橘家の使命 - 天狗山の試練
美紀は天狗山で出会った天狗の話を重く受け止めていた。天狗山の試練を受ける事が美紀の使命と挑戦になるなる事を。
自宅に帰った美紀は、心の奥に天狗山での出来事が強く残っていた。悪霊を封じ、人々を守る陰陽師の末裔としての運命に導かれたように、彼女の心はふとした瞬間に使命の重みに引き寄せられているようだった。
***祖母との会話***
祖母が茶を入れながら彼女に問いかけた。「美紀、天狗に会ったと聞いたが、それは本当なのかい?」
美紀はうなずき、祖母に天狗山で起こった出来事をすべて話した。天狗との出会いと試練、祖先の橘家が封じた悪霊が再び目覚めようとしていること、そして天狗が新たな封印を命じたこと――美紀の声はどこか静かで確かな決意に満ちていた。
祖母はしばらく黙っていたが、やがて語り始めた。「そうか、ついにお前もこの使命を背負う時が来たんだね。橘家は代々、陰陽師としてこの地の平穏を守り続けてきた。そして天狗とは長年共闘し、数多くの悪霊を封じ、魑魅魍魎を鎮めてきたんだよ」
美紀はその言葉にじっと耳を傾けた。祖母は続けた。「天狗と橘家の一族は、互いの力を借り、数々の試練を乗り越えてきた。だが、天狗が試練を与えるということは、お前が橘家の継承者としての資質を見定められている証拠だ。それはとても厳しいものになるだろう。心をしっかりと整え、決して気を抜かぬように」
美紀は祖母の言葉をかみしめながら、心に誓った。「おばあ様、私は必ず天狗の試練を乗り越えてみせます。そして、この地の人々を守る陰陽師としての務めを果たします。」
祖母は穏やかに微笑んだ。「そうだ、覚悟を持ってお行きなさい。そして決して、恐れに囚われてはいけないよ。」
***天狗山への再訪***
次の週末、美紀は早朝に目を覚まし、祖母に教えられた守り札と、封印を施すための小さな式符を携え、電動アシストの自転車に乗り天狗山へと向かった。霧の立ち込める山道を駆け上がりながら、美紀の心には覚悟と緊張が同居していた。山頂に近づくにつれ、徐々に霊的な感覚が研ぎ澄まされていくのを感じた。
やがて天狗の祠に到着すると、辺りは静まり返り、神聖な霊気が漂っていた。祠の前で手を合わせ、心を落ち着かせて祈りを捧げていると、不意に背後から声が聞こえました。
「よく来たな、橘家の継承者よ。」
振り返ると、そこには前と同じ威厳に満ちた天狗の姿がありました。鋭い眼差しで美紀を見据え、静かにうなずいて「先日課した試練に挑む覚悟はできているようだな。今から、試練を始める。ついて来い」
天狗に導かれながら美紀は公園の隅にある山道へと進んだ。その奥には、以前見たことのない古びた祠があった。天狗は険しい表情を浮かべ、静かに言いました。「ここに封じられし者は、かつて橘家の先祖が封印した大きな蜘蛛の悪霊だ。しかし封印が緩んだ今、その力は再び目覚めようとしている。」
天狗の言葉に、背筋に冷たいものが走ったが美紀は覚悟を決め、祠の前に立った。そこには蜘蛛の形をした禍々しい気配が漂っており、その巨大な影がまるで生き物のようにうごめいていた。
***蜘蛛の悪霊との戦い***
美紀は祖母から学んだ霊符の結界を張り、悪霊に向かって封印の術を唱え始めた。緊張で手が震えそうになるのを抑え、集中力を高めて霊符を掲げると、霊符は柔らかな光を放った。だが、蜘蛛の悪霊はその光をまるで侮るように睨み返し、強烈な霊気で美紀の結界を揺るがした。
「これでは…効かない!?」美紀は焦りを感じながら、次の術へと切り替えもう一つの技で、霊符を幾重にも重ね、蜘蛛の悪霊を束縛する術を行った。一瞬、蜘蛛の動きを封じ込められたようだったが悪霊は再び術を破り、さらに不気味な唸り声を上げて美紀に向かってきた。
ここで恐怖に呑まれてはならない。祖母の教えが胸によぎり、美紀は精神を再び集中した「橘家の力よ、私に宿れ!」と心で強く念じ、朱雀の召喚に挑んだ。
***朱雀の召喚と浄化***
「我が守護獣、朱雀よ、炎をまといし力で悪霊を焼き尽くせ!」美紀の声と共に、朱雀が燃え盛る炎とともに現れた。鮮やかな朱色の光が周囲を包み、蜘蛛の悪霊を炎で浄化していった。美紀はその姿を見ながら、一瞬でも気を緩めないようにと緊張を保ち続けた。
朱雀の力で弱り始めた蜘蛛の悪霊は、うめき声を上げながら必死に抵抗して来るが、美紀は手にしていた封印の札を強く掲げ、祠に向かって再び封印の儀を行った。悪霊は次第にその姿を霧のように消し、美紀の術に飲み込まれて消えて行った。
***天狗からの認めとさらなる修行***
祠が静寂に包まれると、美紀は安堵の息をつき、天狗のもとに戻った。天狗は静かにうなずき「見事だ、美紀。お前には、この地を守る力がある。しかし、この封印は始まりにすぎぬ。悪霊や怨霊は多く巣くい、そのすべてを封じ込めねばならぬ時が来るだろう。」
天狗は巻物を指し示し、「さらに霊力を高め、術の力を正確に扱えるように修行を続けるがよい」と告げた。
美紀はその言葉を受け止め、頭を下げました。「はい、どんな試練も乗り越えてみせます。私は、橘家の最後の陰陽師として、必ず使命を果たします。」
天狗は満足そうに微笑み、「その覚悟を忘れるな、継承者よ。巻物に書かれている術を全て習得とたならば、再び訪れるがよい」と伝えると姿が消えた。
美紀は再び山道を下りながら、新たな試練に向けて決意を新たにした。
***新たな試練への序章***
天狗からの試練を終え、自宅に戻った美紀は、心に刻まれた使命の重みに深く思いを巡らしていた。天狗から授けられた巻物「顧問書」には、橘家に伝わる数々の霊術や封印の奥義が記されており、それをすべて習得することが次の試練の鍵であると告げられていた。祠での悪霊との戦いは終わったものの、彼女の霊術はまだ未熟であり、さらなる鍛錬が必要であると痛感していた。
その夜、彼女は巻物を静かに開き、顧問書に記された一行一行を丁寧に目で追った。墨で丁寧に書かれた文字は、橘家の一族が代々伝えてきた知恵と力の結晶であり、書かれた霊術はそのまま彼女の祖先たちの記憶と精神そのもののように思えた。そこには、天狗と共に多くの魑魅魍魎を封じ、平穏をもたらしてきた家系の歴史が淡々と綴られていた。
巻物の内容は奥深く、基本の術から高度な術まで、段階ごとに細かく説明がなされていた。美紀はまず基礎の部分に戻り、集中して術の構えや力の込め方、呼吸法の一つひとつを確認していった。特に、橘家の陰陽師が伝えた「真理瞑想」と呼ばれる心の鍛錬に関する教えが目を引いた。これは心を穏やかに保ちつつ、内なる霊力を呼び覚ますための精神統一の修行であり、すべての霊術の基礎となるものだった。
こうして、美紀は、天狗から授かった巻物を読み、日々鍛錬する事が日課となっていった。
購読、ありがとうございました。美紀の能力は、まだまだ、普通の霊能者より少し長けている程度の流れで進んでいます。いきなり最強の陰陽師でもなく、これから色々な試練に立ち向かっていく事になりそうです。