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陰陽師としての使命

 日本の歴史の裏には、長い間ひっそりと人々を守ってきた存在がいる。彼らは闇に潜む悪霊や怨霊を封じ、影のように人知れず戦ってきた陰陽師たちだ。彼らの一族が代々受け継いできたのは、ただ力ある儀式の技術や式神の召喚だけではなく、守るべき者たちへの使命と責任。そこには深い絆と、時に哀しみを抱えた家系の物語があった。


本書の主人公、橘美紀は、そんな陰陽師の血を引く最後の継承者。かつては名高い一族であった橘家も、時の流れとともに忘れ去られ、彼女が目覚めるまでその霊的な力は眠り続けていた。しかし、祖先たちが守り抜いた封印が弱まり、再び悪霊たちが動き出す兆しが現れた今、彼女は静かに封印の使命を引き受ける。


本書は、美紀が一族の宿命を受け継ぎ、影の陰陽師や悪霊たちと戦いながら成長していく姿を描いた物語です。彼女は困難に立ち向かい、失われた家系の誇りを取り戻そうとする中で、現代に蘇る霊的な危機と向き合っていきます。彼女が歩む道には、祖先たちが残した「橘家の志」が息づいており、失われた力を呼び戻すための試練が待ち受けています。


陰陽師としての使命と、心の中で葛藤する少女の物語。彼女がその手で封印の力を再び高め、悪霊から人々を守ることができるのか――その答えは、皆様とともに物語の中で明らかになっていくでしょう。

橘家は陰陽道の歴史において、長きにわたり悪霊や怨霊を封じ込め、人々を守ってきた由緒ある陰陽師の一族だった。その家系は代々、強力な式神を操り、封印の儀式を行う力を受け継いできた。しかし、時代の移り変わりと共に陰陽師としての影響力は薄れ、やがて人々の記憶から消えていった。


 そんな橘家にも決定的な転機が訪れることになる。80年前、橘家の直系である橘 宝輪が「式神封印の儀」を行った際に、封印の儀式が影の陰陽師によって妨害され、悪霊が封じ込められずに暴走してしまった。その儀式の失敗により、本家の橘家は一夜にしてその役目を終え、ほとんどの者が命を落とした。それ以来、橘家の本家は途絶え、わずかな者が生き延びたものの、封印の力は長らく途絶えてしまった。


***橘 美紀の登場***


 時は流れ、現代。美紀は、橘家の末裔としてひっそりと生きていた。彼女の家系は、橘家の分家として数世代にわたり陰陽道の基本を守り続けていたが、強大な封印の儀式を行う術式は失われていた。彼女の祖父母はかつて陰陽師の道を歩んでいたが、橘家の本家が途絶えてからは一般社会に溶け込むように生活してきた。


 しかし、橘家の血が絶えたわけではなかった。彼女の体には、代々伝わる霊的な力が眠っており、そして、彼女がその力を引き継ぐべく育てられたことも事実だった。物心がつくころから、美紀は祖母から陰陽道の基本や儀式の作法を教え込まれてきた。幼い頃から祠に立ち式神を召喚する呪文を覚え、式札を使いこなすまでに成長していた。


 美紀が18になったある日、祖母から手渡された一冊の古びた巻物が、美紀の人生を大きく変えることになる。巻物には、「封印の継承者としての橘家の歴史」が記されていた。彼女は橘家の最後の継承者として、この地に封印された悪霊や怨霊を再び封じ込める使命があることを知らされる。


「お前にはこの力を引き継ぐ資格がある。だが、過去に封印が破れたことで、多くの悪霊がこの世に潜み、静かに力を蓄えている。もしこの封印を完成させなければ、いずれこの地には再び災厄が訪れるだろう」と祖母は厳しい表情で語った。


***蘇る封印の記憶***


 美紀は、橘家の末裔としての使命を心に刻みつつも、封印の儀式を成功させるにはまだ自信がなかった。彼女は祖母の教えを受けながらも、現実の生活と霊的な力との狭間で揺れ動いていた。しかし、彼女の迷いを打ち砕く出来事が起きる。


ある晩、美紀が家の近くを散歩していると、近くの古びた祠の前で突然、冷たい風が吹き荒れ、霊気が立ち込めているのを感じた。その瞬間、周囲が薄暗くなり、遠くから低いうなり声が聞こえてきた。彼女が祠に目を向けると、そこにはかつて封じ込められたはずの悪霊の気配が漂っていた。橘家の封印が弱まり、封じられた悪霊が再び目覚めようとしているのだ。


「今、封印を再び施さなければ……」


 美紀は自分の使命を思い出し、覚悟を決めた。彼女は幼い頃からの教えを思い返し、必死で呪文を唱えながら式札を空中に投げると、朱雀の霊体が現れ、悪霊に向かって燃え盛る炎を放つ。悪霊は苦しげに叫び声を上げ、霧のように消え去った。


 「やったわ。悪霊を退治できた。朱雀、ありがとう。」



***最後の継承者としての覚悟***


 その夜の出来事をきっかけに、美紀は自分が封印の継承者として悪霊や怨霊に立ち向かわなければならないことを強く意識するようになった。彼女の使命は、かつての橘家の封印を再び強化し、悪霊の脅威から人々を守ることにあった。


 しかし、その道は決して平坦ではなかった。かつて橘家の封印を妨害した影の陰陽師の一族が再び動き出し、封印を壊すための策謀を巡らせていた。彼らは封印が弱まっていることを察知し、美紀を標的にして暗躍し始める。


美紀は橘家の名誉と使命を果たすべく、陰陽道の力を磨き、式神を操る術を習得するため、厳しい修行に臨むことを決意する。彼女は、かつての橘宝輪が果たせなかった封印の完成を目指し、そして橘家の名を再び高めるため、決して後戻りしない覚悟を胸に秘めていた。


***運命の旅路へ***


封印の継承者としての使命を受け入れた美紀は、自らの運命に立ち向かうべく、影の陰陽師や悪霊たちとの戦いに備え、さらなる霊的な知識と技を求めて旅立つことを決意する。


「私は、橘家の最後の陰陽師。絶対に、祖先の志を無駄にはしないわ」


美紀の戦いは、これからが始まりだった。


***竹藪の怪***


 そんなある日、美紀は高校の同級生で友人の大山 楓から、ある噂を聞く事になった。

高校の帰り道、楓と会話していると「ねえ、美紀、知っている?あの竹藪の噂」

美紀は「竹藪の噂って?」と、楓の方を振り向いた。

楓は、少し間を置いて「高校の近くにある竹藪なんだけど、妖怪を見た事があるって。。。」

美紀は「妖怪って?」と興味深そうに楓の顔を眺めた。美紀の黒い長髪の髪が風になびいた。


楓は話を続けて「その竹藪の通りを歩いていると真子が不気味な声がして竹藪の奥を覗き込んだらね。黒い影の様な大きな獅子の妖怪を見たそうなんだ。」


「それで、どうなったの?」と興味深く美紀が尋ねた。


 楓が少し深刻な顔で「それから、真子が家に帰って寝る時間になると、毎晩、その獅子の妖怪の声が聞こえるようになったそうなの・・・実は、私もその竹藪を通ってから、真子と同じ様に声が聞こえるようになったの。」


***竹藪の怪異***


 美紀は友人の楓から聞いた竹藪の怪異についての噂に強い興味を抱いていた。霊や悪霊に対して敏感な感覚を持つ彼女は、竹藪に潜む獅子の妖怪がただの噂話ではないことを本能的に感じ取っていた。彼女にとってこの怪異は、橘家の使命を果たすための新たな試練であり、祖先から受け継いだ力を試す場でもあった。


夜が更け、静かな竹藪に霧が立ちこめる中、美紀は一人でその場所を訪れることを決意した。竹の葉が風に揺れ、かすかなざわめきが耳に届く。竹藪の深い闇の中、美紀は自分の周囲に漂う不穏な気配を感じ取った。祠の前で祖母から教え込まれた呪符を握りしめ、彼女は心を落ち着けながら悪霊に備えた。


「ここにいるんでしょう?」美紀が低く呼びかけると、突然、竹藪の奥から低い唸り声が聞こえた。暗闇の中から現れたのは、漆黒の影をまとった獅子の妖怪だった。その瞳は赤く輝き、美紀に狙いを定めるように睨みつけている。


「あなたが人々を脅かしている悪霊ね。橘家の末裔として、ここで封印させてもらうわ」


 美紀は呪文を唱え、符を掲げる。符が空中で光を放ち、彼女の前に朱雀が姿を現した。朱雀は羽を大きく広げ、燃えるような炎をまといながら獅子の妖怪に向かって突進する。


獅子の妖怪は鋭い咆哮を上げ、美紀に向かって突進しようとしたが、朱雀の炎に包まれた瞬間、苦しげな叫びを上げながらその場で動けなくなった。美紀はさらに結界を張り、妖怪を封じ込めるための呪文を唱える。やがて、獅子の影は霧のように薄れていき、静かに竹藪の中に消えていった。


***翌朝 楓との会話***


 次の日の朝、学校で楓と顔を合わせた美紀は、彼女が以前のように不安な表情を浮かべていないことに気づいた。楓は不思議そうに言った。


「美紀、あの竹藪のこと、なんだか急に気にならなくなったみたいなの。毎晩怖くて眠れなかったのに、今は安心できる」


美紀は微笑みながら頷いた。「よかったわ。もう大丈夫、これからは安心して過ごして」


楓は美紀が何かしたのではと察しているような目で見たが、それ以上は問いただすことはしなかった。橘家の使命を背負う美紀にとって、こうした怪異との戦いは決して他人に明かすことのできない秘密だった。しかし彼女は、陰陽師としての力を持つ自分にしかできない役目を果たす決意を新たにする。


竹藪の怪異を封じた美紀の心には、祖先の力が脈打っていることを強く感じる瞬間があった。これからも彼女にはさらなる試練が待ち受けている――人々の知らないところで、影の陰陽師や悪霊たちと戦う日々が続く。橘家の名を守り、陰陽師としての宿命を果たすために、美紀は一人、静かに戦いの旅を続けていくのであった。



ご購読、ありがとうございました。


スピリチュアルズ ジャーニー寮のスピンオフ版として橘 美紀を主人公にした物語を書いてみました。



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