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38話 人魚姫


「ふーむ。なかなか良い音が出るようになってきたな」


 十何人目かの被害者を開放し、得意げな顔で腰に手を当てるルーリー

わずらわしい警告が消えてからの彼女は順調にその撃破数を伸ばしていた。

今の彼女はカエルのような人型プレイヤーをキルしたところ。


 手の止まったタイミングを見計らったように、ピピピピッと音声通信の着信音が鳴る。

発信元を確認し通話にでるルーリー。ちょうどルーリーも、通話先の彼女たちの事が気になっていた。


『ルーっち! なにやったの!?』


 ルーリーの視界画面にキュータルの顔アイコンが表示される。


「いきなりじゃな。特に何も? わしはわしの手の届く範囲で好きにしておるぞ。おっと! 死ねぃ!」

『急になに!? 死なないよ! 私120歳まで生きるつもりだし!』

「おおすまん。ちょうど獲物が上がってきたのでな、つい、な! おっまた来たか! ふふふっ早く登らねばいかんな!」

『ええ……こわぁ……』


 キュータルと喋りながらもキル数を積み上げていくルーリー。

その数字はそろそろ三桁の大台に乗るかといったところだった。


『話しが進まないよキューちゃん』


 二人の通話にヤモリ系忍者娘のカノエも参加した。

基本的に、通話中のメンバー全員のフレンドであるという条件を満たすことができるなら、許可を得ずとも通話に参加することができる。

片方のみとフレンドの場合でも、フレンドから招待をもらい、別の参加者に許可を出されることで参加可能。

キュータルとカノエは相変わらず二人そろっているらしく、キュータルの喋りを聞いて、このままでは話しが進展しないと通話に参加したのだ。


『あっそうだったそうだった! それでルーっち! さっきのなんなのさー宣戦布告って! めっちゃー怖いからやめてー』

「ん? 今わしはボスの上に居るんじゃが、ここ捕食された奴らが通るんじゃよ。それでちょっと邪魔をな。おぬしらも知ってるであろう? プレデターをやるにはまず餌からじゃ。干上がらせれば勝手に滅ぶからな」

『でも拙者らは捕まってないでござる。やめてほしいでござるが?』


「まあそれはアレじゃ。……一人ずつキル設定するのが面倒だったんでな」

『面倒で! 今そのせいでみんなちょっとパニックだからね! 反省してよー?』


 それからルーリーはキュータルから、プレイヤー達にどれだけ迷惑だったのかをこんこんと聞かされた。

ルーリーとフレンド状態のプレイヤーには宣戦布告者の名前が表示されたが、面識のないプレイヤーにはただ狙われているとだけ記され、それがパニックに拍車をかけたようだ。


「それで、二人ともこっちに来るか? ここけっこう安置じゃぞ?」


 ルーリーが二人を誘う。どこかへいったクイドは抜きにしても、そもそも三人はこのレイド戦を一緒に戦おうとしていた。

そのはずが何故かずいぶんと離れてしまっている。

これから二人と合流するにしても、今いる場所は失うには惜しい。ルーリーはそう考え二人の移動を提案した。


『えー私の足でのぼれないしー。カノっちどうするー?』

『……遠慮するでござる。爆破で巻き込みそうで怖いし』

「むっ! 死ねい!」

『だよね……ルーっち、急に叫ばれると怖いってば。あ、そうそうっ私らは今、人魚姫ちゃんのとこに居るからもし捕まったらたすけてねー』

「ふむ。まあ仕方ないな。それで、人魚姫とは? もしかしてあのゼリーみたいなもので浮いているのがそれか?」


 ボスと一緒にクルクルと闘技場を見降ろしていたルーリーだが、ある方角に毎度なにか大きな物体があることが気になっていた。

それは例えるならば巨大なソーダ味のゼリー。砂と埃が舞うこの質素な闘技場に爽やかな水色の何かがある、それは遠くからでもとても目立っていた。


 何週目かにその水色のゼリーを見た時、ルーリーは気づいた。ゼリーの中に何か入っている、と。

それは太くて長い何か。蛇に似ているが蛇ではない。それには背と脇にいくつかのヒレが付いていて、ゼリーの中を優雅に泳いでいる。

色が水色でなければ、ルーリーはそれを煮凝りと思ったかもしれない。


『……それでござる。このゼリーみたいなのは人魚姫どのが出した水魔法でござる。移動はこれごと浮いて動いてたでござった』

『ちなみにー周りに普通に地面這ってる人魚ちゃんいるからー必須じゃないっぽいよ』

「そうなのか。なんでもよいがソレはずいぶん目立って分かりやすい。できればお主らはソレの周りに居てほしいのじゃ」


 ふわふわと地面から1メートルほどの高さに浮かぶ水色の水球。それは直径で3メートル以上のサイズを誇る。

水球の周りには3人の人魚NPC。彼女らは腰にだけ水で作った浮き輪のような物をつけていた。


 ルーリーとの通話が終わり、キュータルとカノエは改めて人魚姫に注意を向けた。

「こっちに付いててほんとうに良かったのかなあ?」

「……クイドどのを探す? キューちゃん」

「あっちもたぶん似たような物なんだよなあー」


【姫番号4・流麗深姫(りゅうれいしんき) パイシス】

純白の体を持つ海底の至宝。下半身の長さは2メートル。

両腕には魔術を発動するための腕輪を装備し、地上にいる間は常に自身が作った海水のベッドの中でくつろいでいる。

このベッドを破壊し、彼女へ危害を加えることは現状のプレイヤー達では不可能だ。


 彼女を語るうえで外せない要素がもう一つ。

彼女は水からは出ないので、彼女は服を着るということをしない。

上半身には、腕輪以外だと何かの皮で作られた小さな胸当てのみがつけられている。


 こどものような無邪気な笑みを浮かべながらベッドの中をクルクルと回る人魚姫。

周囲のプレイヤーたちはレイドボスよりも彼女の写真を手に入れることに忙しかった。


『イケイケー! アンタたち! はやくこんなザコ倒して帰るわよ!』

「「「おおー!」」」


 集中して写真を撮りながらでも、姫の声には反応する。

狂気の集団がふわふわと戦場をさまよっていた。


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