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36話 他所から見た状況



 少し時間を戻し、ここは3番ルーム。


 ぺんおんでは街や戦闘フィールドへ移動する際、自分で部屋の番号を指定しない場合は人数に空きのある若い番号の部屋へと飛ばされる。

自動で部屋を決めてもらうメリットは確実に大勢のプレイヤーが居る事。デメリットはプレイヤーが多すぎる事。


 ぺんおんのシステム上、戦闘フィールドで他プレイヤーと遭遇しても得物の取り合いにはあまりならない。

近くで戦っていれば双方に素材と経験値が入るからだ。しかもプレイヤーの数に応じて若干の+補正がかかる。だからソロでも気軽に遊ぶことが出来る。

 逆を言えば、自分及び自分のパーティーでモンスターを高効率に狩れるプレイヤー達は、自分たち以外のプレイヤーが居ない方が良い。

野良プレイヤーから貰える取り分より、そちらに行く経験値や素材の方が多くなって損をするからだ。


 そういう理由でここのような一桁ルームは緩く大人数でワイワイ盛り上がりたい、そんなプレイヤー達が多かった。


 闘技場の3番ルームでは300人近いプレイヤーが戦っている。全体に指揮を飛ばす人なんていない。

それぞれが今を楽しみながら自分に合った貢献方法を模索し遊んでいる。

 触手を突破しようと一塊になって走る集団。HP等が減っているプレイヤーを探し、勝手に各種回復エーテルを投げる事を生きがいにしているプレイヤー。有名NPCを探しスクショ撮りに励むプレイヤー。この場では様々な遊びが混在していた。


 人間種の6人でPTを組んでいたあるチームは、今回のレイドボス戦に今作の目玉NPCの女性ドラゴノイドが参戦していることに気が付いた。

彼らは人間族1、エルフ2、ドワーフ1、デモンズ2で構成されたPTで、気づいたのはリーダーを任されているドワーフの男だった。

ドワーフの男【アッシュ】がネットに流れていた彼女の戦闘動画を見ていたことが気づけた要因だ。


「おい見ろ! あの女キャラ新しい姫じゃないか?」

 アッシュが片手で武器を振りながら、空いた方の手で一体のキャラを指す。


「どれだ?」

 双剣を振りながらエルフの片方が聞いた。

「あの青い奴だよ。でけえ剣持ってる奴」


 残りのメンバーも、攻撃を続けながら指された方を見る。

そこでは、青い鎧のドラゴノイドが太い触手を軽くひねっていた。


「へーこの触手ってパリィ出来るもんだったのか……やってみるか」

「姫なら張り合うのはやめとけよ無駄だ。俺たちとステも何も違うだろあんなの」

「……あれが触手除去してくれるなら近寄った方が楽じゃね?」

「それもそうだな。あの姫の近く行こうぜ」


 彼らは、触手を巨大包丁で弾く姫の近くで戦うことを選んだ。そして似たような判断をしたプレイヤーは多い。

この場には、ドラゴノイドの姫と蛇姫を含めて5人の姫NPCがおり、彼女らは基本的に仲が良くないのでバラバラに離れて戦闘を行っている。

結果プレイヤーは自分から近い場所に居た姫NPCを中心に5つの大きな塊状に動いていく。



──────────


「あれ、なんかNPC増えてないか?」


 誰かがそんな妙な事を言い出した。プレイヤーもNPCも大勢いるこの戦場。

一人二人の増減なんて気にしても仕方がない。


「どういう意味だ?」

「姫と話してるキャラが居る」

「姫と? なんかのイベントか?」

 

 その会話が聞こえていた範囲のプレイヤーの注意が姫に向く。

青いドラゴノイドの姫がオレンジ色のドラゴノイドの女性と話しており、姫は今まで隠していた素顔まで晒している。


「同じ種族だし新規キャラじゃないか?」

「長い脚に長いスリットのチャイナドレス。運営やるな」


 プレイヤーにとって不思議な点はもう一つあった。姫が武器を降ろしているのに触手が全くそこを通らない。

ボスの行動パターンに姫を優先的に狙うというものは無いので、これはタイミングによっては普通に起こりえる。

しかしそのことを知らない周囲のプレイヤーは、イベントが起こっているからボスの行動パターンから外れていると解釈した。


 彼らの戸惑いは姫がもう一人のドラゴノイドと連れだって走り去っていくまで続き、姫たちが居なくなり触手の攻撃が苛烈になってようやく彼らも動き出した。


──────────


「捕食用だ! 避けろ! 避けろ!」

「どっちだ!? ──っ! エルク! フォウムを下がらせろ!」

「え? あっ!」

「フォウム! クソッ! フォウムが捕まった! 頼む! 協力してくれ!」


「諦めろって。どうせ2日くらいだろ。我慢しろよ」

「違う! あいつは! NPCだ!」


 薙ぎ払いなどを行っている通常触手とは違い、捕食用触手は先端がクリオネのように割れる。

割れた部分から粘性の強い細い触手を何本も出し近くに居るキャラクターを捕まえ、本体の口へと引きずり込む。

捕まったら最後、一口で魂まで食われてしまう。


 今その捕食用触手に絡みつかれたのは、PT6人目のメンバー、デモンズの女性NPC【傭兵・フォウム】補助系の呪文を覚えた後衛系キャラクター。

傭兵とは、現在人種族エリアでのみ産まれる特殊NPCのことを指す。


 人種族が傭兵ギルドという建物に行き、【新人を雇う】という項目を選択し決められた金額を払うと、1体だけNPCを作る権利を得られる。

決められる項目は見た目と初期能力それに成長傾向。


 生み出された傭兵NPCは製作者が雇うかギルド預かりという存在になる。

製作者が連れ出せば傭兵はそのプレイヤーとの戦闘補助行為により成長し、ギルド預かりならば時間経過で自動的に成長していく。

 彼らの第6のパーティーメンバー・フォウムはプレイ3日目に全員で金を出し合って作った傭兵だった。

どの種族を選ぶかで喧嘩し、見た目の好みで喧嘩し、苦労して入手し苦労して育ててきた大事な仲間だ。

その大事な傭兵が今レイドボスの捕食用触手にとらわれていた。

 

 プレイヤーである彼らは魂を食われても少しのペナルティで済む。だがNPCの彼女は違う。食べられたらそこで終わり。

再び同じ設定で作り直すことも可能だが、それを同一キャラクターとは思えない。


 無表情に引きずられていくデモンズの女性にPTメンバーの男たちが手を伸ばす。

しかし、彼らの手は届かない。約1分後、彼らの元に同時にメッセージが届いた。


【傭兵・フォウムが死亡しました:報復対象──】


「フォウムううううううううううう!」

「俺たちのフォウムが……」


 泣き崩れる男たち。


「お、おいちょっと待て! 違うぞ! 死んだんだ! 普通に死んでる!」

「は? 何言ってんだフォウムは食われて死んだんだ!」

「不謹慎だぞ」「まだ全然元とってないのに……」

「あーもう! ちょっと待ってろ」


 エルフの男が蘇生アイテムのイエローエーテルを取り出した。

このアイテムの効果は、死亡しリスポーン前のキャラクターをその場に蘇らせる。

プレイヤーに使う場合は倒された地点で行う必要があり、NPCに使う場合は所属先によって決まる特定のポイントで行う必要がある。

傭兵の場合雇い主の足元がそこだ。


 エルフが足元にイエローエーテルを落とす。すると地面が明るく光り無表情のままのデモンズ女性が復活した。

それを見た男たちは心で泣きながら走り寄り、無敵時間中のフォウム以外の全員が触手に薙ぎ払われた。


「でもなんでだ?」

「食われるより先に誰かがやってくれたんだろ。ロスよりはデスの方がましだからな」

「あーだから報復とかそんなのがあったのか」

「でも確か他人の傭兵キルしたらPKレベルのペナルティーあるだろ」

「あいつだあいつ。さっき姫と会話してたNPC。あれ運営からの救済キャラだったんじゃないか? さすがにロスはきつ過ぎッて」

「救済(死)」

「なんにせよ。捕食をそこまで怖がらなくて良くなったのはでかすぎる!」




この人たちのお話は別に続きません

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