24話 冒険の前に
テスト二日目昼の13時前。長時間のプレイになることを見据え、ひのりはベッドわきに飲み物や片手で食べられる食料を準備していた。
フルダイブタイプのゲームはプレイをやめる時に時間がかかる。
自由で開放感のある仮想の世界から、重たく不自由な現実へ戻る慣らしの時間があるからだ。
正規手順のログアウトだけで十数分かかるし、機器を外した後もしばらく体にダルさが残る。
そんな状態で立ち上がり、歩き回れば転ぶ危険性も高い。
そのもどかしくダルイ時間を上手く使うための軽食だ。
反応が鈍かろうが体は動く。
ベッドに座り、軽く食べて飲んで諸々済ませている内に、体のダルさも収まる。そうなればもう立ち上がっても転んだりはしなくなっている。
オンラインゲームはゲーム外の時間をいかに有効利用できるか、それが上に行くためのコツなのだ。
プライベートな空間でどんな行動をとっても誰に見られるわけでもない。
どれだけお上品に過ごしてもゲームには関係ない。
全ての準備が整い、ひのりはゲームを起動させる。
昼休憩前のプレイですでに彼女はルーリーを待ち合わせ場所の建物内部まで移動させていた。あとは部屋を合わせるだけだ。
「るーっちおはよー! 早いねー! 偉いねー!」
「……今日もよろしくでござる」
「うむ。よろしくなのじゃ! 二人とも」
カメと忍者の二人組と会話していると続々と人が集まってきた。
近くにいるプレイヤーは約30人。
種族割合はリザードマンが一番多く、ドラゴノイドとナーガが半々ほど。そしてカメはキュータルを含めて三人。
「えーっと。時間だな! 今ここにいるのは、赤底の沼周辺弾丸調査の参加者だと思う。あっ違うよって人はすまないがちょっと離れててほしい。何それ知らないけど興味ある! って人は近くで少し話を聞いて行って欲しい。まず今回みんなに声をかけさせて貰ったのは俺だ。ワニタイプのリザードマンで名前はB・ジョーだ。よろしく」
爽やかすぎるほどに青い鱗のワニ型男がどこからか出した台の上に立って挨拶をしだす。
クエストボード前を塞ぐように立った男に文句をいうプレイヤーはいなかった。
彼のその姿はルーリーがカメたちから聞かされていた誘い主の特徴とも一致している。
B・ジョーと名乗ったその男の声を聴き群衆がわずかに動く。
たまたま居合わせたプレイヤー達が場所を開けてくれたようだ。
だが、彼らも離れていくわけではない。これだけの数のプレイヤーが集まって何かをしようとしている。それは人を留まらせる充分な理由となる。
「こっちの人数多い方が話通ってる方だな? じゃあとりあえずそっちの初見の方にも説明するぞ!
俺たちはフレンドとかチームとかそういうものじゃない。ただ昨日偶然同じクエストをやっただけのメンバーだ。
だがそのクエストが思いのほか実入りが良くてな、初日にしてはレベルや素材に余裕が出来ちまったんだ。
んで、今日はその余裕分のマージンを使い一気にマップを埋めてやろうってんだ。ぶっちゃけレベル1だろうとプレイヤーってだけでありがたいな。時間は今からだいたい夕方くらいか? オベリスクを見つけられたらそこで集まって今後について話し合う予定だ。
っと長くなったな、すまん。ここまでで何かあるか? ああ俺は雇い主とかリーダーとかじゃないから命令とかは極力しない」
「しつもーん! オベリスクってなんですかー」
「オベリスクは街の外のセーブゾーンらしい。まあ実物は俺もまだ見てないんだがな。街からのワープ機能も有るって話だ」
「はーい。俺マジで始めたばっかだけど付いてっていいの?」
「ああ大丈夫だ。というか、付いてくるだけならこっちの許可も何も要らないし、そもそも拒否もできん。
まあゲームだし楽しく行った方が良いなってことでこうやって方針を執ってるんだ。
全員で同じ方向にまっすぐ走る。敵が出てくる。先頭を走ってる奴から敵にぶつかる。後ろの奴は追い抜いて前を走る。
やることは単純にこれだけだ。近くで見てるだけでも、ある程度の経験値が入るのは確認してる。
だから戦えるようになるまではまずは後ろで付いてきてくれ」
ワニ頭の男の言葉に周りのプレイヤー達はうんうんと頷く。
やることはとても分かりやすい。敵も緑マーマンくらいなら大軍団でいようが押し通れるだろう。
逆に、現在の上限レベルである20レベルのプレイヤーを揃えて簡単に倒せない雑魚敵が出始めたらそこは有る意味目的地といえる。
結局参加者は47人ということになった。その47人を5つのPTに分散させる。
10人のPTが3つと9人と8人のPTで2つだ。
基本的に47人全員で固まって動くが何が起こるかわからない。
少人数に分断されてもそれぞれの塊に別のPTが入っていれば互いの状況がわかりやすい。
ルーリーのPTは
ルーリー、キュータル、カノエ、クイド、ワニ頭で進行をしていたジョー、杖を持ったドラゴノイドの男、レベル1のナーガの男、レベル1のトカゲの女。
同じPTだからと言って互いに過度な干渉は無し。そういう取り決めを再確認し、ルーリー達は再び赤底の沼へと旅立った。




