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食事をした後「必ず次にお金を持って来るから」と、王子は店を出て行き、後日本当にお付きの人を連れて豪快に食事をしてお金を払っていった。
そこからは食堂の常連だ。
「レイッ、いるか?」
今日も元気に王子がやって来る。
王子の名前はウィルフリッド。
周りにはウィルで通り始めていた。
王子としては今の所ランスしか顔が知られていないので、少し遠い国から留学中の貴族な設定らしい。
簡単に寄り付けないオーラで周りを牽制してるけど……王子…設定通って良かったな。
存在自体が忍んでない。
「いるよ。ランチ終わっちゃったけど…良いの?」
「あぁ、今日は用事で来たからな。」
ランチが丁度終わって片付けの途中だったのでお客はいない。
ウィルがモジモジとしているの姿を見て……私は察知した。
「………ランスなら…あそこだよっ♡」
耳元でコソッと教えてあげた。
「………お前…何か勘違いしてるだろ……」
「え?何が?」
顔を見るとウィルが固まった。
「……いやっ……別に…………顔…近い…」
顔を赤くして俯いた。
アッハ~ッ♪照れちゃってぇ!バレて恥ずかしいんでしょ?
その顔、頂きましたっ‼︎
「あ、ウィル。今日はどうしたの?」
厨房から私達の声を聞いてランスが出て来たので、私はランスの方へ行くようにウィルの背中を押してあげた。
「……あぁ、前に教えてもらったクッキーを作ってみたんだが……………どうかな?」
恥ずかしそうにしたもののウィルはランスの元へ行き、少し耳元でコソッと話してから持ってきた袋を手渡した。
「…どれどれ?………ん…美味しい。良く出来てると思うよ。」
「……そぅか…良かった。王宮の料理人に頼み込んで作っている所を見てもらったんだ。」
フフフ……ホンワカしちゃってぇ……
しかし、よく王宮の料理人がOKしたよなぁ。
私はそばに行かずに近くのテーブル席から片付ける振りをして2人を眺めていた。
***レイチェル劇場***
『……ランスの為に…俺が何か作りたいんだ……』
『え…?俺の……為に……?』
___トクン…ッ……___
『お前の物なら…何でも良いよ…』
ランスがウィルに近付いて顎を上げる。
『……お前以上に甘いのを……俺は知らないけどな……』
『………ラン…ス…………』
___自主規制___
***************
はぁぁぁぁぁんっ‼︎
な~んてなっっ☆
そっからのこれ!「美味しいよ♡」
いやぁぁぁっ!萌えるっ‼︎
しかもっ!ランスが私に見えないようにウィルを隠して何か言ってる?!
ちょっとウィルが硬い表情になってるっポイけど……何か告られたぁ??
クソッ!遠慮しすぎて少し遠かったか‼︎
「レイチェル。」
「何?」
ウィルから貰った袋を片手に持ってランスがこちらに来た。
「あ~ん。」
「あ~………むぐっ。」
「……美味し?」
「んぐ…………あ、美味しい♡」
アーモンドとかの砕いたナッツ系の入っているクッキーだ♪
「でしょ?これをおやつに3人で休憩がてらお茶しよう。」
「これ、ランスも好きじゃん。良いの?3人で分けて。」
「うん。俺は3人で食べたいな。ウィルはお昼をもう食べたって言うし、まかないはまだ作ってないから父さんに何かサンドイッチでも作ってもらってくるよ。」
別に2人で食べてくれても良いんだけどなぁ。
「分かった。じゃぁ、他のテーブルも片付けてくるね!」
私はテーブルを急いで片付けて3人でお茶をする事にした。
「おじさんとおばさんは?」
「あぁ、今日は3人で食べたい気分…かな。あとは……ちょっとね……ウィル……最近寂しそうなんだよね。」
「そうなの?」
私には凄く楽しそうに見えたけど?
「王子だから友達が少ないんだって。だから祭りも一緒に行ってみたいらしいよ。」
「えっ♡じゃあ!私は邪…いやっ…男同士の方が良いなら2人でも……っ‼︎」
「おっ…俺はお前達2人が良いっっ!」
もうっ!どこまで恥ずかしがり屋さんなんだ。
可愛くて妄想が止まらなくなるわっ‼︎
ハッ!いかんいかんっ。ここは冷静に……
「フフッ……私も一緒で良いの?」
ニヤけた顔をほほえんで誤魔化した。
「そうそう、レイチェルが一緒だとずっと食べてるよ?」
「あっ!ランスだってお酒飲んでばっかじゃん!」
「あ!シィ~ッ‼︎父さん達にバレたら怒られちゃう!」
……こんな小さな街じゃバレバレなんだけどなぁ。
笑い合いながら3人で祭りの話で盛り上がり、クッキーもあっという間に無くなった。
「………なぁ、レイ……クッキー…美味しかったか?」
ティカップを両手で持って俯きながらウィルが聞いてきた。
「うん、美味しかった♪凄いなウィルは。私料理苦手だもん。だから、結婚するなら料理上手な人とするんだ~。で、毎日作ってもらうの。」
「フフッ…レイチェル、昔から言ってるよねぇ。それに……未だに料理が壊滅的に出来ないもんね。」
笑顔で話していたランスが、何かを思い出したようにみるみると青ざめて言った。
……こないだ作ったオムレツの事を言ってんだろうか……
あれは確かに悪かった。
転生前は苦手でもそこそこ1人暮らしが出来る程度には作れたというのに…こないだ作ったあれは…何か人外な生物でも生まれるんじゃないかと思う程の出来栄えだった。
「……俺…1日寝込んだんだよな…」
そう、小さな頃からどんな料理も必ずランスは食べてくれる。
そして…必ず先生にお世話になっていた。
「……俺も……食べてみたい……」
「上手になったらね。」
じゃないと……私……刺客と間違えられるっ!
「じゃぁ!俺が料理を作るから………!」
___コンコン!___
「失礼致します!ウィル様っ‼︎お迎えに上がりましたっ‼︎」
「あ、お迎えが来たね。今日はここまでか。」
サシャはウィル専属の従者。
始めはさん付けで呼んでたが、歳が近いので今や呼び捨てだ。
ある程度公務は済ませては来るが立場は王子。
やらなければいけない事は沢山ある。
なので毎回王子専属の従者が迎えにやって来るのだ。
ランスがドアを開けると、サシャが息を切らして立っていた。
「全く…大体はこちらかレイ様のパン屋と分かってはいるのですが……出来れば次回からは私にもスケジュールを教えて頂けるとありがたいのですが……」
いやぁ……会社員じゃないんだから…平民のスケジュールなんてないんだけど。
「取り敢えずウィル様っ‼︎午後のお仕事が溜まり始めていますので戻りますよぉっ!」
「えっ!いやっ!まだ俺っ‼︎」
「………そんな中途半端な告白……俺は認めないよ。しっかりした状態で出直しておいでね。」
……?!何っ!何の告白ぅ⁉︎
ニッコリと笑いながらウィルをサシャに引き渡してドアを閉めた。
「レイチェル、今日もありがとう。今度は明後日手伝ってもらっても良い?」
「うん。家は大丈夫みたいだからいつでも良いよ。また明日も人手がいるようなら声を掛けてね。」
私はお土産のケーキをもらって家に帰った。