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ティー・シロップ

 自動販売機で買ったミルクティを飲みながら彼女の話を聞いた。

 名前はジュネというらしい。県内在住だが、家はもっと南にあるという。職場もそちらの方だ。今日は潟杜で仕事があり、社用車に機材を積んで一人で出張した。

 作業が終わったのは二十時過ぎで、潟杜市内で食事を終え、再び社用車で中央道に乗り帰路についた。今日中には家に帰るつもりだったが、途中で眠気を感じ、休憩の為に潮蕊湖サービスエリアに立ち寄った。

 ジュネが潮蕊湖サービスエリアを訪れるのはこれが初めてではない。休憩場所として選んだのも、使い勝手をよく知る場所だったからだ。しかし、平日の夜中とはいえ、まったく誰もいないというのは珍しいな、と、最初はかすかな違和感を抱いただけだったという。

 自動販売機でコーヒーを買い、車に戻って飲もうかとも思ったが、ここにいる方が暖かいし、他の利用者もいなくて静かに過ごせそうだったので、通路にあるソファに腰を下ろして栓を開けた。膝にタブレットを乗せ、それで小説を読みながら、ゆっくりとコーヒーを飲んだ。

 利用者はまだしも、売店のレジにもフードコートの厨房にも人がないというのは妙ではないか、と気づいたのは、場面転換の部分で集中が途切れて、何気なく自分の周囲を見渡した時である。

 その時にはもう、最初にくぐった自動ドアも含めてすべての出入り口が開かなくなっていた。

 タブレットの時計によると二日が過ぎたが、その間、外はずっと夜のまま。新たに誰かが来る事も、こちらから外部に連絡を取る事も出来ない。

 ようやく現れた、初めての例外が利玖だった。

「なるほど……」

 利玖は頷いた。

 甘いミルクティのおかげで少し頭が回り始めた。今なら食事を取っても気分が悪くなる事はなさそうだ。

「確かに、情報交換をした方が良さそうですね」利玖は空き缶をごみ箱に入れ、踵を返した。「立ち話もなんですから、フードコートに移りましょうか。少し待って頂けますか。荷物をまとめてきますので」

 リュックサックにラップトップを押し込んで再び通路に出て行くと、ジュネがきょとんとした顔で、こちらを見ていた。

「どうして喫煙所に?」

「食べ物のにおいがちょっと駄目だったんです。吐きそうになりまして」

 ジュネが「アラ」と言って口を押さえた。彼女の視線が、ちらっとお腹の方に向く。

「つわりじゃありませんよ」利玖は言った。

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