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記憶の勇者  作者: 不束
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1.終わったと言うべきか、始まったと言うべきか

…どう言うことだろうか?

確かに俺はトラックに轢かれて、おそらく即死したはずだ。なのに何故かまだ意識がある。と言うか、目が開くし、もっと言えば、今立っている。俺の目の前に広がるのは黒い空間。しかし真っ暗ではない。実際俺は今自分の手足を自分で見ることができている…ん?心なしか自分の体が透けて見える?

ってことは…やっぱり死んだことは死んだんだな。じゃあ、今のこの空間、この時間はなんなのだろう。てっきり、死んだら意識はそこで霧散し、俺と言う存在は体という容れ物を残して、いなくなると考えていたのに…。

そう思って辺りをキョロキョロ見渡していると、急に少し離れたところに人が現れた。まるでここにテレポートしてきたかのようだった。ギョッとして飛び退いて見ていると、それはクラスメイトの女子だった。俺が守ったあの子の友達。

確か名前は…石神 繋だったか?

目を瞑ったまま、直立不動の状態だ。ちょっとシュールで不気味だが、俺も意識が覚醒した時立っていたことを考えると、ここにきた人はしばらくこうなっているのかもしれない。取り敢えず起きてもらいたいが…悲しいかな、俺は名前こそ知っているものの石神のことをほとんど知らない。俺は基本的に人と関わろうとしない、所謂ぼっちだ。故に、大概の人は名前すら覚えていない。だって関わらないし、関わろうと思わないから。こいつの名前を知ってたのも、俺がさっきこの身を犠牲にして救った片思いの相手…町田 友里とよく一緒に話していたからだ。彼女と俺にははっきり言って面識がない。下手な方法で起こせばセクハラで訴えられて社会的に抹殺されてしまう。しかしなぜ彼女もここに?というかここどこ?そんなことを考えていると、石神が閉じていた目を開けた。石神はしばらく虚な目をしながら周囲を見渡すと、その異常さに気づいたのか急にハッとしたようになって、もう一度今度ははっきりした目で周囲を見渡し、俺を見つけると、

「え、何?アンタ、同じクラスのえーっと…結城君よね?何があったの?ここどこ?今何時?」

と、矢継ぎ早に質問してきた。よく俺なんぞの名前を覚えていたな。いつも教室の隅っこでぼーっとしていて、友達の一人もいなかったというのに。それには感謝しないとな。しかし残念ながら…

「正直、それは俺も聞きたいことだったな。俺もここに来てから間もなくてな、分かってることも知ってることも何一つとしてない」

あぁ、分かってる事といえば、多分石神も死んでるってことだな。間違いなく死んだ俺と同じ空間にいるのだし、体も同じように半透明になっている。当人もようやくそれに気づいたのか自分の身体を見てギョッとしている。

「え?なんなのこの身体⁉︎ほんとに何があったのよ⁉︎これじゃあまるで…」

そこまで言い、石神はハッとしたような表情を見せたあと、黙り込んで考え始めた。どうやら彼女も、自分が死んだ経緯について思い出し始めているらしい。と言うことは、ここは閻魔様だか神様に地獄行きだの天国行きだのを宣告される部屋の待合室的な感じの場所なのか?いや、もしそうならば、今もここでは新しい人が現れ、または別の場所に強制転移させられ、人の出入りがあるはずだ。なんせ、世界では1秒に2人死に、4人生まれるらしいのだ。もうかれこれ俺がきてから2分、石神が来てから1分半は経つが、新しい来訪者は未だ現れていない。ならば、ここはそう言う空間ではないのだろう。…なんて考えてるけど、俺の常識、どこ行った?痛すぎる厨二病患者でももうちょっとマシな言動をしてると思う。でもそうでもしないと説明がつかないし…いやこうしても説明ついてないんだけど。結局ここは一体なんなのか?このまま俺と石神だけがいたってそんな無駄な空間は必要あるまい。そこまで考えていると、ようやく記憶が鮮明になってきたのか、石神がぶつぶつと此処にくる直前の記憶を呟き始める。

「えっと…確か学校が終わって、帰り道で、ユウと話しながら横断歩道を渡ってたら…信号無視したトラックに突っ込まれて…」

えーっと…。それって間違いなく…。

「…そのユウって町田友里さんのことだったりするか?」

「え?えぇそうよ?…私、その事故に巻き込まれて…」

「…死んだらしいな」

ホントに申し訳ないけれど、横で喋ってたのが石神だったって全然気づけんかったわ。もう必死で、彼女しか視界に入ってなかった。

でも、これでなんとなく俺と石神が一緒の空間に送られたんだか飛ばされたんだかした理由に見当がついた。とりあえず今立てた仮説を話すために石神に向き直ると先んじて石神が

「とりあえず、この謎空間から脱出しましょう。それまで、手を貸してくれるわよね?」

と、手を差し出し既に向き直っていた。豪胆なやっちゃなー。許諾しない理由はないが…

「そうだな。ただ、元の世界に戻れるかどうかは…」

そこまで言った時、俺の近くでこの空間で初めて光が溢れた。反射的に飛び退って身構えるが、別に害のある光ではないらしく、謎空間になんの光源もない状態で光っていることを除けば普通の光だった。いや、それ結構重要だけどね。眩しいのを我慢して光を観察していると、やがてその光は形を変え、人の形になっていった。どうやら、新たな来訪者らしい。しかし少なくとも、石神が来た時はこんな感じじゃなかった。どういうことなのかと頭を捻っていると、ついにそれは人になった。現れたのはーー神社で頭に幣をかけてくれる人みたいな風貌をした爺さんだった。

忌憚ない意見をお待ちしています。

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