1
___春___
……別れの春……
「ゴメン……俺達…別れよう……」
スタイルはそこそこ良くニコニコと大人しく見えて仕事では相手に合わせていたので、大体夏前には告白され翌年春には幻滅されての……これだ……
基本仕事を優先するので付き合っていく内に、彼氏から「俺と仕事…どっちが大事?」と言われて即「仕事」と、返事をしては振られる。
今回は付き合ってすぐの彼氏に腰に手を回されて手刀をし「ゴメン……後ろから気配が来ると……ちょっと…」と、厨二なセリフを言ってドン引きされ振られた……おぉ、珍しくクリスマスに振られて春直前に付き合いだしたら…今回は2週間の最短記録だわ。
………全く…勝手に勘違いして勝手に幻滅して…
………笑える………
………そして、別れもあれば出会いの春………
入社式も終わり、会社の研修が始まる春。
私にとっては再びイチから説明の……春だ。
「おはようございます。今日は挨拶の基本でもある『お辞儀』についてお話ししますね。『お辞儀』…と一口にいっても様々な種類があり、大きく分けると…①会釈・角度は15度②敬礼・角度は30度③最敬礼・角度は45度~90度の3種類があります。」
会社の研修ルームで、周りに微笑みながら配ったテキストを一緒に見ながら新入社員の指導。
いや……良いんだよ……でも教えるのがそろそろ面ど……ゲフンゲフン……そろそろ若い子達に教育担当を譲りたいんだけど…どの子も気が強いというか何と言うか…高圧的に教えても人材育たねぇっつ~のに……で、人当たりが良いと言われてるらしい私に白羽の矢が立ち、ここ数年毎度毎度同じ事を話して研修がスタートする。
「背筋をピンと伸ばし、ゆっくりと丁寧にお辞儀をします。今ではなかなか角度を意識して挨拶をする機会はないですね。でも、普段の生活でもこんな挨拶が出来ると素敵な人に見えますので意識してみて下さいね。」
……と、指先を意識しながらゆったりとした仕草で微笑みながら再び周りを見渡す。
ま、プライベートで私はやったことないけどねぇ……
派遣社員としてあちこちに派遣されて気付けば「スーパー派遣社員」と賞賛され、自覚もなければ意識もないのでのらりくらりと仕事をこなしていたつもりが、いつの間にか担ぎ上げられて派遣元で社員になってからは教育係をするハメになり……元々言葉使いも荒いしガサツなんだけどさぁ……お陰様で会社では言葉使いから仕草まで下手な事が出来やしねぇ……大好きなBL本も会社の近所の本屋で買えず、アニメグッズは通販だ。
「はぁぁぁ……萌が足りない……」
1日目の研修が終わり、私はフラフラと会社帰りに本屋に寄って差し障りのない漫画をいくつか購入し、フラフラと家路へ帰る途中で……
___倒れた___
道端で倒れた私は通行人に救急車を呼ばれて病院へ。
そして私もビックリ…病魔に襲われていた。
昔TVで、倒れるまで重い病気と気付かず入院後、1ヶ月も経たずに亡くなった人の話を観たけど……まさか自分もとは…
両親は大学卒業後に事故でいっぺんに亡くなり、親戚の縁もなく独りっ子だった私は幼馴染で親友の桜子にすぐLIMEをし、すぐに色々と手続きを取ってもらって……そして数日後には私も息が絶え絶えとなりながら桜子の両手をフルフルと握って薄い本やBLコミック、タブレットやスマホのアプリやサイトを会社の人に見られる前に絶対に処理を…と、頼んだ。
……で、意識が完全無くなって「あぁ…私も両親の元へ行くのかなぁ…」と思いきや、目が覚めたら綺麗な神殿と市役所が合わさったような違和感しかない場所に立っていて、手に持っていたのはA4サイズの茶色い書類封筒。
中身は自分のプロフィールなどの人生報告書だった。
善行・悪行をグラフ化していたり、恋愛遍歴・死亡原因……結婚出来なかった原因について…何だこれ?
……三途の川はどこ行った?
「あぁ、三途の川は地下水路になりまして。」
地下水路にする必要なくねっ⁉︎
「ようこそいらっしゃいました。私は天界部、死後受付・審査センターのラムエルと申します。本日は受付と誘導をさせて頂きます。書類をお預かり致しますね。」
全身白のスーツに白い羽根。金色のサラサラヘアな天使?は、丁寧な敬礼とスマイル0円で出迎えてくれた。
___カラァァン、カラァァン___
空から響き渡る鐘の音。
「おめでとうございますっ!貴女はこの度『異世界転生』の権利をご当選されましたぁっ‼︎」
………えっと………
突然何だ?テンション変わり過ぎだし死後のドッキリ…かな?
「あ…失礼……通常は書類受付後に10分程度で地獄か天国、地球へのランダム転生等の審査をするのですが…」
まるでクレジットカードの新規申込審査だね☆
「この度は、神が異世界転生者をこの時間帯にお亡くなりになった死者の方々から適と…いえっ…厳選なる抽選で貴女が当選致しました!」
……今…適当って言おうとしてたよね?
「…で、異世界転生のご案内なのですが……貴方はどんな異世界をお望みですか?乙女ゲー?ハーレム?冒険?……それとも……BL…?」
ピクッ…と反応したのをラムエルは逃さなかった。
「ウフフ…貴女…腐女子でしょ?」
「何故それを⁉︎」
「最近、腐女子さんが多くて。それでは、男の子になって体験したいですか?」
そんな事…私は望んでいない。
「私…モブが良い…」
「え?」
「私はモブとなって、イケメンカップルの一番近い位置から2人のイチャラブを眺めていたい‼︎」
「…な…成る程……」
あ、ラムエル…ちょっと引いてるわね。
でも、分からなくても良いっ。
「私は壁で良いからっ‼︎」
「じゃぁ…イレギュラーですが…壁「いや、壁だと悶えられないから言葉のアヤですっ!スミマセンッッ‼︎」」
「…畏まりました。それでは少々お待ち下さい。」
私の希望を色々聞いてから受付の人に指示し、受付の人はパソコンで入力をしている。
おぉ、キータッチ早いな。
そして「転生カード」と書かれたリアルな虹色に見えるキラキラとしたクレジットカードみたいなものを渡された。
「こちらのカードリーダーに差し込みをお願い致します。電気が付きましたらエンターキーをどうぞ。」
カードリーダーに差し込み、電気が付いたのでエンターキーを押した。
「それではっ「BL世界を堪能出来る異世界」へ転生致しますっっ!いってらっしゃい‼︎」
まるでアミューズメント施設のアトラクションの人みたいなノリで言われたわ…ラムエル…実はテンション高い系なんだね。
そして私は念願のBL異世界に転生する事となった。