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6 ウィルver.

「ウィル様、今日はこちらの書類をお願い致します。」


「ウィル様、辺境からの依頼で橋の工事による警護の人材が足りないと要請が来ているのですが……」


「あぁ…この書類は兄様に…辺境からのは…‥第4騎士隊に辺境の出身者がいただろう?その者に地域の環境具合も聞いておけ。人材はそれを聞いてから順次増やしていく。取り敢えず第4騎士隊から信用出来る奴をリーダーに選んでくれ。連れて行く人選はそいつに任せる。」


………はぁ……兄様がもう少ししっかりとしてくれれば………


この国は500年の歴史があるそこそこ古い王国で、特に特化したものがないから周辺国からは見向きもされていない。

貴族数も少ないしな。

ただ、魔法の力の強い者を生み出しているから「この国を怒らせると国が傾く」と噂をされているので下手に手を出せないのだろう。

国の気質なのか父様が良き指導者なのか、反乱もなくこの国は穏やかで土地も広過ぎず程良く周りを見渡して手を差し伸べる事も出来る。

俺はこの国が大好きだ。


しかし…次代の王となる予定のこの兄が………何とも頼りない……

花をこよなく愛し、争いを嫌い……見た目も母に似てしまった少女の様なこの容姿…兄弟でどうしてここまで違ったのか………


「はぁ……疲れた……」



___コンコン___



「失礼致します。ウィル様、お仕事お疲れ様です。」


「あぁ…疲れた……」


「もぅっ、そんな顔に出さないで下さいよっ!良いお話を持って来たんですから‼︎」


「何だよ…」


「王様から、城下に見に行って欲しい所があるとのお話です。」


「あぁ、何か最近街に活気が出ているそうだしな。」


「えぇ、近々祭りもありますし…流通もですが街の人々の表情などを見てきて欲しいそうです。あと…」


1枚の小さな肖像画を渡された。


「この方の消息が城下で判明したそうですが、どこにいらっしゃるのかは不明だそうです。探せたら探してほしいと…」


「……ふ~ん……誰?コイツ。」


「王様の古い友人…だそうですが……」


「分かった。」


「では早速お召し物を選別致しましょう!」


俺は「遠い国からやって来た中流貴族の留学生」という体で城下へ下りることにした。


「良いですか?くれぐれもはぐれないようにして下さいよ‼︎」


……と、言っていたのだが……


賑やかな町並み、笑顔で楽しそうな住民達。

祭り前の街は人が多いと聞いていたが……本当に多かった…

あちこちに気を取られて気付けばサシャとはぐれ、早朝に出て昼食前だったのもあって腹が空き過ぎた上の…


「どこだ………ここ………」


道に迷った。


___グゥゥゥゥ………___


腹減ったぁぁぁ……俺…腹減ると本当にダメなんだよなぁ………

道の真ん中でしゃがみこむのは流石にまずいと思って、細い通路に入って店らしき裏口の近くで座っていた。


___ガチャ___


「………あの………大丈夫で………」


…あ…サシャか……?

全く…見つけるの遅いんだよっ‼︎


「………腹減ったぁぁぁぁぁ‼︎」


「いやぁぁぁぁっ‼︎」


あれ?声高…

両手を広げて身体を預けようとしたら、身体を背中にまで引きつけて乗せられ投げらた。

気が付くと心配そうに俺を見ていた男に引き上げてもらい、その日昼食に誘って貰った。

それがランスだった。

もう1人、俺を投げ飛ばした…レイチェル。

自慢じゃないがいくら腹が減っていたとはいえ俺は武術で誰にも負けた事が無かったのに……これが「負ける」って事か。

しかも女だったとは…王宮の弱すぎる女共とは全く違ってコロコロ変わる表情に俺はどんどんレイチェルに惹かれていった。


そして…ランスの食堂の食事は心が温まる。

食事でレイチェルはみんなから「レイ」と呼ばれているので俺もそう呼ぶ事にした。

ランスから「レイチェル呼びは俺だけのものだよ。」って耳打ちされたからじゃない。

2人は恋人同士なのか確認したら違うと言われてホッとした。

その後、サシャを連れて再びこの店に来てからは常連となった。


「レイッ、いるか?」


レイとの距離を縮めたいとランスに相談したら、レイは料理が出来る男と結婚したいと聞いて王宮の料理長に教えてもらいながらレイの好きなクッキーを作ったが……どうもレイはグイグイと俺をランスの方へ押し出す…何故だっ⁉


「……あぁ、前に教えてもらったクッキーを作ってみたんだが……アイツの好みに合うか………どうかな?」


ランスの元へ行って耳元でコソッと話し持ってきた袋を手渡した。


「…どれどれ?………ん…美味しい。良く出来てると思うよ。」


「……そぅか…良かった。王宮の料理人に頼み込んで作っている所を見てもらったんだ。」


「頑張ったね。このゴロゴロした感じ…丁度良い砕き具合だしレイチェルも喜ぶんじゃないかな?」


「あぁ…好きなヤツの胃袋を掴むのは大事な事なんだろ?料理長に話したら乗り気でさ。またレイチェルの好みの料理聞いてこいって言われた。」


「じゃぁ…またサシャに言っておくよ。」


「………なぁ……あそこで目をギラギラさせながらレイがこっち見てんだけど…あいつ本当にお前の事好きじゃないのか…?」


「……あぁ……何かたまにレイってあぁなるんだよねぇ………可愛いのに…残念と言うか……俺にとっては妹として好きなだけで…家族だよ。」


そして、レイに背を向けたランスが俺を見下して言った。


「………大切なレイチェルを泣かせたら……俺…王子でも容赦はしないよ?」


……スカイブルーの目が氷の様に冷たく光る……

思わず背筋に緊張が走った。

こんな目を……レイは知っているのか……?

そしてレイの方へ振り返った時にはいつものランスへと変わっていた。


俺の勘が言っている……こいつは絶対怒らせてはいけないヤツだと……


「レイチェル。」


「何?」


ランスは渡した袋からクッキーを取り出してレイチェルの口に持っていった。


「あ~ん。」


「あ~………むぐっ。」


「……美味し?」


「んぐ…………あ、美味しい♡」


嬉しいが…今はランスが羨ましい……


「でしょ?これをおやつに3人で休憩がてらお茶しよう。」


ランスが気を利かせてくれてお茶をする事になった。

サンドイッチと飲み物を持ってランスが戻って来て摘みながらレイチェルの壊滅的な料理の話で盛り上がる。


……レイの手作りオムレツ……


「……俺も……食べてみたい……」


「上手になったらね。」


「じゃぁ!俺が料理を作るから………!」



___コンコン!___



「失礼致します!ウィル様っ、お迎えに上がりましたっ‼︎」


「あ、お迎えが来たね。今日はここまでか。」


このまま告白をしようかと言う所でサシャが迎えにやって来た。

ランスがドアを開けると、サシャが息を切らして立ってる。


「全く…大体はこちらかレイ様のパン屋と分かってはいるのですが……出来れば次回からは私にもスケジュールを教えて頂けるとありがたいのですが……取り敢えずウィル様っ‼︎午後のお仕事が溜まり始めていますので戻りますよぉっ!」


「えっ!いやっ!まだ俺っ‼︎」


次まで待てないっ!俺はっ‼︎


「………そんな中途半端な告白……俺は認めないよ。しっかりした状態で出直しておいでね。」


ニコニコしているが…ふざけるなと言わんばかりに爽やかなスカイブルーが冷たいスカイブルーの氷の瞳に変わる。


そのまま俺は外に追いやられてドアを閉められた。

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