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記憶の勇者  作者: 不束
9/11

8.記憶の能力

ガントが差し出してきたカード…ライセンスのサイズはポケットに入ってしまう程度。顔写真を貼るらしきところと、名前、所属、年齢、ランク、登録/更新日時、そして能力と書かれた欄があった。もちろんまだ全部空白だけど。しかしあれだな、能力って欄がなきゃこれもう学生証だぞ。

「で、ここに色々書き込みめばいいのか?」

「いや、その必要はない」

うぇ?必要ないってことはないと思うんだけど?このままじゃなんの意味もなさないだろうに。表情から疑問を読み取ったのかガントが答えてくれる。

「手を触れて、自分のことについて念じるだけでいい。そうすれば空欄が埋まっていく」

なにその便利なの。現実世界でも欲しかったなぁ…。思い出される漢字と計算のドリル地獄。この技術があればそもそもそんな宿題が出なくなってその代わりに別のめんどくさい宿題が…やっぱ変わらんわ。

バカな思考を終わらせて、言われた通りカードに手を触れた。こういう時ってなんか反射的に目閉じちゃうよね、なんてまたもやどうでもいいバカなことを考えながら自分の詳細を掘り起こしていく。俺の名前は結城忋…出身地は…年齢は…所属は…

ってあれ?俺所属とか知らんぞ?考えてみれば能力も知らない。これじゃあ念ずるもクソもない。

後で質問しよ。

閉じていた目を開けると…

そこには、能力の欄以外のすべての項目が埋まったカードがあった。え?なんで?顔写真まで埋まってんだけど。どうやって?怖っ。俺の驚愕を察してくれたのか、ガントが答えてくれる。

「その紙は魂を読み取ることが出来るっつう代物なのさ」

「魂を…読み取る?」

「お前が今までどんなものを見てきたか、どんな思想を持ってるのか、どんな未来を思い描くのか…つまりは、お前の中にある全てを読み取るってことだ」

怖っ!なに勝手に読み取ってくれちゃってんの?横を見れば石神もギョッとして引いている。

「なにそれ、怖いんですけど…」

声に出ちゃってるよ。めっちゃ不信感をあらわにしてるよ。それにしてもこいつほんと歯に衣着せないというか…。ほら見ろ!ガントさんちょっと申し訳なさそうだよ!正直言いたいことはあるけどもう17なんだから、ね?

「…なによその目。言っとくけどあんたも十分顔に出てたわよ」

「え、まじ?」

出てた?だとしたらさっき心の中で思ってたこと思いっきりブーメランなんですが。

「…まぁ、説明せずに渡したのは悪かった。ただそれ、ちゃんと念じてもらわねぇとうまく読み取れなくてたまに誤った情報が記載されちまうんだ。別に読み取られたからと言って寿命がすり減ったりその紙がペラペラと情報をばら撒いたりはしない」

「いやまぁいいんだけど…」

しょうがないじゃん。撮ってもない顔写真と刻んだ覚えのない情報が勝手に入ってたら驚くじゃん。怖くて引いちゃうじゃん。

罪悪感を打ち消すように言い訳を頭の中でつらつらと並べていると、ガントが口を開いた。

「さっき能力があるっつったろ?」

「ん?あぁ…それが?」

急になんだ?…そういえば能力ってどうやってわかるんだろう。

「能力はこの世界に降り立つときに神様から与えられて、それは魂に刻まれると言われてる」

…なんとも胡散臭い話だが、そう言われてるということは、少なくともこの紙が俺たちの能力を教えてくれるのだろう。しかし…

「おい、まだ空欄なんだけど」

俺のライセンスカードにある「能力」欄はいまだ空白のままだ。あれか?異世界人のお前に能力なんか与えられねぇよってか?普通に困るからやめてほしい。


…カードを睨んでいると、やけに周りが静かになった。隣の石神までもがだ。


「え…なに?どうした?」


戸惑う俺に石神が言う。

「私…もう能力見えてるんだけど」

「え?」

まさかほんとにないの?能力。いや困るんだけど。マジで。空飛ぶ奴もいる中で一人だけ丸腰ってどうすりゃええんよそれ。不安になってガントの方を向いてみると、目を見開いてーおそらくはびっくりして、ガシッと俺の両肩を掴んだ。

「空欄なのか…?『無し』って書かれてるわけじゃなくて…」

「う、うん…。そうなんだけど?」

待て、ちょっと待て。とりあえずまぁまぁの力で両肩を押さえつけるのをやめろ。なんだか怖いから。

「何?何なの?まずいヤツなの?これ」

戸惑いながら聞いてみれば、

「さっきそのカードは魂を読み取って、能力を記載するって言ったよな」

「あ、あぁ…そう言ってたな」

例の謎すぎる機能ね。そもそも魂なんてオカルトな物が大衆に受け入れられてることが驚きではあるんだけど。

「能力名が刻まれていないってことは、カードがお前の魂を読み取りきれなかったってことだ」

読み取りきれない…?

「おい、それって不良品ってことじゃねぇか」

もう一枚分のお題払えとか言われても無一文なんだぞ、俺たち。

「いや、不良品の割合は一億分の一と言われてるし、その時はお前の他のステータスも読み取れないはずだ。つまり、それは不良品じゃない」

「それじゃ…どういうことなんだよ」

不良品じゃなくてどうして読み取ってくれないのか。やっぱり能力が与えられてないか、その名前がわからない状態に…ん?ガントの表情が…いや、俺と石神を除くみんなの表情が心なしか明るい。ということは…悪いことではない?

「どういうことなんだ?簡潔に頼む」

疑問を繰り返すようにして聞く。流石に焦らされすぎだ。

「あのな…能力がないときは、欄にしっかり『無し』って記載される。だから何も記載されないってことは普通まずない。読み取れない能力なんかそう無いからな、さっきくらいの時間があれば、そこには何か普通記載される」

…ということは、ひとまず能力がないということはないということか。それは安心だが、お前らのその反応は一体全体何なんだ。

「つまり、カードがお前の能力を読み取りきれなかったんだ。その能力が複雑すぎて、あるいは特殊すぎて」

うん?それってもしかして…

「能力が強力…もしくは超レアなものってことか?」

「御名答だぜ!どちらにしろ貴重な戦力間違いなしだ!」

おお!ここに来て異世界の黄金ムーブ!使い古されすぎて最近は使うのもある意味危険な設定だ。しかしながら今回ばかりは感謝させてもらおう。なんせ強い能力があれば『偉業』の達成も一段と楽になるだろうからな。

と言うかさっきしれっと流してしまったが…

「そういえば石神、お前スキル何だったんだ?」

「あんたねぇ…。さっきあんなにスキルを秘密にしろって言ったばかりじゃない」

呆れたように言いながらスッと俺にしか見えないようにカードを見せてくる。

悪い、と言いながら安心する。

よかった、知ったことを実践できる奴だった。ここで思いっきり声に出して言おうもんならこれ以上こいつに情報を渡すわけにはいかなかった。

と、せっかく見せてくれてるんだから確認しておかなければ。えっと…「想結伝」か。えらくかっこいい名前だ。内容は…特に記載されてないな。これなら別に問題ないのでは?なんて思った次の瞬間、脳の中に情報が流れ込んできた。


「想結伝」:os

半径5m以内の人達の思念を受け取ることができる。またこちらからも、半径5m以内の人達に自分の思念を伝えられる。発動条件は念じること。


…これはヤバい。何がヤバいってガッツリ詳細が見えちゃってる。どういう原理なのかは知らないが、しばらく注視するとこんなにもしっかりした解説が脳内に流れ込んでくる。名刺を見ただけで今までのその人の黒歴史が全部露見するようなもんだ。いやそれよりなお悪い。黒歴史を知られて困るのは自分くらい、しかも死ぬほど恥ずかしい思いをする程度だろうが、こっちがバレれば自分と仲間が本当に死ぬ。

「お前はもう確認したか?」

「うん。さっき言ってたことの意味、わかった気がする」

よし、大体の概要は掴めたし後で検証しよう。後これ隠蔽とかできないかな?異世界だと定番じゃん。

「…ねぇ」

あと見た感じテレパシー能力っぽいよな。どうやって使えばいいんだ?以心伝心ってのは運命共同体としてはありがたいステータスだが、たとえばこいつは戦闘では役に立ちづらいわけだ。いや待てよ?相手の思考まで読めるなら…

「ねぇってば」

近接戦闘さえ叩き込めば白兵戦で敵なしだ。やっぱり能力範囲を把握してから…

「あの〜?」

スパンッ!

「痛った!」

急に頭を引っ叩かれた。痛いぞ…。親父にも殴られたことなんて全然あるけど許さん。

非難がましい目を向けると、当の犯人が俺のライセンスを指差していた。

「右手!なんか光ってる!」

「へ?」

間抜けな声をあげて右手を見てみるとライセンスが光っている。多分主に能力の欄が。眩しくて性格な判別がつかないが。

「おお!ついにくるのか⁉︎」

「ちょっ!眩しい…!」

ガントの言葉を思い出す。

『あのな…能力がないときは、欄にしっかり『無し』って記載される。だから何も記載されないってことは普通まずない。読み取れない能力なんかそう無いからな、さっきくらいの時間があれば、そこには何か普通記載される』

少なくとも普通ではない能力を授かったのは間違いないようだ。しかしそれはつまり、先達もほぼいないということだ。




…そういえば俺、一言一句違わずさっきの言葉を反芻できたな。そんなに印象に残るもんだったかな?




考えるうちに光はますます強度を増していき、ひときわ強く光った後急激に収束していった。

眩しさのあまり背けていた目を戻してみれば、金色の文字で能力の欄に何やら書かれていた。

「きたんじゃない⁉︎」

「お、おう。多分そうだな」

じ、自分のことみたいに喜ぶなコイツ…。

返ってきたテストの点数を見るように恐る恐る、しかし期待もしながら能力の欄を見る。

そこに書いてあったのはー


「 記憶 」:iss

自分の五感で感じ取った全てのものを完全、無限に記憶する。またその記憶を処理する能力と、その記憶に関して干渉されないための思考、認識妨害魔法への完全耐性も獲得。


…は?

投稿時間がずれてしまい申し訳ありません、引き続き忌憚ないご意見をお待ちしています。

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