41話 祭りの終わりと
ノトリスが常時発動しているアーツの一つに【魔食らい】というものがある。
装甲を外したノトリスの顔に魔法攻撃が当たると、ノトリスはそれを食べて自分の物にすることができるという能力だ。
食べた魔法は同じものをそのまま一度だけ使うことが可能となっている。
だが、食べれる魔法はサイズが決まっている。見た目のサイズで彼女の体を超えるほどの大きさは無理だ。
そしてもう一つ、これはノトリスにはなんらメリットがない副次的効果なのだが、このアーツによって消された魔法はCTが発生しない。
魔法を食べられた側は発動に使ったMPは減るが、すぐにもう一度同じ魔法を使えるのだ。
今回はこの連発可能という部分を利用し、ノトリスのアーツとルーリーの必殺技で空を飛ぼうというのが作戦内容だ。
『──プレイヤー・ルーリー。情報検索。必殺……威力……射程……判断完了。──よくわかんねえけど良いぜ。それでその後はなにするんだ?』
「ああ。最後はお主が必殺を入れてトドメじゃ! 一番目立つぞ!」
『おお! 一番目立つ! いいじゃねえか! ヨシやろうぜ!』
「そうそう、大事なことじゃがわしに攻撃は当てるなよ? 絶対じゃからな? 一発でくたばるからな。わしが!」
ルーリーがノトリスの背中に飛びつく。
正確にはノトリスの左手に持たせた椅子に座って彼女の肩に手を置いている。
胴体同士の接触はハラスメント行為防止のために不可能で、それでもどうにか近づこうと試した結果がこれだ。
「いくぞ? エアシュート!」
左手はノトリスの肩を掴んだまま、右手を伸ばして彼女の顔に当ててルーリーが唱える。
一瞬ルーリーの右手にゴウッ! と風の塊が生み出されたが、すぐにノトリスの口へと吸い込まれていった。
「どうじゃ? 食えたな?」
『けっこうヒンヤリして良いのどごしの風だぜ』
「では、お主が下に向かってそれを吐き出したら、わしが次のを撃つ、それでよいな? 手順はお主の3番アーツが終わって落下が始まる前にわしの必殺を吐く、そしてわしが食わせる。その繰り返しでいくぞ」
『じゃあいくぜ?月星三枚おろし!』
右手に持った巨大包丁を下から上へ救い上げ、ノトリスの巨体がまっすぐ上に飛んだ。振り切られ、天辺を指す包丁から三本の斬撃が上へと昇っていく。彼女らが飛んだ距離は高さ5メートルほど。
しかしこれはただのジャンプ攻撃なのですぐに落下が始まった。
間髪入れず、ノトリスが口から必殺技を吐き出す。『開放・エアシュート』
ゴオオオオオオオオ! ルーリーから奪った風が彼女の口より放たれる。
フワリと二人の体が中空に止まり、ほんの少しだけ上昇。ノトリスの口から空気が止まるとすぐルーリーが彼女の口に手を当てた。
「エアシュート」
ゴウっと再びノトリスの口に補充される空気。そしてノトリスは再び上昇用アーツを唱える。
ルーリーは右手をノトリスの口から引っ込めると、青いエーテルを取り出し自分に使った。
魔法系の適正皆無なルーリーは最弱クラスの術を使っただけですぐMPが枯渇する。
『月星三枚おろし!』
再び繰り出される空を引き裂く三枚の刃。
浮かび上がり、落ちかけ、ホバリングし、また浮かび上がる。
その繰り返しを何度も行い、とうとう二人はボスを包むたんぽぽ地獄よりも上へと出た。
「よーーーしよし! わしらが頂点じゃ! いくぞノトリス!」
椅子から立ち上がりルーリーが叫ぶ。
高さは稼いだ。あとは落下に任せて大技を入れるだけ。
『おうよ! それで何すればいいんだ?』
「うむ! 必殺の2番じゃ! 巨大な龍で丸のみにしてやれ!」
『──2番。龍。バクナワだな! おっしゃ任せろ! ……母上、オレら飛んでくる必要あったか?』
ノトリスの必殺技【バクナワ】、それは神話に出てくる大食らいの龍を呼び出し対象を丸のみにする技だ。
上から下に向けて撃っても横向きに撃っても効果は変わらない。
「阿呆! その方が目立つじゃろが!!!」
『ハッ! 確かに! じゃあいくぜ母上! 後ろに隠れてな!』
左手に持っていた椅子を捨て、ノトリスが両手で大包丁を構える。彼女の装甲に光のラインが入り、包丁へと伝っていく。
『食い潰せ! バ ク ナ ワ!』
ボンッボンッと景気よく爆ぜていたたんぽぽたち。ひん死ながら未だに原型をとどめていたレイドボス。
それに群がるプレイヤー達。その全てを空から落ちてきた青白く巨大な龍が丸のみにした。
音も無く、パクンッと全てが飲み込まれ、後には何も残らなかった。
遠くでそれを見ていた者も、飲み込まれたが対立関係にないので何も起こらなかった者も皆、そのあっけない終わりに静まり返った。
【レイドボス・魂喰プレデター撃破! レイドボス・魂喰プレデター撃破! レイドボス・魂喰プレデター撃破! レイドボス・魂喰プレデター撃破! レイドボス・魂喰プレデター撃破! レイドボス・魂喰プレデター撃破!】
その静けさ分うるささが強調された、緊急速報のようにプレイヤー達の画面を邪魔するテロップ。
それを見てようやくプレイヤー達も勝鬨をあげた。
「エアシュート! っとよい着地じゃな! わし!」
『へへへっめちゃくちゃスッキリしたぜ! ありがとな母上!』
そんな騒ぎから少し遅れ、ノトリスが乗った椅子を片手で胸に抱くように持ったルーリーが地面に落ちてきた。
あとはお楽しみの戦利品チェックのみ。と、ルーリーが気を抜いた瞬間、彼女の周りに色んな種族のフル装備NPC衛兵がワラワラと湧いて現れた。
「なんじゃ!? なんじゃ!?」
『貴女が大量殺人犯ですね? ご同行願います』
「え?」
抵抗する間も無く強制的に手錠アイテムをつけられ連行されるルーリー。
ノトリスはその様子をウンウンとただ眺めていた。
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『これより被告人、アースドラゴノイドのルーリーの裁判を始める』
「え!?」
捕まった! と彼女が認識した次の瞬間。ルーリーたちは裁判所のような場所に移動していた。
ルーリーの回りには腰あたりの高さの木の柵。左右後ろには傍聴席と見物人のNPCたち。
そして、ルーリーの正面にはメガネと黒い帽子を被った女性キャラが5人。
そのうち二人はノトリスとアナーク。ルーリーと目が合ったノトリスはニヤリと笑って、メガネをクイっと指で上げた。
「え!? なにしとるんじゃお主ら!? あっそっちのお主も知っておるぞ」
残りの三人は猫の獣人、エルフ、人っぽいカエル。
女性のカエルにはルーリーも見おぼえがあった。彼女はぺんおんで新規実装されるカエルのお姫様だ。
ルーリーは彼女の戦闘方法から趣味設定まで覚えている。
5人中3人が姫ということは残りの獣人とエルフも姫ということだろうか。
姫キャラをこんなにまとめて出すとは贅沢な。といったことをルーリーが考えていると、法廷のドアが開きぞろぞろとプレイヤー達が入ってきた。
入ってきた人々は姫がずらっと並んだ光景に見とれたり、スクショを撮ったり、客席から飛び降りようとして衛兵につまみだされたりした。
そんな集団の中から数人、ルーリーの横に通された。キュータルたちだ。
『よし、全員揃ったな? これより開廷する』
五人の真ん中に座ったアナークが小さな木槌をコンコンと叩く。
そしてそのまま罪状を読み上げ始めた。内容を要約すると、ボス戦中にプレイヤーやNPCをキルしすぎの罪でルーリーはここへ連れてこられていた。
『ここまでで異議はあるか?』
アナークがルーリーらを見まわしたずねる。
「裁判長! 発言の許可を!」
クイドが手を上げた。目がキラキラ輝いている。
『弁護人か。よろしい。許可する』
「はい! 裁判長様は何も間違っておりません! 全てが正しく公正であります!」
「お主は弁護人であろう!?」
『被告人、ヨが許可を出すまで喋るな。さて、弁護人の言であるが……当然だ。ヨは間違えない!』
「そうでございます! 素晴らしい!」
「ダメじゃこいつ。裁判長! 別の弁護人と変えて欲しいのじゃが」
『では、そこのクラウドシェルの娘。お前だ。お前が弁護せよ』
「え? 私? うーんと、でも魂喰プレデターを倒すには誰かがアレやらないとダメだったんだよ? ちょっと許してほしーなーって」
『被告人は楽しんで殺害行為に及んでいたと証言がある。それでもか?』
「ぐはっ! それを言われると私はなにもいえないよー」
「降参が早すぎるぞキュータル。じゃがまだもう一人!」
バッと最後の弁護人カノエの方を見るキュータル。だが、カノエはぶんぶんと首を振っていた。
『もう無いようだな。被告人は四鉄球の刑に処す。これにて閉廷!』
ガシャリとルーリーの両手両足に、鉄球が付いた鉄の輪が着けられた。
『被告人、最後になにか言い残すことはあるか?』
「残りの姫四人絶対要らんじゃろ!」
ここで一章完結です。
最後逮捕されてますがデメリットはひどくないので安心してください
次からは少し閑話を挟んで4つのエリアを見て回る感じです
感想等お待ちしております
現在年末で少し忙しく数日ほど期間が空いてしまうかもしれません
なのでキリも良いここで一時的に完結済みと設定しておきますがすぐに再開する予定です
もしかしたら明日次を投稿するかもしれませんがその後はしばらくまちまちになると思います




