15話 姫の出動
─赤底の沼─
ダイアモンドマーマンが出現し既に十数分の時間が経っていた。
ルーリー以外のプレイヤーは全滅しており、蘇生待ち状態で浮いている者もいれば、討伐を諦め街へと死に戻った者もいる。
ここでクエストを放棄し失敗になってもこれの前のアクアマリン戦の報酬までは貰える。
「……やはり無理かのう」
『全然減らないでござる』
『さすがに30レベル差は無理ゲーだねー』
ダイアモンドマーマンの巨体の上を飛び跳ねながらルーリー達は会話をしていた。
もっとも、忙しく飛び跳ねているのはルーリーのみ、カノエとキュータルは幽体状態で他プレイヤー達と一緒に遠くから眺めているだけだ。
プレイヤーを蘇生させるアイテムであるイエローエーテルはまだルーリーのインベントリに二つ残っている。だが、もう二つしかないとも言えた。
数分前、ルーリーはそれを使おうとしていた。しかしキュータル達を含めた残存組に強く止められ、使うのを諦めている。
『復活させたところで役に立つこともなくすぐやられるだけだ』それがプレイヤー達の総意だった。
(攻撃を一発受けてくれるだけでも全然違うのだけど)
当たったら終わりの曲芸を長々やらされ、さすがに疲れが出てきたルーリーが心の中でぼやく。
ダイアモンドマーマンの攻撃は巨体を振り回す直線的な物ばかりで回避することは簡単だ。
だが、その攻撃は巨体相応に速く重い。気を抜いた瞬間に被弾してしまう。
「……はぁっ全く響かん。すまんがそろそろワシも諦めるぞ。むっ? なんじゃ!?」
マーマンの腕に乗ったルーリーが何かを感じたのか空を見上げる。
空にはどんよりと厚い雲が流れているだけだ。
『ルーっちどしたー?』
「空気が揺れておる! というかおぬしら気づかんのか!?」
『え? なになに怖い話し?』
『……こっちは幽体状態だからエフェクトとか分からない? あっ、でござる』
「そうか。では、おぬしらは上を重点的に見ていてほしい。何かあったら知らせてほしい」
『『はーい』』幽霊軍団がのんきに手を振りながら応える。
膠着した状態を打開するイベントが起こるかもしれない。暇をしていた幽体プレイヤー達はにわかに活気づいた。
一塊になっていた集団が散らばり各々が変化を見つけようと躍起になる。
それから数分後。
ガガガガガガガガガッと道路工事のような何かを強く叩き壊す音がどこからか鳴りだす。
「なんじゃなんじゃ!? どこから音が出ておる!? 報告たのむ!」
突然の音に反応してか敵の攻撃が激しくなり、ルーリーは周囲を確認するだけの余裕が無かった。
そんな彼女に幽霊たちが賑やかに教えてくれる。
『空が割れていきます!』
『うおおおおおおお! なんか出てきた!』
『これあれだろ! 姫召喚演出! うわっめっちゃ感動!』
『ヤバイヤバイヤバイって! 感動で鳥肌とまらん』
辺りが騒然とし情報がはっきりと伝わらない。。
「ええい騒ぎすぎじゃ! 誰かまともなのはおらんのか!」
『……拙者が報告するでござる! 今は空に柱の様な物が浮いてるでござる。一本二本、6・7・8──11! 11番って誰!? 誰か知ってる!?』
「……カノエ、お主もか。……ふむっまぁそれだけ特別な何かが起こっておるということか」
【傾聴。現在あなた方の居るエリアに竜姫の出動が発令されています。速やかに退避してください】
「竜姫? なんじゃそれは。退避と言ったがワシもここを離れてよいのか……?」
『ルーっち! 姫が出てくるってよ! 早く離れないと危ない系だよ』
「だから姫とはなんじゃ」
『え? 知らないの? 姫っていうのはお助けキャラだねー。仲間に出来ないけど強い敵とかと戦うときに呼び出せるんだー。来てくれたらボスとかに大ダメージ与えてくれるーみたいな』
「……おっと! 危なすぎじゃ! ──っふむ? じゃあ今から強いNPCが来るんじゃな? わかったのじゃ」
空から光の柱の様な物が伸び、檻のようにダイアモンドマーマンとその体に乗ったルーリーを囲う。
その檻の外から手招きをする幽体プレイヤー達。そちらの方へルーリーは飛び出した。
ドサッ! 10mサイズのマーマンから飛び降りたルーリーはようやく落ち着き、他のプレイヤー達が見ていた物を確認することができた。
【傾聴。現在あなた方の居るエリアに竜姫の出動が発令されています。速やかに退避してください】
厚い雲の下に棺のような長方形の物がいくつか浮いている。
歯車状に並んだ白いそれら。その中心の空白地点に青白い稲妻のようなものが発生している。
バチバチバチッ上空のそれが発している音は地上のルーリーにもはっきりと聞こえた。
バチンッ──。
一際大きな破裂音。そして稲妻の中に何かが出現した。
『『『『うおおおおおおおおおおおおおお』』』』
周囲の雄たけびがうるさい。ルーリーが横を見るとカノエやキュータルまで一緒になって手を上げ叫んでいた。
カメであるキュータルは前足を上げようとした勢いでバランスを崩しひっくり返った。
何もない空間でそれが少しずつ形成されていく。距離が遠いのでわかりづらいが人の足だ。
二つの足と更に一本。青く長い尻尾が見えた。竜姫とは自分と同じドラゴノイドだ。ルーリーはようやくその正体に気づいた。
ふくらはぎから太ももへとゆっくりと形作られていく竜姫。
ダイアモンドマーマンはその足だけの状態のキャラクターへ攻撃をしているがダメージが入っている様子はない。
攻撃はすり抜けているようだ。
太もも、腰、腹、胸。尻尾と同じ青い鎧で覆われた体はゴツゴツしたシルエット越しでもスタイルが良い。
新しい部位が出来上がる度に男プレイヤーから狂乱の雄たけびがあがる。
「なんというか……3Dプリンターみたいじゃな。他のゲームでもこれくらい長い演出なのかのう?」
『演出自体はどのシリーズでも長いでござる。でもこれはもっと長いでござるな。確か前に他の子のが出てたでござるよな? キューちゃん』
『だねー、ちょっと前に出たPVで人姫ちゃん召喚有ったねー。というかルーっちそろそろわたしら起こしてよー』
キュータルに言われ地面を見るルーリー。するとキュータル達がやられたポイントはマーマンを閉じ込めている檻の外だった。
「おっと! そうじゃった! 場所もずれてるし起こしておくか。皆の者! 上を見ながらでよいが聞いてくれ! 今からイエローを投げるぞ!」
『『『はーい』』』
ルーリーが近くにある蘇生ポイントへイエローエーテルを投げ込んだ。
それによって十数人のプレイヤーが起き上がり、起きたプレイヤーがまだ少しだけ持っていたイエローを全て使い切る。
そうすることでこの場に残っていた人全てが復活した。




