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21話 アーツ習得通り


 服を着替え再び街の散策を始めたルーリー。

建物の上に登り上から見下ろす景色を楽しんだり、どこまでの事が許されるのかと他人の家の中へ入ったりしていると、大勢のプレイヤーとNPCが入り混じった区画へたどり着いた。


 大型バスを横向きに置けるほどに広い道とその両脇に並ぶ大きな屋敷の群れ。

どうやらここは、プレイヤー用の空き家だらけの店舗街とは違い、NPCが施設を経営しているらしい。

【アーツ技術講習大通り】そんな文字が書かれた看板があちこちにぶら下がっている。


 ルーリーは一番近かった建物の中へ入った。先ほどクイドの店に入った時のようなエリア移動は起こらない。

経営者とのコンタクトを取るための移動が必要ないからだ。

 中には銀色の小さな長方形のテーブルが並んでいた。テーブルの端に水道と水を貯められるシンク、そして二口のコンロ。

明らかに料理を勉強するための設備。ここは調理実習室のようだ。


 プレイヤーらしい姿が数人。フライパンを振り回したり包丁を振ったりしている。

近場の壁に設置された黒板を見ると【お料理アーツ習得教室】と書かれていた。


『お嬢さん。あなたも勉強していくかい? ここでは保存術、調理術が学べるよ』

「いやワシはいいのじゃ。邪魔したな」


 コック帽を頭に乗せたカメの講師がルーリーへ語り掛けてきた。

だが、すぐそれに断りを入れ彼女は退出する。


 調理実習室の他に、魔法学校のような施設、体育館のような空間で大きな絵を描く施設、鍛冶場のような施設など多くの建物があった。

どこの施設でも、数種類のアーツを教わることができるようだ。


「ポイント消費など無しにアーツを学べるようじゃな? だが生産系はいらんのじゃが……うーむ。ダンス教室でもあれば……おっ?」


 自分のプレイスタイルに合いそうな能力を探し散策を続けるルーリー。

しばらくして彼女の目がある一点で止まる。そこには巨大な空き地が広がっていた。

工事現場で見られる黄色と黒の虎模様であちこち彩られたその空間。そこでつるはしやスコップ、木槌などの簡易な工具を持った人々が作業をしている。


「ここは? 作りかけではないようじゃが?」


 道路と空き地の境目にはホワイトボードが一つ置かれ、【環境整備アーツ習得現場】と書かれている。

他施設との毛色の違いに興味をひかれた彼女は、ボードに触り詳細情報を読むことにした。


【掘って! 掘って! 叩いて! 踏み慣らせ! 何をするにも足場が肝心! 

不安定な足場ではお前もあいつも危ないぞ! 強固な足場がお前の未来を創る!

足場を掘り敵の動きをとめる・柔土術! 地面を叩き作業しやすい状態を作る・地打術!

これさえあれば! 世界はお前の独壇場だ! 推奨武器:・・・・】


「ふむふむ。なるほど? 便利そうではあるが、あー対象装備がわしには装備できんか……おしいのう」


 敵の移動を制限する、自分が戦いやすい舞台を整える。

敵と触れ合う距離での戦闘が主体のルーリーにとって、それは絶対的なアドバンテージになる。

アーツスロットにはまだ余裕が有り、他に覚えたいアーツも見つからなかったというこの状況でこれは見過ごせなかった。


だが、彼女は取得の前提条件になる大型の工具武器を装備することができない。

それらを装備するのはタイクンドラゴノイドの領分だからだ。


「うーむ。残念じゃのう」


 元気に工具を振り回す作業員たちを見てルーリーはつまらなそうにつぶやいた。



──────────────────


 


「うーん見つからんねー」

「……うん。広いからしかたない、でござる」


 アーツ大通りを歩く二人のプレイヤー。

ピンクの巨大リクガメのキュータルと爆発系忍者娘のカノエだ。

彼女らはルーリーを探すために、フレンド欄で彼女のいる区域とルームを調べ会いに来ていた。


「……そういえばキューちゃんは料理系のアーツとったんだっけ?」

 調理実習室を覗きながらカノエが言う。

「そだよー。まだぜーんぜん触ってない系だけどねー。簡易のクッキングセットは買ったんだけどね。カノっちはクラフト何にしたんだっけ」

「……陶芸。土、こねる。レベル1でも爆弾作りに活かせる」


「あーそういうの良いかんじだねー! わたしも戦闘に活かしていきたいかも」

「……お料理を?」

「お料理を!」

「……いいかも」


 たわいもない話をしつつ通りを歩いていく二人。

会話をしながらも、カノエはフレンド画面を開き座標を調べていた。

フレンドの名前、オンラインかオフラインかの情報、今いる地域名、現在の座標。

得られる情報は少ないがその分必要なものがそろっている。

対象のプレイヤーがいる座標、前後・左右・高さの三つの数値で表したその地点は近い。


「……近い。こっち」

「ここぉ? なんか土埃がすごくない? るーっち? どこー?」


 二人はようやくルーリーが最後に訪れた工事現場へとたどり着いた。

先ほどルーリーが来た時よりもプレイヤーの数が増えている。

見るからに力自慢の筋肉質なキャラから、手に持ったつるはしの柄よりも細い腕の少女まで。

彼、彼女らは皆黄色いヘルメットを被って楽し気に汗を流していた。


「……いた! あそこ!」

「どこどこー? えぇー何してんのぉ?」


 カノエが指さす方向、一心不乱に地面を叩く集団の中。

そこに、たしかに探していたルーリーが居た。

他の作業員とは違い工具を装備できない彼女は手ぶらだ、しかし頭にはヘルメットを乗せている。


「腕だけで振るな! 腰を入れるのじゃ! 一振り一振りを手すさびな作業にするな! 自分の行動意志を得物に込めるのじゃ!」

「「「はい! 親方!」」」

「こうじゃ! こう力を入れるのじゃ!!!」


 彼女は元気に尻を振って尻尾で地面を叩いていた。

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