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記憶の勇者  作者: 不束
6/11

5.はじめまして

光に包まれ、ちょっとした浮遊感を味わった。そして気がついたら…そこはのどかな村だった。

…映画でも見てる気分だ。もしくは夢か、ゲームか。間違いなく、元いた現実の世界と何か違う気がするのだが、言葉にし難い。そんな不思議な感覚にひたっていると、横から小突かれる。

「ちょっと、何ボケっとしてるのよ?さっさと始めましょう?帰れなくなるわよ?」

3連疑問符文…。日本語の面白いところで、どの文にも疑問の意味はない気がする。

「そりゃそうなんだけれどもさ?もうちょっと…こう…なんかないか?『異世界だなぁ』みたいな、感傷というか感慨というかさ」

まだ夢うつつなのが普通じゃない?

「そんな暇あったら目的達成に向けて何か行動か考えを起こすわ。なんせ時間制限があるんですからね」

まぁそう言われればそうだし俺も少し呆けていたかもしれない。

「それもそうだな。とりあえず現状を把握すっか」

そう応えると今度はあちらが少し呆気にとられたような顔をする。なんだ?俺の国語文法に問題でもあったか?

「…時間がないんじゃなかったのか?」

「あっ、いやなんと言うか…今までこういうこと言うと必ず変な目で見られたり突っかかられたり呆れられたりで…素直に対応されるのが久しぶりで…」

なんだよ多少自覚してたのかよ。ならオブラートに包んだり、遠慮したりしなさいな。…って石神もわかってることだわな。多分そうすれば変な目で見られることも、突っ掛かられることもないことを承知で、石神はあのスタイルを崩さないのだろう。それがアイツの信念なのか、アイデンティティなのか、意地なのかは知らないが。


…でも確かにこいつほど強く自分の意思を持っていたなら、彼女ともいい友達だったろうなぁ。


…今さらそんな感傷に浸ってもしょうがないのはわかっているが、後悔することをやめられない。それほどにショックだった。


俺の中で、彼女のイメージは春の陽だまりとかそんな感じだった。優しくて、柔らかくて、でもどこか儚いような不思議な雰囲気だった。

彼女なら石神の直截な物言いも大いに受け入れられて、同時に彼女はその儚さを石神に守ってもらっていたのだろう。

その関係に想いを馳せると同時に、改めて決心する。


なんとしてもあの世界に生きて帰り、還すのだ。俺が選んだ最悪に等しい結果を塗り替えて何事もなかった日常を取り戻すのだ。もはや自分がしでかしたことを後悔して泣いている時間はない。どんなに不謹慎で無礼で無遠慮であっても開き直って前に進まねばーそのことを再認識しながら、改めて石神に問う。

「まずは目標の詳細の確認とそれを達成する大まかな手順、その最初の一つの達成に向かって今やるべきことを整理してから行動に移そうと思うんだけど、どうしよう?」

「どうしようって言われたってそうしましょうとしか言えないわよ。ノリと勢いで行こうなんてまさか言わないし。というか、えらくシステマチックな構想ね?社会人みたい」

まぁそう言われればそうかもしれない。…親にも昔から、『生意気』だの『賢しら』だのあんたらの息子だぞと言い返したくなることを言われていた気がする。

「悪いことじゃないだろ?じゃあ取り敢えずまず目標は俺たちの世界への帰還、つまりはこの世界で約6年以内に『偉業』を成し遂げるってことでいいよな?」

あの世界の思い出に蓋を閉じて俺は確認する。

「そうね、最終的な目標は。でも手順はどうするの?そもそも『偉業』についても決めてないのに」

「そこなんだよなぁ…」

まさにそれが問題だった。爺さんはただ『偉業』と大雑把に言ったが、それに関して詳しいことは言えないようだった。どこからどこまでがそれなのかもよくわからない。でも、この世界が求める『偉業』かぁ…。

「なぁ石神、この世界って崩壊だか滅亡寸前なんだよな?」

「え?…えぇそんなふうに言ってたわね」

「全然そんな感じしないんだが」

「…そうね。どっちかっていうと存分にスローライフを送れそうね」

俺たちが降り立ったのは人がまぁまぁ少ないある畑の脇道だった。その隣も畑、またその隣も畑。目を凝らせばまわりの畑の中に数人、農作業をしている人が見える。大して騒いでるわけでもないのでまだあちらはこちらに気づいていないようだ。

「…とにかく、情報が欲しい。転生する世界を間違えられたのか、実は危機が迫ってるのか、迫ってたらどんなもんなのか。それがないと手順もクソもない」

「…そうね」

そんなことを話していると農作業がひと段落ついたのか遠目に見えていた老人が顔を上げ、汗を拭いたところでこちらに気づいた。

「おーい!お前さんら見ない顔だが、どうしたんだーい!」

どうやら話しかける手間が省けたらしい。少し考えてから俺は、

「旅の者でしてー!今少しお話しいいでしょうかー!」

異世界転生にお決まりの大嘘をぶっこいた。


「いやーここに旅人が来るなんて何年振りかねぇ!しかもこんな若い人が!取り敢えずゆっくりしていきんさい」

何ともアグレッシブで人当たりの良さそうな爺さんに連れられて俺たちは藁葺の家の中でもてなされた。連れられる途中もこれまた人当たりの良さそうな農民たちが暖かな声をかけてくれた。出されたお茶はなかなかに香しく鼻腔をくすぐり、思わず飲み干してしまいたくなるがぐっと堪え話を聞くことにする。

「もてなしていただいてすみません。確かに人気がないですね」

「いやー流石にここまで中心地から離れると人もおらなんでさ。年に一回来ればいいくらいかねぇ」

まぁ来ても普通こんな畑だらけの所、気にも止めず通過するわな。

「お前さんら、名前は?」

「俺はユウキ、コイツはイシガミです」

…そういえばさっきから石神がやけに静かだな。どうしたんだと思って横を見ると何とも胡散臭そうなジトっとした目で俺を見ている。おい、何だその目は。向ける相手が違うだろ。まぁ確かに異世界に来てすぐに大嘘をついて素性を隠しはしたが。それでも石神の方も挨拶をしないのは信条に障るのか、

「はじめましてお爺さん、イシガミ ツナグです。静かでいい所ですね」

すぐににこやかに自己紹介した。

「そうかい?若い人にそう言ってもらえると日頃から励んでる甲斐があるってもんだねぇ」

石神の当たり障りのない挨拶に当たり障りなく爺さんが返す。挨拶はこんなところか?

さてと、本題に入ろう。

「こんなに過疎が進むなんて、中心地はやっぱ賑わってるんですねぇ」

この世界についての情報収集だ。まずは迫る危機を確認しよう。

「いやぁどうかねぇ、最近は魔王軍に押され気味で軍隊を増設してるって話だから意外と物々しいのかもしれん」

よし、成功。正直答えてくれるかはグレーだったがちゃんと答えてくれた。

「へぇ。最近中央には行ってなかったので初耳です。そうですか、もうそんなに…」

「どっかの調査によれば、人間側の領地は今100年前の半分しかないとも言われとる。お前さんらも気をつけるんじゃぞ」

どうやらこの世界は異世界ものらしく魔王軍に侵攻され、人間側が滅亡の危機に瀕しているらしい。ということは『偉業』は、侵攻する魔王軍から人類を救うってところか。何とも面倒な…。

まぁ後のことは後で考えよう。今は取り敢えず目の前の問題を片付けねば。

「さて爺さんーかどうかは知らんけどーそろそろ時間稼ぎは十分か?」

忌憚ない意見をお寄せください。

※今回手違いで文の一部が投稿できていませんでした!5分以内にに改稿しましたがもし影響が出てしまった方がいらっしゃったら申し訳ありません!

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