43話 鉄球とバグ
「この鉄球なにかに使えんかのう」
裁判所から追い出されたルーリーは両手両足につけられた鉄球をジャラジャラ引きづりながら、キュータルカノエとともに歩いていた。
足や腕に重りの負担は無いが一歩あるくたびにジャラジャラジャラジャラとうっとうしい。
「なにかー? 外して飾ったりするとか?」
「インテリアにはならんじゃろ。ただの鉄球と鎖じゃぞ……そもそも外れぬのじゃ」
ルーリーはステータス画面を開き装備アイテムの詳細をふたりに見せる。
【罰の鉄球・浄化済み(破壊不可)】
罪人の力を封じる罰を与える鉄球。
許可なく外すことはできない。
「ステータスには何も影響ないでござるか?」
「無いな。重さなども無い。そのくせ当たり判定が残ってるからなんとも言えぬ不快感がつよい」
「あっこれ掴めるよ! すごーい」
「こらっ! 引っ張るのはやめるのじゃ!」
ぐいっと後ろに引きとどめられる感覚にルーリーが振り返ると、右足の鉄球をキュータルが口で掴んでいた。
人の顔程のサイズの鉄の球を口の中に収めたカメという見た目のインパクトがすごいことになっている。
「そんなもの口に入れるものではないぞ。ばっちいのじゃ」
「キューちゃんは昔からなんでも拾って食べちゃう癖があったでござる……恥ずかしい」
「いまはそんなことしてないよ! これはゲームだからいーの!」
口に鉄球をハメたままキュータルが怒る。
彼女の喋りに合わせてカメの口ももごもごと動くが球は一向に外れない。
球を吐き出さないキュータルに呆れたルーリーが一歩右足を前に出すと、鎖に引かれて大きなリクガメの体もザッと前にスライドする。
「わわわっひっぱられるー」
口から鎖を生やしたまま器用にしゃべるキュータル。
カメのどしりとした四肢でふんばってもズルズルと前へと引っ張られていく。
「これって力とか入れてるでござる?」
「足にか? いや普通に歩いておるだけじゃな。最初に鎖を引っ張られた時は水中のような抵抗感があったのじゃが。
それ以降はなんら負担も無い。……うむ、そうじゃ! 少し走ってみるか! キュータルよ、無駄な抵抗はやめてしばし力を抜くのじゃ」
「えっ? ええっ!? うぇえええええええ」
セントラルの街中を走り出すルーリー。
その動きは両手両足に大きな鉄球をぶら下げているとは思えないほど軽やかだ。
人垣を避け、建物の屋根に登り、自由に駆け回る。
「ふぅーすっきりしたな。負担は無いが腕や足についてる物が壁などにぶつかると反動を受けたような気分を感じるな」
ある建物の屋上に立ち、袖で額の汗をぬぐうフリをするルーリーの隣にカノエが並ぶ。
「……? どういう意味でござる?」
「言葉にするのは難しいのじゃが、腕や足になにかがついている感覚はあるのじゃ。音などもするしな。
じゃが先ほどから言っているように重量は感じぬのじゃ。そのくせこれらが壁などにぶつかると、『重たい物が衝突したな』と脳内になんとなく流れるのじゃ。まあわからんと思うが自分でもよくわからぬ」
ルーリーの説明にカノエは首をかしげた。
そして鉄球を加えたままぐったりとしているキュータルに声をかける。
「……キューちゃんその球ちょっと貸してほしいでござる」
「外れないからむりー。もう一個あるんだしそっちにしたらー? てかこれはずしてー」
キュータルは目を回していた。ストレス反応でヘッドギアから警告がでるほどに。
ルーリーが走り出すと、キュータルは自身の操作権限が失われた。
簡単にいうとルーリーの付けた鉄球の一部であると認識され、なすがままに連れまわされたのだ。
自動車やバイクの運転を自分でする場合と遊園地でコースターなどの乗り物系アトラクションに乗っている時。
同じ速度であっても自分に操縦権限が無ければ体感速度は大きく変わる。
今のキュータルは、突然安全装置も無いジェットコースターに乗せられぐったりした状態だった。
「はずしてと言われてもな。引っ張ってみるか?」
「キューちゃん側の体を何かで固定しないと無理でござるよ。拙者がつかんであげたくてもハラスメントに引っかかるでござる」
「うーむ。最初から全裸のカメへのハラスメント行為とは一体何か。考えさせられるゲームじゃな」
「せくしー担当だからおさわりはメッなんだよー」
球を口にはめ込んだままぐったりと文句を言うキュータル。
三人で意見を出し合い、最終的にはキュータルが壁にしがみついて耐えるということになった。
「いくぞ! キュータルがんばるのじゃぞ!」
「がんばるでござるよー」
グッグッグッグッと鎖を引くルーリー。
「あっ出そう! う゛っ」
「うむっ一気にいくぞ! うおおおおおおりゃあああああ!」
ポーーーーーーン! 軽い音とともに勢いよく飛び出る鉄球。
「な、なんかおかしいんだけどーーーー!」
「キューちゃん!? なんかすごいことになってるんだけど!?」
「キモっ! どうなっておるんじゃお主!」
「しらないよー」
球が抜け、口を大きく開けたマヌケ面をしているキュータル。
彼女はその顔のまま、なぜか高速で震えていた。
「いたっ! え!? ダメージ! ダメージあったんだけど!? あたたたたたっ」
ルーリーたちが耳をすませるとキュータルの体からヒット音らしきものが鳴っている。
「うむ? ダメージがあるのか? 街中なのに?」
「もしかして鉄球を食べてた間のダメージを全部うけてるでござる?」
数分経ち震えが収まるとキュータルのHPは80%ほど減っていた。
「またやってみるか?」
「そうでござるね。キューちゃんまた食べるでござるよ」
鎖を持ち上げてキュータルを誘うルーリーとカノエ。
「いやいやいやいいから! もういいよー!」
その時、ピピピとログアウト時間を知らせるタイマーが鳴った。
一度ゲームをやめないと彼女の本体が大変なことになってしまう。
「おっと休憩時間じゃな。わしは一度ログアウトするがお主らはどうする?」
「わたしらも一回ログアウトかなー? あっ今日用事あったんだった! カノっち急がないと」
「……? あっ忘れてたでござる。拙者らはここらで失礼させていただくでござる」
「うむ。ではまたな」




