王の気迫に一同は言葉を撤回した。
結局、2日目朝に行われる意見交換会で相談、となった。
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軍人宮殿。壮大なコの字型、噴水と池を伴う前庭を挟んで左右対称という平面配置の建築だ。
前庭の左右端と中央に道が、三本の道に挟まれ左右に池がある。
リック監督は特美班に依頼しこの池に軍艦の模型を、左右端の道に飛行機の実物大模型を並べた。
そして三軍の志願者に映画の衣装、黒い一種軍装を着せて行列し歓迎。
さらに軍楽隊にも同じ格好で「海軍行進曲」「航空隊行進曲」「御召艦行進曲」を演奏し、各国元首を迎えた。
まるで各国王家が一商会の映画の宣伝に協力しているみたいだが、元々その王家が「試写会行きたいぞ」と言って来たのだから仕方ない。
この光景はラジオで、テレビで放送され、既に軍人達の家族から口コミで伝わっていた上にド偉い話題となって伝わった。
何より、帝国滅亡以後活気を失っていた帝都住民、そのかなりの部分はこの地を去ってしまったが、残って糊口を凌いで生きて来た住民に、初めて賑わいを齎したのだ。
護衛の兵、随行する貴族、報道陣、見物人が来ると見込んだ物は店を開き、なけなしの金で商人から食材を仕入れた。
商人達は各国の計らいでボッタクリを禁じられ、復興支援として良心的な価格で荷を卸し、元帝都は久々に陽が落ちても灯が消える事がなかった。
「これ、街の中でも上映しません?懇親会記念、先行無料上映会、で」
それもいいか、と思いセシリア社長は旧テラニエ支社に指示を出した。
旧テラニエの劇場は機材をかき集め、各地の広場に簡易劇場を作り、日没を待った。
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国王たちは略式の歓迎式典を済ませ、夕刻にはお目当ての「大西洋の嵐」を鑑賞する事となった。
その反応は、役員、軍人たちとは違った。
緒戦の敵軍港空襲場面では歓声が起こり、デっちゃんの「我、奇襲に成功せり!」
の台詞とともに拍手が巻き起こった。
そして機送艦爆発の場面では「うわっ!」「ああ…」等の声が上がる。
機送艦処分の場面では涙を流す王までいた。
最後の、虚無感に満ちたエンドマークでは、これまた大喝采であった。
「あれ?そういう映画だったっけ?いや、そうだったなあ。
待て、この人達『太平洋戦争』知らないじゃん?」
余りの歓声にリック監督は頭がこんがらがった。
そして懇親会、半立食形式の宴会となった。
メニューは各国海軍士官、将校向けメニューの競演である。
「素晴らしい映画であった!」
多くの王が、軍務卿がオショさん、リッちゃん両監督の下に駆け付けた。
王家や貴族の仕来たりなどお構いなしだった。
「戦に敗れたものの無念!死せるものへの追悼!素晴らしき出来栄えであった!」
「戦死者への慈悲の心、胸を抉るかの様であった!」
「最後の水没したマイト殿の演技は、言葉に表せぬ!!」
ああ、北国の人々は悲劇モノに弱いんだったなあ、知っていた筈ながら改めてそう思い返したリック監督であった。
そこに巨大な影だ。
「マイちゃん!あんな機械相手の戦いになる時代が来るものか?」
ミノタウロス族のホルス将軍だ。
「ああ。リッちゃんの言う事は、必ず当たる!
実際、飛行機も鋼鉄艦ももう出来てる。
その分、今までの戦に比べて犠牲も大きい、死者も増える。
戦わずに済むなら、それが一番かも知れねえなあ!」
「武勇を競う時代でもなくなったかあ」
酒を交わしながら、両者がしみじみとした空気を作っている。
「改めて、大した時代になりましたなあ」
オショさんがリックに向いて言うが
「皆さんが真剣に、明日の事を考えてくれたお陰ですよ」
「リッちゃんがいなければこうはならなかっただろう?」
「いいえ。誰かが、戦争は嫌だ、戦争は止めよう。
そう話し合って、ここと変わらない場を作り上げたかもしれません」
リック監督は謙虚に応じた。
しかし。
「もし、最初の予定通り敵機送艦の出現を待てば、4対3でヒノデは勝てたんじゃないか?」
「そうなれば、果たして主人公は幸せになれたのか?
もっと戦いが拡大して、もっと酷い負けが待っていたんじゃないか?」
「そもそも何故この戦いが起きたのか。
ヒノデ国と敵のベスプタ共和国の国力差とか、生産力の差とか…」
「上映前に配布された冊子に書いてある。良く読み給え」
「今ですら電波探知の可能性が研究されていると聞く。
何故ヒノデ国はそれを持っていないのか?」
「小官であれば、あの様な無様は晒さない」
そんな様な、そう思うよねえ、という会話も聞こえて来る。
それらを聞いて、
「オショさん。やっぱり、撮ってよかったですね」
ちょっと複雑な笑顔になるリック監督であった。
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軍人宮殿の外、旧帝都の数か所では日没と共に上映が始まった。
「王様達が見る映画をここでも見られるのか!」
「大盤振る舞いだな!」
「金取られないの?嬉しいわね!」
「マイト様出るの?」「ナルキス様は?!」
「えいがだー!」「フォルティ・ステラ出るの?」「ゴドランは?」
忽ち人だかりが出来た。
客を取られた酒場や飯屋は急いで出店を出して酒や料理を売り出した。
そして上映開始。
国王たちと違って酒も入っている露天劇場ではもっと反応が良かった。
雷撃成功の場面では
「「「うおーっ!!!」」」と拍手喝采。
敵襲撃場面では
「やべえぞー!」「逃げろ逃げろ!」「何やってんだよエラいさんは!」
「「「やられたー!!!」」」
反撃の場面、
「ドラコ・ボランテムは健在なり!只今を以て敵攻撃に向かう!
全将兵の意気盛ん!!」
マイちゃんの名演技に
「「「キャー!!!」」」「「「マイトさまー!!!」」」
黄色い声が上がる。
そして最後の方では、多くの人が泣いていた。
「チキショー!!」「戦争ってのは絶対なんてねえんだよ」
「マイトさま~!」「デッカーさま~」「ナルキス様役立ってないわね!」
「「「まけちゃったー」」」
反応が解りやすい。
しかしエンドマークでは
「「「うおー!!!」」」
「「「すごかったー!!!」」」
「「「よかったぞー!!!」」」
「「「マイトさまー!!!」」」
大喝采に大声援。
それは軍人宮殿からも聞こえた。
あまりの反響に、支社は「地球騎士団」を続けて上映した。
引き続き、旧帝都の人達はなけなしの財布を叩いて酒と料理を頼み、子供達は思わぬ幸運に目を輝かせた。
しかし、この映画もまた、異星人から見れば、驕り、侵略、そして敗北。
「帝国も、こんなんだったんだなあ」
「戦争なんてのは、無いに越した事ぁねえんだよ」
「星空から来る連中も、俺達と変わんねえのかなあ」
「もう、戦争はイヤだなあ…」
市井の人達の、その一言だけとっても、この作品は意義あるものだった。
後にリック監督はそう言った。




