7 ランスver.
「ランスッ!」
楽しそうに走り回る度にライラックの髪は風にサラサラとなびき、そして濃い紫に少し黄色が入り交じる瞳…
……可愛い俺の天使……
そして俺は黒髪に瞳はスカイブルー。
…魔力が異様に強い者の容姿だと言う。
街の皆は俺を差別せずに接してくれるが、大きな学園ではそういかなかった。
親が俺の膨大な魔力を心配して勉強を兼ねて学園へ行かせてくれたのだが、半年程で辞めた。
数年前にこの街にやって来た医者の先生に魔力をコントロールする勉強は十分に見てくれているしな。
何よりレイチェルが行かない学園なんて…意味がない。
俺達街の者は王宮勤めや騎士、魔法省へ進む者以外は大体は街の学校で事足りる。
将来魔法省へと学園の先生達に言われたが、差別をする性格の悪い奴らの集まりなら俺はここで街の皆と楽しく暮らす方を選ぶ。
学園より先生に学ぶ事の方が多いし。
俺は…先生のそばで沢山の事を学びたい。
この街で…特にレイチェルの前だけは気を張らずに本来の泣き虫なラルフでいられるんだから。
「レイッ、いるか?」
食堂へ今日も元気な王子がやって来た。
食堂の扉を勝手知ったるなんとやらで、CLOSEの札を掛けているのに入って来る。
全く…今度サシャに言わなくちゃ。
いくら小さな街とはいえ、色々と支障も出そうなので周りには遠い国からの留学生、ウィルで通す事にした。
サシャはそのまま見習い従者だ。
ランチが丁度終わって片付けの途中だったのでお客はいない。
レイチェルが楽しそうにウィルと話していたので、俺はタイミングを見計らって出ることにした。
「……いやっ……別に…………顔…近い…」
前言撤回、今出よう。
「あ、ウィル。今日はどうしたの?」
厨房から出るとレイチェルがウィルの背中を俺の方へと押した。
「……あぁ、前に教えてもらったクッキーを作ってみたんだが……アイツの好みに合うか………どうかな?」
耳元でコソッと話してから持ってきた袋を手渡してきた。
「…どれどれ?………ん…美味しい。良く出来てると思うよ。」
食べてみると形は歪だが、初めて作ったにしては味も安定して美味しかった。
元々器用そうだし、料理センスはあるのだろう。
「……そぅか…良かった。王宮の料理人に頼み込んで作っている所を見てもらったんだ。」
あ、レイチェル…また思いに耽ってるな。
じゃぁ話せるか。
「頑張ったね。このゴロゴロした感じ…丁度良い砕き具合だしレイチェルも喜ぶんじゃないかな?」
「あぁ…好きなヤツの胃袋を掴むのは大事な事なんだろ?料理長に話したら乗り気でさ。またレイチェルの好みの料理聞いてこいって言われた。」
「じゃぁ…またサシャに言っておくよ。」
「………なぁ……あそこで目をギラギラさせながらレイがこっち見てんだけど…あいつ本当にお前の事好きじゃないのか…?」
「……あぁ……何かたまにレイってあぁなるんだよねぇ………可愛いのに…残念と言うか……俺にとっては妹として好きなだけで…家族だよ。」
……なんて、残念なんて少しも思ってないんだけどね。
寧ろそれすら可愛いし。
そして、レイチェルには見えないように背を向けて俺はウィルを見下ろす。
「………大切なレイチェルを泣かせたら……俺…王子でも容赦はしないよ?」
……あの紫の瞳を喜び以外の感情で濡らすなんて…たとえ王族でも許さない。
そろそろこっちに戻ってるかな?
物思いに耽ってるのも終わったっぽい顔だしね。
「レイチェル。」
「何?」
ウィルから貰った袋からクッキーを取り出してレイチェルの小さな口に持っていく。
「あ~ん。」
「あ~………むぐっ。」
「……美味し?」
「んぐ…………あ、美味しい♡」
「でしょ?これをおやつに3人で休憩がてらお茶しよう。」
「これ、ランスも好きじゃん。良いの?3人で分けて。」
レイチェルが好きだからなんだけどね。
「うん。俺は3人で食べたいな。ウィルは食べたって言うし、まかないはまだ作ってないから父さんに何かサンドイッチでも作ってもらってくるよ。」
「分かった。じゃぁ、他のテーブルも片付けてくるね!」
俺は厨房に戻って父さんにサンドイッチをお願いし、母さんには3人で軽食にするから父さんと2人で食べるようにお願いする。
「良いわよ~♪若い子同士お喋りもいっぱいあるしね。はい、お茶。」
「何となくそうなると思って作っておいたぞ!持ってけ。」
「ありがとう。」
サンドイッチと飲み物を持って戻ると片付けを終えたレイチェルとウィルが席に付いていた。
そこからレイチェルの壊滅的な料理の話になり………あのオムレツは本当に苦しかった……先生がいなかったら俺…生きてたかな?
「……俺も……食べてみたい……」
「上手になったらね。」
王子にあれは…流石に…
「じゃぁ!俺が料理を作るから………!」
___コンコン!___
「失礼致します!ウィル様っ‼︎お迎えに上がりましたっ‼︎」
「あ、お迎えが来たね。今日はここまでか。」
サシャはウィル専属の従者。
始めはさん付けで呼んでたが、歳が近いので今や呼び捨てだ。
ドアを開けると、サシャが息を切らして立っていた。
「全く…大体はこちらかレイ様のパン屋と分かってはいるのですが……出来れば次回からは私にもスケジュールを教えて頂けるとありがたいのですが……」
いやぁ……俺達のスケジュールなんて日々出来る事をしてるからなぁ……
「取り敢えずウィル様っ‼︎午後のお仕事が溜まり始めていますので戻りますよぉっ!」
「えっ!いやっ!まだ俺っ‼︎」
「………そんな中途半端な告白……俺は認めないよ。しっかりした状態で出直しておいでね。」
……俺の大事なレイチェルに、こんな中途半端なシチュエーションで言うの?
ちゃんと雰囲気考えてよね。
そんな気持ちを込めて、ニッコリと笑ってウィルをサシャに引き渡してドアを閉めた。
「レイチェル、今日もありがとう。今度は明後日手伝ってもらっても良い?」
「うん。家は大丈夫みたいだからいつでも良いよ。また明日も人手がいるようなら声を掛けてね。」
俺はレイチェルに大好きなチーズケーキをお土産に渡して家に帰した。