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天狗山の出会い

竹藪の事件も解決し、美紀たちは、平穏な毎日を過ごしていた。そんなある日、楓からの誘いを受ける事になった。

 前回の竹藪での怪異から時が経ち、春の訪れと共に美紀の高校生活は少し落ち着きを取り戻していた。ある放課後、友人の楓が美紀に声をかけてきた。「ねえ、美紀、今度の週末、天狗山に行ってみない?雑誌で見たんだけど、あの山はかなり有名なパワースポットらしいんだ。祠でお願い事をすると叶うって書いてあったよ。」


突然の誘いに美紀は驚いたが、以前から霊的な場所として天狗山に興味を持っていたこともあり、「いいよ、今度の休日は空いているから行こうか」と笑顔で答えた。楓も嬉しそうにうなずき、「真子も一緒に行くって約束してたんだ。三人で行こう!」と、にっこりと微笑んだ。


***天狗山への旅立ち***


 週末、陽射しが差し込む山道を、美紀、楓、そして真子は楽しげに歩いていた。天狗山は300メートルほどの山で、地元では古くから霊験あらたかな場所とされ、天狗が祀られている祠もある。幼い頃に祖母に連れられて何度か訪れたことのある美紀だったが、友人と共に来るのは初めてだった。3人は徒歩でゆっくりと登って行く。歩きながら活発で明るい性格の真子が「ねぇ、天狗山には祠の奥に洞窟があるらしいよ。そこには、天狗が住んでるんだって」と少し興奮気味に話した。


「洞窟なんてあるんだ、着いたらちょっと探検してみようか!」と楓も興味津々に答える。美紀は慎重に「暗いし、ちょっとだけ覗くくらいにしようね」と言ったが、心のどこかで不思議な予感がしていた。


***天狗の祠と洞窟***


 山頂の公園に着くと、三人はベンチに腰を下ろし、少し休憩を取った。風が穏やかに吹き抜け、山の空気が気持ちよかった。三人は奥に進み、天狗の祠を見つけると、それぞれ手を合わせて願い事をした。祠の周囲には静かな霊気が漂い、美紀は橘家の陰陽師としての使命を再認識するかのように、心の中で祖先たちに祈りを捧げた。


 3人は、しばらく公園の中を探索しテーブルのあるベンチに座り昼食を取る事にした。

学校の出来事や噂話に3人は花を咲かせた。昼食を取り1時間ほど過ぎた頃、天気が急に悪化し、空が曇り始めた。予報では晴れだったはずなのに、突然雨が降り始め、風も強く吹きつける。「雨宿りしようよ」と楓が慌てて言い、三人は祠天狗山の頂上近くにある祠で雨宿りをしていた。天気予報とは違って突然降り出した雨は、徐々に強くなり、祠の奥にある洞窟に三人で入ることにした。


 祠の裏に回り奥に進んで行くと、3メートル程の高さの洞窟の入り口が見えた。

3には急いで洞窟に入った。それぞれ、スマホのライトで洞窟の中を照らしたが奥に続いている様だった。


 楓が「しばらくここで雨宿りしようよ。天気予報では晴れだったからすぐに止む筈よ」と提案し、しばらく雑談をしていた。10分ほど過ぎた頃、奥から重々しい気配が漂い始めた瞬間、美紀の霊感が研ぎ澄まされた。


「何か、いる…」心の中で呟く美紀。その瞬間、洞窟全体が静まり返り、楓と真子の動きが止まった。まるで時が凍りついたかのように、二人は微動だにしない。美紀は不思議に思いながらも、奥の暗がりに目を凝らすと、そこには古の威厳を放つ天狗が姿を現していた。


***天狗との対話***


 天狗は美紀をじっと見つめ、重々しい声で語りかけた。「橘家の末裔よ。かつての栄光を忘れ去り、怠惰に流された一族の者が再び現れるとはな」美紀は一瞬、戸惑いながらも毅然とした声で答えた。「私は橘 美紀。陰陽師としての使命を果たすため、力を磨き、橘家の名誉を取り戻す決意でここにおります。どうか修行を授けてください。」


 洞窟内の重い空気の中、美紀に向けられた天狗の視線には、どこか懐かしむような色が宿っていた。その鋭くも静かな瞳が、過去に思いを馳せるようにゆっくりと細められる。


「橘家の末裔よ……かつてこの地を守るため、命を賭して封印の儀を施していた一族。その姿はどこに行ったのか。力も失い、長きにわたり静かに過ごしてきた橘家……」天狗の声は、少しずつ遠く昔を懐かしむように柔らかくなり、洞窟の空間に静かに響き渡った。「だが、橘家の血は絶えぬ。お前の中に確かにその力が眠っている……。今はまだ小さき炎に過ぎぬが、磨き、育てば、お前もかつての橘家のようにこの地を守れるであろう」


 天狗の語る声には、かつて橘家が成し遂げてきた偉業とその後の衰退に対する無念さと同時に、彼らの記憶が心に刻まれているかのような優しさが込められていた。まるで長い年月、橘家の使命を見守り続けてきた証人のように、彼の言葉は美紀の心に深く沁み込んでいった。




天狗は美紀の覚悟を試すように、鋭い眼差しで見据え、そしてゆっくりと微笑みながら言った。「ならばまず、この山に巣くう悪霊を自らの力で封じてみせよ。祠の力を借りず、己の力でな。できたなら、さらなる力を授けてやろう。だが、気を抜けば、巣くう悪霊に飲み込まれよう。覚悟があるのなら、戻ってくるがいい」」


美紀はその言葉に一瞬息を呑んだが、力強くうなずいた。「はい、必ずや果たしてみせます。」


 天狗はうなずき、再び薄闇の中へと消え去った。すると、周囲の空気が解けたかのように、洞窟内にさざめく音が戻り、時間が再び動き出した。楓と真子は何も気づかない様子で、変わらず雑談を続けていた。ふと外に目を向けると、洞窟の入り口から一筋の陽光が差し込み、雨上がりの空がまるで霧がかったベールを脱ぎ去るかのように晴れ渡り霧の向こうに差し込む光は、まるで彼女の進むべき未来の道がそこにあるかのように広がっていた。


 美紀が洞窟を一歩出ると、青空が雲間から顔をのぞかせ、光は周囲の緑を優しく照らしていた。地面には雨の粒がきらきらと輝き、山の樹々や草花が生き生きとした色彩を取り戻している。微かに立ち昇る霧が木漏れ日の光に溶け込み、空気には新たな始まりを感じさせる清々しい香りが漂っていた。


 美紀はその光景を眺めながら心の中で誓った。「私は、橘家の最後の陰陽師として、必ずや使命を果たしてみせる」遠くに広がる山々と、澄んだ青空は、まるで彼女の未来への道を示すように静かに輝いていた。


 ***山を下りる***


 洞窟の外から一筋の陽光が差し込んでいることに気づいた真子が、「あ、晴れてきたみたいだね!」と喜びの声を上げた。三人は洞窟を出て、清々しい空気の中、再び山道を歩き始めた。真子と楓が笑顔で冗談を言い合う中、美紀は静かに心の中で天狗の言葉を繰り返し思い返していた。


「この山に巣くう悪霊を祠の力を借りず、自らの力で封じよ」──それは、今の美紀にとっては過酷な試練であり、橘家の使命を果たすために避けては通れない道であった。祖先から受け継いだ霊的な力と、天狗の教えがあれば、必ずや試練を乗り越えられるはずだと美紀は信じた。


 山を下りながら、美紀の心には新たな決意が芽生えていた。橘家の陰陽師としての血を再び目覚めさせ、悪霊から人々を守るための真の力を手に入れること。それは、祖先が果たせなかった封印を成し遂げることでもあった。彼女は天狗山に再び通い、さらに修行を積む決意を固めていた。


 「ねぇ、美紀、大丈夫?なんだか様子が違うけど…」と、楓が話し掛けて来た。

美紀は笑顔で「久しぶりの登山でちょっと疲れたみたい。もう歳かな」と冗談交じりで返した。


 楓が笑って「私も、ちょっと疲れたかも。歳には勝てないわ」と冗談で返す。



「私は、橘家の最後の陰陽師として、必ずや使命を果たしてみせる」そう心に誓いながら、美紀は山道を静かに歩き続けた。陽光が差し込み、霧が晴れた山の風景は、美紀の未来を照らしているようにも見えた。


こうして、新たな試練への幕が静かに開けて行った。




 購読、ありがとうございました。

のんびりペースで書く予定ですが、けっこう話が長く続いてしまいそうな予感もあります。

短期連載のスピリチュアルズ ジャーニー寮のスピンオフの位置付けですが話が続く可能性もありそうです。


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