最終ランナー、俺。
箱根駅伝、うちの大学の2区走者に選ばれたのは、2年の俺だった。
小学校から16年間練習を毎日欠かさずやってきた先輩たちを押しのけて、俺は花の2区のタスキを受け取った。
最下位でスタートした俺。
それでも俺には、一位をもぎ取る自信と覚悟を持っている。
どんどん前の奴らを追い抜く。
うちの大学は決して強豪校ではない。
それでも、自分の背負っている責任はとても重い。
みんなの応援する声が聞こえる。
反応する余裕はないが、届いている。
下位集団が見えてくる。
ギアが自然と上がる。
下位集団の後ろに着く。
外側に出る。
一気に追い抜く。
俺は5位まで浮上していること、もう少しで一位の背中が見えることを後ろの監督に伝えられた。
俺はエースだ。
足がきしむ。
肺に冷たい空気が流れ込む。
普段だったら、ここらでペースを落とす。
今は、練習じゃなく本番だ。
歯を食いしばってペースをさらに上げる。
上位集団に追いつき、並び、追い抜かす。
奴らもペースを上げる。
ゴールは近い。
俺はさらに引き離しにかかる。
みんなの応援する声が、俺の力に代わる。
もう体力なんて一ミリも残っていない。
今すぐ倒れこみたい。
走るのをやめたい。
俺にレギュラーを奪われた今年卒業の先輩が俺に言った言葉は「がんばれよ」
だけだった。
俺のサポートを文句ひとつ言わずしてくれる。
その行動が僕にはつらい。
タスキを待つチームメイトが見える。
「バチン!」何かが切れる音がした。
ふくらはぎをけられたのかとも思ったけれど、後続はまだまだ後だ。
足から力が抜ける。
力を入れなおす。
地面をけると、尋常ではない痛みが俺を襲う。
みんなの心配する声が聞こえる。
残り300メートルが途方もない距離に感じる。
足を前に出す。
ここでタスキを切らすわけにはいかない。
幸いにも痛みを我慢すれば、俺はまだ走れるようだ。
監督が「とまれ!もういい!」と叫ぶ。
俺は足をもう一度回転させる。
地面をけるたびに痛みは増していく。
それでも進む。
タスキを前のチームメイトへ渡す。
その場に倒れこむ。