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1話 興味はあまりないが楽しみではある




「ログインできるまであと30分か……」


 一人暮らし用にしては広いマンションのワンルーム。ラフな格好の若い女性が机に立てられたガラスの板に向かって指を動かしていた。

窓にはめる物よりも薄く黒いそのガラス板に様々な文字やイラスト情報が流れていく。

画面隅に表示された時刻は午前9時30分、彼女が求めるものまであと30分。


 女性の名前は辰巳ひのり。二十代前半で趣味はゲーム。

プレイする幅は広く、旧型と呼ばれる画面とゲームハードを別に用意し自分の手でコントローラーを持つタイプから、頭や体に機械を付けて疑似睡眠状態になりプレイするフルダイブのVRまで満遍なく。

仕事は趣味を活かした物で専門性が高く自宅で作業ができるので時間はいくらでも作れる。


 この日彼女がプレイしようとしていたゲーム、それは【ペンタグラムストーリー・オンライン】と呼ばれる作品。

シリーズごとに入れ替わる4種類の亜人種族と1種の人間種族の国を舞台に物語が展開される王道系のRPG【ペンタグラムストーリ】。作品全体での愛称は『ぺんたす』。二十年以上も歴史のある国民的ゲームだ。


 ただ【ゲーム】と言えばVRのゲームを指す。一般的なゲーム好きにまでそのイメージが普及してかなりの時間が経った。

だが、これまでこのぺんたすシリーズは旧型タイプの形式でしか販売されていなかった。

そんな大作シリーズがとうとうVRに進出、しかもフルダイブでオープンワールドのMMO。


 今日はそのペンタグラムストーリーオンライン、ぺんおんのオンラインテストサーバーがオープンする日だった。

自分は栄えあるぺんたす最新作のテストプレイヤー。その称号は日本中のゲーマーを惹きつけた。

もちろん、その時間を楽しみに待っているひのりもその一人だ。……彼女はぺんたす自体はシリーズ中の一作品しかプレイ経験が無い、完全なニワカでお祭り目当ての参加である。


 シリーズ通してのファンが聞けば怒りそうな、仕事の繋がりで参加権を手に入れた彼女は、お祭りを前にした心地よいソワソワ感を持て余していた。

なのでネットでぺんたすシリーズの情報を読み漁っているところだ。

どちらかといえば満遍なく様々なジャンルのゲームをプレイするひのりが、人気シリーズであるぺんたすのプレイ経験がほぼない理由。

それは……。


「へーあたしがやった奴ってどっちかというと地雷よりだったんだ……まあ流石にいつもあれだったら国民的タイトルにはならんか? 好きな人も多いんだろうけど」


 彼女が唯一プレイしたことのある作品【ペンタグラムストーリー6】は登場する種族をシリーズ初登場のもので統一した意欲作だった。

操作キャラの一種として【プレデター】と呼ばれる侵略種族を登場させ、ストーリー展開次第では他種族の主要キャラですら容赦なく殺害していく。

敵として出てくるキャラクターだけではなく、プレイヤーもその遊び方を行える。

シリーズの特徴として、NPCキャラクターの人気が非常に高いぺんたすのファンにはその部分があまり受け入れられなかった。


 ぺんたすシリーズ全体の初見として、その6をプレイしたその当時のひのりは、ダークな雰囲気をそれなりに楽しんだ。

だが流石にプレイ後の感情は中々に重かった。他種族のルートをプレイしようがどこの選択でもメインキャラクターが殺されていくからだ。

ハマったゲームはトロフィーを埋めるまで連続で遊ぶ彼女ですら、一周するごとに数日開けなければいけなかった。

どちらかといえばキャラクターに愛着を持つタイプの彼女は、ぺんたすの他作品も同様のテイストなのだと誤解し、以後なんとなくぺんたすを避けていた。


「シリーズの種族一覧……人気キャラ投票……ふんふんっ。オンラインテストで選べる種族は……あっ国から選べるんだ」


 今回のぺんおんテストプレイでユーザーが遊べる種族は、5つの陣営のどこかに属する十数種類から選べる。

一覧を見る限りひのりが知っている種族は二つだけ。恐竜のような肌を持つ竜人【ドラゴノイド】と悪名高い【プレデター】。


「プレデターまじか……なんでだ? あっ書いてる? あーPK用種族ね、なるほど」


 PK、プレイヤーキラー。生きてる他のユーザーとの戦いや嫌がらせがしたいタイプのプレイヤーだ。

ぺんおんではプレイヤーの行動を善悪で判定するシステムというものがあるらしく、プレイヤーがPKを繰り返していると街中などに居づらくなる。

その救済措置として最初から世界の敵となる種族を用意したらしい。


 最初から全員から嫌われているなら逆に後腐れもないという判断だ。

プレデター種が所属している【ファクトリー】という陣営はプレデター種に対してもニュートラルな感情を設定されているようで、

争いごとは避けたいけどプレデターを選びたいという奇特なプレイヤーへの救済も図られている。


「まあ、あたしはドラゴノイドでいいかなあ……多少は愛着あるし」


 ぺんたす6はキャラ作成の自由度が高かった。主人公キャラだけではなくサポート用のキャラなども自分で作ることができた。

ひのりは適当に設定を考えて作ったキャラになり切って遊ぶプレイを楽しんでいた。

だから余計プレデターが世界を荒らす行為に腹を立てる。


 ひのりが顎に手をやり昔作ったキャラを思い出していると、ログイン可能時間まで残り数分となっていた。

PCの電源を落とし、テーブルからVR機器を持ち上げベッドへと向かう。


 頭から体へ信号を読み取るチョーカーを首に巻き、ゴーグルを被り横たわる。

右耳の横についた電源ボタンにそっと指を乗せると、ブーンと静かな電子音が鳴りだした。


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