運命の扉、吹き飛ぶ
―サッカの家(夕)―
帰宅するなり、主のサッカ様は寝床に滑り込んだ。
「あぁ……。わたし、今夜が最後かもしれない……」
風が吹けば倒壊しそうな1LDKもとい1L家屋。
いや、家屋と呼称するにはあまりにもあまりにも!どいひー!
小屋だよ!小屋!
どこぞの異世界では、子豚が鼻息一つで壊しちゃうとかいう違法建築よこれ!
「あぁ……。わたしがこのまま死んだら、あんたも道連れだかんね……」
と、主はおっしゃいました。
この主。
主と呼称するには、あまりにも……あまりにもみすぼらしー過ぎ。
臥薪嘗胆の方が精神的にはマシと思える寝床に毛布!
「……あんたさぁ……。もういいわ……寝る……」
……。
ということで、我が主であるサッカ様はこれにて永遠の眠りにつきましたので、冒頭8行、この物語はめでたしめでたしで読了でございまーすっ!
読者様の皆様方にあられましては、くれぐれも人生に忘れ物は無きよう!無きよう……。
あ、最後となりましたが、この地の文で駄弁ではございましたが、語らせて頂きましたのは、あ~しこと、主の使い魔でニワと申します。
あ~しの事は嫌いになっても、主様のことはお嫌いにならないであげてくださいませませ~!
ここまで苦労&苦労の連続のご人生で、昨日、最愛の母上様もお亡くなりになりまして……。
先程やっと、山奥の一角に埋葬してきたところなのです。
か弱き少女がたった一人で、そのやせ細った手でスコップを握り、穴を掘り、埋葬してきてやっと下山してきたところなのです。
たった一人でって?
そらぁそうですよ?
他に家族はおろか親族がおられないのですから。
え?あ~し?
いやいやいや。
あ~しはただの使い魔ですから。
え?
なんですって?
……最近耳が遠くてねぇ。
ランプ擦ったら出て来る何でも屋とかそんなん想像したらダメですよ?
架空の物語ならまだしも、現実って~やつぁそんなに甘くないのです。
ま、それはともかく、主様は土で汚れた体を、ヘトヘトの状態で家の前の沢で洗い流すと、やっと眠りにつかれたのです。
要は心身ともに疲れたのです。
疲れたのです……。
まあ、本当はあ~しに憑かれているんですけどもねぇ……クォックォックォックォ……。
あ、ここ笑うとこですよ?
ここで笑えなかったらもう笑うところないですよ?
なんのことかは存じませんが【戻る】ボタンって奴?押していいんですよ?
とうことで、この物語『バラバラのヴラッド~十二片の女神画~』はこれにて閉幕となります。
短いご愛顧、誠にありがとうございました(*- -)(*_ _)ペコリ
作者の次回作にご期待ください!
オレ達の坂道はこれからだからよぉっ!
……。
※あとは皆様の脳内で終演に相応しい、好きな音楽やBGMを流しておいてくださいな。
それではそれでは~。
ーコンッコンッコンッ。
狐の鳴き声ではない。
ましてやこの近辺で何方かが藁人形に釘を打ち付ける作業に勤しんでいるわけでもないだろう。
ーコンッコンッコンッ。
またもや聞こえる。
扉からだとっ!?
まさかありえんっ!?
この廃屋の半壊小屋の立て板を扉と認識して、ちゃんとノックをしてくる客人が来ることなどありえんっ!
ああ。
勿論、借金取りならよく知っている。
コンッコンッコンッなどとノックなんぞしない。
奴らはガンッ!と蹴破って入って来るか、魔術でドンッ!と吹き飛ばして入って来るヒト亜族に属するヤカラ!
ーコンッコンッコンッ。
明らかにこれはこの犬小屋の中にサッカ様が居ることを知ってのノック。
おかしい……。
物語は終わったはず。
さっき、あ~しが幕引きをしたはず!
これは彼の異世界で有名な、交響曲第5番ハ短調作品67とかいう運命っ!運命の始まりというヤツですかっ!?
と、扉をすり抜けてランプを手に持った使い魔さんが入って来た!
「どどどどなたですかっ!?」
「使イデ参ッタ。我ガ主ノ命ニテ」
その使い魔さんは竜を模していると見え、鶏を模したあ~しなんかとは別格の使い魔のご様子。
多量の魔力を内包していると見えるし。
そう!なんか品格がある。
「は、はぁ?何用でございますでしょうか?今、サッカ様は物語上、既に不在でございますが?」
「?……」
「……?」
やべーよ。
この竜型の使い魔さん、頭の上に疑問符出したよ!をい!
「ソコデ眠ッテイルト見エルガ」
「え?あぁ、そう見えるならそういうことで話を進めましょうか。ゴホン!で、主のサッカ様に何用で?」
その使い魔は空間転移の類の魔術だろう。
フワッと、自身の前に布地で包まれた薄い板状のモノを出して床にフワッと置いた。
床置き……。
そっちの方にちゃんとテーブルがあるのに、ボロ過ぎてこの使い魔さんにはテーブル認識されなかった模様。
それはさておき。
「これは?……」
「コレヲソノ娘ニト命ヲウケテイル」
あーはいはい。
あ~しでは話にならんから、サッカ様を起こせと申しておられるのですね。
「ちょっとお待ちを」
「サッカ様。お客様ですよ~。起きてくださいな~」
と、手羽先で眠るサッカ様の体を揺らすあ~し。
案の定起きない。
「サッカ様~!」
顔の前でバサバサッとするがやはり……へんじがないただのしかばねのようd……に眠っておられる。
仕方ない。
「使い魔さん。お願いがあるのですが、少しばかり目を瞑っていただけませんでしょうか?」
「……分カッタ」
と、上下に瞳の幕を閉じる使い魔さん。
物分かりのいい使い魔さんで良かった。
ここで「ナンデ?」とか返されると行数が無駄に増えるとこだったぜ~。
さて。
あ~しは、サッカ様の眠る横顔に近づき、お尻を向けると鳴いた!
「あぁああぁぁああああ~っ!!!産まれるぅうううう~~~っ!!!」
すると、ガバ!っと飛び起きるサッカ様。
「っ!?で、で、で、でかした!割るなよ!割るなよっ!?……」
間。
何事もなかったかのようにしれっとしているあ~し。
サッカ様、あ~しの真顔を見る。
「……卵は?」
「……ないですけど?」
そんなもん。と付け加えようとしたが流石によした。
再び横になるサッカ様。
「夜の仕事あんだから少し仮眠させてよもうぅ……」
「サッカ様。機嫌を損ねたのなら申し訳ないのですが、お客様がいらっしゃってまして……」
薄目であ~しを睨む主。
「そんなわけないでしょ。扉が壊れてないじゃん。いいから寝させて……」
なんという理論。
やはりビンボーは人の心を蝕むのですなぁ……。
「いえいえ。本当です。こちらに命を受けた使い魔の方が……」
サッカ様は半身起き上がると竜型の使い魔さんを凝視した。
「珍しい使い魔みたいだけど……?わたしに?なんの用?……」
使い魔さん、目を閉じたまま答える。
「我ガ主ノ命ニテ……」
「あーわったわった……。その会話は50行くらい前にやったから本題、本題いって」
と、眠い目をこすりこすり。
さすがあ~しの主である。
「……。コレヲソナタニ」
フワッと空中を移動してきたその板状のモノは、サッカ様の目の前で止まった。
「これは?……」
「ソノ質問ニ答エラレル情報ヲ我ハ与エラレテイナイ」
「なるほど。受け取れっていうのね?わたしに」
使い魔さんは答えない。
「ま、じゃあ貰っておくわ。差出人が誰かは置いといて……」
両手でそれを受け取ると、再び寝床に横になる主。
間。
「と、ということで……。他にご用件は?」
尋ねるあ~し。
「命ハ果タシタ。デハコレニテ自動的ニ爆発スル」
「……はい?」
一瞬だった。
目の前で竜型の使い魔さんが青白く発光したかと思うと、ピギューン!!!と弾けたのは。
結果、サッカ様のお家はあちらこちらに穴が空き、天井はお洒落な吹き抜けというか突き抜けとなり、やっぱり扉は吹っ飛んで遠くで寝てやがるぜ……。
あ~しといえば炭火焼き鳥寸前で、サッカ様といえば母上様譲りの綺麗な金髪が……。
しかしながら、スパイ映画のノリを、このファンタジー駄文でやるとなると、あーいった魔術的爆発になるんやなーと。
で、そんな爆発でもスヤスヤ寝ておられる主様はまさしくこの駄文の主人公様としか言いようがない。
―街の酒場『ノーマ』(夜)―
「おうサッカちゃん!パーマとは珍しいな?なんかいいことでもあったっのかい?」
そう言ったのは今夜は既に6人目。
「いえいえ。何にも~」
空いたジョッキを片付けながらエプロン姿のサッカ様はそう答えた。
「サッカ。この料理を3番テーブルにな!」
この声はこの酒屋の店主ダイン様である。
ダイン様は齢ならば50くらい。
奥様のサリィ様(齢はヒミツ)と、この酒場を切り盛りしているのである。
「サッカちゃん。そろそろ奥の仕事の時間よ」
「はーい」
ジョッキを片付けて、3番テーブルで再びパーマの話をすると、サッカ様は店の奥に消えていった。
サリィ様の言う「奥の仕事」とは……。
そうソレである……//////
入浴のお仕事っ//////
健全な少年諸君ならば想像したであろう!
そう!
ソレ!
サッカ様は使い魔のあ~しが言うのもなんだが、黙っていればを絶対条件にだが、世が世ならば美少女の類である。
あれ?
なんか褒めてないような気がしないでもない?
ともかく、美少女設定なのであーる!
黙っていれば。
「なんか地の分で言った?」
サッカ様はあ~しの心が時々読めるのかもしれないと常々。
「いいえー。なんとも~」
間。
「サッカ様、今夜はさすがに疲れが顔に出てらっしゃいますよー」
「分かってる……」
サッカ様は地下へと通じる階段を降りていく。
降りた先にはいくつかの扉があり、一番奥の扉にへと向かい右手をかざすサッカ様。
鍵はガチャっと解錠され、中へと入っていく。
中は薄暗いが、誰か様の突き抜けのある家よりも全然広いのであーる。
少ないが立派な家具もある。
地下なので窓はなく、光の魔術で動くランプが部屋の唯一の光源。
サッカ様はベッドに近づくと声をかける。
「アーフム様。ご入浴のお手伝いに参りました」
「ありがとうサッカ。今起きるわね」
ベッドの布団が動く。
「あら?サッカ、パーマだなんて珍しいわね」
苦笑いするサッカ様。
「えへへ。似合ってない……ですよね?」
「ううん。そんなことないわ。なんか青春は爆発だって感じで素敵よ」
危うく噴き出すところだったあ~し。
まあ、大声で噴き出しても使い魔であるあ~しの存在は、基本、主である者以外は認識できないのだが。
ね?
巧妙な設定でしょ?
まあ巧妙かはさておき。
実はこのアーフム様も透明人間なのである。
ね?
急に設定話ばっかり連投してきたでしょ?
しかし、何故かサッカ様には薄っすらと見えているので、この仕事をやっているのもそのせいともいえて。
二人は一度さっきの扉を出ると、右隣りの扉へと入っていく。
勿論、手を引いているように見えるが、サッカ様が浮いた寝間着と一緒に歩いているようにしか見えない。
中に入ると狭い風呂場がある。
どこぞの異世界には、この狭さでも十分に暮らしている民がいて、しかも家族全員で一度に入るというのだから信じられんもんである。
サッカ様は脱衣場で燭台のロウソクに火を灯した。
しかし、その細いロウソクでは暗闇は照らし切れない。
「今日はロウソクで……ごめんなさい。今、魔力が足りなくて……」
「いいのよ。気にしないで」
床にアーフム様の寝間着が落ちると、サッとサッカ様はそれをたたんで脇に置く。
「ウチの鶏。最近なかなか卵産まないんです……」
「あら。そうなのねぇ……」
「仕方ないので、明日の朝に産まなかったら、焼き鳥を朝から食ってやろうかなーって。えへへ」
なんか笑いながら生命の危機が予告されてんぞ!あ~し!
あ~しは鶏型の使い魔で、あ~しの産む卵には魔力が含まれている。
食べれば手軽に魔力供給が可能な食材であり、売れば売ったで小銭にはなる。
だけど不定期なこともあって……。
サッカ様もエプロンと上着を脱ぎ、下の巻きスカートも解いて下ろし、短パン姿となる。
残念ながら、あ~しは鳥目設定なので、この先のお風呂場でのあんな姿やこんな姿の光景はみえないのであ~る。
見えたら見えたで、濃度の濃い湯気か局所的に張り付く石鹸の泡か、光源はどこだよ?と突っ込みたくなるレーザー光の帯で物理的視覚ジャマーが発動するので、文章化は不可能なのであ~る。
てか、物語の第一話からサービスシーンのお風呂回や温泉回があってたまるかって~のっ!
して、アーフム様の部屋に二人は戻ると、サッカ様はアーフム様の髪をタオルで拭き始めた。
「ごめんね。こんなことも当たり前に出来ないような体になってしまって……」
アーフム様はそうポツリとこぼした。
「……髪の毛はよく拭いておかないと。冷えますから」
「サッカ。お母様に何かあったの?」
「……」
タオルを持つ手が止まる。
そして、小さな嗚咽は、やがて大きな声となって、サッカ様は泣き崩れて。
タオルがサッカ様の涙を押さえる様に動き、やがてアーフム様の透明な体に包まれた。
「ごめんなさい。何もしてあげられなくて。ただ、今だけは好きに泣きなさい……」
感情に身を任せて泣き続けるサッカ様を、あ~しは初めて見たかもしれない。
基本、鳥頭なんで嫌な事は三歩で忘れるし、三日前は記憶の彼方だし、三年前なんぞまだ設定すらしてないもんで……。
まあ、それは置いといて。
サッカ様はやがて泣き止み、スッとアーフム様から離れ立ち上がった。
「……アーフム様の匂い。優しかったお母さんと同じ大好きな匂いがして……どうしても堪えきれませんでした」
「いいのよ……」
「食事を。上に行って取ってきますね」
サッカ様は涙で濡れたタオルを持って部屋を出ると、地下通路を少し歩いて立ち止まり、一人タオルを抱きしめた。
感情とはそう簡単に切り替えられないだろう。
それとも残り香……か。
「サッカ様?」
あ~しの問いかけに反応しない。
まあいつもの事でもあるが。
「旦那様からの言い付け破っちゃった……」
「あ~そうでしたっけ?」
ダイン様の言い付けで、アーフム様のお世話に当たってはプライベートな会話は禁止とされていたとかいう設定ですな?
そんなもん鳥頭のあ~しは知らんが。
―森の小道・帰路(夜)―
さすがのサッカ様も仕事が終わると体力の限界と見え、帰りの歩みはゆっくりとした歩調で。
あ~しも気の利いた台詞が浮かばないので、黙って付いていく。
サッカ様のボロ屋は街からは少し遠く、人気のないポツンと一軒犬小屋なのである。
もう少しでたどり着くというタイミング。
サッカ様が急に顔を上げて辺りを見渡し、そして道の先へ方へと視線を送った。
……え?
……何?
「サッカ……様?」
「ニワ……。なんか焦げ臭くない?……」
「えっ……?そうでs……。っ!?」
と、あ~しの鼻にも焦げた臭いが入って来たぞ……。
サッカ様は酒場のサリィ様から頂いてきたパンの包みをその場に落とすと、家に向かって暗闇の小道を駆け上がった。
「えーーー!!!サッカ様ーーー!!!」
この鳥目を置いて行かないで下さいまし~!!!
羽ばたいて追いかけるあ~し。
しかし、この臭い……。
何かが確実に燃えている臭いだ。
見上げた夜空。
今夜は第三の月。
月の中でも一番小さな月。
その微かな月光のみの山の小道。
第一の月であれば、鳥目のあ~しでも夜目が多少は利いたであろうが。
月とはそんなもんである。
―サッカの家(夜)―
あ~しが追いつくと、サッカ様は家の少し手前の木陰に身を潜めていた。
その視線の先では、サッカ様の家が……。
燃えていた……。
「サッカ様……」
なんと言葉をかけたら良いか。
「サッカ様の邸宅……やぐらかと思って誰かがキャンプファイヤーでも……?」
―ゴツンっ!
ゲンコツがあ~しの頭に降り注いだ。
「あいたたたた……。冗談ですよ冗談……」
良かった。
とりあえずサッカ様のご意志は正常だ。
燃え盛る炎が辺りの暗闇とサッカ様の顔を照らす。
あーもう!一体どういう事だ?
確かにあの竜型の使い魔が爆発はしたが、こういう火の手が上がるような感じではなかったはず。
何よりこの火……。
「魔力が感じられる……」
そうなのだ。
ロウソクの火の類とは違って、魔力を素とし、魔術から発せられるその火は魔力を少なからず帯びる。
だからこの燃え盛る炎の前提には、必ず魔術を使ったモノがいるということになる……。
「じゃ、じゃあ一体誰が?……」
という問いかけに、サッカ様は更に身を潜めて、あ~しに「しっ!」と顔の前で指を立ててして見せた。
えっ?
燃え盛るキャンプファイヤーもとい小屋もとい家の中から人が出て来るですとっ!?
青く光る人が一人……。
え、二人?
三人っ!?
ちょ四人っ!?
五人だとっーーー!?
あの極小の小屋の中から五人だとっ!?
どんなマジックを使いやがった!?
2シーターの荷馬車から五人出て来るイリュージョンかよっ!?
しかも青い五人組はこの炎の熱さにも至って平然として立っており、家の前に集まって、何やら会話している模様。
「なんだアイツら……」
サッカ様が小さく呟く。
「……おそらくは……キャンプファイヤーの火を目の前にして、五人で好きな子の名前とか言い合ってますn」
―ゴツンっ!
響き渡る拳の音!
そして振り向く五人!!!!!
「やっば!……」
サッカ様は登って来た道を戻る様に走り出した。
~第1話・終わり~