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___祭り当日___
「はぁ~い、こっちのホイップにイチゴね。」
「こちらのデコレーションは…オレンジですね。」
「「ありがとうございました!」」
「………手を……離して頂けますか……?」
オッホォッ‼︎
絶景かな絶景かな♡
隣で顔真っ赤なランスに騎士風のイケメン…いや…王宮の騎士隊の人だよな…きっと……いやぁ…目の保養…
「レイッ!こっちも見てよぉ!」
「……あ…ゴメンネ…姫……あ、間違えた。」
隣に気を取られて、商品渡してる最中って忘れてた。
しかも無意識に「姫」とか言っちゃった。
「……あれ……大丈夫?」
お客の女の子を見ると耳まで真っ赤にした女の子が目を潤ませてこっちを見ていた。
「……うん…大丈……夫っ。」
「なら良かった…ありがとうね。そして、隣のお客様…次の方がお待ちなので…変わって頂けますか?」
ニッコリと笑いつつ、なかなか離さないランスを握ってる手を剥がす。
「あ……っ…あぁ……すまないっ!」
女の子はお友達が介抱してくれてるみたいだから大丈夫そうだね。
「……レイチェルゥゥ……早く助けてよっ!」
コソッとランスが涙目で訴えてきた。
「何言ってんのよ、あんなレアな萌え……いや…ランスが気丈に対応したら良い話でしょ~。」
「俺…ギラギ…いや…キラキラされると……固まっちゃうんだよぉぉぉ……」
「あの……注文良いですか……?」
「「はい…いらっしゃいませっ‼︎」」
後ろを向いてコソコソ話していたのは一瞬。
お客の声で振り向いての営業スマイルだ。
そうやってお昼までには限定のカップケーキは無くなった。
そしてランスのメンタルゲージも……
「………今日は動けない…無理ぃぃぃ………」
無くなった。
「おじさん達もうすぐ来るよ~。」
祭りの間の午後はランスの両親とウチの両親がそれぞれ上手い具合に交代し、最終日は限定は無しとなって私達はお手伝い無しで良いとなった。
「先生呼んでこようか?」
「……ん…お願い……」
何かあった時の先生だ。
ポーションか何かもらえるだろう。
夕方にウィルが来れるかもって言ってたよなぁ……じゃぁ先に先生に声を掛けとくか。
私はおじさんと交代した後、先生の家に寄ってからランスの事をお願いして街の友達に声を掛けて夕方まで祭りを楽しんだ。
夕方になって出店に戻るとウィルがサシャを連れて来ていた。
「あ、ウィル。用事は終わったの?」
「あぁ…まぁ……な。」
「では、ウィル様…俺は少し打ち合わせがありますので少し席を外しますが……くれぐれも……くれっぐれもっっハメを外されませんようにっ!」
「分かってるよっ!じゃぁ、後でな!」
サシャがそう言うと人混みの中に消えていった。
「サシャ、こんな時のお付きでしょ?大丈夫なの?」
「あぁ、大丈夫だ。一応騎士隊もや警備隊も強化しているからな。」
何とまぁ……治安の良すぎる街だ事……王子が大丈夫ってんなら良いけどね。
「あれ?ランスは?」
「あぁ、店番で結構メンタルやられてねぇ……部屋に戻ってる。」
「……え?……じゃぁ……」
「ゴメン、私と2人なんだけど……やっぱりランスいないとつまんないよね。」
「いやっ!お前とっ行きたいっ‼︎」
「…お…おぅ…私で良いの?」
ブンブンと音がするんじゃないかと思う程頷かれた。
やっぱ初めての祭り巡りに本命のランスだと…恥ずかしいかぁ~☆
「よしっ!じゃぁ…このレイチェルさんがとっておきの祭り三昧を味あわせてあげる!行こっ!」
私はウィルの手を繋いで出店を巡っていった。
初めて買い食いをすると言うので、オススメの串を刺した肉の出店へ連れて行く。
幼馴染、クロードのやっている店だ。
「おぅ、レイ!また食べに来たのかぁ?」
「おぅ!連れにここの肉を食べさせたくてね!」
「おっ!噂の王子様だよなっ!」
「……え⁉︎何……っ…レイッ…お前…」
ウィルが慌ててコソッっと聞いてきた。
「違う違う…王子様みたいって事だよ。」
「あぁ…そうか。」
「遠い国から来たんだって?みんな王子様みたいって騒いでるぞ。」
アハハと笑うロードリック……
すまないロードリックよ……ウィルはそのまさかの王子様だ。
しかもこの国のな。
「王子様に……ここのお味は合いますかな?」
ニヤリと笑ってウィルに焼きたての串を渡す。
ウィルは一口頬張ると分かりやすい程、パァァァ…っと、顔に表れていた。
「フフッ、美味しいでしょ?」
「うんっ!」
フフッ、一気に食べてる。
口に合って良かった。
そこから色々な幼馴染の店を渡り歩く。
「あ、レイ!噂の王子連れてんの?こっちいらっしゃいよ!飲み物あるわよ!」
「レイ!次はウチな!上手い焼鳥あるぜ!」
「はいはい!順番に行くよ~。」
この小さな街は私の幼馴染でいっぱい。
あちこちから声が掛かる。
「フフッ…お前は…人気者なんだな……」
「え~違うよ?みんなで仲良しなんだよ。」
気が付けばお腹も満腹。
私達は腹休みも兼ねて少し離れた見晴らしの良い丘の上へやって来た。
ここには街を見守る大きな樹があり、精霊が宿る樹とも言われている。
少し歩き疲れたのもあったので樹の下に腰掛けて街を眺めながら話す事にした。
「いつも街が薄暗いのに…今日はあちこちに明かりが灯って上も下も星みたいだねぇ。」
「そうだな……」
「あ、城に帰らなくても良いの?お祭りなんだから王子様のお仕事あるでしょ?」
「……まぁ……そうなんだか……」
サァ……と、心地良い風が吹いた。
「なぁ……」
「…ん?」
「俺……お前が好きだ……」
「……は?」
「聞こえなかったか?だから…」
「いやいや、聞こえた。え?ランスじゃなくて?」
「…まだ勘違いしてんのか……」
え?だってクッキーとか作ったりしてたよね?
「俺が好きなのは…」
ウィルが私の手を握って手の甲にキスをした。
「お前だよ…レイチェル……チュッ。」
「……………っっっ!!!」
「フフッ…お前…顔真っ赤…」
「うぅぅ…うるさいっ‼︎慣れてないんだよっこんなのっっ!」
私はBLを愛でるのに転生したんだもん!
恋愛フラグなんて意識もしてないしっ!
「最初は俺よりも強いお前に一目惚れして…男と思ったんだが…」
「悪かったなぁ!力が強くて。」
「……そういうコロコロと表情の変わるお前に更に惚れた。」
「惚れたって……んな…最初男って思ったんでしょ!え~いっ、手ぇ離せっ!」
「やだね。俺には男も女も関係ない。お前なんだよ。」
恥ずかしいセリフを次々とぉぉぉ!
「お前の返事は気長に待つけど…」
待つけど…?
「俺は俺で頑張ってアピールするから…覚悟しとけよな。」
「そんなっ…」
「ウィル様ぁぁぁぁぁぁ!」
「……時間切れだ。またな、レイ♪」
嬉しそうにサシャの元へと走っていくウィル。
その後は何事も無かった様に家へと送り届けられ、ウィルは城へと帰って行った。