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記憶の勇者  作者: 不束
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4.行ってきます

「…つまり、俺たちをどっかの小説みたいに異世界に送るから、そこでなんかすごいことをしろと?」

「そういうことじゃな」

「意味わかんないんだけど…」

石神が頭を抱える。俺もどうにか話の重要な部分だけは飲み込めたが、異世界が無尽蔵にあって神様もそれぞれいるとか、そこら辺はまだ驚いてる最中だ。

「…これ、悪い夢じゃないわよね?夢であって欲しいんだけど」

うん、俺もそうであって欲しかった。

爺さんーいや神様かーの出した条件を噛み砕いて確認した俺はいくつか気になることを質問する。

「それ、判断するのって誰?」

「そりゃあ当然我々じゃな。その世界を管理する神から、こんなことをしたやつがおりましたよ、と神達の集まる会議で発表され、それが通れば成功じゃ」

「…じゃあもし神様が見逃したり、会議で発表し忘れたりしたら…?」

おずおずと石神が聞くが、

「当然、失敗じゃ。じゃが安心せい、滅亡しかけた世界を救いたくて、ほかの神に懇願して、救ってくれるかもしれない人材を送って貰ってる側の神じゃ。そんな意地悪はせんじゃろうし、気づかないほど無頓着でもないじゃろう」

考えてみればそれもそうだ。

じゃあ、次の質問。

「時間とかに制限は?」

「それについても説明せねばならんな。さっき、異世界は基本的に違うと言ったじゃろ?」

「あぁ。その生き還り以外はどこかしら違うって」

「その違う部分には、時間軸も含まれる。して、その時差はどのようにして生まれたと思う?」

「世界のできた年が違うから?」

「その場合もある。しかし、それとは別に時間の流れの早さが違う場合がある」

…急に難しくなったな。石神もクエスチョンマークを浮かべている。すごいテキトーに解釈すると…。

「…早く年寄りになる世界となかなか大人になれない世界があるってことか?」

「まぁそう言うことじゃ。ただし物理的にな。お主らの世界で1秒経つとき、ある世界では1時間が過ぎ、ある世界では1/100秒しか進んでおらん。」

まさに異世界。浦島太郎の竜宮城みたいなことすら平然とやってのける。そこに痺れる憧れルゥ!などとふざけたことを頭の隅で考えながら、改めて質問する。

「で、それが制限時間となんの関係があるんだ?」

「よいか?生き還りには、さっきの条件以外に留意せねばならない点がある」

「なんだそれ?」

「たとえ生き還ったところで、墓場から骨だけが意志を持って動き出したり、病室で頭に布をかけられた人が何事もなかったように、『あーよく寝たー!』とかなんとか言って簡単に起き上がったりしたらもう世界中がパニックじゃ。本当に収拾がつかん。故に、あちらの世界で、完全に死んだと正式に判断される前に、こちらで生還させる必要がある」

あー…なるほどね。俺たちの生き還りは、あくまであの世界で起きた奇跡的な生還でなければならないわけだ。それを実現するためには地球の1秒が相対的にとてつもなく長くなる世界、

つまりー

「超がつくほど時間の流れが早いところに行って、俺たちが病院で死亡確認されるまでにその偉業を達成しないといけないと」

「そう言うことじゃ。ここもかなりお主らのいた世界に比べて時間の流れは早いが、さらに早いところに行ってもらうぞ。」

「むしろありがたいな。長いに越したことはないだろうし」

どこの世界でも偉業は基本的に達成できないから偉業なのだ。しかも今回の場合俺たちは右も左も分からない異世界でそれを成し遂げねばならない。

無理ゲーなのは重々承知だが、もしクリアする確率を少しでも上げるなら、時間が必要だ。異世界に適応し、そこで大きなことをやり遂げる時間が。単純に考えれば、時間が伸びれば伸びるほどクリア率は伸びる。ここは是非とも長い時間が欲しい…。

「今送れそうな世界で最も早いのはお主らのいた世界の10万倍といったところかのぉ」

高速で暗算。俺たちが病院に運ばれ死亡確認がなされるまで30分と見積もったとき、その世界では5万時間、約2000日強進んでいるのだから…。

「6年弱か…」

「計算早いわねあんた…」

「感心してる場合か?」

久しぶりに口を開いたと思ったらなんと悠長な…。しかし6年…

「6年かぁ…」

「すまんの、今んとこはそれくらいしかなかった」

「いや別に責めてるわけじゃなくて。でも反応に困る年数だなぁと思ってさ」

偉業と呼ばれるものを達成するには些か短い気もするが、絶対に無理な年月でもなさそうだ。まるで運命かなにかに「さぁこっから先は君次第だよ」とニヤニヤされながら試されている気分だ。ぶん殴ってやりたい。

でももう逃げ場はない。本当にこっから先は俺次第だ。どうにか世界のルールをねじ曲げる切符を勝ち取らねば…!

「こっから先は私たち次第ってことね…。まぁ、やるっきゃないか」

…そうだな、俺たち、次第だった。とにかくもうヤケクソでもなんでもやるっきゃない!

「それじゃ、朗報を期待しておるぞ」

爺さんがそう言い、杖を床につくと俺たちの足元に巨大な魔法陣が現れる。

「うおっ!」

「きゃっ!」

驚いたのも束の間、続いて見えない力に押され体が上に浮いて行く。さっきまで自分が立っていた足元がだんだん遠ざかり、いつの間にか上にも現れていた魔法陣に吸い込まれるように近づいて行く。

「ええっ!ちょ、ちょっと何これ!怖い怖い!」

石神が騒ぐ。うん、ちょっと俺も怖い。でもまぁ何が起ころうとしてるのかはなんとなくわかった。門は開かれたと言うことだろう。

俺は自分の身体がそこに入って行く直前、

「じゃあまたな、爺さん!次は6年後に!」

結局爺さん呼びになった神様に、感謝と再開の約束を伝え、

「ここじゃ20日程度じゃ。あっちでうっかり死ぬでないぞ?あとワシはまだ人間でいうところのギリギリ還暦前じゃ!爺さんと呼ぶでない!」

「わぁってますよ!それじゃ爺さん、行ってきます!」

最後にちょっとばかりの軽口を叩き合いながら、異世界へと飛んでいった。

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