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18話 からぶる


【カウント:0 決闘を開始します】


 開戦宣告。同時に赤い輪の内側空間が極度に広がっていく。

二人の距離はルーリーの体感で20mほど。ギャラリーはさらに遠く、二人の後ろに広がる空間は50m。

頭上には時間制限を示す10分のタイマーと二人の動きをズームで映すモニター。

外側で見ているプレイヤー達からは、本物の二人は人形のように縮んで見え、上に現れたモニターがメインの観戦手段となっていた。


『えらっそうな事言ったんだ! 簡単に死ぬなよな! オラァっ!』

「しかたないのう」

 

 始まった瞬間、20mの距離を詰めようと駆け出すノトリス。

二人の間には障害物は無い。それなのに走り出したノトリスはルーリーの視界から消える。

その姿が見えなくなった瞬間、ルーリーは体から力を抜いた。


(ダッシュ移動からの攻撃は突きのみ。対格差から向こうが狙うのは顔。この距離を移動するのに必要な歩数は5。今)


 ザンッ! ルーリーが考えをまとめ終わると同時に、彼女の頭がある空間へ巨大な金属塊が突き刺さった。

だがその攻撃を彼女は左足を引いて半身になって回避する。

そして、全速力の突きを放ち、腕を伸ばし空を切った態勢のノトリスへ、左足でカウンターの一撃を加える。


 カツンッと乾いた音が響き、ノトリスの頭上に表示されているHPが少しだけ削れた。

ノトリスの装甲は堅い。ルーリーの腕や足の装甲も同じ物質なので堅い。しかし両者には圧倒的なレベル差がある。

クリティカルで当たっても大したダメージは与えられない。それでも0ではない。


『グッ!? ちっ! まぐれっだろ!!!』

「そういうところじゃ。お主が勝てんのは」

『うるせえ! オラァ!』

 

 ノトリスが右腕を肩の高さに上げ、武器を水平に構える。通常横薙ぎ攻撃の片手モーションだ。

設定されている攻撃パターンの中でも弱い部類。しかし今のルーリーが受け止められるものではない。

避けるなら腕が振られるより少し先に、その腕の下を潜るように背後に行く。

 

(肘が動いた瞬間に飛び込むように後ろへ)


 ルーリーは自分の頭に刻み込んだ攻略法をそのままなぞった。

飛び込んだ背中に風切り音を感じ、彼女は成功を確信する。


 そして、飛び込み地面につけた手を軸に体を横に回転させノトリスの背中に蹴りを連続で食らわせる。

右足、左足、右足、ガッガッガッガッガッガン!

ノトリスへのダメージは多くはない。だがヒットエフェクトが連続で発生しノックバックで身動きを封じていた。


『ぜっ、絶対当ててやる! あぅっ! 許さねえっ! あーもう! いつまで蹴ってんだよ!』


太い尾を振り背後のルーリーを払いのけるノトリス。

そのモーションは、一度尾の先端で地面を軽く叩いて反動をつけ、尾の全体を左右へと2往復振るというもの。


 再び相対する両者。

武器を上段に構え振り下ろす。下した武器を引き上げつつ体を回転させ切りかかる。武器を投げつける。無手で掴みかかる。

ジャンプし武器を叩きつける。尾をバネにしドロップキック。

ノトリスが連続で攻撃を繰り出すもルーリーに何一つ当たらない。

それどころか避けられる度反撃をくらい一方的にHPを減らされる。


 彼女に募るフラストレーション。その高まりに応じ彼女の装甲の隙間から輝く水色の光が強くなっていく。

ドラゴノイドの中でタイクン種のみが使える装甲内で魔力を暴走させる一時的なパワーアップ状態への兆候だ。


『当たれっ! 当たれっ! 当たれえええええええ!』


 強化状態に移行し速度の上がった攻撃。しかし、何一つ当たらない。

振りが早くなろうとも、ルーリーはノトリスが攻撃に移る所作で当たり範囲を把握しているので当然だ。

高速で素振りをしようとボールが無ければヒットは打てない。


「そろそろ疲れたのではないか? 諦めたほうがよいぞ」

 ルーリーがちらりと上を確認する、残り時間はあと二分ほど。


『な、なんで当たんねえんだよ! クソが!!!』


 眩く輝いていたノトリスの装甲。その光が弱まっていく。攻撃のキレも落ち、装甲で覆った口から荒い息を漏らす。

頭の隅に敗北が見え始めたが、それでも諦めず戦っていたノトリスだった、だがついに終わりの時間が来る。

シューーー。空気の抜ける音とともに彼女の全身を覆った装甲が開いていく。


「なんで当たらない、か。それはな、ワシがお主を生み出したからじゃ」


 装甲が開き露出した柔らかそうなノトリスの肌。その肌表面を流れる汗の表現に満足げに頷きながらルーリーが足を止めた。

戦闘が終わったわけではない。避ける必要がなくなったからだ。


『……どういうことだよ』

「そうじゃのう……正確にはちと違うが、あいむゆあまざー、じゃ」

『っあ゛? ──ぐふっ』


 ルーリーが全力で放った蹴りがノトリスの腹に突き刺さった。

ゴッ! その威力でノトリスの体が、くの字に浮き上がる。

防御力が無くなった部位に直撃した結果、彼女のHPが一気に減った。


【決着:勝者 ルーリー】


 ドシャッとノトリスが地面に落ちると同時にシステムが終了のブザーを鳴らした。

観客のプレイヤー達が歓声をあげ、ルーリーが手を上げて応える。

 決闘モードが終了し通常サイズに戻った二人を大勢が囲む。


「るーっちつっよ! 攻撃ぜんっぜんあたんないじゃんズル!?」

「人聞きの悪いことをいうな! わしの実力……というかあやつの実力じゃ」

「そういえば何か言ってたでござるな。あの姫と関係があるでござるか?」

「まあ話はそう複雑な物でもないんじゃが……おっ?」


 キュータル、カノエと喋っていたルーリーの画面に大きな赤いエクスクラメーションマークが表示されアラーム音が鳴り響く。

そして30秒のカウントダウン。その表示を見てルーリーの顔が青ざめる。


「どしたのー?」

「まずいのじゃっ! セーフティーが! っとわしはもう落ちるっ! もし今後用があるならユーザー検索でフレンドを──」


 早口で現状を説明しようとするがとても間に合わず、きょとんとした表情で驚く二人の前でルーリーの姿が消失した。


「な、なんだったんだー!?」「ふむっなるほどでござる」

「カノっちわかるの!?」「拙者の口からは言えんでござる」


 ルーリーがログアウトし、倒れていたノトリスの姿もいつの間にか消えている。

まとめ役が居なくなりガヤガヤと騒がしくなりだすプレイヤー達は締まりのないふわっとした空気感で解散していった。


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