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一画と、一画未満と

―王立美術館―昼―

 人の流れに乗って、館内の入り口から中へと入ると、少しひんやりとした空気が感じられた。

 彫刻や絵画が点々と飾られており、そこかしこで人だかりが出来ている。

 なんちゅーか、このベージュ色を艶やかに纏った、ただの反り立つ柱さえも『かの有名な巨匠がうんたらかんたら』って説明されたならば全然、信じてしまうぞ……。

 クラルさんは、そういった美術品には一切目もくれず、どんどん奥へ、奥へと進んでいく。

 その足取りは異様に早く、サッカ様はクラル様を追うのがやっとで、あ~しは人と人との脚の隙間をヒョイヒョイと抜いて、ついていくのがやっとで。

 ま、視線を上げればサッカ様の腰に結びつけられた三色風船が見え隠れするので追うのは容易いが。

 やがて一際大きな空間が設けられた部屋に入ると、眼前には大きな絵画が一枚だけ飾ってあり、絵の前にはここまでで一番の人だかりが出来ていた。

 その人だかりの後ろ、その大きな絵画を見上げる彼の背中はあって。

 横に並んであ~しらもその視線の先を追う。

「情報はあてにならないな……」

 左目にした片眼鏡を指でクイっとすると、クラルさんは腕組みをして少し笑みを浮かべた。。

「この絵が見たかったんですか?」

 サッカ様が頭上に風船を揺らしながら隣のクラルさんに問い掛ける。

「まあ……そうだったんだけどね」

 それは大きな絵。

 そしてその描かれた人物の大きな胸……。

 絵だからといって盛り過ぎだろーてコレぇー。

 褐色の黒短髪の貴婦人が、大きな剣を帯刀してこっちを見ている構図で。

 左手に装着した金と銀の籠手の紋様が細かく描かれており、褐色肌と相まって妖艶さもある。

 ふむ……。

 絵になるということは、どこぞのお偉いさんなのだろうか?

 ――むっ。

 突如背後から刺激的かつ甘美な香水の香りが、床を這うようにして、あ~しの鼻腔に入って来た。

 そして振り返るよりも先に大きな声がした。 

「クラル。不服そうだな!」

 絵を見ていた周りの人々が一斉に振り向く。

 そこに居たのは絵の中の貴婦人!よりも更に胸が……、

「デカイだとっ……」

 と、あ~しがポツリと呟くと、その貴婦人と目が合った。

「なんだ?喋る鳥がおるのう?」

 おっと……。

 この喋るおっぱ……もとい、この貴婦人は、あ~しを目でも耳でも認識出来る人だ……。

 あ~しはなんとなーく、そそくさとサッカ様の背後に隠れる。

「こ、これはシユ女王陛下!」

 そう言って、クラルさんは跪いて頭を下げた。

 周りの人も、ざわつきながら、次々と同じように跪いて行く。

 最後にサッカ様もストンっとしゃがみ込んだので、ふわりと浮いたメイド服のスカートの中に、あ~しの視界は覆われた。

「やめい!わしがそういうのを嫌いなのを知っておろう。皆の者、立ってこうべを上げよ!」

 一際デカイ声が館内にこだまする。

 やや間があって、サッカ様のスカート内から解放される、あ~し。

 貴婦人もといその女王陛下とやらは、この場の誰よりも露出度の高く、申し訳程度の布を胸と腰周りに巻いている。

 その彼女へと、向かって左後方の侍女が大きな扇をゆっくりと仰ぐもので、腰巻きがヒラヒラと揺れては香水の香りの塊がプンプンと向かって来る。

「まさか陛下がこちらに……。本日はお城の方に居られるかと……」

 と、左目から片眼鏡を外し胸の内ポケットにしまったクラルさんが、ちょっと動揺してる様にも見て取れ。

「クラル。その顔……。どこぞで偽情報でも掴まされたか?」

 そう言ってニヤリとし八重歯を覗かせた陛下の顔は、少女のようなあどけなさも垣間見え。

 ――と、その童顔が一変した。

 鋭い眼光へ豹変すると、向かって右後方の太刀持ちの侍女から振り向かずに、右手で太刀を鞘のまま受け取ると言い放った。

「そこの賊。出て来い!」

 ん!?――

 背後で何か動く気配がしたかと思うと、ケツに衝撃が走り、あ~しの体は宙を舞った。

 ――?!っへ

 景色がルングルングルンと回って、天井と横に倒れ込んだサッカ様、クラルさんの頭を交互に見て、空中でバサッと羽を広げた。

 あ~しらを突き飛ばしながら帽子の男が陛下に短刀を持って突っかかって行く!

 どこからか短い悲鳴も聞こえて。

 陛下は、男のその短刀を引き付けてヒラリと躱し、鞘のまま太刀を振るって男の足下を掬いあげると、一瞬、空に浮いた男をすかさず蹴り飛ばした!

 こっちへと!?――

 ――ぎゃっ!

 スローモーションの様にして、あ~しの真横を飛んで行く男の白目と一瞬目が合った。

 遅れて来た風圧に押されて絵画の方を向くと、男が絵画の胸の谷間に頭からぶっ刺さって、一緒になって床へと崩れ落ちていく。

 人々のざわめきと悲鳴が館内に響く。

 下を向くと、立ち上がったクラルさんがサッカ様の手を取ってあげていた。

「大丈夫?立てるかい?」

「だ、大丈夫です」

 大丈夫そうなので、あ~しはサッカ様の頭上に着地する。

「わしの絵が……」

 ああ……。どうやら大丈夫じゃない人がいますね……。

「……。こうなる前に見られて良かったです陛下……」

 ざわめきの中、クラルさんが目の前で項垂れる陛下へポツリと言った。


―王立美術館・応接室―昼―

 美術館奥の一角に設けられた応接室に、クラルさんの連れとして同席を許されたサッカ様とあ~し。

 長テーブルの奥に陛下が座って、下手側、長テーブルをぐーんと挟んで、クラルさんとあ~しらが座って。

 ま、あ~しはサッカ様の頭に乗りっぱなしではあるが。

 今、給仕が目の前に何かを運んで来て去って行った。

 サッカ様の頭上からソレを覗き込むと、カップには何か茶色いスープ状の物が注がれている。

 胃を程よく刺激するイイ匂いがする。

「タレースープじゃ。そなたらも食え」

 陛下は既にスプーン片手にカップにがっついておられる。

「キミも食べるといい。タレーは美味しい料理だから」

 クラルさんは右隣に座ったサッカ様にそう言うと、ソレを口に運んだ。

「いただきます」

 主も食べ始める。

「ん?少し味が変わったタレーですね?」

 クラルさんが陛下へと尋ねた。

「気が付いたか!さすがクラル!で、隠し味で何が入っていると思う?」

「そうですね……」

 クラルさんが更に一口運んで。

「……ムソ?」

「さすがじゃ!」

 陛下がニコッとした。

「手に入れたんですか?」

「ああ!製造方法もな!」

「それは興味深いですね……」

 ようわからん会話のラリーが無言で食べるサッカ様の隣で行われている。

「ところでクラルよ。わしを見て何か思わんか?」

「はい?……」

 陛下は椅子からやおら立ち上がると、ご自身の腹肉をつまんで見せた。

「はい……?」

 クラルさんの返答に陛下は椅子に座り直した。

「……お前は姉のケツばっか見て育ったからかのぅ」

「陛下……」

「分かっておるわ!お前も『陛下!痩せましたね!』くらい言えんのか?」

「そもそも痩せる程、太っておられましたか?」

 間。

「クラル……。今なら切腹で許す!そこで腹を切れ!」

「物騒な~」

 クラルさんの額に汗が滲んだ。

 タレースープのせいだろう。

 いろんな意味で。

「このムソがわしには合っていると思うての。昨年から朝晩の飯には料理人に頼んで入れて貰っておるのじゃ!」

「ほう」

「したらば肌艶も便秘も改善されてのぅ。毎日快便ってわけじゃ!」

「陛下……」

「おっと、話しすぎたな。スープが冷めぬうちに食うてしまおうぞ!」

 しばしモグモグズズズタイム。

「思えばクラルとこうして顔を合わせたのは二年ぶりかの?」

「僕としては今回は謁見予定はなかったのですが……陛下は相変わらず先程の様に襲われておられるのですか?」

 絵画にダイブした男の白目がフラッシュバックする~。

「まあの。今月はさっきの賊で三人目じゃ。以前より増えている気がするのう」

「もっと護衛を厚くした方が良いのではないですか?」

 陛下のやや後方にいる太刀持ちと扇持ち。

 この二人が護衛だとすると心許無いのは、あ~しの目にも確か。

「まあの。しかしその護衛が賊だったというのも我が父の時にもあった……からのぅ。ましてやわしを慕ってくれる民が傍に来てくれた時にそれではいかんのだ」

 間。

「時にクラル。国と国との境界線を書き換えようとする動きが活発化しつつあるのは知っておろう?」

「はい。存じております」

「備えねばならん。クラル今回も言わせて貰おう。いよいよだ。わしの王配となれ」

「ありがたきお言葉……。しかし、僕もまだ道半ばの身ゆえ」

 間。

「お前はいつもそうよの……。まあよい。いずれにせよ、行き着く先は同じ……」

 いつの間にか空気が重くなった所で、空気ブレイカーのサッカ様が発言した。

「あ、あのう。す、すいません……」


―王立美術館・廊下―昼―

「サッカ様、せっかくのシリアスなシーンが台無しというか間が悪いというか~。なんです?もう便通なんですか?ムソとやらは効果は抜群でs」

 ――ゴッ。と、ゲンコツが上から降って来た。

 その衝撃で大理石の床とキスするとこだったぜ……。

「食べたらすぐ出て来るみたくいうな……」

 出て来るのは〇ソなのか〇ソなのか。

「あ、この風船、預かっといて」

 サッカ様が腰から風船を外し、あ~しへと手渡して寄越す。

 と思ったら、風船の紐はサッカ様の手からスルっと抜けて、廊下の高い天井へとゆっくり登って行く。

「ちょ、サッカ様なにしてんすかー?」

 サッカ様の顔を見ると、様子がおかしいか?

 改めて覗き込むと、目が虚空を見つめている。

「……え?サッカ様?もしかして……ここで出ちゃったんですかっ!?」

 あ~しは床を蹴ってバサバサッと羽を使い、サッカ様の左肩に飛び乗ると――


―異空間・闘場―

 ――!?

 目の前に急に違う景色が広がって……。

 な……にっ!?

 爆発――!?

 ――っ!

 咄嗟身構え、グッと何かを掴んだ感触がサッカ様の左肩で、主は右手で顔を覆っていた。

「サ、サッカ様!」

「なに……?ここ……?」

 幸い、爆ぜた衝撃は、あ~しとサッカ様の眼前で止まり、巻き込まれはしなかったが……。

 ――ドン!

 ――ズドン!

 漂う白煙の中、連続した炸裂音が鈍く響き聞こえる。

 何かが起こっている。

 あ~しとサッカ様の眼前で。

 交錯する二つの影。

 白煙の切れ間から状況が段々と飲み込めてきた。

 これって誰かと誰かが、

「戦って?……る?」

 そうサッカ様が呟くと、一際大きな爆発が巻き起こり、爆炎と衝撃と熱量がこっちにもっ――!

 ……いや、来ない。

 反射的に目を瞑ってしまったが、別段何ともない。

 このあ~しらの前にある見えない壁が防いでいると?

 魔術的な障壁……か?

 一連の、肌身に伝わる爆ぜた感覚は、視覚的な情報と、この障壁と思われるモノが受け止め震えているのを肌で感じているからか。

 気が付けば、この障壁の向こう側には何かの気配が幾つかするな……。

 人?だよね?

 いや?人じゃない?

 確かな気配はすれど、そこには居ないような不思議な感覚。

 そして、この視線――。

 見られている?

 見られて……いる!

 それも複数……。

 爆炎が収まり、同時に静けさが訪れると白煙が去り、二つの人影が見えた。

 人?が二人……。

 左の人物は横たわっていて、右の人物は立っている。

 これは一体?さっきから何を目撃しているんだ、あ~しらは?

 一つ一つの理解だけが置き去りにされていく。

 横たわった人物から小さな光が発生して、右の人物へとゆっくりと移動していく。

 ん?――

 ――三人目もいる!

 その二人の間、奥の方に居る人物。

 妙な感覚……。

 纏ったローブのフードの影で顔は見えないが、五感をスルーして直接脳に入って来る様な、表現し難い異質な視線。

 ――!

 ――バィンーーーッ!!!

 突如、サッカ様の眼前で障壁が光り鳴動した。

「……っえ?」

 拳……?

 炎を薄っすらと帯びた拳……?

 それが壁一枚挟んで、サッカ様の眼前に向けられ振り下ろし突き立てられていて。

 見る限り、その拳は人のソレではなく、形容しがたいが、異形の肌はあ~しの様な使い魔の類とも見えて。

 すると、異形の顔をした唇がゆっくりかつハッキリと動いた。

「T G H O M E D」

 障壁越しに拳を突きたてられながらの脅し文句……。

 あ~しのオツムでは、この直近の五十行程で何をどう理解していいのか分からないが、この目の前の人物がサッカ様を標的にしているのは理解出来た。

 この状況をサッカ様は理解しt……

 ――な・ん・で・頬・を・赤・ら・め・て・ん・す・かっ……!

「いやいやいや!サッカ様!なんで発情してんすかっ!」

「いやだって……ほら……///」

 主、理解してねぇ~……。

「何をどう思われたのかは知りませんが、この魔人?サッカ様を襲うって……」

「やだ……///襲うって……///」

 サッカ様の左肩から、見下ろす魔人の顔そして肩越しのサッカ様の顔をとをそれぞれ見比べる。

 どっちも赤いけどさ、なんだろう……温度差で風邪ひきそう……。

 すると、魔人が拳を下して語り掛けてきた。

「おい、ちょっと待て!お前、なんでそんな顔s――」

 

―王立美術館・廊下―昼―

 黒い帳で蓋をされる様に眼前が暗転したかと思うと明転するとそこは美術館であり、呼び覚ます様にスパイシーな香りがした。

「なん……だったの?」

 サッカ様が呟く。

 ふと見上げた天井には赤色、青色、黄色の三色の風船がゆっくりトントトンと音もなくぶつかって止まった。


―王立美術館・応接室―昼―

「一画は引き合う……か」

 長テーブルの奥に座った陛下が神妙な面持ちでポツリと言うと、先程と同じテーブルの下手側に、サッカ様と並んで座ったクラルさんがポツリと呟く。

「精霊の導き……。という事でしょうかね」

 間。

「あのぅ、イッカク?ってなんですか?」

 サッカ様が急に挙手して発言するもんで、バランスを崩したあ~しはサッカ様の頭からバサバサッっとテーブルの隅へと着地して座った。

「クラル。お前から説明してやれ」

 陛下がそう言うと、クラルさんが隣のサッカ様を見ずに、真っ直ぐ陛下、いや、そこにはない遠くの何かを見つめる様に語り始めた。

「一画とは、絵を持っている者の呼び名でしてね……」

「へぇ~」

 間。

 主の反応が薄い……。

 物語の割と大事な説明シーンなのにぃ?

「ここにいる僕たちの間柄ではもう隠す必要もないからだけど、陛下と僕も一画」

 間。

「え?あ、そうなんですねー」

 間。

「……いや、キミも僕たちと同じ一画なんだよ?」

 と、さすがに違和感を覚えたのであろうクラルさんが、隣のサッカ様を向くと、目をぱちくりして言った。

「そwんwなwまwさwかw」

 いwちwごwいwちwごwのwあwいwだwにwくwさwはwやwすwなw

「どこから話せばいいか……」

 再び、正面を向くと、腕組みしてクラルさんが語りを続けた。

「……まず、さっきの異空間には絵の所持者、一画は強制的に転移される」

「わしもそうじゃ」

 陛下が目を瞑って頷いた。

 あの幾つかの視線の中にこのお二方も居たという事か?

「僕も初めて転移現象を目の当たりにした時は、聞いてはいたけど動揺したのを憶えているよ。察するにサッカさん、キミは一画になったのはごく最近であり、経緯は分からないけど、絵を所持した時には誰にもその由来や関する情報を知らされていなかったんじゃないかな?」

 ご明察。

「え?じゃあ……要するに今日、今、私がここにいるワケってコレのせい……?」

 と、サッカ様はメイド服のスカート内を弄ると、長テーブルの上に板状のモノを置いて見せた。

 その大きさは異世界の規格とやらでいうと、えーよんさいず?くらいとか言うらしい。

「待てっ!この気配!」

 椅子から立ち上がりつつ、陛下が大きな声で叫んだ。

 あ~しとサッカ様は同時にビクっとなる。

「戻すんだ!早く!」

 隣で焦った顔をしたクラルさんも半ば怒号。

「っえ?……あ、はいっ」

 そそくさとサッカ様はスカートの中にソレを戻した。

「……クラル?今のは気取られたかの?」

「数秒ですが……どうでしょうね……」

 肩で一つ息を吐くと、陛下は椅子に座り直した。

「どういうことじゃ……。突然、新顔が現れたと思うたらば、スカートの中からイリューシンマジックで世界が滅びかけたぞ……」

「陛下さすがにそれは言い過ぎ……かもしれません」

 というクラルさんの額には汗が垂らり。

「もしかして私、何かマズイこと……でも?」

 サッカ様の額にも汗が薄っすらと滲む。

「とりあえず、落ち着いて。きちんと最初から話しましょうか」

 と言う、クラルさんの出した両掌が若干震えていて。

 クラルさんが丁寧に話してくれたのは、

 一、一画たる者、無暗に絵を出してはいけない。

 勿論、スカートからもだ。

 ニ、一画たる者、無暗に口外してはならない。

 口は禍の元。

 三、一画たる者、無暗に力を出してはならない。

 少なくともシユ女王陛下とクラルさんは心得ているらしい。

「サッカ!クラルの話は理解出来たか?」

「あっ、はい……」

 返事の具合から察するに半分程と。

「そうか。ならばわしからも問いがある……」

「えっ?はい」

「ここ最近で絵を表に出したか?」

「出したというか出て来たといいますか……」

 それって第一話の竜型の使い魔のくだりだわ。 

「先だって、微弱な気配を感じた。それはまさに今感じた気配と同じ」

 間。

「して、どんな絵かと心を以って見たか?」

「いえ……」

 確かにサッカ様はあの時からまだ一度もアレを開いて見たりしてはいない。

 さっきは先程、スカートの中から出してみせたが、それはギャグではなくサッカ様の身体に寄り添うように別次元で格納されていたワケだろう。

 故にあ~しの知る限り次元から引き出して見せたのは初であり、ましてやどんな絵かなんて。

「そうか。真なら、そなたはまだただその絵を保有しているに過ぎん。一画未満といったところかの!手放すならば今の内じゃぞ!なんならわしがその絵の面倒を見てやらんでもないぞ」

「陛下……」

「ははは!クラル、お前とてわしと同じ思いであろう?」

「……」

 クラルさんは押し黙った。

「陛下の言う通り、キミは一画ではありますが、今の状態としては言うなればブランク状態といえます。このブランク状態で絵を手放せば、命約の契り前に手放すとこが出来るはずです」

 何その異世界のくーりんぐおふみたいなの。

「一画の皆さんはその命約とやらを交わしているんですか?」

「まあ普通はな。理由は各々じゃがの……」

「ただ、命約を交わすと、戻れなくなりますが……」

 不穏。

「戻れ……なく?」

「人として普通の幸せにな……」

 いまんとこデメリットしかねーじゃん!

 しかし、そうだとしても、ここにいるお二方は一画、そしてその契りを交わしているという事実。

「ということは、そこまでしても一画であり続ける理由があるのですね?」

 と、サッカ様の問い。

 間。

「誤解をおそれずに言えば、欲と望み。そういう事になるでしょう」

 クラルさんの欲望とは?

「さっきの異空間は闘場というての。その欲望のぶつけ合いの場じゃ」

「私、魔人?みたいな人?に告られたんですが」

 いやだから違いますって!

「あーアイツのぅ……。好戦的なコレクターじゃ」

「あの場、闘場では絵の魔力に魅入られた者は魔人化するのです」

 設定の話ばかり続いてか、サッカ様が白く線画だけの様な姿に見える。

「一度に喋られても理解し難いだろう?サッカ。今夜はわしに付き合え」

 椅子から立ち上がりながらクラルさんが陛下へと言う。

「未契約のブランク状態でも絵を所持していれば強制的に呼ばれると……。予定外ですが収穫でもありました。シユ女王陛下、この度の謁見ありがとうございました」

「ん?クラル行くのか?」

「はい。状況が変わりましたので少し急ぎまして、明朝には列車を出そうかと」

「荷の入れ替えは間に合うのか?」

「はい。予定通りで滞りがなければ。して、陛下にはお願いがあるのですが……」


―スパイシー湖上・巡行艇―昼~夕―

 湖上の美術館から、十人くらいは乗れるだろう豪華な魔動巡行艇に揺らて三十分弱――。

 海のような湖なので、目的地のお城とやらはまだ全然見えては来ない。

 と、さっきまでのスパイシーな香りが変わって、花のような少し甘い香りと共に静電気が全身をズワッと通過していくと、さっきまで視界にはなかった大きな白い城が湖を見下ろす形で山肌に現れた。

「あれが……?」

「そう。スパイシー城だ」

 いや、まんまかーい!


―スパイシー城・宮殿―夕―

 城壁をくぐり中庭を抜けて宮殿の中に入って行くと、大理石の床と高い天井と出迎えた宮殿の面々。

 とりあえず全員に頭を下げて歩くサッカ様。

 陛下はスタスタと先を行くので、侍女二人の背中を追うように、小走りで追いかけるあ~しら。

「まずは宮殿に帰って来たらやることがある。禊じゃ。付き合えサッカ」

「みそぎ?」


―スパイシー城・宮殿・王族用浴場―夕―

 はい。隙あらば入浴シーン。

 さすがに今回は八割方、シユ女王陛下のせいで肝心な入浴シーンは描写出来かねるので……。

 どう描いても全身を湯気にしないと成立しないw

 まあ一応、大事な会話シーンも本当はあるのですが……。

 どっかで回収できたら……うん。

 という事で。

 コホン。

 ……。

 あーもう、あ~しにはこの暑さはムリぃ~!

 この場に長くいたら蒸し鶏になってしまう!

 出よ~っと。

 

―スパイシー城・宮殿・浴場脱衣所―夕―

 ブルバサバサッっと全身を振って水滴を弾き飛ばすと、少し喉が渇いたなーと。

 そこに金ぴかの煌びやかな水差しはあるが、どうせ飲むなら風呂上りはプシューっとしたモノが飲みたいじゃなーい?

 いや、使い魔として飲み食いの設定云々ではなくて、酒を嗜みたくなるでしょ?

 あるだろ?

 国王の住まいだぞ?


―スパイシー城・宮殿・廊下―夕―

 浴場の入り口で警護中の二人の侍女に一礼しつつ。

 二人にはあ~し見えてないなこりゃ。

 とりあえず野生の感で浴場を出てどんつきを左へと向かう。

 慣れてはきたけど、どこ行ってもスパイシーな香りが付きまとう。

 それもスパイシーA、スパイシーB、スパイシーCみたく、微妙に香りの変化も場所場所であるな。

 廊下の突き当りを更に左へ。

 あまり遠くには行かない方がいいから、左左と曲がる――

 ――と、向こうからコツコツと靴音がして、クラルさんが現れた。

 ちょうど廊下の真ん中ら辺ですれ違う少し手前で、

「晩餐に呼ばれてね」

 と、クラルさんがあ~しに右手をチョっと挙げながら話し掛けてきて。

「あーそうでしたか」

 まあ久しぶり逢ったならばそうなるだろうなーと。

 ところで……、

「クラルさん、近くでプシューっとした飲み物なんか見ませんでした?」

 あ~しは彼の顔を見上げながら尋ねた。

「あはは。使い魔も呑むものなんだ?そういえばこの先に酒蔵があったような」

 クラルさんが来た道を後ろに振り返りながら教えてくれて。

「ほんとですかっ!じゃあちょっと味見をしてきますかねぇ~w」

 と言って、あ~しは廊下の先を急ぐ。

「先に行ってるよ。あまり飲み過ぎないように」

 そして、すれ違うあ~しとクラルさん。

「はい。じゃあ後程~」

 と、トコトコトコと歩いて行くが……。

 ん?……

「クラルさん」

 振り返って、廊下を行くその背中に問い掛けた。

 すると、彼はゆっくりと踵を返した。

「その先の浴場。覗いちゃだめですよ~」

 と、あ~し。

 すると彼は、

「あはは。僕をなんだと思っているんですかw」

 と、彼は再び、靴音を響かせて歩いて行く。

 ……やはり気のせいではなかった。

 鼓動が急激に高鳴るのが分かる。

「……ク、クラルさんっ!?」

 ピタッと靴音が止まる。

「まだ何か?」

 首だけをこちらに向けたクラルさんの眼差しが一気に変わった……。

「……あ~しのこと、見えてるんですね?」

「それが何か?」

「……クラルさん、片眼鏡をしていないと使い魔であるあ~しを見えない設定だったはずっ……」

 クラルさん、いやクラルさん(仮)は露骨に肩でため息を吐くと、踵を返して、頭をポリポリとかきながらゆっくりとこちらへと近づき始めた。

「チッ……あ~、じゃあこれでいいかい?」

 すると、クラルさん(仮)の顔の皮膚から糸状のモノがニュルニュルっと這い出して、鼻眼鏡が模れ装着される。

「それは鼻眼鏡!片眼鏡じゃない!何より、偽者ですよって自ら語ってた!」

「どういう意味だ?」

 それは……。

 それは、前話の更新から半年以上の遅筆の本人もうっかりで気付いてなかったんだけど、

「クラルさんは、あ~しの声が聞こえない!」

 ズバーン――!

 論破の音が鳴り響く。

 そして、決まったぜというあ~しのカッコイイ羽を広げたポーズ!

 偽者よ、あ~しと会話のキャッチボールをした時点でアウトだったのだよ。

「そーかよぉ……!ならば、活きのいい鶏はフライだなっ!」

 クラルさん(仮)の口から糸がピュッと吐かれた――!


~第4話・終わり~

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