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翌日私は熱も下がって店に出た。
「おはよっ!レイッ‼︎大丈夫なのっ⁉︎」
「おはよっっ‼︎レイッ!はいっ!お見舞いの花束っ!」
「レイッ!貴女倒れたんですって?!貴女がいなくなったらと思うと…」
キャアキャアと…朝から賑やかだ。
「ありがとう、私は大丈夫だよ。ゴメン、心配掛けちゃったね。」
「いいえ、そんな事はないのよっ!でも…もう本当に大丈夫なの……?」
「うん、本当に大丈夫だから。ありがとね。」
手を握ってウルウルと自分より小さな女の子達が瞳を潤ませてこちらを見上げる。
まぁ、ほとんどの女子は自分より小さいんだけどさ。
フフッ…この世界は女の子も可愛いなぁ。
あ、思わず頭撫でちゃった。
___キャァァッ!___
「大丈夫っ?!」
周りの悲鳴と一緒に目の前の女の子が顔を真っ赤になってふらついたので抱き締め、そのままお姫様抱っこをした。
「……んっしょっ!こんなに真っ赤で涙目になって…気分悪いんでしょ?店の裏で休みなっ!」
あ、やっぱ普通の小柄女子は業務用の小麦袋より軽い。
「あっ…でもっ…!」
「じゃぁ…気分が良くなったら、ここのパン買って帰って…ね?」
「は…い…♡」
「ハイッ!私、気分悪いわっ!」
「私もっ!」
「ハイハイ君達は違うでしょ~。あ、良かったら今日の食パンはいつもより更に出来が良くてフワフワだよ。買って帰ってみてね。」
………と、私の日常はいつもこんな感じだ………
おかしい……オプションに宝○希望とか言った訳では無かったんだが……
見た目も男っぽくなったらこうなった。
見た目こうだからと、イメージを作るのを止めたんだけどね。
中身は変わってないんだけどなぁ。
___カランカラン___
「おはよう。」
「あ、おはようランス。今日のパンだよね?」
女の子を寝かせてから店に戻るとランスがやって来た。
ランス…2人の時以外は普通に男らしいんだよなぁ。
このままなら良いのに。
「うん。取りに来たよ。」
ランスの家は私の家から徒歩5分の食堂で、お昼前からオープンする。
「今日のパンはイイ感じに焼けてるよ~。」
「レイチェル…」
ランスが私の額に手を当てた。
「……ん……」
___キャァ!___
「……もぅ…熱はない…?」
「うん、無いよ。もう大丈夫。」
何だろう…私が体験したかった事を周りが体験している気がする……
「甘い雰囲気の所悪いけど…ランス、お父さん待ってんじゃないの?」
そんな賑やかに騒がれている女の子の間から母がひょっこり顔を出した。
「あ、そうだ!」
「じゃぁ、今日は量が多いから私も持ってくよ。」
「ありがと。」
近々お祭りもあるのでお客様も多い。
なので、今日はランスの家の食堂を手伝う事になっている。
「今日は開店ギリギリになっちゃいそうだけど…良いかな?」
「良いよ。いつもと変わらないし。」
物心付いた時から食堂には行っているし手伝いもしているので事前研修はいらない。
それにお客様もほとんど常連だしね。
話している間にあっという間に店に到着。
「おはよ~。」
「あ、おはよっ!レイちゃん‼︎今日はよろしくね!」
「レイ!ありがとな‼︎お昼はまかない食べていってくれよ!」
「うん♪楽しみにしてる。じゃあ、ウチの事やってからまた来るよ!」
パンを厨房に置いて再び自分の家に戻った。
ランスの家の食堂は転生前での「食堂」と言うより「カフェ」に近い。
なので、ユニフォームは食堂屋のオバちゃんエプロンではなく…白いシャツに黒いパンツスタイル、ギャルソンエプロン。
おばさんは可愛らしい容姿に合わせてワンピースのメイド服にフリフリの白いエプロンだ。
……私も?似合うわけが無いだろうっ!私は壁の花で良いので白いシャツに黒いベストのパンツスタイルだ。
ユニフォームに着替えて私は食堂の裏口に入ると仕込みを終えたおじさんがいた。
「おじさん、今日のランチは何?」
「今日はクロックマダムとスープだ。」
食事の名前や食材は日本語に脳内変換されているようだ。
ご都合の転生なので料理も地球のものと変わらない。
おばさんはテーブル席の最終チェックをしている。
「分かった。じゃあ、そろそろお店開けるね~。」
私は扉を開け、ラルフはカフェメニュー看板を出しに出ると既に行列が出来ていた。
「こんにちはっ!レイッ!ランス‼︎」
「「あぁ、こんにちは。」」
………何故女子率が高い………
「あぁ、今日は貴女も手伝いに入ったからねぇ…」
「何?おばさん言っちゃったの?」
「ゴメ~ン、女の子達に聞かれて…つい…」
……何てこった……ここはたまに来る男の子カップルを愛でる良い環境なのに……いや、この世界はBL世界なので女子もいるけど男の子同時のカップルも沢山いる。
………いるんだけどさぁぁぁぁ………
こんなに客がいると愛でられないじゃんっ‼︎
「いらっしゃいませ。」
「ランス、いつものね。」
「畏まりました。」
「レイ~こっちに注文よろしくっ!」
「ハイハイ!」
バタバタと水を注ぎに行ったり注文を聞いたりとランチのピークに立ち止まる事はない。
……はぁぁぁん……窓際に男の子同士の可愛いカップルいるのにぃぃぃっ!
「ねぇねぇ…あの子達…付き合い始めっぽいよ~。」
「フフッ…可愛い~…」
窓際カップルの事だろう…チラチラ見てると初々しく下を向いてモジモジしてる。
「……どうかした?レイチェル。」
「………何でも無い………」
おのれぃ…店の事考えたら満員御礼で文句言えない。
沢山のお客の相手に疲れた頃、やっとランチの営業が終わった。
「あ、ゴミがいっぱいですね!捨ててきます‼︎」
結局あの可愛いカップルを見れなかった…クソゥッ!
煩悩退散っ!ゴミ捨てて雑念もスッキリして片付けに専念せねば‼︎
裏口からゴミを出しに出ると、うずくまっている小奇麗な男の人がいた。
「………あの………大丈夫で………」
「………は………」
「は?」
「………腹減ったぁぁぁぁぁ‼︎」
「いやぁぁぁぁっ‼︎」
両手を広げて襲って来たので身体を自分の背中にまで引きつけて乗せ、肩ごしに投げた……俗に言う背負投げってヤツだ。
昔読んだ柔道漫画にハマった時に覚えたが実践は初めてだ。
必死になると出来るもんだな。
「うわっ‼︎」
___ドサッ!___
「…………あ………」
顔を見ると目は閉じているが、かなりのイケメンだった。
気絶させちゃった…⁉︎