空の旅
王都キルマーの飛行場の建物二階では、国王ハルバートとサマンサが、まだその姿が大きく見える飛行船を見ながら話しをしていた。
「サマンサよ、あのアサヒはどういう人物なんじゃ?なかなかに面白そうなヤツじゃが。」
「はい、彼の者はなかなかの知恵者でして我々の思い付かなかった事を色々とやってくれる方でございます。」
「そうか、サマンサがそう言うのなら見所があるという事じゃな。」
「はい、おっしゃる通りでございます。」
「む、しまった。チョコレートがもう無くなっておったのじゃった。少しばかり置いていかせるんじゃった。しまったのう。」
「帰って参りましたら、すぐにご用意させますわ。陛下」
「うむ、絶対じゃぞ。」
飛行船は速度と高度を上げ海の彼方へ進む。そしてその姿はコクアの豆粒ほどの大きさになっていくのだった。
「わぁーっ!高ーい!!」
アコがゴンドラ二階にある広間から外を眺めはしゃいでいた。
飛行船のゴンドラ内部は二階構造になっており船首には船長や操舵手のいる操舵室、船尾に動力制御室がありそのゴンドラの上に大きく前後に楕円の風船がくっついた形状になっている。基本的な浮力は風船部分に充填された気体によるが、推力とともに浮力の補助様にゴンドラにはプロペラが着いている。そしてプロペラは大型のモトで駆動しているのだ。
「田舎者はこれだから困る。空の景色など飽き飽きしておるわ。ですなぁレイモンド卿」
「そうですか?私は好きですよ。何度乗ってもワクワクするね。」
「左様ですか。感性豊かな方は違いますな。」
素っ気ない態度をとられたダスティは苦い顔をして上手く誤魔化すのだった。
「レイモンド様、話しが合いそうですね。」
べーっとダスティに見えない様に舌を出し、プイッとそっぽを向くアコだった。
広間には、レイモンド、アサヒ、アコ、ネェル、ダスティと騎士そして他の乗客がおり、アルマとレイモンドの秘書はそれぞれの部屋と荷物の確認をする為に別の場所にいた。
「レイモンド卿、フィルモアに着いたらまずどうしたらいいんですか?」
「入国手続きが済んだら、王都カルナの役所で市場への出店許可を貰いに行きます。とは言え、全て手配済みなので顔を出すだけですけどね。」
「さすがレイモンド卿、お仕事がお早いですね。」
「商会の実務は秘書のジーンがほとんどこなしてるからね。私はお飾りみたいなモノだよ。」
そこにジーンが戻ってくる。
「そんな事はありませんよジャクリーヌ様。会長のお力有ってこそでございます。」
「そお?」
「左様です。」
「俺も同感です。今回もレイモンド卿の力添えのおかげですから、」
「ありがとね。ところでアサヒ殿はこのチョコレートをなんで思いついたんだい?」
「故郷のお菓子から思いついたんですよ。」
「故郷って事はヴァル・キルマ生まれじゃないって事かい?」
「ええ、ちょっと色々あって、今はクバルでお世話になってるんですよ。」
「へぇ、色々ね……。」
レイモンドは少しだけ訝しむ表情を見せるのだった。
「とは言えサマンサ首長からは君達の良い話ししか聞いてないからね。祭りの時もそうだけど、魔族の襲撃の時も自警団でもないのに街を守ってくれたそうじゃないか。しかも騎士団並み、いやそれ以上に腕が立つとか。」
「そうなんだよ。アサヒのおかげで被害は少なかったんだよっ!」
外を眺めていたアコが二人の会話に加わるのだった。
「へぇ、そうなんだねぇ。」
「私も自警団やってるんですけど、あの時街中でアサヒと一緒になったんだけどね、すごかったんだよ。魔獣なんて箒?なんだっけ?棒で倒しちゃうし、アサシンだって包丁で戦って倒しちゃうんだからっ!」
「おいおい言い過ぎだって、アサシンにトドメ刺したのはアコ達だろ。」
「それは凄いねぇ、うちのジーンもなかなかのものなんだよ。な、ジーン。」
「お褒めいただきありがとうございます。」
四人が会話していると、アルマも戻ってくるのだった。
「荷物は部屋に入れときましたよ。あとは何かありますか?」
「ありがとう。あとは特にないから休んでいいよ。眺めもいいしフィルモアに着いてからの打ち合わせをしようか。」
「はい、分かりました。」
そして六人は昼食を終え、フィルモアに着いてからの打ち合わせをするのだった。
「王都カルナの市場には広場があって、そこでは毎日大勢の人が集まっているんだよ。そこでDガールズにステージに立ってもらう。そしてチョコレートの試食会を開く予定なんだ。私のツテの商人にはもう連絡してあるから私達はそちらの挨拶がてらチョコレートを配って食べてもらう。君達は市場で宣伝をしてもらうって感じだよ。」
「分かりました。アコとネェルよろしく頼むよ。」
「まかせて!ネェルもアコも完璧に覚えてるよ。」
『アコちゃんはもうちょっと痩せないとね。衣装着られないよー。』
「がーん!」
「あははっ、大丈夫だって、今でも充分可愛いから。で、アルマはアコとネェルに付いててもらうね。」
「はい、分かりました。ところで、あの小さいおっさんて何なんです?朝から偉そうに絡んで来やがって。」
アルマは広間の反対側テーブルで踏ん反り返っているダスティを顎でしゃくってみせる。
「あの人はクライスの役人ですよ。聖教西方騎士団と言って発掘品の監視や管理、それと魔族や竜種の監視を主な仕事としてますね。」
「そういえば、初めてサマンサさんに会いに行った時に居たヤツだ。凄い態度デカくて嫌な感じだったよ。」
「年に数回本国のクライスに帰るのですが、運悪く同席しちゃったみたいだね。」
ダスティの肩書きはクライス直属の聖教騎士団の団長なのだ。しかしそれが彼の能力で勝ち取った立場であれば良かったのだろうが残念ながらそうではなかったのだ。そしてそれは有名な話しであり、もちろんレイモンドやサマンサも事情は周知しておりダスティ本人もそれを理解していたのだ。
それ故に彼の性格は、他者からの視線や思惑を受けるうちに今の様に形成されていったのだ。
そんな彼は今まで見下される前に見下し自分が優位に立つ事を熱望し、力ある者には阿附迎合する。そしてその威光を恥ずかしげもなく借り虚勢を張る事で、自分を蔑む者に対抗して来たのだ。
そんな彼が一通りの打ち合わせを終え、寛いでいたアサヒ達の下に顔を出すのだった。
「レイモンド卿、空の旅はいかがお過ごしかな?しばらくは何もありませんし暇つぶしに余興でもいかがでしょう。」
「余興ですか?」
「はぁい、簡単なゲームです。」
ダスティは暇つぶしにゲームをしてはどうかと提案してきたのだ。その内容は一対一の決闘の勝ち抜け戦で、身体に付けた的を用意された非殺傷用の武器を使ってお互いに潰し合うというもので、先に全て潰した方の勝利となるというものだった。
「先程の武勇伝が耳に入りましたのでね。こちらにも腕の立つものがおるので、是非手合わせがてらにと思いましてね。」
「そちらは聖教騎士がお出になるのかな?」
「はい。フィルモア騎士団より選ばれた精鋭ですが、ただのお遊びですよ。せっかくなのでヴァル・キルマの武芸者のお手並みを拝見いたしたいと思いましてね。まぁ手前どもは本職ですから、もちろん心得てはおりますけれども。」
「これはこれは大した自信ですね。」
笑顔の下にドス黒い思惑を抱えダスティはレイモンドを挑発するのだった。対してレイモンドは涼しげな笑顔で答える。
「ふ〜ん、面白そうじゃないですか。いかがです?アサヒ殿」
「まぁ、レイモンド卿が良いのであれば構いませんけど……。」
「それでは決まりでよろしいてすな。今日は色々とありますでしょうから明日の夕食後という事で、お互いの健闘を祈りましょうな。」
そして翌日ゲームは行われる事になった。
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