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旅立ちの列車、駆け乗る

―森の小道―夜―

 サッカ様の背中を追って、あ~しも猛ダッシュ!

 ワンチャン本当にキャンプファイヤーやってただけかも知れないのに、なんで逃げてんのコレ~っ!?

「サッカ様!?」

 そんなあ~しの思いを分かってか、サッカ様は背中で答えた。

「人の家を燃やしてるヤツ!正気と思えんの!?」

 ド直球のド正論でした。


―街・海沿いエリア―深夜―

 深夜の街並みに隠れがちになった第三の月。

 そんな真夜中の街をあ~しとサッカ様は駆け抜けてる。

 何処へ?

 走るその背中を見る限り、そんなものはない。

 追いかけて来る人の気配もないような気もするし……。

 薄っすらと海の香りが風に流れて来る。

 ――!

 視線の先に人影が一瞬見えたと思った瞬間、サッカ様は建物と建物の狭い通路に置かれた朽ちかけた物置の陰へと隠れた。

 呼吸が乱れて苦しそうである。

 若いとはいえ体力はドン底なはず……。

 しかし、こちらの都合はお構いなしに、段々と小走りの足音がこちらへと近づいて来る……。

 そしてゆっくり……ゆっくり……歩みは静かになって……。

 確実にこちらへと……。

 息を止めるサッカ様。

「……出てこい」

 若い男の声がした。

 サッカ様はじっとして動かない。

 仕方ない。

 ここはあ~しが一般人には見えない設定を有効活用して、追手の様子をば……。

 白い仮面を被った男がすぐそこまで迫っていた。

「使い魔?か……。お前はどうでもいい。そこに娘がいるんだろう?そいつに用がある」

 がっ……!

 見えてやがるだとっ!

 コイツ……。

 ただモノではない。

 いやもしかして、その素顔を隠した白い仮面に細工があるかも……?

「じゃあ、あ~しの声も聞こえるってことで……?」

「……」

 答えない。

 ははぁ~ん……。視覚には何らかのか術式が施されてはいるが、聴覚にはそれがないと……。

「おい!そこの不審者!おまえのカーチャンで~べそ~!」

「……」

 無反応確認。

「仮面なんてしてないで素顔で勝負してこいやぁ!おい!ごらぁ~!」

「……」

 ……。逆に虚しくなるなこれ……。

 仮面野郎は首をかしげると、そのまますり足でこっちに詰め寄って来る。

 もう逃げようがない!

 どうするっ……!?

 と、サッカ様は顎をシャクりつつ、鬼のような変顔で立ち上がって見せたっ!!!

 一瞬、たじろぐ仮面男。

 明らかに仮面の奥で戸惑ってるやろこれー!?

「あだしに゛ぃ~なにがごようですがぁ゛~?」

 と、シャクレ鬼変顔のサッカ様。

「お、お前……あの家の……?」

「な゛~んですかぁ゛~?さいきんみ゛み゛がとおくてとくてね゛~!」

 間。

 真夜中の街の片隅で何やってんだこれ……。

 おい……双方いろいろと限界だぞ……。

 すると、仮面の男の後ろから巨体の人物が現れる。

 それは仮面の男の真後ろに立つと、鬼の形相で見下ろした。

「オイ……。オマエ……オレの娘に何か用か?」

 ひいいいいいいいいいいいいいっ!!!!!!

 ほんまもんの鬼ぃ~~~!!!!!!

 バケモンきたああああああああああっ!!!!!!

 仮面の男は振り返る様にして頭上を見上げる。

 と、咄嗟に脇に逸れて、

「じゃ、邪魔をしたなっ!」

 と、壁で身をこする様にして逃げ去って行った。

 だが……。

 一難去って、また一難。

 この街にこんな怪物の類がいたとは……。

 サッカ様の顔が鬼変顔のまま凍り付いていく……。

 鼻水もそりゃ出るよね……一応、この物語のヒロインなんだけど……。

 ドサッドサッと、足音をさせて近づく巨体。

 もうダメだぁ……おしまいだぁ……。

 逃げる事を放棄し、覚悟を決めるあ~しら……。

 眼前迫る巨体に、サッカ様はへたり込んだ。尚変顔。

「大丈夫か?」

 ……え?

 大丈夫かって言った?

 え?

 食べて大丈夫かって?

 むしろ味の方かな?

 どうだろうね……。

 食べたら腹壊しそうな顔を今はしてらっしゃいますけども、食べたらサッカ様は何味すっかなぁ……。

 あ~しはチキン味だろうけど……。

 って、思っているうちにその巨体は萎むと、見覚えのある人に……!?

 ダ……ダイン様っ!?

 その顔を見た途端、サッカ様はその場に崩れて気を失った。


―街の酒場『ノーマ』―深夜―

 奥の部屋のソファーで横になり眠っているサッカ様。

 ダイン様がここまで運んでくれまして、尚且つサリィ様が毛布を掛けてくださいまして……。

 いやほんと。ご迷惑をおかけして申し訳ございませんm(__)m

 テーブルに並んでお二方は腰掛けており、その視線は黙ってサッカ様に向けられたままで、カップに注がれた真っ赤な飲み物を飲んでいる。

 部屋の隅の燭台のロウソクがその真っ赤な飲み物をまるで鮮血かのように演出する。

 いやまぁ、勿論、店でも出している果実酒だろうけども。

「使い魔ちゃん。そこに居るの?」

 サリィ様がぽつりと言った。

 一瞬、驚くあ~し。

 でも。

「……サリィ様にはやっぱり……?」

 首を横に振ると、

「見えないわ。声だけは聞こえるけどね」

 とサリィ様は答えた。

 あ~やっぱり。

 以前から「もしかして?」と気になるシーンはあったのだが、確認する機会はなかったのだが。

「いつも主がお世話になっておりますぅ~~~!!!」

 サリィ様はタイミング悪く口に含んでいたその赤い飲み物を盛大に吹き出した!

 それを見た隣のダイン様も……。

 ……何してんのコイツら?

「ちょっとー!いきなりそんな挨拶するぅ?吹き出しちゃったわ~!」

「あれ?あ~し可笑しなこと言いましたっけ?……」

「ううん。ごめんごめん!何もない空間から素っ頓狂な声でそんな挨拶されたら。うふふっ」

 はぁ……。

 あ~し素っ頓狂な声してたんだ……。

 そんな設定、第二話にして要らないと思うんだよねぇ……。

「こ、今回もこうして助けて頂いてありがとうございますぅ~」

 背中を向けてグッと笑いを堪えているサリィ様。

 なんやなんや?

 あんた笑い上戸ってやつかい?

 あ~しの声が腹筋に効くんか?

 そんなこっちゃ、こっからの会話パートがあんたの腹筋トレーニングシーンばっかりで行数稼げるぞおい!

 そんなあ~しらの絡みを横目で見つつ、汚れたテーブルを布巾で拭いているダイン様。

「ごめんね。旦那はあなたの事は見聞き出来ないから。私が聞くわ」

 ということである。

 ダイン様はもしかしたら気配くらいは感じているタイプかなーと常々思っていましたが。

「一体何があったの?」

 真面目な顔でサリィ様がそう言うので。

 あ~しは、第一話の冒頭からここまでの事を都合のいい所だけを抜粋して説明した。

 横のダイン様も腕組みして、サリィ様の言葉だけで自分で脳内で補完しながらであろう、黙って聞いていた。

 こういう時、下手に会話に口を挟んでこない男性は、やっぱりサリィ様のような素敵な女性が一緒になるのだろうとも何故か意味もなく納得してみたり。

「サッカちゃん……」

 サリィ様は目を細めて、眠るサッカ様を見つめる。

 間。

「ダイン様!まさか助けに来て下さるとは。命の恩人です!」

 サリィ様、横に座るダイン様の顔を一瞬見ると語った。

「うちの旦那、本当は吸血鬼なの。そして……」

 ……。

「私も……」

 サリィ様は複雑な表情を浮かべた。

 ダイン様は目をつむっている。

「お二方共?ですか……」

「まあ……そうだったと言うべきなのかしらね?……昔、多くの人の血を好きなだけ求めるだけ頂いたわ。だってそうでしょ?吸血鬼という存在なのだから」

 ……。

 返事をどう返していいか悩む。

「使い魔ちゃん……がさ、使い魔じゃなくって、人間をやりなさいって言われたら出来そう?」

 間。

 これも何が正しい返答なのか分からない問い掛けで……。

「ごめんなさいね。黙らせちゃって。今となっては過去の話だから怖がらなくていいのよ。あれ以来……誰の血も求めなくなったのだから。私たち」

 ……あれ以来?

 と、今まで黙っていたダイン様が目を開けて語りだした。

「あれは……あれはもう百年以上前になると思うが……」

 長生きだなーをいっ!!!

「まだ若かったオレたち二人は、出会ってすぐに意気投合した」

 ほうほう。

「そうね。あの頃は思春期真っ只中の青春真っ盛りだったわ~」

 なんかサリィ様、懐かしそうな顔してますね。

「オレたち二人が家族という形を持ちたいと思ったのは至極自然な流れだった」

「……人間の家族がいたの。私たち三人に似た家族が……」

 三人……?

 あ、なるほど……。

「その家族だけは私たちの勝手な思い入れもあってね。絶対に襲わないことにしていたの。だってその子、私の娘に手を振ったのよ笑ってね……」

「……だが、オレたち以外の吸血鬼がそんな身勝手なルールを守るわけもなく……気が付いた時にはその一家は……」

「なんのつもりの正義感かと私自身も思ったわ。でも幼い子供まで手にかけるヤツを同族としてはとても思えなくて……」

「オレがやるべきだった。サリィに同族殺しの罪を追わせてしまったんだ……」

「追われた私たち三人は逃げきれず……」

 間。

 ……。

 サリィ様とダイン様の視線は眠るサッカ様へと自然と向けられていて。

「悲しみと追手から逃れる様に、傷だらけで辿り着いたこの街の片隅で、私たちは二人で自動で迫りくる死を願っていたわ……」

「このまま誰の血を望まずにここで静かに朽ち果てよう。そう思って何日目の夜だったか……」

「そう。運命の人と出会ったの。ううん。出会ったというよりは向こうから来てくれたと言うべきね」

「その人は、二十代から四十代……もしくは五十代から八十代にも見えた男……」

 間。

 ん?

 え……?

「その人は……見たことも聞いたこともない魔術で、一瞬にして血を欲しない体にしてくれたの……。あれ以来、一度も生き血を啜りたいと思ったことはないし、誓って勿論してないわ。彼の名はヨンゼルマン……ヨンゼルマン伯爵とだけ名乗って去って行ったわ」

 と、サリィ様は真っ赤な果実酒を口へ運んだ。

「そんな親切な方がお二方を救ってくださったのですね……」

 と、あ~しが何行かぶりに発すると、サリィ様はブフィーッ!っとその果実酒を吹き出した。

 いやさ……なんなの?

 それって条件反射なの?

 てか、サリィ様の口周りの汚れを見るとなんとなーくだが、かつての名残が……。

 布巾でテーブルを拭き拭きしつつ、ダイン様が語る。

「その対価には条件があった。しかしそれは他言は無用の契約……。これ以上は誰にも言えん。だが……」

 だが?

「……アーフム様のことです?よね……」

 と、サッカ様がゆっくりと起き上がると言った。

「サッカ様!」

 やっと主人公のターンだよ~。

 これでサリィ様が噴水しなくてすむぅ~!

「大丈夫か!?痛い所とかはないか?」

 ダイン様が心配そうに立ち上がった。

「ううん。大丈夫です。助けてくれてありがとうございます……」

 サリィ様は椅子から立ち上がると、

「サッカちゃんには、何か温かいもの淹れて来るわね」

 と言って、噴水様は暖簾の奥の厨房の方へ。

「いろいろと大変な思いをしたな……」

 再びゆっくりと椅子に座るダイン様。

 間。

「オレたち夫婦は日中はあまり得意ではなくてな。仕事が終わるとオレは夜釣りに行くんだよ。朝日が昇る頃までな」

 もしかしてあの最初に見かけた人影って……?

 ガッテン。

「あの仮面の男に心当たりはあるか?」

 首を振るサッカ様。

「……東へ向かう途中にあんな仮面を被る文化があったような気がするが……」

 東方向の国……?

 ―ガシャンー!

 と、突然、暖簾の向こう、厨房の方から何かの壊れる音がした。

 即座に立ち上がり、厨房へ向かいかけたダイン様を押し戻すように、こちらに背を向けたままサリィ様が暖簾を背中で擦りながら後退りしてくる。

 その二人を部屋に押し返して来たのは……。

 犬……。

 犬型の使い魔が、暖簾の下を潜って現れた!

 こっちに向かっての牙を剥き、ガルルとした唸り声が狭い部屋の中に響く。

 その使い魔の後ろから更に声がする。

「よーしよしよし。でかしたぞ」

 暖簾から白い仮面の男が一人。

 いや二人……。

 現れて、部屋の中は一段と狭くなる。

 左の、あとから入って来たちょっと太った仮面の人物が、こちらを一瞬見渡す。

「ふむ。その奥の娘……。こちらに渡してくれませんかねぇ?」

 もう一人の痩せた仮面男は使い魔をナデナデしながら、

「あ、俺ら優しいんで。引き渡してもらえれば純粋にオッケー。なんで」

「理由もなく人の……っ」

 言いかけたダイン様の右脚が何の前触れもなくパン!っと弾けた。

 部屋の側面の壁にダイン様の血が……。

「がぁっ!」

 片膝をつくダイン様。

「キャッ!」

 サッカ様の悲鳴が短く部屋に響く。

「あなた達……」

 サリィ様が仮面野郎共を睨む。

 と、仮面越しにも分かるような素振りでため息をつくデブ仮面。

「状況が分かっておられないご様子なので。こちらはこの距離ならノーモーションであなた方全員を行動不能にすることだって可能なんです。避けられないのです。ご理解?」

「気が付いたら喉笛に俺のこの使い魔が食らいついてるかもよぉ?」

 ナデナデしながら余裕かつ物騒な仮面だ。

 その撫でられている犬型使い魔は、この場の全員が認識できているとみた。

「魔術……その腕に自身があるのね……。でも、私たち夫婦をそう簡単にやれるかしら?」

 サリィ様の背中、そして全身が服越しでも明らかに分かるくらいにボゴゴゴッと隆起し始める……。

 一気に部屋の空気が張り詰める。

 何かが視線を横切ったと思うと、部屋のロウソクが消え、何の爆発なのか衝撃なのか分からない轟音があ~しの全身を打ち、突き飛ばしていくっ!!!

 何が起こったか!?そう理解し始める前に、

「――走れっ!!!」

 と、ダイン様の怒号が耳をつんざく様に響いた。


―街・酒場『ノーマ』外―明け方―

 土煙と爆炎の臭いの最中、駆け出して行くサッカ様の背中が見える。

 え……?

 理解が遅れてやって来る。

 外だ!

 外に弾け飛ばされているっ!

 考えるよりも条件反射的に、あ~しもサッカ様の背中を追って走り出す。

 体の何処かが痛い痛いって信号を送ってきている。

 それでも!

 走れているっ!

 しかしながらなんて日だ!

 いくら青春真っ只中つっても、こんなに走る日があってたまるかっ!!!

 と、後ろで爆発音が連続してする!

 振り向くと、視界の中、あの使い魔の犬が追ってきてるではないかっ!

「さ、サッカ様!」

 その背中は振り向かない。


―街・河辺―明け方―

 その背中は、振り向かないだけであってちゃんと聞こえてはいるはず。

 走る事だけに集中してるのだ。

 だが、どう考えてもこのままでは追いつかれるっ……。

 逃げる視線の先、日の出の気配が見える。

 えっ!?

 あっ……。

 どこぞの異世界では、この現象に『バビロンの犬』とかいう?そんな呼び名があるらしいが……。

 このタイミングはありえない!

 絶対!ないっ!!!

 あ~!!!

 でも……。

「う、産まれそうっ~!!!」

「こんな時にバカっ~~~~~~!!!」

 サッカ様のごもっともな罵声が未明の街にこだました。

 使い魔の犬のツタタッ!ツタタッ!という足音が一気に迫って、あ~しの尾っぽにガブッと!!!!!!

「ひいいいいいいいいいいいいいっ!!!」

 あ~しはその勢いで上空へと羽ばたくと、そのままサッカ様の真上に飛んだ!

 そのあ~しの視界の先には、街を流れる河が見える。

 まずい……。

 一気に羽ばたいたことで、あ~しのケツがもう限界だわ……。

「サッカ様~~~~~~!!!」

 ――頭上で叫ぶあ~し。

 見上げる主――。

 目と目が合う――。

 ――やるしかない!!

 異世界のスーパーロボットとかいうヤツが、空中合体する……そんなシーンをよぉっ!!!

 先行して飛んで、サッカ様の頭上を追い抜いて行くあ~し。

 あ~しのケツからギュイイイイーンと覗く卵の先端!

 走るサッカ様をピピピピッ……とロックオンして、いざ発射っ!

「――サッカ様!」

 あ~しの呼びかけに見上げたサッカ様は、顔面めがけて投下された爆弾もとい赤い卵を、ジャンプして右手で受け取ってみせた。

 さーすがっ!

 つってもそれを悠長に割って食べるのは今は……。

 ――っ!?

 その時、あ~しに衝撃が走る。

 ケツに違和感……。

 次弾と更に次次弾チャージされているだとっ!?

「さ、サッカ様~!……」

 ――頭上で泣くあ~し。

 え?と見上げる主――。

 困った目と困った目が合う――。

 ――やるしかない……。

 一気に二個、あ~しのケツから押し出されるっっ!!

 サッカ様はジャンプして左手で先行の緑の卵をキャッチすると、後発の青いもう一個の卵は大きく開けた口でガブっと殻ごといったああああああ~~~~~!!!!!

 そして、華麗に空中で反転。

 主の脚に巻き付くスカート!

 サッカ様、左手に二個持って、右手を空けると、そのまま向かって来る犬型使い魔へと突き出す!!!

 青い発光現象がサッカ様の全身を包むと髪の毛は逆立ち、右腕から右手へと一気に収束していき……主の右手から水の魔術が解き放たれていった!!!

 何か一瞬聞こえた。

 「ごめん」そう言ったかのかもしれない。

 放射された水柱が、犬型使い魔を直撃して後方へと吹き飛ばしていった。

 その術、サッカ様はすぐさま地面へと向けて角度調整すると、そのまま河を飛び越えるような勢いで、空へと舞い上がった。

 朝日が一筋の陽光を一直線に結ぶようにして、河の水面をと中空のサッカ様を照らし出す。

 彼方から太陽が頭の先を出して来たのだ。

 と、右手の青い発光が消え、水の術が途切れる。

 一瞬で大出力を解き放ったからだろう……と。

 サッカ様、空中で身をひるがえし、迫る対岸を視線の先に捉えると、緑の卵を殻ごと口に運び食らうっ!!!

 いや!ワイルド過ぎんだろ~!?

 仮にもこの物語の主人公かつヒロインが、日常からそうして食べてますけど何か?みたいな感じ出しちゃダメでしょ~!

 そんなあ~しの心配を他所に、緑色に発光したサッカ様は髪を逆なでつつ右手を再び突き出すと、その手に収束した魔力を着地地点の対岸へと解き放った!

 巻き起こる風の渦!

 小さな竜巻と言っていい。

 その風の力の余波が、あ~しの体も更に上空へと舞い上げて……。

 巻きスカートをなびかせたサッカ様が、風の勢いを借りつつ対岸の着地でゴロゴロゴロッと横に三回転すると、あ~しもその少し先にゴロゴロゴロッと縦回転で合流。

 いたたたたっ……。

 対岸にあの犬型使い魔の姿が見えたが、戻って行ったようですぐさま見えなくなった。

 それを見つめるサッカ様。

「……行くよ」

 そうあ~しに言うと再びサッカ様は走り出した。


―街・駅―早朝―

 あてもなく走るサッカ様。

 それを追うあ~し。

 にしても大概。

 体力の限界が近い……。

 たった二話でここまで走らされるとは……。

 きっと神すらもこんな展開は想像してなかったんではなかろうかと?

 いっそのこと『異世界、転生したらマラソン選手だった件』とかでももはやいいんじゃないかって思うわ……。

 視線の先、街の駅には列車が停車しているのが見え。

 始発列車とかいう?やつ?

 貨物列車か?

 にしてはなんか豪華な車体もあるが……?

 そんなあ~しの視界の先の中で、サッカ様は迷う素振りもなく駅に走り込み構内を突っ切ると、列車に駆け寄り、空いていたドアから中へとあっさり消えた。

「サッカ様~っ!!!」

 あ~しも結果、追って車内へ。


―列車・クラル専用車・前列―早朝―

 その列車の中に入ると、列車として当たり前な座席は少なく、視線奥の空間には広々とした空間に机や何かの器具であろうか?そんなスペースが設けてある。

 好きな人なら一生ここに住んでも申し分ないと思えるが……。

 しかしながら誰もいないご様子。

 思い返せば、駅の構内にも見た限りは誰も居なかったような?

 サッカ様は、すぐ手前の空いている二列席の窓側に滑り込むと、窓から見えないように身を潜める様に座った。

 え?

 いいのかな……?

 列車はまだ停車中の様子で、動く気配はまだない。

 しかしながらも、この車内、何か心地よい香りがする。

 お香?とかそういう類だろうか?

 急激にリラックスしていくのが分かる。

 追手が乗り込んで来るのではないかと気が気でないあ~し、サッカ様の足元、巻きスカートの真下へと滑り込む。

 ん?

 しばらくすると、列車は警笛一つ鳴らしてゆっくりと動き出した……。

 どれくらい経った頃だろうか。

 スカートの上から寝息のようなものが聞こえ……。

「サ、サッカ様……?」

 しかし反応がない。

 あ~しは顔をちょこっと出してサッカ様の顔を見上げる。

 ちょ!

 寝てる……!

 とはいえ起こす気にはなれなかった。

 少しだけ、少しだけでもいい。

 今だけは眠らせてやって欲しいと……。

 しかしながら、この列車。

 走り出して一時間くらいにはなるだろうか?

 誰もこの車両に入っては来ないのだなーって。

 このままあ~しも、サッカ様のスカートの下で少しばかり休ませて貰っても……?

 そんな事を思った時にに限ってだよ!

 誰か来たっ!

 音が、気配がする!

 車両の通路の扉が開いて、誰かがこっちへ向かって歩いてくる靴音がする!

 ……頼むっ!

 気づかないでくれ!

 目を閉じ願うあ~し。

 高鳴る鼓動。

 そんなあ~しの鼓動に気づいたのか、靴音はすぐそこで止まり。

 靴底を鳴らしてし、直ぐ傍でギュイと椅子がしなった。

 え?

 これって……。

 そ~っと、目を開けるあ~し。

 サッカ様の巻きスカートの下からは、サッカ様の左足と、その後ろには綺麗に磨かれ艶のある茶色い革靴が見える。

 察した……。

 これ完全に隣に座られてんじゃん……!

 詰んだっ……。

 逃げ場はもうない……。

 サ……サッカ様!起きて~!

 腿の内側を突っつくあ~し。

「……たっ!?」

 スカートの上から声がした。

 良かった起きた。

 いや……現状としては何一つ良くはなっていないのだけれども……。

 すると、この革靴の主の声がした。

「あ、いや。驚かせてしまったかい?少々、見とれてしまっていてね。キミ。その薄い褐色肌に金色の髪……何より見開いたならばその赤とも見受けられる瞳の色……。キミはここの国の人かい?」

 おうおうおうおう!

 敵かと思ったらその言いぐさ、さては新手のナンパか?

 サッカ様はなぁ、そりゃ黙って寝てれば美少女の類なんだぞと、あ~しはスカートの下から顔を出して、そのナンパ野郎の顔を見上げた。

 そこには左目に片眼鏡をした好青年が座っていた。


~第2話・終わり~

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