1.ある日の特撮スタジオ
薄っぺらいながらも趣味への愛を全開にした連載を始めます。
是非お付き合いください!
1.ある日の特撮スタジオ
グランテラ大陸、古代帝国創立以来1500年以上が過ぎた、大陸歴1517
年。
諸国割拠する大国の一つ、キリエリア王国。
その王都レイソン、財務卿ザナク公爵の愛妻、セシリア夫人の仕切る大会社ヨーホー。
王都郊外にある、「ヨーホー映画王立公社」の、「映画」撮影の見学会。
今やすっかり大人気となった怪獣映画の特殊撮影とあって物凄い人数が申込み、抽選が行われたそうな。。
戦争映画を除き、宗教映画や怪獣映画の見学会は、軍人や神官、高位貴族向けのものはあったが、一般向けには行われていなかった。
しかし既に特撮映画、トリック撮影というものが世の中で人気の的になった。
そこで今回は報道関係者を招いての撮影となった。
事前に厳選された報道関係者が証明書を首ひもにブラ下げてヨーホー社王都郊外の撮影所へ、その中でも最大の広さと天井の高さを持つ特撮専用スタジオに通される。
何故天井が高いか?小さい模型で再現された町や軍艦などを大きく見せる為、見上げる様に撮る必要があるからだ。
天井が低いと、模型の後ろ、空や雲を描いた壁の上にあるスタジオの屋根や照明機材が見えてしまうからだ。
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流石キリエリア最大の映画会社、いや大陸有数の映画会社だけの事はある。
時折、他の映画の撮影に往来する大スターの顔もチラチラ見かける。
冒険活劇、そして世界的超大作で主演を張るマイト・スォード。
最近の青春群像劇などで歌に演技にと世の女性を虜にするダン・ウェーラー。
怪獣映画で有名になった美男俳優ナルキス・タラントなんかも女性スタッフを伴ってゴキゲンそうに周囲に挨拶している。
彼らは時に王都の最新様式の服装であったり、中世前期の服装であったりするのが面白い。
撮影所はさながら歴史遊園地の様でもある。
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そんな、門を潜るだけでも楽しさが溢れている「白亜の城館」ヨーホー・クラン撮影所だが、この特撮スタジオだけは現代なのか、古代なのか未来なのか見当がつかない、不思議な空気が漂う。
「やあ!どうも皆さん本日は宜しくお願いします!」
朗らかな少年の声が迎えてくれる。
いや、もう少年じゃない、一児の父である若者だ。
映画に於いて監督というものは絶大な権力を持つ。
それ故我の強い人が多い。
ヨーホー社が誇る世界最高の監督と言われるブライト・セプタニマ監督など直情径行型、完璧主義、そして絶対君主制の頂点に立つ監督だ。
しかしこのリック監督は違う。
スタッフにもスターさんにも腰が低い。
キリエリアに、いやこの世界に映画革命を起こした偉人でありながら、いや鉄道や飛行機、蒸気鋼鉄船等で世界を変えた、「元」天才「少年」ながら腰が低い。
やはり、大人達と一緒に仕事をするため、あえて謙遜に振舞ったのか?
「多分、あの人の『素』がそうなんです」
と話すのは、アイラ・トリック夫人。
お陰で彼の、そして特撮シーン以外、「本編」と呼ばれる人物シーンを始め特撮を含めた全体を監督するテンダー・パクス監督…この人もまた温和な方だ。
この二人が撮影する現場は、とても居心地が良いそうだ。俳優もスタッフも、特撮映画に呼ばれると物凄く有難がるそうだ。
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目をスタジオに向けると、そこには巨大な大領主の領都。
今度鉄道が開通し、駅と大商店を合わせた大型駅舎が完成した街だ。
その奥には領都の中心的存在、大聖堂が聳える。
周囲には5階建ての商会が並ぶ、王都に迫る賑わい。
手前の模型は大きく、細かく作られている。
その情景が模型で再現されている。
しかし、背景の壁は濃紺に塗られ、月明かりを映した雲まで描かれている。
「魔力灯、お願い」
精巧な模型、それに向けられる数台のカメラ。
その奥に控えるのは…
「特殊効果チームです」
机上に並ぶ機械を操作し、馬車や鉄道などの模型を動かすスタッフ、模型に仕込まれた照明を操作するスタッフなどが指示に従って点灯、動作のテストを行っている。
模型の街に光が灯る。
それは、まるで本当に生きている街の様だ。
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「やっぱり模型なんだな~」
「流石に本物な訳ないじゃないかよ」
報道陣は褒めているのか、けなしているのか微妙な話を口々にする。
「はいゴドラン入りまーす!」
と、助監督の声。
すると、のっしのっしと模型の街の奥にやって来たのは、今や特撮の代名詞となったドラゴンキング、いや怪獣王、ゴドラン。
伝説のドラゴンの様な羽根は無く、もっと直立し、背中には背びれが付いている。
10数年前、初めて劇場に現れた頃よりスマートになって、まるで格闘家の様な体に凶悪な釣り目になっている。
「ほう…」
「あれが本物のゴドランかあ~」
「ウチの子も連れてきたかったなあ!」
記者たちが今度は感心した様な声を上げる。
「キメラヒドラ、テスト!」
今度はゴドランの名ライバル、金色を中心に虹色の翼をもった三つ首のドラゴン、キメラヒドラが空、いや模型の街の上空から現れた!
「「「ほおー!!!」」」
金色と七色の光を放つ、いや地上からの照明を反射するキメラヒドラが翼を羽ばたかせ三つ首を上下左右に動かし、地上のゴドランを威嚇するかの様に飛び去った!
だが、よく見るとその大きさは人の背程、劇場で見る、ゴドランと対峙する姿の半分程だ。
「はいスモーク!」
ゴドランの後ろに煙が焚かれ、助監督たちがウチワで煙を散らしている。
全体の照明がやや暗くなり、その分ゴドランの足元が強く照らされる。
そしてゴドランは一旦模型の街の外に戻る。
キメラヒドラの飛行模型も元の位置に戻される。
「シーン291、ゴドラン対キメラヒドラ決戦、領都駅の対峙1!」
いよいよ撮影が始まる。
しかしカメラは既に異様な音を立ててフィルムを廻している。
助監督はその回転音を聞いて声を上げた。
ミニチュア特撮は、実物の何十分の一かに縮小された模型を撮影する。
破壊されて落ちる破片、上がる炎も小さい。
それを実物の様に見せる為、フィルムを早く廻して撮影し、物の動きの時間を実際の落下速度の様に見せて迫力を出すのだ。
結構なフィルムを無駄にする。
「はいヨーイ、スターッ!!」
助監督の掛け声と同時にメインカメラの前でカチンコが鳴らされた!
このカチンコという、撮影したフィルムの戦闘にシーン番号や撮影日を映し、編集しやすくさせる道具もリック監督が齎した技術だ。
「遠景、スパーク!」
リック監督の掛け声と同時に、先程ゴドランが入って来た当たりの道で街灯が瞬いて消えた!
特殊効果スタッフが待機席の卓上にある、リュートの様に鉄線が並んだ部分を縮めた様な木箱、その名もそのまんま「リュート」を、指ではなく鉄の筆で弾き、その動きに合わせて街の正面が弾けて消えたのだ。
そして照明がその部分を照らすと、怪獣王ゴドランが歩いてきた。
この場面は5台のカメラが撮影している。
つまりそれだけのフィルムが無駄な部分を生み出すので、贅沢な撮影である。
そしてゴドランは大聖堂を蹂躙し、高い尖塔が火花を上げて倒れた!
この時も特殊効果スタッフが別のリュートを弾いて、模型を爆発させたのだ!
「いいのかアレ?」
何でも最近は怪獣映画で破壊されたモニュメントは、観光客が増えるらしくて色々出演要望が高まっているそうだ。
今回も新鉄道開通を宣伝する為領主が舞台にと好条件で持ち掛けて実現したそうな。
「なんだかバチ当たりだなー」
物は考えようだ。
観光客、参拝客が賽銭を大聖堂に落とせば修繕などの費用が助かる。
更には模型で設計図が起こされると、それは現在の記録にもなるそうだ。
なので昨今は大聖堂も領城すらも「ゴドランに破壊させてくれ!」と訴え出る教会や領主が多いとか。
これも怪獣人気、特撮人気ならではの事だ。
「ハイ、ヒドラ、出たー!!」
先程の事前準備同様、ヒドラがゴドランの上空に現れ、ゴドランを牽制…
「駅舎点火!!」
リック監督の掛け声とともに特殊効果担当が鉄線の上を鉄筆で弾く。
同時に駅舎が各部で爆発!瓦礫が動き出した鉄道車両の上に降り注いだ!
「商店街点火!!」
次は更に、左から順に、リュートを弾く鉄筆の動きに合わせて手前の模型の街が次々と爆発した!
「「「うわっ!!!」」」
記者団が思わず後ずさった!
「カーット!!」
リック監督の声が響いた。
アイラ夫人がメインカメラの上に据えられた魔力を帯びた水晶をリック監督にかざすと、暫く監督は黙った。
そして。
「よし、OKです!お疲れ様!」
スタジオの各部から拍手が響いた。
報道陣からも拍手が惜しみなく贈られた。
「見学の方は、特殊美術倉庫へ移動願います!」
案内係がスタジオの裏まで案内した。
そこには製作中の模型や、今のカットに登場しなかった巨大蝶の怪獣マハラなどが修理されていた。
中には最初の特撮映画に使われたと思われる軍艦の模型もあった。
記者団はいい大人だったが、この時ばかりは子供の様に模型の山に魅了された様だ。
この見学会は大成功だった。
初めて報道陣に公開された怪獣たちの戦い、大都市の破壊は記者たちを満足させ、結構な宣伝となった。
どの社の怪獣特集新聞も飛ぶように売れた。
捨てられた新聞は子供達が必死に拾い集め、ゴドランの記事の部分が切り抜かれ彼らの宝物となった。
そして新しい怪獣映画を、子供達だけでなく結構な大人達も心待ちにしたのだった。
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「スタッフ以外からも拍手貰えるなんてうれしいねえ」
その晩、リック監督は撮影所近くの自宅でゴキゲンだった。
「俺は辛かったぞぉ?
OKの後暫くゴドラン様から出られなかったんだからな!」
ゴドランを演じたのは、魔王討伐戦で名を上げた、千の魔物を一蹴する英雄アックス・ショーンだった。
「もうちょっとヌイグルミの中が冷えるといいんだけど…って以前氷魔法で火傷しかけたわよね」
アックスを気遣う、戦場の女神、元聖女セワーシャ・カイガー。
「い、今が全てじゃない。
こ、今度ヌイグルミの中に水を流す管を入れて、アックス達を冷まそうかなって考えてる」
「いやいや!お前はもっと天然色放送に全力を注げって!俺の事なんか気にすんなって!」
アックスは天才魔導士アイディー・トリックを気遣った。
アイディーはリックの発案を元に映像と音声を同時に再生させるトーキー映画、音声を遠隔地に送るラジオや映像を送るテレビなどの革命的技術を、アイラと共に完成させた、リックの第二夫人だ。
やや言動に難があるが、魔王戦でも復興期でも多様な魔法や技術で世界を救った、正に英雄の一人である。
「アレ、もうそろそろできるから。
出来たらリックう、私達褒めてえ~」
「ああ。もう一息だな!」
「でも働きすぎは駄目ですよ、アイディー」
「うう~。アイラには逆らえない~」
リックの妻二人は全く異なる個性ながら、姉妹の様に仲が良かった。
これもリック監督の気配りのなせる業だろうか。
そして冷静かつ厳格で知られるカメラマンのデシアス・ジッセイダーは、そんなやり取りを何言うでもなく眺め、美酒を煽っていた。
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ヨーホー王立公社、特殊撮影部、通称トリック組、またはリック組。
かつて魔王軍の侵略への反撃…実はそうではなかったが…を、多大な犠牲を出すことなく休戦に導いた、キリエリア王国の英雄達の今の姿。
平和となった今の英雄達。
しかし今なお、その平和を維持するための一翼を担う通商・開拓・医療・教育に技術面、資金面で貢献し、後に「情報」と区分される映像音声の伝達にも先端技術を提供しつつ。
この時期を子供時代として過ごした者にとって忘れる事が出来ない、平和な時代の英雄達が、その生を楽しみ、友情を確かめ合っていた。
このお話しは、怪獣王ゴドランの、いやこの世界の特殊撮影技術の生みの親である、リック・トリックと仲間達の、夢と現実のはざまを漂う物語だ。
もしお楽しみ頂けたら星を増やしていただけるとヤル気が満ちます。
またご感想を頂けると鼻血出る程嬉しく思います。




