封印の地への道
美紀はオカルト研究部の田中と出会い様々な情報を得た事から、
周辺の浄化や祠の再封印を行って日々研鑽していた。そんなある日、田中からある情報を知らされる事になる。
夏の終わりから秋へと季節が移ろう中、美紀は、ふと田中から見せられたオカルト雑誌の記事に心を引かれていた。その記事には、少し離れた場所にあるトンネルと公園の心霊情報が記されており、そこが「かつて陰陽師が封印を行った地」であると噂されていたのだ。その公園は、橘家の本家が断絶するきっかけとなった出来事とも繋がりがあるらしい。美紀は以前から祖母に、橘家にまつわる話として、どこか意味深に語られてきたその場所が心に残っていた。
「かつて祖先が封印した何かがそこに眠っているならば、私にはその使命を果たす責任があるのでは…」
美紀はそう考え、すぐに祖母に相談したが、祖母はその場所にある怨念の力が強大であり、今の美紀では危険が伴うと告げた。それでも美紀は決意を固め、あらゆる方法で対処法を探し出す覚悟を決めた。そこで思いついたのが、霊的な支えとしての存在、天狗に再び助言を仰ぐことだった。
***天狗山での助言と霊石の勾玉***
翌日、美紀は天狗山に向かい、祠の前で手を合わせて祈りを捧げた。そして心の中で、天狗に再び助けを求めると、静寂の中から霊気が広がり、やがて天狗が霧のような影から現れた。天狗はどこか満足げな眼差しで美紀を見つめ、彼女の心の中にある不安と決意を感じ取ったかのように語りかけてきた。
「橘家の継承者よ、よくここまで成長したものだ。だが…公園やトンネルに憑きついている怨霊は、今のお主の力では到底及ばぬ存在だ」美紀は、その言葉に美紀は一瞬ひるんだが、それでも意志は揺らぐことなく、少しでも怨霊の手がかりを得たいと天狗に願い出た。天狗はしばらく考え込んだ後、深く頷き、身に着けていた霊石の勾玉をそっと美紀に差し出した。
「この霊石の勾玉を身に付けよ。これにより、お主の霊力はさらに高まるであろう。今度の週末、公園の奥深くにあるかつての封印の場へ向かえ。そこで、ある人物と巡り会うことになるはずだ。その者からお主にとっての新たな導きが授けられるであろう」
美紀は静かに頭を下げ、勾玉を両手で受け取ると、天狗に感謝を述べ、山を下りて行った。
***運命の出会い***
そして約束の日、少し肌寒い秋風の中、美紀は勾玉を手に、決意を込めて公園へと向かった。公園は秋の木々に囲まれ、ひんやりとした空気が満ちている。周囲には人気がなく、かすかな霊的な気配が美紀の霊感に響いていた。
公園の奥深くへと進むにつれ、どこか古めかしい気配が漂い始め、やがて周囲は不気味なほどの静寂に包まれた。霊石の勾玉が美紀の胸元で冷たく輝き、彼女の霊力をさらに高めているのを感じる。すると、その先に、霊的な気配が強く感じられる方向に向かって慎重に歩いていると、何かが待ち構えているかのようにひとつの人影が現れ一人の女性が、歩いているのを見かけた。
美紀は注意深く気配を消して、その女性に近寄って行くと、歩いていた女性が急に固まった様になり、周囲に悪霊の姿が現れた。
遠くから「國府田!」と、彼女の名前を呼んでいる男性の声が聞こえた。
美紀は注意深く、女性の方に向かうと、再び、「國府田、逃げろ!」と声が近づいて来る。
美紀は、女性を取り囲んでいる悪霊に向かって、
「そこまでよ!」と声を上げ、符を空中に放り投げ素早く呪文を唱える。
「朱雀よ、降臨し、この悪霊を浄化せよ!」
空中で符が燃え上がり、瞬く間に朱色の巨大な鳳凰が出現し、鳳凰は大きく翼を広げ、辺りを照らすような光を放ちながら、女性に迫っていた悪霊達を次々と浄化して行く。
その場にただずんでいる、女性に向かって男性2人が、駆け寄り声を掛けた。
女性は意識を取り戻し男性と話、美紀に向かって、「……あなたは……?」と、尋ねる。
美紀は少し微笑み、穏やかに答えた。「橘 美紀。橘家の末裔です」
美紀は彼らをじっと見つめ、危険な行動について注意を促す鋭い言葉を放った。
「あなたたち、もしかしてあのオカルト雑誌を見てここに来たの?」美紀は
冷静ながらも少し厳しい表情で問いかけた。
2人の男性は顔を見合わせ、返事をした。
「え、ええ、まぁ、ちょっと興味があって……」と答えた。
美紀はため息をつき、「あの雑誌に書いてあることは本当よ。けれど、こんなところに興味本位で来るなんて、命知らずね。ここは普通の場所じゃないわ。封印が弱まっていて、悪霊が出現してもおかしくない場所なのよ。近づくのは本当に危険なの」と警告した。
男性は、少し黙っていたが「ええ、でも、ここがそんなに危険な場所だとは思っていませんでした。助けていただいて本当にありがとうございます」と丁重に礼を言った。
女性も、まだ震えながら美紀に感謝の言葉を伝えた。「本当に……助けていただいてありがとうございます。もしあなたが来てくれなかったら、私……どうなっていたか……」
美紀は少し微笑んで、「大丈夫。助けられてよかったわ。でも、本当にここは危険な場所だから、
軽い気持ちで近づかない方がいいわ」と再度警告をした。
男性の一人が「ところで、どうしてあなたはここに?どうしてこんな場所に来ていたんですか?」と、
尋ねて来る。美紀は少し考えて深く息をついて話し始めた。「私は橘家の末裔なの。かつてこの地で封印を施した一族です」
「橘家……橘宝輪の一族、ということですか?」男性が驚いた表情で尋ねた。
美紀は頷きながら「そう、橘 宝輪は私の先祖。そして、彼はこの地に悪霊を封印しようとしたけれど、失敗してしまったの。その結果、一族は散り散りになってまったわ。私はその一族の末裔なの」と、答えた。
すると、もう一人の背の高い男性が驚きながら、「そんな……橘宝輪の封印が失敗したなんて……」と呟いた。
美紀は静かに「橘家の本家は断絶した結果、私の家系が橘家を引き継ぐ事になったの。私の一族は、この地から離れた場所にあり直接関わって無かった事から、危害を受けずに助かったの」
女性は、まだ少し震えていたが、
感謝の念を込めて、再び「本当にありがとうございます。助けていただかなければ、私は……」
美紀は女性に向かって優しく微笑んみながら「あなたを守れてよかったわ。でも、これからも気をつけて。この地の封印は完全ではないから、悪霊はさらに強くなるかもしれない」と警告した。
男性は「もう少しお話を聞かせていただけませんか?私たちもこの場所についてもっと知りたいんです」と尋ねてきた。
美紀は少し考えてから静かに頷き
「わかったわ。ただし、軽い気持ちでは関わらないで。これからは本当に危険な状況が増えるはずだから」と話た後、連絡先を交換して別れた。
美紀は3人を見送った後、しばらく辺りを見回って、公園を確かめて回った。
かつて、この場で橘 宝輪が封印の儀を行い、失敗してしまった。
その原因について、何か手がかりが無いか探ってみた。
***封印の原因探し***
日が沈みかける静かな公園。美紀はかつての封印の場所で一人、周囲を見渡しながら、祖先・橘宝輪が封印に失敗した理由に思いを巡らせていた。
その場所には、わずかな霊気の残滓が漂い、古い封印の痕跡が感じられた。手の中で天狗から授けられた霊石の勾玉をそっと握りしめると、彼女の霊力が周囲に広がり、薄暗い公園にかすかな光が浮かび上がった。その光は美紀の霊力に共鳴するように地面を走り、やがて公園の一角、古びた石碑の近くにたどり着くと、不自然な黒い痕が視界に飛び込んできた。
美紀は慎重に石碑に近づき、手でその黒い痕に触れてみた。かすかながらも禍々しい気配が指先に伝わってくる。「これは…何かの封印が施されている…?」
***影の封印と祖先の失敗***
そのとき、不意に彼女の頭の中に天狗の言葉が響き渡った。「お主の祖先・橘宝輪は、強大な怨霊を封じ込めようとしたが、封印が完全には成らなかったのだ。その場には影が潜んでいた――怨念と結びつき、封印を乱す力を持つ影の存在が…」
美紀はその瞬間、目の前にある黒い痕が、祖先の封印を妨害した影の残りであることを理解した。この影は、霊的な存在が完全に浄化されず、地に染みつくことで生まれたものだ。長い年月が経った今でも影は消え去らず、封印が失敗に終わった原因としてこの地に留まっているのだろう。
美紀はその黒い痕を見つめながら、自分が今まさに祖先の果たせなかった使命を引き継ごうとしているのだと強く意識した。
***新たな封印術の準備***
「これは、普通の浄化や封印術では取り除けない…」
美紀は勾玉に手を添え、深呼吸して霊力を高めると、持ってきていた霊符を取り出した。この影に対抗するためには、自分の霊力を最大限に使う必要があると直感的に感じていた。天狗や田中から得た知識を思い返しながら、彼女は再び呪文を唱え始めた。
「この影を浄化し、封印の力を強化するには、自分の精神を無にし、内なる力を完全に制御しなければならない」彼女の呪文に合わせて、霊符が光を帯び始め、影の黒い痕にじわじわと浸透していった。
やがて、影が蠢くように動き出し、美紀の霊符の光がその姿を覆い尽くしていくと、影が小さくなり始めた。完全に消え去るには時間がかかるかもしれないが、この場を浄化することで、次の封印を施す基礎が築かれていくことを美紀は確信した。
***次なる試練への決意***
浄化を終えた美紀は石碑の前で静かに手を合わせ、祖先・橘宝輪の霊に祈りを捧げた。「私は橘家の末裔として、あなたの果たせなかった封印の使命を継ぎます。どうか見守ってください」
その夜、公園を後にした美紀の心には、祖先の失敗を超え、この地を守り抜くという決意が強く刻まれていた。彼女は、いつか再びこの地で強力な封印を施すための術を完全に習得し、さらなる強さを手に入れる必要があることを自覚していた。
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