この空の上に
ダスティとの余興の翌日、日が昇り始めたばかりの明け方、飛行船は東から射す陽光に照らされその船体を美しい橙色に輝かせていた。早朝まだだれも寝静まっている時間アサヒは二階広間に併設されたデッキにいた。
「朝日が綺麗だなぁ。」
アサヒが一人物思いに耽っているとデッキの扉が開く。
「おはようございます。早いですねアサヒ殿、昨晩はご苦労様でした。我が会長にお付き合い頂き感謝しております。」
姿を現したのはジーンであった。
「おはようございますジーンさん。ダスティさん大丈夫ですかね。俺がちゃんと避けてあげればよかったんですね。」
「まぁ、よろしいかと。怪我の程度も大した事はないはずなので。」
「だといいんですけどね。なんか面倒くさそうな人だったから、迷惑かかんないかってちょっと心配で、」
「ジャクリーヌ様なら平気です。」
「そうですよね。あ、そういえば、ジーンさん途中で手を抜きましたよね、なんでです?」
「アサヒ殿にも楽しんで頂こうと思いましてね。出番がないのもつまらないかと、要らぬお世話でしたか。」
「そんな事ないですよ。模擬戦楽しかったですしね。」
「差し支えなければですが、棒術はお国のモノですか?なにやら色々と体得されているご様子ですよね?」
「はい、今の仕事をする前に騎士団みたいな事をやってたんで武術はなんとなくやってました。」
「通りであの動きですか。今はクバルに根を張っていらっしゃる様ですが、街は如何です?」
「クバルはいい街ですね。皆さん良い人ばかりで、いつも助けてもらってます。」
「それは結構ですね。今のお仕事、運送屋でしたか、そちらも順調だそうですね。今後は私共ともお付き合いをして頂く事になりそうですね。」
「是非お願いします。」
「ところで、アサヒ殿は色々とご存知のようですが、それもお国の知識なのですか?」
「まぁ、そんなとこです。」
「なるほど、我々の知らぬ事はまだまだあるという事ですね。」
「…そうですね世界は広いですよね。とは言えレイモンド卿は貿易業をされてるし、世界中行かれてるんですよね?」
アサヒはこの世界をよく知っているであろうレイモンド達に話しを聞くつもりでいたのだが、この機会にとジーンにこの海の先にある国の事を聞くのだった。
「はい、フィルモアのあるアリア大陸はもちろん、工業の盛んなホープ大陸のヴィザンツへはよく足を運んでおります。」
「ヴィザンツって、祭りの時にレイモンド卿が用意した音響設備を作った国ですよね。技術が進んでるって聞いたんですけど、どんな国なんです?」
「彼の国の技術はなかなかのもので、フィルモアにも引けを取らない水準です。この二十年余りで急速に発展しました。それ故にフィルモアからは危険視されているとか…、あくまで噂ですが、ちなみに両国は良好な関係ではあります。今のところは、」
「そうなんですか……。」
「ヴィザンツはフィルモアと違い先進的な思想の国です。そのおかげで発展はしましたが、クライス聖教会の教えを色濃く反映しているフィルモアとは意見を違える事も多いのですよ。」
この世界は、フィルモアやヴァル・キルマはもちろん全ての国でクライス聖教会の教えが布教されており、発掘品など過去にあった技術は厳重に管理がされている。それは教会の教えが元になってはいたのだが、フィルモアが世界を統治するのに都合がよいという側面もあるのだった。
聖教会のある聖皇国クライスは、教会の名のもとでの人類の恒久的な存続を約束し、そのクライスはフィルモアの武力よる庇護の下での安全を約束されているのだ。それはクライスに異を唱える者はフィルモアに粛清されるという事であった。
「でもフィルモアも技術を使ってますよね。発展するのは良い事じゃないんですか?」
「あくまで教えの範疇で、というのがフィルモアの言い分です。」
二人が話していると、デッキにレイモンドもやって来るのだった。
「二人ともおはよう、朝から難しいお話しをしてるみたいだねぇ。」
太陽はすっかり昇り、見渡す限り水平線が続き飛行船から見る海面はキラキラと輝いている。
「やっぱり空はいいねぇ。朝日と海の眺めは最高だね。束縛やしがらみから解放された気分になれる。」
「ねぇアサヒ殿、君はジーンの話しを聞いてこの世界をどう思う?」
「え?」
「なんだろう?なぜだか君は私達とは違う気がしてね。是非聞いてみたくなったんだよ。」
「う〜ん、なんて言うか歪だなって…。」
「そうだね、君の言う通りだと私も思うよ。人類はよりよくなろうとする生き物だろ?なのに今の教会はそれを否定して、都合の良いものは肯定する。おかしな話しだよ。」
「僕達の歴史はごく最近のことまでしか分かってないんだ。僕は神話や言い伝えに出てくる神や悪魔は大昔の人類じゃないかと思うんだ。だとしたら人はこの空をも越えた先に行ってたかもしれないんだよ。だからこの空の上には僕達と同じ人が暮らしていたのかもしれないだ。」
「……。」
少年の様に目を輝かせ語るレイモンドに、アサヒはどう答えればよいのか戸惑ってしまう。
「もしそうだとしたらワクワクしないかい?人類はこうやって空を飛べる様になって、そしてその更に上を目指して星々と同じ世界にまで到達した。なんてロマンチックな話しだろう。」
「そうですね、行けるといいですね。この空の上(宇宙)に…。」
「久しぶりに楽しい会話が出来たよ。ありがとうアサヒ君。さて、今日中にはフィルモアに到着するよ。忙しくなりそうだね。」
「はい。」
アサヒはまだ見えぬ大陸と、そのさらに先に待つ宇宙に思いを馳せるのだった。
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