34話 乗り込む
再集合したルーリーたちは相変わらず闘技場の外にいた。
「では最終確認じゃ。20分という短い時間、いやログアウトで半分は使ってるから10分程度か。その時間で調べたこと、思ったことを共有しておこう」
「まーソースが限られてるからおんなじ物しかないと思うけどねー」
実際、三人が持ち寄った情報はほぼ同じものだった。
うーん、と悩むフリをする彼女ら。周囲には他のプレイヤーも居なく、静かな空間に闘技場内からの必殺技だけがたまに流れる。
その必殺技の発動ペースも心持ち長くなっている。参加プレイヤー全員が必殺を使い切ったとは思わないが必殺技の全てが大ダメージの大技ということもないだろう。実際に自分は攻撃手段として宛てにしていない。ルーリーはそう判断した。
お喋りで時間を潰すこともそろそろ難しくあとは覚悟を決めて突入するだけ。
「では行くか。最悪二日間変なキャラになるだけじゃろ? 気楽にな」
「……キューちゃんはむしろ普通になる」
ボスに魂を食べられた系プレイヤーの情報によると、顔も何もない半透明で個性ゼロな人型物体になるらしい。
魂が無いのでゴーストではなく、体も無いからゾンビなどのアンデッドでもない。
人の形をしたナニカだ。
「このぱーふぇくとぼでーが失われるのは世界的危機だよー」
キュータルが短い手足をばたつかせる。
彼女のように人から遠く離れた姿をしているプレイヤーも等しく人の形のナニカ状態になる。
「ふふっならば食われないよう努力することじゃな」
「ちゃんとまもってよー。私なんかすぐ食べられちゃうってー。あっ普通に倒されてギブアップのリスポーンしたら?」
「魂喰らいじゃぞ? わざわざ邪魔な殻を脱いで旨そうな中身だけになってどうする。そっちを選んだ瞬間強制的にパクリっじゃ」
「ええーやだやだー! 食べられたくないー!」
わめくカメをなだめつつルーリー達はようやく闘技場の入り口を通った。
体が完全に建物へ入った瞬間、ピコンとウィンドウが開く。【エーテルセットを入手しました!】
闘技場の内部に落ちているという回復アイテムだが、戦闘前にもちゃんと補充をしてくれるようだ。
HP回復の緑から蘇生薬の黄色まで全てが上限まで揃っている。当然だが魂を食われた後に黄色エーテルを使っても効果はない。
あくまでも通常攻撃で死亡したプレイヤーに使うものだ。
【注意・これより先へ進むと強力な敵が出現します】
個人ウィンドウではなく空中に警告文が表示されている。場所は闘技場の短い内部通路から戦闘用広場へと出る出口。
この警告文を超えた瞬間にボスとの戦闘状態になる。
幸いなことに中の状況は目視での確認が可能でタイミングを自由に選ぶことができるようだ。
ルーリーたちの足が警告文へと近づいていく。彼女らはもはや言葉は交わさず、心を落ち着かせ突撃するのみ。
【魂喰プレデター・残体力80% 撃破報酬・-2】
警告文に体が触れるところまで行くと表示が切り替わった。それと同時に背後でガシャンと重たい物が落ちた音。退出が封じられたようだ。
ルーリーとカノエは振り返らず、キュータル一人が後ろを見て鋼鉄の扉に驚いていた。
「思った以上に削れておらぬな。これはしんどいぞ。長期戦になりそうじゃからまずはわしは離れて様子見をしてくる」
「入った瞬間何か奇跡的な超火力でボスが死ねばいいのにねー」
「……外のモニター誰も見てないといいけど」
「恥ずかしいか? 外に見られておらぬでも中で派手にやれば誰かしらが動画をあげるじゃろう。気にするだけ無駄じゃな」
ハッハッハと笑い、ルーリーが戦場に飛び込んだ。
彼女の必殺技は威力も何もかもを最低にした牽制技。これまで使う機会は無かったし今回も使う予定はない。
自分は火力も低いから目立ちようが無い。だから気楽でよい。それがルーリーの考えだった。
闘技場の中は、広さが外で見るより何倍もあった。
巨大なダイアモンドマーマンを縦に二体重ねた以上に長い、超巨大ムカデ状プレデターはとぐろを巻いて中央に陣取っている。
ボスの攻撃はモニターで見た分では、体から生えた触手、体を伸ばしての物量、髪の毛を針状にし飛ばす、捕食、くらい。
体を伸ばす攻撃が戦闘エリアの中央から端まで届いているのをルーリー達は映像で見た。
モニター越しでも迫力があったのだから、直接? 自分の体で味わえばそれ以上の物に違いない。
まずは様子見と、攻撃を避けつつ円を描いてエリア内を移動するルーリー。
クイドが場所取りをする際、人と被らないように過疎ルームを選んだはずだが、今ここにはそれなりの数のプレイヤーがいた。
触手の動きに阻まれて中々本体を攻撃しに行けないようだ。
近接職は触手を避けて前進していくが、止まない連続攻撃に当たり強烈なノックバックを受け、走り出した位置より後方まで下げられる。
遠距離職はたまに飛んでくる見づらい髪の毛飛ばしでジリジリ削られている。
他のルームでも似たような状況なら攻略が進まないのも無理はない。
中から見た情報を得ようとクイドを探していたルーリー。そんな彼女を呼ぶ声が有った。
『ああっ! 母上! 来てたのか!』
「は、ははうえぇ? 何じゃその呼び方! ってノトリスか。お主も居たのか」
『ああ! セントラルを守るのはオレの仕事だからな! 今日は全力だぜ!』
青い装甲で全身を覆った大柄の女性ドラゴノイド。顔の装甲を解除したその人物は、【姫番号・11 飢竜姫ノトリス】だった。
初対面時に戦闘を挑んできた彼女が今はニコニコと笑顔で喋っている。その変わりようにルーリーは面食らう。
(マザーと名乗ったから? 倒したから? 反応がよくわからない。でも友好的なら使えるな)
「ノトリス、アーツの8は使えるな? わしにかけてほしい」
『はち? ──渇望の叫び。………………ああ使えるぜ! 今欲しいか?』
「ああ今じゃ。お主に会えてよかった」
『へへっなんだよ気持ちわりぃな』
ダイアモンドマーマン戦後にルーリーと戦闘した時、ノトリスは所持アーツを一つも使わなかった。
彼女はゲームを代表するNPCとして作られている、その所持アーツは全て彼女専用で類似のプレイヤー用よりも強い。
【渇望の叫び】
ノトリスもしくはノトリスの指定した対象へ向けて発動する。
対象は魔力移動値が上昇し飢餓状態に変化する。
これは足が速くなってお腹が減り、攻撃に摂食判定が付くというもの。
摂食とは相手に押し付ける状態異常。この状態異常が上限値まで溜まるとHPに割合ダメージが発生する。
『いくぜ? う゛あああああああああああああああああああ』
ノトリスの叫び声に周囲のプレイヤー達が慌てる。注意が削がれ触手に吹き飛ばされたプレイヤーが多数。
それはしかたがない、重要NPCが急に変な動きを始めたら誰だって気になる。全てが初見の状況なら猶更だ。
だがルーリーは一つミスをした。ノトリスたち姫NPCは全てのルームで同時に見えているということをすっかり忘れていたのだ。




