新たなる挑戦 影の存在
美紀は、天狗から渡された巻物、古文書を読み進めながら日々の鍛錬を続けていた。
そんなある日、ある気配を感じた。
美紀は天狗から授けられた巻物を読み解きながら日々、基礎の霊術や精神統一に関する鍛錬を続け霊術の基本を少しずつ自分のものにしていった。巻物に記された術の中には、強大な霊力を扱うための技が数多く含まれており、その一つ一つに慎重に取り組む必要があった。
ある日、美紀が夕方の修行を終えて自室で巻物を広げていると、窓の外から急に冷たい風が吹き込んできた。その風にはどこか禍々しい霊気が混じっており、美紀は何かが近づいているのを感じ取った。彼女はすぐに窓の外を見回したがが、影はなく、周囲は静まり返っている。
「この気配…何かが近くにいるのは確かだ…」
美紀は警戒しつつ、祖母から教わった護符を取り出し、家の中に張り巡らせる。霊的な防御を施しつつ、祖母のもとへと向かった。祖母はすでに庭に出ており、鋭い眼差しで周囲を見回していた。
「美紀、感じたかい?この辺りには今までにない強い霊気が漂っている。これはただの霊ではない…おそらく、かつて橘家が封印した悪しきものが再び動き出そうとしているのかもしれない。」
美紀は祖母の言葉に緊張を覚えた。天狗との試練を終えてから日が浅いとはいえ、霊的な力が増した今ならば、再び悪霊が現れても対処できる自信があった。しかし、祖母の表情がいつになく険しいことから、この霊気がただの悪霊以上のものであることを察した。
「おばあ様、私にできることがあれば教えてください。どんな試練でも向き合います」
祖母は少し考えたあと、美紀に静かに語りかけた。「では、天狗からの巻物にある霊術の基礎はすでに十分に身についていると信じよう。だが、今夜は新たな術に挑戦する時かもしれない。影の存在を封じ込めるための術が顧問書の奥に記されているはずだ。まずはそこをよく読み込み、必要な霊符を準備しなさい」
***影の封印術の学び***
美紀は祖母の助言に従い、古文書の巻末に記された術に目を通した。そこには「影の封印術」と呼ばれる高位の封印術が記されており、悪しき影や怨霊など、形を持たない霊的な存在を封じるための特別な結界を張る方法が詳述されていた。
「影は、人の不安や恐れに寄り添い、力を増幅させる性質を持つ。霊術を操る者であっても、影がその心に潜り込めば、たちまち取り込まれてしまう。封印に臨むときは、己の心を真に無にせねばならぬ」そう古文書に書かれた一節が、彼女の目を引いた。
この封印術には、三重の結界と霊符による複数の強化術式が含まれており、また結界の最も奥に、自身の霊力を注ぐことによって、影を浄化する仕組みが組み込まれていた。美紀はさっそく、古文書の指示に従い、必要な霊符と術式を準備し始めた。
***影との対峙***
その夜、再び禍々しい霊気が家の周囲に満ち始め、美紀は霊力を高めながら影の気配に意識を集中させた。しばらくすると、闇夜の中にゆらめく不気味な影が現れ、美紀を見つめていた。影は姿を持たないものの、まるで彼女の心の奥深くを覗き込むかのような、得体の知れない力を感じさせた。
「これが、影の悪霊…」
美紀は強張る心を静かに抑え、霊符を掲げ、三重結界を張り巡らせた。影はじわじわと近づいてきたが、美紀の結界が立ちふさがるように輝き、影が進むのを阻んでいた。
しかし、影はまるで美紀を試すように、結界の隙間から冷たい気配を送り込もうとしている。美紀は一瞬、内にわき上がる不安に囚われそうになるが、祖母や天狗の言葉を思い出し、深呼吸して再び精神を統一した。
「私は橘家の継承者。決して屈することはないわ」
その言葉を胸に、美紀は顧問書に記された術式を一つひとつ丁寧に結界に組み込み、影を完全に包囲する術を完成させた。影は次第にその動きを鈍らせ、やがて霊符の力によって押し込まれ、浄化の段階へと進んでいった。
美紀は自身の霊力を結界に注ぎ込み、影の悪霊をその場で浄化させる術を唱えた。次第に影は淡い光を放ち、やがて小さな霧のように消えていった。周囲の霊気は清浄なものへと変わり、風が静かに吹き抜け、空には月が光り輝いていた。
***新たなる力の芽生え***
影の封印を成し遂げた後、美紀は少しだけ肩の力を抜き、冷静な心で古文書を見つめ直した。巻物に記された霊術の力が少しずつ自分のものになりつつあるのを感じていた。顧問書の教えによって強化されていく霊力は、橘家の血筋に根ざした力であり、彼女自身の決意が新たな力として育ち始めているのを実感する。
「これで少しは、天狗に認められるかもしれない…」
そんな淡い期待とともに、さらなる鍛錬への意欲が湧き上がる美紀。彼女は次の試練を待ちながら、より一層の修行に励む決意を新たにした。
***新たな試練の予感***
翌日、いつも通り学校へ行った美紀は、昼休みになると親友の楓と真子と一緒に談笑してた。二人の明るい会話に耳を傾けながらも、美紀の心は昨夜の影の封印に集中していたため、どこかぼんやりとした感覚が残っていた。しかしその時、真子が突然興奮したように話し始めた。
「ねぇ、知ってる?この前、近くの河川敷で見つけたんだけど、そこに古い祠があってね、昔悪霊を封じた祠だって噂があるんだよ!」
美紀は内心、ハッと緊張が走った。「河川敷の祠…」と聞いた瞬間、心にざわつきが起こります。自分に宿る陰陽師としての霊感が敏感に反応し、どこか不穏な気配を感じた。
楓は興味津々に目を輝かせ、「そんな祠があるなんて知らなかった!悪霊の祠なんて、めっちゃ面白そうじゃない?次の週末、みんなで行ってみようよ!」と、話題に乗り気だった。
美紀は慎重な表情で、「でも、そんな場所に行っても何もないかもしれないし、ちょっと不気味じゃない?」と消極的に返したが、真子も楓も全く気に留めなかった。
「ただの祠だよ、怖くなんかないって!私たちにとってはちょっとした観光スポットみたいなもんよ!」と真子が笑顔で言い、楓も「きっと楽しいよ!美紀も一緒に行こう!」と誘います。美紀は内心のざわつきを抑え、二人に合わせて行くことになった。
***河川敷の祠***
週末、美紀、楓、真子の三人は、河川敷にあるという噂の祠へ向かった。普段の明るい雰囲気の二人に引き換え、美紀はどこか緊張感を覚え、心の中で天狗から与えられた巻物の内容を反芻しながら歩いていた。祠は川沿いの草むらの中にひっそりと佇み、周囲には枯れた木々が静かに揺れているだけで、人の気配は無かった。
祠は古びていて、長い年月が経っていることが一目でわかった。木々の陰に隠れるようにして存在しているため、普段は誰も気に留めない場所のようだった。祠の前に立った三人は、それぞれ手を合わせて軽くお参りをしました。
楓が嬉しそうに言った。「ねぇ、真子、本当に悪霊を封じた祠なんだよね?こんなに静かな場所で、なんかおどろおどろしい感じはしないけど。」
真子も少し困ったように首をかしげ、「うん、ただの噂話かもしれないけどね。昔の人が言い伝えてきただけって感じかな。」
美紀は、何か違和感を感じながらも、二人の会話を静かに聞いていた。しかし、そのとき突然、冷たい風が吹き、周囲の空気が異様なほどひんやりとしたものに変わった。美紀はその瞬間、霊的な気配が周囲に漂っているのをはっきりと感じ取る。
***祠の封印の兆し***
美紀は内心で不安を抑えつつ、静かに結界を張り巡らせるために小さな霊符を取り出した。楓と真子が楽しそうに祠の周りを見ている間に、周囲に霊的な防御を施す。目に見えない結界が美紀の手から柔らかく広がり、祠を包み込むように展開された。
その時、祠の周りに漂っていた霊気が次第に形を成し、黒い影がうごめき始めまた。影は、ゆっくりと形を変えながら、河童の姿に変わり、三人を取り囲むように動き始め、美紀の霊力を見定めるかのようにじわじわと近づいて来る。
「…っ、これはただの噂話じゃなかったみたい…」美紀は心の中で決意を固め、静かに霊符を取り出し、影の霊気に対して封印の術を唱え始めた。霊符からは淡い光が溢れ出し、影の存在を抑え込もうするが、河童はまるでそれを嘲笑うかのように、美紀の結界を揺るがし始めた。
***河童との対峙と朱雀の力***
楓と真子は突然の異変に気づき、驚いた表情で美紀に駆け寄りました。「美紀、これって何?どうしてこんなことが起きてるの?」
美紀は二人に向かって言った。「ここから離れて。河童の妖怪が封印を破ろうとしている…」
楓と真子は少し不安そうに頷き、美紀が指示した結界の外へと避難しました。美紀は全身に集中力を高め、古文書に記されていた術式を一つひとつ思い返し、再び三重結界を張り巡らせて影を抑え込もうとした。影の霊気は徐々に収束し、彼女の力で封じられていくように見えたが、突然影が勢いを増し、美紀の結界を打ち破ろうと襲いかかってきた。
「ここで、屈するわけにはいかない…!」
美紀は心の中で強く念じ、霊力をさらに高めて行く。そして、朱雀の力を借りるため、心の中で語りかける「朱雀よ、私に力を!」
すると、美紀の後ろに朱雀の霊体が現れ、その燃え盛る朱色の炎で河童を包み込む。河童は苦しげにうめき声を上げ、朱雀の炎に焼かれるようにして徐々に消え去っていった。美紀は緊張の中にも確かな手応えを感じ、再び霊符を掲げて封印の術を施し、影を完全に消滅させた。
***河童の浄化と決意***
周囲が再び静寂に包まれ、河童の霊気が完全に消え去ったことを確認した美紀は、安堵の息をついた。楓と真子もほっとした様子で、美紀の方に駆け寄った。
「美紀、すごい…何が起きていたのかよくわからないけど、助かったよ。本当にありがとう」
美紀は微笑んで頷き、心の中ではさらなる試練の予感が強く湧き上がってきていた。封印された妖怪や悪霊がこの地に眠っている以上、橘家の末裔である自分にはまだやるべきことが多いと感じた。
「これで、また、少しは、天狗に認めてもらえるかもしれない…でも、私はもっと霊力を鍛えなければならない」
そう心に誓いながら、美紀は二人とともに河川敷を後にした。彼女の内なる力が、今まで以上に大きく目覚めつつあるようだった。これからも続くであろう試練に向け、美紀の決意はますます強固なものとなっていた。
購読、ありがとうございました。物語を書き進めて更新頻度をアップしました。話がまだ始まったばかりなので、ある程度、進めて行きたいと思う所もあります。