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16話 飢竜姫ノトリス


「やっとふっかーつ! 幽霊カメじゃケムリも出せないからつまらなかったよー」

「……うん。制限が多かったでござる。でも幽霊状態も楽しかったね」

「ワシは疲れたんじゃが? 早々に全滅しおって」


 ルーリーが復活した二人と喋っていると、上から声がした。

ようやく姫の体が完成したらしい。


 召喚演出が始まり、イベント効果で敵からの攻撃が無くなるといっても長いだけの登場シーンはすぐ見飽きる。

ゆっくりと現れるその姿を感動しながら見るのはそう何度も無いだろう。

二回目以降は回復やアイテム補充など雑務時間に充てることになるはずだ。


『──おっしゃああああああああああ! ようやく出られたぜ! で? 相手は誰だァ?』


 凛とした気迫のこもった女性の声。声音は少し低めで自信がみなぎっているのが伝わる。

身に着けているのは群青色の装甲。ルーリーは足と腕と尾っぽだけ装甲に覆われているが、彼女は腹や胸、顎辺りにまでそれを纏っている。

その特徴は彼女が大型武器を扱うことに長けたタイクンドラゴノイドというタイプのキャラクターであることを表していた。


 ドラゴノイドは派生種全てにおいて魔力量が乏しく、体外へと放出するタイプの術を使えない。

そして体内に保持できる魔力量は更に少ない。少ない魔力のうちの大半が使い物にならない魔力として常に体外へと垂れ流されているせいだ。

その使えない魔力をなんとか利用しようと進化したという設定の姿が今の彼女の状態だ。


 ドラゴノイドの装甲は微弱な魔力を反射する。それは外からも内からも。

体から漏れ出るが体を離れて外へは行けない。だが、再び体内に戻ることもできない。

そうして行き場を失った魔力が皮膚と装甲の間に膜を張り、強靭な身体能力を生み出している。


 派生毎に装甲の部位と量が違うのはどこまで魔力を留めるかの違いだ。

タイクンドラゴノイドは全身を装甲に包まれているため魔力を余すことなく使える。

しかし元の生身はそこまで魔力耐性が高くない。戦闘が続くと自信の弱い魔力に負けオーバーヒート状態に陥ることもある。


 強靭な装甲で攻撃を受け止め、増幅された力で巨大な武器を振るう。

ダメージを受けること前提の時間制限付き捨て身のアタッカーだ。


「ドラゴノイドの姫さまかー」

「これでこのクエストも終わりでござるな。たぶん」


『なんだよ……ただでかいだけの魚野郎じゃねえか。こんなんでオレを呼ぶなよな、まったく。まあ出してくれたことには感謝するがな!』


 プレイヤー達の前に着地したドラゴノイドの姫。ダイアモンドマーマンを眺めため息を一つ吐き手を天にかざす。

周りの野良プレイヤー達はそれを見て大はしゃぎしていた。


『承認要請! 鈍断包丁タイライギル! 早くよこせ!』

【──承認。コード11・飢竜姫ノトリス】


 手を上げたままの姫、ノトリスとシステムメッセージさんの会話。

すると天に浮いていた石板の一つが光って落ちてきた。

平らで薄いただの長方形だったそれが落ちる最中に形を変えていく。


「最初から武器持ってくればよいのにのう? この時間いるか?」

「いるんだなーこれが。ち・な・み・に無敵時間はもう終わってるよー」

「ん? そうなのか? おお本当じゃ!」


 右手を上げて武器が振ってくるまで待機しているノトリス。彼女に向かってダイアモンドマーマンが拳を振り下ろす。

ガーーン! ただ上から下に叩きつけられた拳。

 攻撃の余波で地面がめくれ土が飛び散る。プレイヤーと彼女らの間に一瞬茶色い壁ができた。


「ありきたりじゃが良い演出じゃな!」


 土が地面に落ち視界が晴れた後。

そこには、巨大なダイアモンドマーマンの拳を、上げていた方とは逆の左手で受け止めたノトリスが立っていた。

そして、クルリと縦に回転しながら巨大な刃物が落ちてきて、彼女の右手に収まった。

その武器の柄は槍のように長く。その武器の刃はギロチンのように大きい。


『じゃあなっ! 次はもっと強く生まれて来い。捌けタイライギル』


 ノトリスの群青の装甲のつなぎ目が鮮やかな水色に光る。

カチャリッと彼女の装甲が音を立て、軽く腰を落とし武器を正面に構える。

ダイアモンドマーマンの次の攻撃に合わせ、ノトリスが武器を振るった。

 

 スパッ! 硬い鉱石を切ったとは思えない軽い音が鳴った。

当たってもいない距離で武器を上から下に振り下ろす。

それだけでルーリーが長時間戦って1ダメージも与えられなかったダイアモンドの体が砕け散った。

 

 粉雪のようにパラパラと散っていくダイアモンドの巨体。

それを眺めていたプレイヤー達にシステムメッセージが届く。


【マーマンの秘密兵器! ダイアモンド☆マーマン討伐成功!】


 ほぼすべてのプレイヤーは戦ったといえるほど長生きをしていない。

唯一残ったルーリーでさえダメージを与えていない。

なので、各プレイヤーに渡った報酬はあまり質が良くなかった。


 だが、そもそも全員がクリア諦めていたのだから少し貰えるだけで彼女らは充分嬉しかった。

レベルは既に現在の上限値。量が少しとはいえ適性進行度をはるかに超える性能の素材アイテム。

運よく参加し最後まで見守っていたプレイヤー達は一躍テスト参加者の中でトップになっていた。


 興奮冷めやらぬメンバーたちによって大規模フレンド交換会が始まる。

その輪の中心はルーリー達三人だ。フレンド登録から操作方法のアドバイス、暇な人が撮影した動画などについてワイワイと喋っていた。

ルーリー達が歓談に興じていると、楽し気な物とは種類の違うざわめきが起こった。


 人垣を割ってノトリスがルーリー達のもとへやってきたのだ。


「……ふむお主はノトリス、か?」

『ああ。知ってるのか? オレも有名になったな。へへっ』


 ルーリーが名前を聞くと、ノトリスは口元の装甲を外し無邪気に笑った。

そしてそれを見ていた周囲のプレイヤー達が盛り上がる。

いくら彼我に力の差があろうとNPCとプレイヤーだ。

強かろうが怖かろうが美少女であるというただ一つの真実が全て覆す。



「俺雑誌のぺんおん特集ページで見たことあるぞ。本サービスで追加されるって言ってたのにサプライズかよ!」

「ああ! シルエットだけ公開されてたやつだろ? 動いてる全身見れるなんてマジで感動するわ」

「蛇姫ちゃん推しでレプティリアン選んだけど初日で浮気しそう」

「強気オレっ娘長身スレンダー1 全て神すぎでしょ」


『っち……うるせえなアンタら。今まで死んでた奴らが元気に騒ぐんじゃねえよ』


 うんざりしたようにノトリスが呟いた。

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